デルトロの芸術的な恐怖で癒される…ドラマシリーズ『ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2022年)
シーズン1:2022年にNetflixで配信
原案:ギレルモ・デル・トロ
ゴア描写 恋愛描写
ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋
ぎれるもでるとろのきょういのへや
『ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋』あらすじ
『ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋』感想(ネタバレなし)
癒されるから好きなんです
ホラー作品は好き嫌いが極端に分かれやすいジャンルのひとつなのですが、残酷な描写や恐怖を煽る映像がメインということもあり、そうなるのも当然と言えます。それをエンタメとして楽しめるかが、ホラー作品を好きになれるかの分岐点…そう考えるの無理ありません。
でも私のホラー作品に対する趣味嗜好はそれとは違っていて、エンタメとして楽しむだけがホラー作品の醍醐味ではないと思っています。例えば、残酷な描写やおぞましく気持ち悪い展開も、ときには反転して「癒し」になることがあるのではないでしょうか。
こう言ってもわかんない人には全然わかってもらえないのですが、残酷な描写やおぞましく気持ち悪い展開を見ていて癒される瞬間があるんです。それはおそらく人は恐怖のその先に癒しを見いだせるからなんだと私は思っています。そこにしかない癒しがあるような…。
もちろん世の中には恐怖やトラウマを植え付けるだけのホラー作品もあるのですが、私はそれだけだとあまり心にグっとこないんですよね。その鑑賞体験のゴールに癒しや希望があると「ああ、いいホラー映画見たな」と納得できる。そんな感じ。
最近はドラマ『ミッドナイト・クラブ』がまさにそうだったように“マイク・フラナガン”の手がける作品がそんな傾向のあるものばかりで、個人的な琴線に触れるのでお気に入り。
一方で昔から私が大好きな「ホラーと癒しのアンサンブル」を提供してくるクリエイターと言えば、やはりこの人でした。“ギレルモ・デル・トロ”です。
“ギレルモ・デル・トロ”と言うとオタク監督として有名ですが、この人の凄さはオタクという言葉では表しきれません。まず非常に凝ったアート志向の持ち主であり、造形に並々ならぬこだわりがあります。その芸術的な才能は『シェイプ・オブ・ウォーター』や『ナイトメア・アリー』などあらゆる題材の監督作でも拝めるとおりです。
そしてやはりホラーに対する愛に溢れ、露悪的に怖がらせるだけでない、何か不思議なヒーリング効果もあるような…。そんな後味のストーリーを届けてくれる。その点でも絶大な信頼をできる映画人です。
そんな“ギレルモ・デル・トロ”の真髄がギチギチに詰まったドラマシリーズがお披露目となりました。
それが『ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋』です。
最初このタイトルを目にしたとき、「え、ギレルモ・デル・トロのドキュメンタリーなの?」と思ったものですが、そうではなく、オムニバスです。
ちなみに邦題は「驚異の部屋」となっていますが、原題は「Cabinet of Curiosities」です。オープニングで毎回キャビネット(飾り棚)が登場して、そこから物語のキーアイテムを取り出し、“ギレルモ・デル・トロ”本人が語り部となって観客を物語へ誘うという、最高の導入から始まります。ほんと、なんで「cabinet」を「部屋」にしちゃったのかな…。
“ギレルモ・デル・トロ”が企画し、語り部になっていますが、監督はしていません。たぶん『ヒッチコック劇場』のオマージュなんでしょうね。
それでもどのエピソードも“ギレルモ・デル・トロ”成分がいっぱいなので安心してください。それが8話分も観れるんですよ。最高かよ…。いや、自分としてはあと20話くらいはあってもいいんだけど…。
今作『ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋』ではクリーチャーも満載。観ていてあらためて思ったのは、ただただグロテスクなクリーチャーを眺めているだけで、私の心は癒されていくということ。人生に疲れたときはやっぱりクリーチャーだな…。
『ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋』は1話完結なので見やすいです。毎話、最大でも約1時間。さあ、“ギレルモ・デル・トロ”の安楽の世界へようこそ。
『ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :雰囲気が好きなら |
友人 | :趣味が合う者同士で |
恋人 | :ホラーデートに |
キッズ | :残酷描写が多め |
『ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋』感想(ネタバレあり)
第1話「Lot 36」
