3作目でもこの国は元気です…映画『エンド・オブ・ステイツ』(エンドオブステイツ)の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:アメリカ(2019年)
日本公開日:2019年11月15日
監督:リック・ローマン・ウォー
エンド・オブ・ステイツ
えんどおぶすていつ
『エンド・オブ・ステイツ』あらすじ
世界を未曾有のテロ事件から救ったシークレットサービスのマイク・バニングは英雄として名を馳せ、副大統領から大統領となったトランブルからの信頼も絶大だった。しかし、歴戦の負傷によって肉体がむしばまれ、近頃は引退も考えるようになっていた。そんなある日、休暇中のトランブル大統領が予想外の方法で襲撃される事件が発生。マイクが容疑者としてFBIに拘束されてしまう。
『エンド・オブ・ステイツ』感想(ネタバレなし)
今度は何が起こるんです?
天皇陛下の即位を祝うパレード「祝賀御列の儀」が2019年11月10日に行われ、滅多にないイベントをひと目見ようと大勢の人が押し寄せました。その中で人知れず働いているのが警備の人たちです。数万人規模の警護人員をどうやってマネジメントしているのか気になるのですけど、まあ、教えてくれるわけないか…。でもきっと相当に大変ですよね。
しかし、映画というフィクションとなると、途端に大味に描かれるのが警備のお約束的宿命です。超絶スーパー何でもできるエージェントが、どんな想定外のビックな大事件も、多少の苦労をしながらも最後は華麗に突破!というのが定番コース。警備という職業の風評被害なんじゃないかと心配になりますが、よく考えなくともこんなの荒唐無稽なのは百も承知だから大丈夫か。
そんな「警護」映画の中でも近年一際ぶっとんでいて勢いのある映画群が「エンド・オブ(Fallen)」シリーズです。
観たことがない人にも説明するなら、ノリとしては現代版『ランボー』みたいな感じです。ひとりの男が常に危機的状況を打開する…。
2013年の『エンド・オブ・ホワイトハウス』から全ては始まりました。「AC-130」(銃火器を搭載した対地専用攻撃機)がいきなりアメリカ政治の要であるホワイトハウスを襲撃。正体不明の武装テロ集団がホワイトハウスを占拠して、大統領が絶体絶命! いくらなんでもアメリカ国土は脆弱すぎやしないかというオーバーリスク状態なんですが、それを解決するのがシークレットサービスのひとりの男、マイク・バニング。警護…なのかな…。とりあえず事態を収拾します、えぇ、するんです。
続く2016年公開の『エンド・オブ・キングダム』。展開はグローバルになりました。ロンドンで多くの主要国首脳も参列する葬儀が執り行われることに。しかし、そのトップたちが謎の武装組織によって次々と派手に殺害されていき、ロンドン都市部は機能不全に陥ります。う~ん、やっぱり迂闊! でもなぜかこの男、マイク・バニングは生きている。スティンガーミサイルでも殺せやしない。アメリカ大統領を守るため、再び激戦の中へ。とりあえず今回も事態を収拾します。まあ、なんとかなるんです。
そして公式サイトが「全世界待望」と大々的に宣伝する第3作目が公開となりました。それが本作『エンド・オブ・ステイツ』です。全世界、待望してたのか…。
一体、次はどの街が標的になってどんなとんでもない目に遭うんだろう…と半分呆れ顔で待ち構えていたら、今作はちょっと事情が違いました。これまでずっと主人公としてほぼ孤軍奮闘してきたマイク・バニングというキャラクターの人生の葛藤に焦点をあてて、各作でロケーションが未曽有のパニックになる!という従来のド派手サバイバル劇的な定番をやや外したストーリーが濃くなっています。まあ、あくまで過去2作と比べたら…の話ですけどね。この主人公はこれまでも毎回自分の進退に悩んでいるキャラだったので、すっかり「またかよ…」感が漂っていますが…。
