どこもファイナルじゃないけど…映画『新感染半島 ファイナル・ステージ』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:韓国(2020年)
日本公開日:2021年1月1日
監督:ヨン・サンホ
新感染半島 ファイナル・ステージ
しんかんせんはんとう ふぁいなるすてーじ
『新感染半島 ファイナル・ステージ』あらすじ
人間を凶暴化させる謎のウイルスが朝鮮半島を襲ってから4年後。韓国から香港に逃げ延びていた元軍人のジョンソクが、ある任務遂行のために半島に戻ってきた。その任務とは、限られた時間内に大金が積まれたトラックをチームで回収し、半島を脱出することだった。そこは今も危険地帯であるのは言うまでもない。しかし、実際はさらに想像を絶する恐怖が待っていた。
『新感染半島 ファイナル・ステージ』感想(ネタバレなし)
GO TO ゾンビ映画
「国民の皆さん、このままではゾンビのパンデミックによって大変なことが起きてしまいます」
「え、じゃあ、経済を回さないと!」
「GO TO キャンペーン、やります。クーポン、配ります」
「注意喚起のために赤くライトアップします!」
「マスクと手洗いしておけば大丈夫だよね」
「with ゾンビ で頑張っていきましょう!」
「現場で戦っている人には心遣いを!」
もう私たちはこんな現実を経験してしまったので、ゾンビ映画のような事態が起こってもきっとこの程度の無様を想像してしまうのは無理もないと思うのです。
ほんと、国が危機的な状況に陥ったときにこそ、いろいろなダメな部分が露呈してしまうものなんだなぁ…と毎日のように痛感する2020年でした。
以前にも書いたかもしれませんがこのコロナ禍は今後のパニック映画に対する私たちの感覚も変えたと思います。リアルで映画みたいな非常事態を知ってしまったゆえに、否応なしにリアリティをこれまで以上に気にすると思うのです。
そんなことを考えたくなる中、コロナ以前に作られた直近のゾンビ映画が2つありました。どちらも韓国映画です。ひとつは『#生きている』という作品でこちらはNetflixで配信されました。
そして今回の主題であり、韓国では最初のロックダウンから復帰後に劇場公開されて大ヒットを記録した一作、『新感染半島 ファイナル・ステージ』です。それにしても韓国でパンデミック後に打ち出される劇場大作がゾンビ映画だなんて、なんという運命力なんでしょうか。良いんだか悪いんだか…。
『新感染半島 ファイナル・ステージ』は、2016年に公開されて韓国にゾンビ映画ブームを巻き起こすきっかけになった『新感染 ファイナル・エクスプレス』の続編です。
いや、でもやっぱり言及しちゃいますけど、邦題が雑だ…。とくに今作の邦題は…。まず英題は「Peninsula」(半島という意味です)なのですが、さすがにこのままでは英語不慣れな日本人にはさっぱりなので、別の邦題を与えるのはわかります。そこで「新感染半島」とするのはまだ納得できます(「新」がつくのは前作は電車が舞台だったので「新幹線」とかけたダジャレで、それをそのまま引き継いでいます。ちなみに今作では電車が舞台では全くないので何の意味もない継承です)。しかし、「ファイナル・ステージ」はなんなんだ、と。前作の「ファイナル」は理解できます。確かにストーリー的に最後な感じしましたから。でも今作は全然ファイナルな要素ゼロなんですよ。そもそもこんなシリーズものに「ファイナル」を付けまくるセンスもどうなの、と。ゲームの「ファイナルファンタジー」みたいじゃないですか…。
まあ、邦題への愚痴はもうこれくらいにしよう…。
肝心の今作『新感染半島 ファイナル・ステージ』についてですが、監督は“ヨン・サンホ”が続投。彼はこの間に『サイコキネシス 念力』という韓国版スーパーヒーロー映画みたいなのを作っていましたが、勢いに乗っているジャンル映画のクリエイターです。
前作『新感染 ファイナル・エクスプレス』でハマった人も多いと思いますが、注意しないといけないのは今作『新感染半島 ファイナル・ステージ』は続編ではあるのですが、キャラクターなどの引継ぎはなく、完全に独立した物語になっているということ。なので前作を観ないと話を理解できないこともありません。初見の人もこの2作目から入ってきてもOKです。