第1話の監督は『パンズ・ラビリンス』の撮影など“ギレルモ・デル・トロ”とよくタッグを組む“ギレルモ・ナヴァロ”。原作は“ギレルモ・デル・トロ”の短編です。
移民排外主義者で人種差別思想が露骨な劣等感をくすぶらせる右翼労働者のニックが主人公。個人貸し出し倉庫で働いており、所有者が消えた倉庫の中のものを(おそらく不当に)売りさばくという行為に手を染めていたニックは、「36」の倉庫の中身に手をつけます。ところがそこには怪しげな除霊テーブルと3冊の書物が…。なんでももう1冊あるらしく、第4の書は超高額だと耳にして…。
「俺は国に尽くしてきたんだ、次は勝つ」と息巻く男が、持ち主はナチスだと思われる代物にすがりつき、その欲が破滅をもたらしていく。非常にわかりやすい因果応報。差別主義者が背負うのは過去の差別主義者の罪であり、その先には破滅しか待っていない…。
それにしても倉庫の奥の儀式エリアにあった遺体からウネウネがうわぁーっと飛び出すさまは見惚れるくらいには美しかったですね。あれで人に害がないなら水槽とかに飾っておきたいのに…。
このエピソードの主演の“ティム・ブレイク・ネルソン”は『ナイトメア・アリー』でもでていました。
第2話「Graveyard Rats」
第2話の監督は『CUBE』でおなじみの“ヴィンチェンゾ・ナタリ”。原作は“ハワード・フィリップス・ラヴクラフト”の友人としても有名なSF作家の“ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの友人”の短編です。
墓荒らしで遺体から金品を奪い取ることを生業にしているマッソンは、ちょうど金持ちの遺体が埋葬される情報を小耳に挟み、ウキウキで墓を掘ると…まさかのネズミに強奪され、さらに巨大ネズミに襲われ、あげくにはなんだかわからない暗黒の教会だかのアンデットに追いかけ回され…そんな最悪の踏んだり蹴ったりな目に遭います。
閉所恐怖症の人にはキツイのは確実なエピソードでした。マッソンも閉所恐怖症を抑え込んであの横穴に潜り込んだ根性は凄いですが、やはり地獄が待っていましたね。
この容赦なく惨劇がこれでもかと多重攻撃してくる悪趣味さはさすが“ヴィンチェンゾ・ナタリ”の得意技。登場人物を徹底的にイジメることに関しては天才です。
このエピソードの主演は“ヴィンチェンゾ・ナタリ”とは長い付き合いである“デヴィッド・ヒューレット”で、“ギレルモ・デル・トロ”監督作でも顔が見られる俳優ですね。
第3話「The Autopsy」
第3話の監督は『エンプティ・マン』の“デイビット・プライアー”。原作はファンタジー作家の“マイクル・シェイ”の短編です。この人もラブクラフトの影響が濃いです。
炭鉱で起きた謎の大爆発。それを調査するネイト保安官は友人のカールに検死を依頼します。ひとりで黙々と遺体の解剖をしていると、その爆発事件の渦中にいた謎の人物ジョー・アレンの体内に明らかな異常を観察でき、なんと実はエイリアンが寄生していた!というとんでもない展開に。しかも、そのエイリアンはカールに寄生しようと乗り移ってきて…。
予想外の真相ですが、その顛末で繰り広げられるのが、自分を解剖しながら実況するというシュールすぎる光景なのが何とも言えない…。こういうのなんて言うんだろう…セルフ解剖? なんかブラックジャックとかがやっていた気がする…。
最後は捨て身の犠牲で「私を燃やせ」と相棒に血のメッセージを残す。カール、意外に凄い使命感を全うするじゃないか…。
このエピソードの主演は『ミミック』にも出演していた“F・マーリー・エイブラハム”でした。
第4話「The Outside」
第4話の監督は『マッドタウン』の“アナ・リリー・アミールポアー”。原作はコミック作家の“エミリー・キャロル”です。
家でも職場でも浮いてしまっているステイシーは、なんとか職場の他の女性たちと対等にお喋りして自信をつけたいと思っていました。そしてある日、スキンケア製品「アログロ」をプレゼントされ、それを自分の肌に塗ると皮膚が荒れてしまいます。しかし、なぜかその商品のCMに出演しているタレントがテレビの中から自分に話しかけてきて、スキンケアを塗りたくるのをやめられなくなり…。
個人的に『ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋』のベスト・エピソードを挙げるならこの回ですね。何よりも主演の“ケイト・ミクーチ”の演技が抜群に際立っていて、もう目が離せません。次は何をしでかすんだと思わず釘付けになる。それこそテレビから視線を離せないのと同じですよ。
“ケイト・ミクーチ”の顔がもうズルいです。最初から最後まで顔芸で突き抜けていきました。
剥製もね…私も作ったことがあるんですけど、あれ、作るのが本当に大変だから、貰ったらとりあえず努力は褒めてあげてほしいな…。人間の剥製はちょっといらないけど…。
第5話「Pickman’s Model」
第5話の監督は『ザ・ヴィジル~夜伽~』の“キース・トーマス”。原作はオカルトホラーの創造主のひとり、ラブクラフトです。
1909年、美術大学の学生だったウィリアム・サーバーはピックマンという変わった男と教室で知り合い、その彼の描く禍々しい絵に惹き付けられていきます。そしてそれから数十年後。妻も子もいるウィリアムは久々にピックマンと再会し、彼の異様な絵の魔力は衰えていないどころが増幅していることを思い知り、それは家族にまで牙をむいていくことに…。