ということで『エンド・オブ・ステイツ』は前作のようにホワイトハウスやロンドンみたいに特定の場所だけで物語は展開せず、割と場面ごとに移動します。だから邦題が「ステイツ」というざっくりした感じになっているのすが…。
とは言っても相変わらずドカンドカンと大爆発しまくっていますけどね。このへんに関しては完全にツッコミ上等なアホさがあるので、その誘いに乗っかって思う存分こちらもツッコんであげましょう。
主演はもちろんこのシリーズに欠かせない“ジェラルド・バトラー”です。最近は『ハンターキラー 潜航せよ』でも渋い演技を披露していましたが、すっかりこの分野の映画ではおなじみの俳優になりましたね。本人はスコットランド人なのですけど、『300〈スリーハンドレッド〉』での大躍進以降、ハリウッド大作にどっぷりです。
共演は“モーガン・フリーマン”。前2作では“アーロン・エッカート”が演じるベンジャミン・アッシャーというキャラが大統領で、“モーガン・フリーマン”演じるアラン・トランブルが副大統領だったのですけど、『エンド・オブ・ステイツ』ではトランブルが大統領になっています。任期的な問題を考えると自然なことですが、支持率が低下していないあたり、この作品の中のアメリカ国民は相当な戦闘狂ですわ…。“モーガン・フリーマン”が大統領をやっていると『ディープ・インパクト』を思いだす人もいるでしょうね。
また本作では『サウス・キャロライナ 愛と追憶の彼方』などで名俳優として活躍を積み重ねてきた“ニック・ノルティ”が、主人公以上にとんでもないインパクトを残す新キャラを演じているのでお楽しみに。
監督には『オーバードライヴ』や『ブラッド・スローン』など表向きはコテコテのジャンル的映画に見えて実は内面描写がしっかりしている作品を手がけてきた“リック・ローマン・ウォー”が抜擢されています。だから『エンド・オブ・ステイツ』も過去2作と少し雰囲気が変わったのでしょう。
基本的に過去作を観ていなくてもとくに問題なく物語を理解できるので、気楽に観れると思います。できるだけ迫力のある映像を楽しめる場所でどうぞ。
あと安倍首相もニュース映像だけど一瞬映ります(ということはあの世界観に存在しているのか…)。今の安倍内閣支持率が48%くらいだそうですし、その支持者全員が今作を観に行けば大ヒット間違いなしです。
オススメ度のチェック
ひとり | ◯(ドカンドカンします) |
友人 | ◯(爆発で喜ぶ友達と) |
恋人 | ◯(バトラーに守られたい) |
キッズ | ◯(爆発が好きな子に) |
『エンド・オブ・ステイツ』感想(ネタバレあり)
辞められないブラック職業
合衆国シークレットサービス(USSS)のエージェントとして長年尽力して幾度も大統領の危機を救ってきたマイク・バニングは苦悩していました。友人で民間軍事会社を経営しているウェイド・ジェニングスのように、自分の能力を最大限に活かせる場所を見いだせたわけでもない。度重なる大事件に巻き込まれ続け、体と心はボロボロで、薬が外せなくなっている。医者だってやめるべきと助言をしてくる。できれば大切な家族と一緒にいたい。けれども管理職は自分に合っていない。そんな思いとは裏腹に政府はマイクをさらに頼りにしていました。
なお、夫の蝕まれた体を気遣う妻リアは今作も地味ながら登場しますが、演じている俳優が前作までの“ラダ・ミッチェル”から“パイパー・ペラーボ”に変更していますが、これはスケジュールの問題です(決して別の人と結婚したわけではない)。
アラン・トランブル大統領は会見で今後の政府の方向性を示すも、肝心のメディアが気にする懸念事項には答えをはぐらかし、休暇に出ていきます。閑静な自然に囲まれた湖でバケーションを満喫する大統領。その隣には最も信頼されているマイクの姿。そこで大統領の口から次期USSSを束ねるリーダーになってほしいとありがたい推薦をもらうも、返答する間もなく、体調を崩すマイクは深刻でした。