そしてジャンル映画としての雰囲気もかなり変わっています。前作のような感覚を期待しすぎない方がいいです。ネタバレにならない程度に話すと『新感染半島 ファイナル・ステージ』は『バイオハザード』『マッドマックス』『ワイルド・スピード』の合わせ技みたいな娯楽作になっており、ひたすらにアクション過多になっています。前作がチャーシュー2枚のラーメンだったとすると、今作はチャーシューが20枚くらいのっています(この例えで良かったのか)。好きな人はバクバク食べるでしょうけど、人によってはカロリー激増で食べれないよ!となるかもです。
俳優陣は『MASTER/マスター』『ゴールデンスランバー』の“カン・ドンウォン”を主役に、『軍艦島』の“イ・ジョンヒョン”、『哭声 コクソン』の“キム・ドユン”、『夜の浜辺でひとり』の“クォン・ヘヒョ”、『ベテラン』の“キム・ミンジェ”、『Jane』の“ク・ギョファン”など。濃い演技の乱れうちです。
スケールも飛躍的にアップして世界的に見てもゾンビ映画大作の頂点に立つことになった『新感染半島 ファイナル・ステージ』。本作を観て、パンデミック慣れしている社会を振り返るのもいいんじゃないでしょうか。
『新感染半島 ファイナル・ステージ』を観る前のQ&A
A:派手なエンタメ要素が濃いのでそこまで怖くないです。ゾンビが雑魚キャラのように扱われます。
A:一応の1作目となる『新感染 ファイナル・エクスプレス』とは話の繋がりが薄いのでそこまで気にしなくていいです。
オススメ度のチェック
ひとり | ◯(ポップコーンを片手に) |
友人 | ◯(マスクをつける友達と) |
恋人 | ◯(気楽にエンタメを満喫) |
キッズ | ◯(そこまで怖くはない?) |
『新感染半島 ファイナル・ステージ』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):韓国は崩れた
林道を走る1台の車。軍服の男が運転しており、彼はジョンソクといって、姉の家族を国外に逃がそうとしていました。韓国は一瞬にして大混乱に包まれ、経済もマヒし、政府も機能不全にとなりました。その原因はよくわかりません。ただ、何の変哲もない人々が急に狂暴化して襲ってくるようになったのです。街は破壊しつくされ、そのパニックは韓国全土を覆い尽くしました。
ジョンソクは港に向かっています。途中で助けてくれと見知らぬ家族が声をかけてきます。車が動かないらしいです。しかし、もしかしたらこの家族も狂暴化を引き起こす何かに感染しているのかもと思い、無視して走り抜けてしまいます。
ジョンソクと姉の家族は船に到着。とりあえず姉とその子を客室に置いておき、ジョンソクと姉の夫のチョルミンは船内の別の場所へ。ところが、すぐ日本に向かうはずが香港に行き先が変わったらしいことを知ります。しかし、それを質問している時間はありませんでした。客室のひとりが感染していたのです。その感染者は密閉された客室の大勢を襲いだします。
ジョンソクはその異常事態に気づき、急いで客室に向かいます。そこにいたのは放心状態の姉。その手には噛まれて変異を起こしている子どもが…。姉はその場を離れたがらず、狂暴化した感染者が迫ってくる中、置き去りにするしかないジョンソク。愛する家族を見殺しにすることになり狼狽するチョルミンを抑えるしかできず…。
海外メディアは伝えています。韓国の釜山は大丈夫と言われましたが、安全な場所はない、と。政府崩壊によって韓国は完全に消滅。「これが正常に戻るには4年かかるでしょう」と識者は冷酷に断言します。
それから4年。ジョンソクは香港にいました。ろくな仕事はなく、貧しい生活でひとり暮らしています。ある日、ボスに呼び出されます。そこに行くと、何人か集められており、あの義兄のチョルミンもいました。久々の顔合わせに緊張が走ります。あれ以来、絶望が互いの関係を分断させていました。
裏社会を仕切るボスの指示はこうです。感染者に支配されて封鎖された韓国の地にて、大金を載せたトラックがあるらしく、それを3日以内に取って来い…とのこと。ソウルに乗り捨てられたトラックには2000万ドルがあるそうで、確かにそれは凄い額です。船で裏ルートから潜入し、少数チームで車を見つけてそのまま運転してきて夜に持ち出すだけ。うろつく大量の感染者は夜はほとんど動かないのでラクだと言います。ただしこちらからは一切助けないとも。
悩んだジョンソクですが、この惨めな生活を抜け出すためにも義兄のチョルミンと行くことに決めます。韓国へ向かう船内。潜入班にはライフルやスコープなどの装備が配られます。
その大型船からボートへと移り、漕いで韓国の地に到着。久しぶりの故郷。そこは静かな夜ですが、街は完全に崩壊していました。緊張感を最大限にゆっくり進む一同。途中で動ける車を発見し、乗っていくことに。
