優しくなるだけでは難しい…映画『シン・仮面ライダー』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2023年)
日本公開日:2023年3月18日
監督:庵野秀明
シン・仮面ライダー
しんかめんらいだー
『シン・仮面ライダー』あらすじ
『シン・仮面ライダー』感想(ネタバレなし)
「シン」第4弾は一番「庵野秀明」だった
2023年も「シン」の映画イベントはつつがなく終わりました。
2016年の『シン・ゴジラ』、2021年の『シン・エヴァンゲリオン劇場版』、2022年の『シン・ウルトラマン』に続く、2023年の『シン・仮面ライダー』の話です。
“庵野秀明”が日本特撮の代表と言える3大アイコン「ゴジラ」「ウルトラマン」「仮面ライダー」を自身のクリエイティブで塗り直す。一部の人はそれを「“庵野秀明”の同人だ。自己満足だ」と評することもありますが、日本の特撮のクラシックとなっているこの3作品を、今の若い世代にも届けるという意味では確かに一定の役割は果たしていると思いますし、これを完全な個人願望で片付けるわけにもいかないでしょう。
しかし、「仮面ライダー」は正直一番難しそうだなと思っていました。やはり「ゴジラ」「ウルトラマン」と比べると「仮面ライダー」は特撮のマニア度が少し高めではないでしょうか。
この話をする以上、私の「仮面ライダー」との付き合いをちょっと説明しておくべきかもしれないので、一応書いておくと…。
私はそこまで「仮面ライダー」にどっぷり浸かっていなくて(これは私の子ども時代が「仮面ライダー」シリーズ展開停止期間だったのも原因)、そもそも子どもの頃は触れるコンテンツが限られていたので、私の場合は「ゴジラ」と「ウルトラマン」に偏っていました(それさえも網羅的に触れたりはできなかったのですが)。
それでも現状は「仮面ライダー」シリーズは初代も含めていくつかは観た経験がありますが、最近のシリーズ展開は全然追っていませんでした。
なので私も『シン・仮面ライダー』を機に結構久しぶりに「仮面ライダー」に触れることになり、まんまと“庵野秀明”の「日本の特撮のクラシックを届け直す」戦略に誘導されてしまった身ですね。
1971年に放送された特撮テレビドラマ『仮面ライダー』に始まり、昭和のシリーズは1988年の『仮面ライダーBLACK RX』で一旦終わり。2000年の『仮面ライダークウガ』で平成のシリーズが始動し、以降は絶え間なく継続します。令和も『仮面ライダーゼロワン』(2019年~2020年)、『仮面ライダーセイバー』(2020年~2021年)、『仮面ライダーリバイス』(2021年~2022年)、『仮面ライダーギーツ』(2022年~2023年)、そして『仮面ライダーガッチャード』(2023年~)ともう5作目も見えています。令和、もう5年経ってたんだな…。
つい最近は政治社会風刺の濃かった“白石和彌”監督の『仮面ライダーBLACK SUN』(2022年)も一部で話題でしたね。
ちなみに海外、とくにアメリカでは『仮面ライダー』シリーズの知名度はイマイチです。『パワーレンジャー』シリーズは成功し、『仮面ライダー』もそのスピンオフみたいな感じでアメリカ向けに改変して『Masked Rider』として1995年に放送されましたが、不評でそれっきりとなってしまっています。でもオタク・コミュニティにはちゃんと知られていて、『ふしぎの国 アンフィビア』とかなどでもパロディにされたりしているのを見かけますね。
『シン・仮面ライダー』は2023年7月21日に「Amazonプライムビデオ」にて全世界200以上で配信開始となりましたから、きっと世界のどこかに新たに『仮面ライダー』の世界の入り口を知った人もいるんじゃないかなと思います。