そうこうしているうちにマイク以外でも異変が起こります。突如、大量の小型ドローン軍団が襲来。近くに配備されていた警護チームを情け容赦なく巻き込んで爆発。無数の奇襲になすすべもなし。ボート上で隠れ場もない大統領は水に投げ込まされ、直後にボートが爆破。マイクも飛び込んで、大統領を水中へ潜らせて、なんとか爆発の炎から守るしかできません。
その後、救急搬送された大統領ですが、意識は戻らず昏睡状態なため、やむを得ず、カービィ副大統領が大統領の任に着くことになります。
一方で、目を覚ましたマイクはなぜか手錠で拘束されていました。突然の衝撃を全米に与えた事件を捜査指揮することになったFBI捜査官ヘレン・トンプソンは、マイクを尋問。そこでマイク以外のUSSSが全員死亡したことと、マイクが大統領暗殺未遂の最重要容疑者になっていることを知らされます。このへんの理屈は相当に無理があるのですけど(マイク以上に疑うべき容疑者いっぱいいるだろうに)、まあ、置いておきましょう。
マスコミは大統領の守護を任されてきた人間が堕落したとこぞって報道。一瞬でアメリカの敵となってしまったマイクは妻とも引き離され、秘密裏に拘留施設へ護送されることに。
ところがマイクをを乗せた車列が突然停止したかと思った矢先、謎の武装覆面グループが何のためらいもなく警護官全員を射殺。マイクを拘束して連れ去ります。しかし、黙って従う男ではありません。隙をみて脱出を試み、逆に敵を制圧。
マイクは本当の敵の正体を知ることに…。
黒幕は割と最初からバレバレですけど、毎回そういうことは重視しないのがこのシリーズ。とりあえずマイクは北極とかに身を潜めないと、常に事件を呼び起こしますね…。マイクが大統領を守っているのか、逆に危険を招いているのか、わからなくなってきた…。
爆発はアメリカの日常
『エンド・オブ・ステイツ』はやはりシリーズ恒例のビジュアル的に派手な大事件で幕を開けます。
今回のドローン襲撃も凄かった。もはや空爆並みの爆撃状態ですから。どう考えてもあたり一帯を焼き尽くすレベルの業火ですよね。あれは特定のターゲットだけを狙った手法だとはとても言えない。どう考えても無差別攻撃。毎回思うけど、大統領殺すの下手すぎじゃないですか…。ケネディ大統領暗殺犯を見習ってよ…。こう、小さいドローン一体だけでこっそり近づいて暗殺するとかさぁ…。
あんな攻撃方法が実用化されていて、国内で実行できる存在がいるなら、大統領はどこにいてもヤバいだろうに…。そして相変わらずの無能な警備体制。無数のドローン相手にライフルで雑に射撃することしかないできないという、お前ら本当に守る気あるのかという残念なありさま。
なんなんだこの国…。
でもいいんです。なぜかって? 映画的に面白いから。これが全て。
いや、これは最先端の軍事技術ゆえの芸当だから特殊事例なんだろう…そう思って無理やり納得していたら、それを覆される展開がこの後に起こります。
それが本作最大のツッコミどころ…爆弾じじいことマイクの父クレイ・バニングです。誰も信用できずに仕方がなく疎遠だった父親の元に逃げ込むことにしたマイク。その父クレイは元ベトナム戦争従軍兵で、今は森の中の山小屋にひっそりと隠居生活をしていました。しかし、ただのボケた年寄りではなかった。なんと周囲一帯を常に監視しており、マイクの後を追って侵入した攻撃部隊をいち早く感知。それだけでなく、あろうことか森に仕掛けておいた爆弾を次々と爆破。静かな森が一転して爆発で火の海に。あれ、この光景、冒頭で見たな…。
オーバーキルどころではなく、これにはさすがのマイクもドン引き。そうですよね、どんなに冷静になってもこのボンバーマンが危険人物なのは疑いようがないよね…。アメリカはこんな奴を放置しておいて、何がしたいんだ…。
ほんと、なんなんだこの国…。