無事、トラックを発見します。中には確かに大量の札束。本当でした。
そのトラックの運転手は遺体…と思ったら感染者です。急に襲われてパニックになる一同。さらにその騒ぎを聞きつけ、感染者たちが走って襲ってきます。トラックを後退させますが、ものすごい数の感染者です。ジョンソクは銃で応戦するも数が多すぎます。車で退避するしかありません。
難を逃れ、成功に喜ぶ一同。ところが、突然、謎の発火筒が撃ち込まれてきます。大混乱。その明かりに反応して、大量の感染者が脇から押し寄せ、車は盛大に事故。ジョンソクは投げ出されます。
絶体絶命の危機。そのジョンソクの前に、謎の車が突っ込んできます。運転しているのはやけに明るい子どもです。乗り込むジョンソク。その子は華麗なドライビングテクニックで、ガンガンとゾンビたちを轢き倒していきます。
ジョンソクが気づくと目の前にいたのはこの崩壊した韓国の地でずっと隠れて暮らすミンジョンの家族でした。キムと、子どものジュニ、さらに幼い子のユジン。子どもたちはこのパンデミック以前を知らず、家族は脱出のために通信でずっと呼び掛けようとしていました。
一方、チョルミンはトラックの中に取り残され、ある集団に捕まります。それはかつてはこの混乱を収めることを任務にしていた軍隊。しかし、今は狂気に憑りつかれ、カルト化した「民兵集団631部隊」です。実力者のファン軍曹はチョルミンを捉えて娯楽に利用します。そんな中、ソ大尉はカネに気づき、密かに脱出を計画していました。
それぞれの思惑が交錯する中、この感染半島を抜け出せるのは誰なのか…。
前作の要素は捨てた!
前作は電車という閉鎖的な空間を最大限に活用したシチュエーション・スリラーでした。一方の今作『新感染半島 ファイナル・ステージ』は“ステージ”と銘打っているわりにはステージ的なものはなく、非常にスケールの広い世界観です。
強いて言えば、冒頭の船内のパンデミックが前作の雰囲気を継承しています。個人的にはこのまま船パンデミックで1本の映画を作ってほしかったのですけど。
舞台は香港に移り、ここでは韓国人は移民扱いで、差別の対象になっています。そもそもメディアに出ていた識者は「4年でもとに戻る」と言っていましたが、4年経っても全然回復していませんし、劣悪な状態です。
こういう社会風刺を描くのかなと思っていると、別に本作はそこさえも超特急で通過してしまいます。
本音を言うなら、このパンデミック後の社会風刺にもっと期待したいところでした。“ヨン・サンホ”監督は『フェイク〜我は神なり』や『ソウル・ステーション/パンデミック』などアニメ作品でもちゃんと社会風刺を痛烈にしていましたし、決してそのアプローチをしない人間ではないはずなのですが。
韓国ではもともとディストピアと言えば「北朝鮮」を対象にしてきました。それが民族的な定番の認識だったわけです。ある種の自分たちの別の未来的な、負の世界として北朝鮮は捉えられてきました。
ただ、今はそこまで北朝鮮をシニカルに見るばかりはできないという世論もあるのだと思います。そこでこの『新感染半島 ファイナル・ステージ』は朝鮮半島そのものの崩壊という、考えようとすらしなかった未曽有の危機を映像化してみせました(公式サイトでは「ロックダウンされた半島」とあるけど、実際は崩壊してます)。
これだけでもじゅうぶんに映画としてのオリジナリティはあるのですけどね。でも本作はそれを全力で放り投げて、ポスト・アポカリプスのハイテンション・アクション・ムービーへと突っ走るのです。
車に必要なのは耐ゾンビ性能です
まず韓国の地へとたどり着いてからの『バイオハザード』感。ミラ・ジョヴォヴィッチがフラっと出てきそうですよ。
確かに過酷で戦慄の世界なのですけど、ここでそれなりに使える装備を持たせてくれるあたり、案外と親切だなって思いますけどね。これがゲームだったら最初はナイフ1本だけの初期装備で始まるものですよ。だんだんと良い武器をゲットして強くなっていくやつです。
しかし、この映画はそういうチマチマしたことはしません。前作みたいな身の回りにあるものでどうやって対抗するのかという創意工夫もありません。かなり勢い任せで、何か知りませんけど主人公も異様に強いです。これはT-ウイルス投与されてますわ…。
そして続いてのゾンビわんさか大群。『ワールド・ウォーZ』を彷彿とさせる大規模ゾンビ強襲シーンの進化版といった様相。けれども本作はそれに対抗してきます。車で…。