とは言え、この『シン・仮面ライダー』、めちゃくちゃ癖がある作りで、“庵野秀明”「シン」シリーズもここでひと区切りなのかなと思うので総括したくもなるのですが、なかなかに強烈な一発を蹴りこんできました。
どう考えても初心者向きではない。従来の『仮面ライダー』シリーズ好きも困惑する。昭和シリーズを愛したファンをノスタルジーで包み込みつつ、中身は最も“庵野秀明”成分がドロっとこぼれる…そんな味わいです。
もうインディペンデント映画のノリでしたね。製作予算が少ないのもあるでしょうけど、“庵野秀明”のやろうとしていることがそもそも自主製作的というか、アニメーションでなら堅実に作れそうなことを実写でやっているので手探り実験状態なのがありありと伝わってくる…。
正直、この『シン・仮面ライダー』が「シン」第4弾で正解だったと思います。これが第1弾だったら「シン」の印象はかなりマイナス寄りで大衆に固定化することになっただろうし…。
後半の感想では『シン・仮面ライダー』の私の思ったことをつらつらと書いています。オタク好みな世界観考察とかそういうのは全然ないので、そちらを求めている人はよそに行ってください。
『シン・仮面ライダー』を観る前のQ&A
A:特にないです。完全なオリジン・ストーリーとして楽しんでください。
オススメ度のチェック
ひとり | :興味本位でも |
友人 | :好きに語り合って |
恋人 | :互いの趣味に合うなら |
キッズ | :やや暴力描写強め |
『シン・仮面ライダー』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):僕は仮面ライダー
2台の大型トラックに追われる2人乗りの1台のバイクが山道を疾走しています。しかし、爆発によってトラックもろともバイクも投げ出され、後ろに乗っていたひとりの女性、緑川ルリ子は謎の武装集団に捕らえられます。
その集団のリーダー格の赤いヘルメットの人物、クモオーグは「裏切り者に死を。それが私の仕事です。ですが組織の命令は生け捕りでした」と雄弁に語ります。
そこに仮面の人物が颯爽と飛び降りてきます。
「バッタオーグ、完成していたのですか」とクモオーグは興奮した口調で楽しそうです。武装集団の面々は、そのバッタオーグという仮面の人物にどんどんと殴り蹴りつけて血祭りにされていってしまいます。
バッタオーグと緑川ルリ子は、小屋に逃げ込みます。バッタオーグと呼ばれた本郷猛は仮面の姿のままで、身体が勝手に動いて惨殺したことに困惑していました。グローブを外すと手は異様に変形しており、仮面を脱ぐと顔も一変しているのが鏡に映ります。
「何なんだ、この身体は。僕を連れ出した君なら何か知っているだろう!」と緑川ルリ子に答えを求めます。
そこへ「私が答えよう。本郷君」と小屋に入ってきたひとりの男。ルリ子の父・緑川弘です。
「君は組織が開発した昆虫合成型オーグメンテーションプロジェクトの最高傑作だ」と緑川弘は説明し、具体的には体内とエナージコンバーターに残存しているプラーナを強制排除すればヒトの姿に戻ることを解説。緑川弘の研究グループが本郷猛の身体をアップグレードしたとのことで、「君にしかプラーナの未来を託せない」と言います。エゴのために力を用いる組織のようにではなく、他人のために、多くの力なき人々のために使ってほしいというのが願いのようです。
緑川ルリ子はヒーローの証として赤いマフラーを首に巻いてくれ、改造オートバイ「サイクロン号」も傍にありました。
まだ覚悟を決めかねていたとき、クモオーグが再び襲ってきて、緑川弘を殺します。