リアリティの整合性はさておき、どちらのシーンでも爆発スタントチームの見事な仕事っぷりでしたね。当然、巨大な爆発の大部分はVFXで付け足したものでしょうけど、一種の芸術性すら感じる爆発アトラクション・ショーみたいでした。
爆弾じじい以降はさすがに火薬節約ぎみですが、建物倒壊やヘリ爆破など要所要所でエクスプロージョンのサービスをしてくれるあたりは観客を楽しませてくれます。
個人的には過去2作と比べて一番好きな派手さだったのかもしれない…。ちょっとやられる側が綺麗に死に過ぎているのは気になりましたし、もっと爆発四散しても良かったのですけどね。
派手さばかりではなく
今回の3作目となる『エンド・オブ・ステイツ』は前述したとおり、派手なところはとことん派手にしまくる一方で、抑えるべきところはしっかり締めるという部分も好印象でした。
例えばアクションシーンで言えば、まず、森の中の道路でのカーチェイスシーン。マイクは大型車両で逃走し、パトカーが数台追いかけてくるわけですが、この一連の夜の場面は撮影がかなりリアル寄りで、本当に実際に起きたカーチェイスを映像におさめてるような感覚でした。上空からライトサーチするヘリの視点も合わせて、今まさに追跡しているリアルタイム感がありましたね。
終盤の建物内での激しい銃撃戦もリアルを意識しており、前半の爆発合戦が嘘みたいです。ここであの爆弾じじいが乱入していたら一気にカオスなことになりますからね。早々に退場して正解だった…。
マイクの内面に焦点をあてたのは作品に深みを出すためにも避けられなかったでしょうし、理解はできますが、大統領を守りながらいかに困難を乗り越えるかを主軸にせず、マイク自身が逃走者になるという前半のプロットは、シリーズのアイデンティティを外れるので、賛否はあるかもしれません。私も正直、ずっと大統領を傍に置いて守り続けて欲しかったとは思います。マイクは強すぎるから誰か守るというハンデがないと戦いにならないし…。
でもラストの一騎打ちは良かったです。共に戦いに己の意義を見いだしながら、ひとりは闇に堕ち、ひとりは闇に堕ちまいとあがく。この二人が戦う意味こそ、マイクの心理葛藤の代弁としてふさわしいものでした。
本作最大の欠点はマイク単独でなんでも成り立たせてしまうので他のキャラが入る余地がないことですかね。今作でもFBIが登場しましたが、案の定、たいしたこともせず脱落しましたし…。チームに発展しない以上、シリーズ化してもずっとマイクのことしか描けないのはマンネリ化まっしぐらですよね。
個人的な要望としては、マイクを悩める主人公にするのはもうやめて、次世代育成のバディものにするか、色々な国の要人をその都度各作で護衛して、その要人の成長に焦点をあてて、マイクはメンター化するか、この二者択一しかない気もします。
ここでシリーズは完結なのかなと思ったら、プロデューサーは「あと3作とスピンオフもやる」みたいなことを言っているのでまだ続く可能性が…。私としては『エンド・オブ・ステイツ』がシリーズで一番気に入っているので、このまま“リック・ローマン・ウォー”監督の路線でやってほしいところ。
誰かマイクに休みをあげて…。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 39% Audience 93%
IMDb
6.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 4/10 ★★★★
関連作品紹介
ジェラルド・バトラーの主演作の感想一覧です。
・『キング・オブ・エジプト』
・『ジオストーム』
・『ハンターキラー 潜航せよ』
作品ポスター・画像 (C)2019 Fallen Productions, Inc.
以上、『エンド・オブ・ステイツ』の感想でした。
Angel Has Fallen (2019) [Japanese Review] 『エンド・オブ・ステイツ』考察・評価レビュー