自分らしさをそのままに…Netflix映画『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2025年)
日本では劇場未公開:2025年にNetflixで配信
監督:マギー・カン、クリス・アペルハンス
けーぽっぷがーるず でーもんはんたーず
『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』物語 簡単紹介
『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』感想(ネタバレなし)
K-POPアニメに全身全霊
ふと「最近、“ソニー・ピクチャーズ アニメーション”の作品の感想を書いていないな」と思いました。
振り返ってみると、『スパイダーバース』シリーズはさておくとして、直近で感想を書いたのは、2021年の『ビーボ』と『ミッチェル家とマシンの反乱』です。


なんだか「ソニー・ピクチャーズ・アニメーション」のアニメ映画が目立っていないなと思うかもですけど、それもそのはず、日本ではほとんど配信スルーになっているんですね。一応は大本は日本の企業なのに日本市場に売り込む気は全然ないという…。たぶんたいていの日本人は「“ソニー・ピクチャーズ アニメーション”って何?」っていうレベルの認知度だと思う…。
結構、「ソニー・ピクチャーズ・アニメーション」もユニークな作品を生み出していたりもするので、無視できない存在感があるのですが、そんな中、2025年は「ソニー・ピクチャーズ・アニメーション」が異彩を放つアニメ映画を「Netflix」に送り込んできました。
それが本作『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』です。
アイドルや歌手が歌のパフォーマンスの力で何かしらの悪者を倒す、もしくは世界的な危機を救う…という設定が土台にあるアニメ作品は以前からありました。日本だとスケールが大きい『マクロス』シリーズだったり、2025年も『キミとアイドルプリキュア』があったり…。
『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』は言わずもがな、タイトルでわかりますね。「K-POP」が主題になっています。
今や韓国発のアイドル文化産業である「K-POP」は日本を含め世界中の若者を魅了し、社会現象になっています。その歴史はドキュメンタリー『K-Pop Evolution』などでもおさらいできます。
「K-POP」がサンプリングされる作品はありましたけど、ここまで全面に打ち出してきたアニメ映画は珍しいのではないでしょうか。
しかも、その内容が「とある人気K-POPガールズグループは裏でデーモンと戦って世界を救っており、その劣勢のデーモンがボーイズグループを作って対抗してくる」という、それだけ聞くと荒唐無稽にもほどがあるノリ。でもちゃんとそれを真面目に作りこんでおり、かなり良質な出来栄えになっているから侮れません。
「K-POPアイドルが悪と戦うヒーローである」という設定自体は、例えば、アメコミのマーベルにも「ルナ・スノー」などがいますし、わりとあちこちで見かけるアプローチ(それこそK-POPアイドル自身がMVなどでそういうイメージのビジュアルを採用していたりもする)なのですが…。アニメーションとして単独で作り込むとなったら話は別です。
本作はミュージカルにもなっており、しっかりオリジナルのK-POP楽曲で魅せるところはキメてくれます。コミカルな絵柄に崩れたりする演出は日本の漫画やアニメっぽいですし、普段から日本の漫画やアニメに親しんでいる人はすんなり入れるでしょう。
『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』を監督するのは、本作が監督デビュー作となる“マギー・カン”と、同じく「ソニー・ピクチャーズ・アニメーション」の2021年の『ウィッシュ・ドラゴン』を手がけた“クリス・アペルハンス”。この2人の共同監督作です。
K-POPが好きな人も、全くK-POPを知らない人も、幅広く楽しみやすいエンターテインメントですので、気になればぜひ。
『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』を観る前のQ&A
A:Netflixでオリジナル映画として2025年6月20日から配信中です。
鑑賞の案内チェック
基本 | — |
キッズ | 低年齢の子どもも問題なく楽しめます。 |
『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(前半)
太古から世界に巣くうデーモンは人間の魂を奪ってデーモンの王グウィマに捧げてきました。そんな脅かされる民衆を救ったのが特殊な力を持つハンターです。初代ハンターは世界を守る結界である「ホンムーン」を築き、デーモンを封じ込めました。どの時代にもハンターは世代を超えて現れ、声と歌で人々を守り続けています。
現代、そのハンターの使命を背負ったミラ、ゾーイ、ルミは「ハントリックス」というKポップ・アイドルグループとして普段は活動中。今は世界ツアーの真っ只中で、多忙です。
ミラは幼少期から家族に反抗的でダンスもファッションも常に独自性を貫きます。ゾーイはアメリカのバーバンク育ちでラップに全力。ルミは亡き母が「サンライト・シスターズ」というアイドルでその意思を受け継いでいます。それぞれの推しファンが大勢いて、その声援に応えようと3人はいつも一生懸命。
もちろんハンターの仕事も抜かりありません。3人のハンターの先輩でもある以前のハンターだったセリーヌは、3人を鍛え上げました。
今日はライブパフォーマンスがあります。スタジアムは5万人の満員。飛行機では3人は本番前のエネルギー補給で食事中です。ところがその飛行機はデーモンに乗っ取られており、すぐに気づいた3人は撃退にかかります。
飛行機から飛び降りて3人はステージに降り立ち、パフォーマンスをしながら残ったデーモンを退治。会場のボルテージは一気に高まり、ホンムーンは維持されます。今のホンムーンが黄金に輝き続ければその守りは盤石になるはずです。
マネージャーのボビーも大満足で、ここでさらにニューシングル「ゴールデン」を発表し、さらなる大反響で休む暇もなくプロモーションに移ります。