まさかの『ワイルド・スピード』。ここなんてものすごいツッコミどころですよ。普通、そんな車は丈夫ではないし、あんなにぶつかったら車がクラッシュするだろうっていう。でもこの車、スーパーカーなんです。絶対的な攻撃能力と防御能力を合わせ持っています。いつブーストダッシュ機能を発動するかとヒヤヒヤしましたよ…。最後はハイスピードブーストで船に車ごと突っ込んでフィニッシュなのかと思いながら観てました。
その車を少女が運転するというジャンル的な遊び。ペダルに届くのか?とか気にしない。カッコよければそれで良しの世界。きっとヴィン・ディーゼルもこの映画を気にいるでしょう。こういうゲームっぽいの大好きだし…。
このカーアクションに関しては確かに凄い映像なのですが、実際の車両を使ったリアルなアクションではなく、CGを多用してしまっているので、そのぶんは少し映像が作りものっぽくなってしまっているのが私は残念ではありましたが…。
明るいライトでデコレーションしたラジコンカーでゾンビをおびき寄せるなど、緩急のあるアクションがあったのは良かったですし、すでにゾンビがただのカーレースの障害物化しているのも潔かったですけどね。
やっぱりこれからの時代に求められる車の機能は耐ゾンビ性能なんだなぁ…。
ゾンビ・マッドマックス!
民兵集団631部隊の登場から映画は『マッドマックス』的なカルト・コミュニティを描く空気に包まれます。
この集団の妙な味のある感じは嫌いじゃないです。とくに“ク・ギョファン”演じるソ大尉の佇まいがいいですね。絶対にお前は悪だくみしているだろうっていう顔をしている…。でもどこか小物臭い感じもあって、愛嬌も感じさせます。彼を主人公にしてもいいくらいでした。
あのラストのソ大尉の「nice to meet you」も名言じゃないですか、あの半泣きな顔も相まって…。
ちなみにソ大尉がゲイと疑われて事なきを得るというシーンがありますが、あれはなんかホモフォビアのノリに作品自体が乗っかってしまっているのであんまり観ていて気持ちのいいシーンではなかったです。だったらあの疑ってきた男が「実は俺もゲイなんだ…お前にだけは言いたくなって…」とカミングアウトしてきて、それでソ大尉も(悪事がバレないために)「俺もゲイは全然オカシイとか思わないよ」とぎこちなく言ってその場を切り抜けるっていう感じにすればいいのに…。
ともかくこの民兵集団631部隊の行う娯楽の「囚人のゾンビ生き残りゲーム」。全く意味不明ながら、謎の熱狂っぷりが絵としては面白かったです。個人的には食人行為くらいのタブーは犯してほしかったですけどね。食料の強奪だけで4年は生きられるのかな…。
ただこの集団の描写は最初に前述しましたが、コロナ禍を経験した私たちだからこそ少しリアルに見えない部分もあったかなと思います。例えばなんでマスクしていないんだ、とか。一応はウイルス感染が諸悪の根源らしいですし、絶対にああいうシチュエーションになったらマスクが生命線になるはずですしね。あんまり感染チェックしていないのも変ですよね。1日1回くらいは健康診断で感染の有無を調べるくらいしないと一気にクラスター感染が起きちゃいますよ。
コロナ禍は私たちにゾンビ映画の批評のスキルを高めてくれたな…。
『新感染半島 ファイナル・ステージ』の終盤の犠牲のシーンは過剰にクドく、しかも長いというのがやや辟易した人は多いはず。私はソ大尉(好きすぎる)の最期でじゅうぶん感動したので、あそこで映画をエンディングにしても良かったです。
これ、まだ続編作るのかな。いくらでも作れそうではありますが…。コロナ禍を経験した後のゾンビ映画はかなり楽しみではあるのですけどね。
パンデミックにファイナルはありません。収束なんてものは一時の休憩時間です。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 53% Audience 76%
IMDb
5.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★
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・『CURED キュアード』
・『ゾンビランド ダブルタップ』
作品ポスター・画像 (C)2020 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & REDPETER FILMS.All Rights Reserved. ペニンシュラ 新感染半島ファイナルステージ
以上、『新感染半島 ファイナル・ステージ』の感想でした。
Peninsula (2020) [Japanese Review] 『新感染半島 ファイナル・ステージ』考察・評価レビュー