バイクで追う本郷猛は自身の過去ゆえに迷いもありましたが「僕の名は仮面ライダー」とこの境遇を受け入れることにしました。
自分を改造した組織の名は「SHOCKER(ショッカー)」。人工知能「アイ」が演算した人類を幸福に導く行動モデルを実行するために設立された組織で、倒すべきオーグメンテーションされた上級構成員(オーグメント)はまだ存在します。
緑川ルリ子とタッグを組んだ本郷猛は仮面ライダーとして、この自分の正義をどこまで貫くことができるのか…。
「つまらん!」なんて言わないで
ここから『シン・仮面ライダー』のネタバレありの感想本文です。
『シン・ウルトラマン』のオープニングは『シン・ゴジラ』を踏まえての省略カットで、『シン・仮面ライダー』はどんなふうにくるんだろう?と鑑賞前はワクワクしていたのですが、いざ始まるとびっくりです。
『シン・仮面ライダー』は冒頭から怒涛の世界観説明。“庵野秀明”の仮面ライダーはこうですからね…観客に有無を言わせずに流し込むかのごとく、ストーリーがいきなり序盤クライマックス状態で口に押し込まれます。
『シン・ウルトラマン』のときは終盤で『エヴァンゲリオン』化していましたが、今回はもう序盤から遠慮なしの『エヴァンゲリオン』化で「うわ…“庵野秀明”成分が初めからガンガンくる…」と初鑑賞時は映画館でやや圧倒されてましたよ。
でも次々と登場する上級構成員(オーグメント)の造形は素直に楽しかったです。このあたりの作り込みは仕上がっているのが本作の個人的魅力のひとつ。オーグをあと10体くらい見たかった…。
クモオーグのヘルメットもいいですが、コウモリオーグのあのそのまんまな「コウモリおっさん」っぷりも好きです。『君たちはどう生きるか』といい、アニメーターはおっさんを動物化するのでもこだわりを感じると思うことが多い2023年…。
サソリオーグはまあサソリ事案だった…。こんな雑に扱われる“長澤まさみ”も珍しいけど、せっかくBDSM感をだしまくってキャラ造形するなら、最後までやりきればいいのに…。カマキリ・カメレオン(K.K)オーグのパートで再登場しても良かったと思うけども…。
“西野七瀬”演じるハチオーグ(ヒロミ)は、ルリ子との「私の前で思いっきり泣いて!」な厄介感情込みでの関係性が唐突に展開されるものだから、『劇場版 少女☆歌劇 レヴュー・スタァライト』みたいになるのかと思いながら期待半分で見ていたら、別にそうはならずに収束しましたね。あそこ、完全に本郷猛が空気の邪魔で、ルリ子が「ちょっと胸かりる」べき相手はハチオーグなのですけど、そうはならないことでたぶん一部の観客は「そうじゃない!」と心の中で修正ペンをごしごししていたと思います。
大量発生型相変異バッタオーグ(という名のちょっと強い雑魚)のパートは凄い勢い重視で、あの「思いついたからやりきりました!」みたいなテンションは嫌いになれない…。
緑川イチローあらためチョウオーグあらため仮面ライダー第0号については、“森山未來”の演技は迫真でしたけど、やっぱりシリアス寄りになるとちょっと冷める部分もあったかな…。『仮面ライダー』は基本的に改造人間という荒唐無稽な設定なので、フィクションライン緩めでアホっぽさもありつつ、時折特撮ショットでキメる…みたいなバランスが一番いいんだなと確認できました。
全体的に見ると、一本の映画にするよりもドラマシリーズでやったほうが絶対に面白くなったんじゃないかな、と。これがもし配信ドラマだったら毎週新エピソードが配信されるたびに、燃料投下されたオタクたちが大盛り上がりしていたと思いますよ。“庵野秀明”ワールドを毎週食らわせられる体験、久しぶりに味わいたいな…。
無理してない?