この物語はいかにもラヴクラフト的な禁断の闇がすぐそばにあってそれを開けてしまった男の崩落の姿を描いているのですが、美大生イケメン2人の密やかな交流という点では、ホモセクシュアルであると明言していないですけど、空気感からBLっぽさが濃厚に漂っており、同性愛抑圧的な物語としても読み解ける話になっているのかなとも思います。
このエピソードの主演は『ドリアン・グレイ』の“ベン・バーンズ”でした。
第6話「Dreams in the Witch House」
第6話の監督は『トワイライト〜初恋〜』の“キャサリン・ハードウィック”。原作はこちらもラブクラフトです。
ウォルター(ウォルト)・ギルマンは子どもの頃に双子の妹エパリーを亡くしたのですが、その瞬間に妹の幽霊が謎の空間に引き込まれてしまうのを目撃。大人になってからも妹を助け出せるのではと方法を模索し、オカルトを探求していました。そして魔女キザイア・メイスンへとたどり着き、禁断の世界の理を乱してしまうことで破滅を招いてしまい…。
このエピソードの主演は『ハリー・ポッター』シリーズのロン役でおなじみの“ルパート・グリント”で、そちらの方ではネズミをペットにしている少年だったわけですが、それを意識してのキャスティングなのか、この物語ではウォルターは人面ネズミに文字どおり肉体ごと利用されてしまう皮肉なオチが待っていました。
ハッピーエンドってそういうことかよ!とツッコミたくなる結末ですけど、なんか楽しそうだな、良し! 闇の魔法使いになったわけじゃないしね!
第7話「The Viewing」
第7話の監督は『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』で称賛された“パノス・コスマトス”。まさしく『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』の再来かと思うほどに禍々しいオーラに陶酔した物語です。
正体もわからない観覧のお誘いによって、シャーロット含む経歴もバラバラな人物たちが集められたのは、ザーラ博士の屋敷。というか秘密の部屋? そこで説明もほぼないままにトランス状態に陥っていき、さらに目の前に見せられたのは異世界の流星…らしき物体。そこから異様すぎる化け物がオギャーっと生まれ、その場にいたものを破裂させたりとかしながら、外へと進出する…。
流星から爆誕したのが触手だらけの小さい奴だと思ったら、意外にガッシリしたパワータイプに見える奴にすぐさま進化してしまうという絶望感。
原題の「viewing」とは鑑賞会のことですが、同時にこれは私たちがこのエピソードを見ていることとも重なっていて、ラストの街中の景色に普通にあのクリーチャーが混ざり込んでいるシーンが添えられることで、タイトルが補完される。終始酔っている物語ですけど構図はしっかりしています。
第8話「The Murmuring」
第8話の監督は『ババドック 暗闇の魔物』『ナイチンゲール』で高評価を獲得している“ジェニファー・ケント”。原作は“ギレルモ・デル・トロ”です。
鳥類研究者のナンシーとエドガーの妻夫はビッグ・ハーバー島でハマシギ観察のために滞在。そこで宿泊している屋敷は立派なものでしたが、実はそこには暗い過去があり、その影がナンシーの抱える苦悩とも呼応し、ザワザワと不吉な動揺が広がっていく…。
ナンシーとエドガーはエヴァという子を失っていることがわかり、この物語はその喪失感を乗り越えていくまでのリハビリテーションのようなものです。鳥は子育てを親身に行う生き物なので、そこともだぶらせていく構図ですね。
とても“ジェニファー・ケント”監督らしい苦しさを解凍していくようなケアのストーリーでしたし、そこにきっちり心霊現象的な要素を嚙み合わせるセンスはやっぱり上手いです。
最後のエピソードは良い締め方のものを配置したんだな…。これこそハッピーエンドだよ…。最終話が第6話みたいのだったら、それはそれで笑えるんですけどね。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 95% Audience 74%
IMDb
7.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
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・『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』
作品ポスター・画像 (C)Netflix ギレルモデルトロの驚異の部屋
以上、『ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋』の感想でした。
Guillermo del Toro’s Cabinet of Curiosities (2022) [Japanese Review] 『ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋』考察・評価レビュー