ここからは明確に『シン・仮面ライダー』の個人的不満点を挙げていますが、これらの点は『シン・エヴァンゲリオン劇場版』や『シン・ウルトラマン』で書いていた点とも重なるので、この『シン・仮面ライダー』特有のものというよりは、今の“庵野秀明”クリエイティビティ全体への言及になるのだと思います。
何よりもキャラクターとそのドラマについて。各種オーグや、仮面ライダー第2号となる一文字隼人のキャラクターはとても面白かったんですよ。“柄本佑”演じる一文字隼人なんて、このキャラを主軸にした作品をむしろ見たくなるくらいに、あの短時間の出番で一気に心を持っていくパワーがありました。
一方で、この映画の顔になるはずの、本郷猛と緑川ルリ子に関しては、なんだかあんまりノれるものはなく…。
そもそもこの2人は『エヴァンゲリオン』の碇シンジとヒロインの関係性を「仮面ライダー」バージョンで再構築したようなもので、ものすごく“庵野秀明”キャラの王道を突っ切っています。にもかかわらず、手慣れているだろうこれらキャラを扱う手腕としては段階的に進化している感じはなく、このキャラ造形がある種の型として定番化しているだけで終わっているような…。
『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の感想では、“庵野秀明”のシナリオはマッチョイズムに苦しむ主人公はだすけどそこから脱却はしきれないままユルっと“良い話”風に幕を閉じる傾向にある気がする…と書いたのですけど、この『シン・仮面ライダー』もそうでした。
殉職した警察官を父に持ち、力を用いる正義に葛藤する本郷猛。非常にマッチョイズムに悩める主人公像です。ただ、これを本作は「コミュ障」みたいな雑な言葉でラベルを貼ってしまっているせいか、あまりその葛藤に構造的に向き合ってくれません。こういう事例を見てしまうと「コミュ障」という言葉の悪い副作用というか、「コミュ障」という言葉は今の日本では“男らしさの語りにくさ”を助長するだけに感じる…。
また、例えば、本郷猛の緑川ルリ子への関係軸が顕著なのですが、本郷猛はこれはこれで別の「男らしさ」を体現しています。それは性をタブー視する日本社会にありがちな「性愛や恋愛に一定の距離をとる謙虚さを持つ男こそ正しい男である」という男性像で…。
本郷猛はあからさまに性的話題でセクハラしてくる緑川イチローに対して「僕らの関係は恋愛ではない、信頼だ」と言ったり、着替えをする緑川ルリ子との共同生活にも動じず順応したりしています。これは性的指向を反映しているというよりは、私が勝手に呼んでいる「恋愛オフ主人公」の典型です。とくに今作では(他の“庵野秀明”作品でもそうだけど)それが「社会規範的な正しい男性像」もしくは「少し心の壊れた男性の状態」を示すコードとして用いられています。
私だったら、あの本郷猛に必要なのは「仮面を脱ぐ」ことであり、それ自体が女性キャラクターの献身的な支え無しで達成されるシナリオのほうがいいと思うのです。であるならば、緑川ルリ子のキャラは一切カットして、あの一文字隼人との男同士の関係性だけで本郷猛がセルフケアへと行き着く物語だと理想的だったんじゃないかな…。
“庵野秀明”作品はどうも男女が絡むとビシっと決まらない…。女性表象がステレオタイプだからだと分析もできるかもだけど、この男女の関係性を有害さ無しで描くって実は一番難しいんですよね。
そしてマッチョイズムからの脱却が別のマッチョイズムへの迎合に陥るジレンマもあって、少なくとも“庵野秀明”作品は作品を重ねてもそこにキャラクター・ストーリーとして光を見つけられていないのだと私はずっと見てきて感じました。あと一歩のようで、まだ遠い…。まあ、現実もそんなものですが…。
「シン」シリーズは続くのかはわかりませんが、“庵野秀明”作品は今後も創作されるでしょうから、この難問に答えがでるのか気になります。それこそ“庵野秀明”単独で答えがだせないと潔く認めて、もっとこのテーマにフレッシュかつジェンダー方面でクリエイティブ性を発揮できる逸材をパートナーにすると良い変身ができるのではないか…そんなことを思った私の感想でした。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 83% Audience 89%
IMDb
6.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員会 シン仮面ライダー
以上、『シン・仮面ライダー』の感想でした。
Shin Kamen Rider (2023) [Japanese Review] 『シン・仮面ライダー』考察・評価レビュー