しかし、ルミは悩みを抱えていました。実は彼女は父がデーモンなのです。今のルミの両腕の肌にはデーモンの印である模様があり、普段はミラやゾーイの前でも隠していましたが、最近はなぜか声が不調です。そして模様が喉にまで侵食していることに気づきます。
それでもセリーヌからデーモンの血を受け継いでいると打ち明けることを禁止されており、ルミはひとり苦しみます。
そんな中、デーモンの王に服従するジヌは、デーモンのボーイズグループ「サジャ・ボーイズ」でハンターに対抗し、ファンを奪ってみせると王に宣言し…。
推し文化に対する温かい眼差し

ここから『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』のネタバレありの感想本文です。
『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』、アメリカ製作のCGアニメーション映画としてはなかなかに異彩を放っていました。
ここ最近のCGアニメーション映画のトレンドは、フォトリアルよりもいかにコミック的な表現を合わせながら独自の味わいをだすかに注目が集まっていたと思うのですけど、『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』は、日本の漫画やアニメによくある表現を取り込むことでひとつの新境地を良質に高めてみせてきたな、と。
本作『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』は「能力特化のスタイルに転身して悪と戦う若い女性たちのチーム」という図式からして『美少女戦士セーラームーン』などの影響を強く感じますが、コミカルな絵柄崩しの演出までそれっぽく、CGでも自由奔放で見ているだけで楽しいです。
序盤、飛行機内の食事シーンからその本領が発揮され、ミラ、ゾーイ、ルミが実にアイドルらしからぬあられもない素の姿で、ギャグ全開でリラックスして食事を貪っている場面。「あ、こういう絵面もいくんだ」と驚くスタイルの幅の広さです。
かと思えば、いざデーモンとの戦闘シーンになると、完全にK-POPのMV(ミュージックビデオ)そのままのめちゃくちゃクールな演出で、カッコよく敵を圧倒していきます。
このギャップが本作の一番のエキサイティングな醍醐味でした。
すごくアニメーションとしてひとつの作品の中で生き生きとしているキャラクターたちも見逃せません。
とくにミラ、ゾーイ、ルミの「ハントリックス」に、ジヌら「サジャ・ボーイズ」が立ちはだかる。ここからコメディはさらに加速してわちゃわちゃしてくるのでなおさら面白いです。
ミラ、ゾーイ、ルミが「サジャ・ボーイズ」の面々と初めて街中で出会うシーンは、韓国作品にありがちなロマコメのパロディで(ジヌの声を演じているのが“アン・ヒョソプ”ということもあってセルフパロディ味が強い)、それだけでも妙に愉快。
基本的に敵側であるデーモンたちもユーモラスなので、やっていることは「人の魂を奪う」という深刻さではありますけど、どこか間の抜けた感じはずっと漂います。魔王の声を演じているのが“イ・ビョンホン”だというのも個人的にはツボです。
ジヌの使役する謎の猫もマスコット人気がでそうな奴だったけど…。
表面上で繰り広げられるのは、「ハントリックス」と「サジャ・ボーイズ」、どっちが推せるか!?…というファンダム獲得バトルですし、当のファンたちも変に嫌な感じで対立を煽らずにカップリングで2つのグループを同時に楽しんでいたり、わりとお気楽な空気感になっているのもこれはこれでありだなと思いました。
この推し文化に対する温かい眼差しが本作の居心地の良さに繋がっていましたね。
キャラクターをもっと知りたくなる
『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』でシリアスなストーリーラインを形成するのが、ルミのエピソードです。
ルミは人間とデーモンのハーフで、そのことをセリーヌ以外には打ち明けずに隠しています。それが後々に弱みとなってしまい、ミラやゾーイとも大きな亀裂に…。
このキャラクター・アークは、いわゆるマイノリティによくあるナラティブです。
ポップスターのプレッシャーとしてプライベートを明かせない苦悩というのも大いに定番ですが、ルミとジヌの交流を通して、社会に埋没するマイノリティがいかに恥に囚われずに自己肯定を得るかというテーマが浮き上がってきます。
「君もプライドに」とか「ヘイトでは倒せない」とか、そうした言葉のチョイスもそのテーマを強調してきますし、歌詞も「輝くために私は生まれてきた」など、明快に刺さってきます。
ルミは肌の模様として異質さが意図せず現れてしまい、「銭湯に行けない」というあたりも、それっぽいですし…。セリーヌが「隠して治せる」と言い張る主張は、保守的な迫害を取り繕うレトリックそのものです。
このテーマ性は良いのですが、ラストはもうひと捻りの強いインパクトが欲しかったなとは思います。ルミだけの決心で事態を突破するのはどうもクライマックスとして弱いです。
基本的にルミとジヌしかキャラクターが掘り下げられないのももったいないですね。
ミラは上流階級家庭の出自のようで、そこから反抗して今に至るまで、相当な葛藤と確執があったはずですけど、それはあまり見えてきません。ゾーイはアメリカ育ちで、おそらくアジア系差別を受けながら学校でも孤立していたのでしょうが、その体験がもっと他の2人の人生と共鳴していく展開にもできたはずです。
シスターフッドの心地よさが最後にぐんぐん盛り上がっていくにはやや加速不足でした。
せっかくミラもゾーイも魅力的なキャラクターなので、いろいろストーリーを深掘りしてほしかったところ。
しかし、こういう「このキャラクターをもっと観たい!」という反応を引き出せるということは、それだけ上手く心を掴んだということですから、オリジナル作品として手ごたえ抜群じゃないでしょうか。実際、SNSとかを見ているとさっそく『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』のファンダムが出来上がっていますからね。
「ソニー・ピクチャーズ・アニメーション」の隠れた良作として、なんとかシリーズ化しないものだろうか…。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
作品ポスター・画像 (C)Netflix KPOPデーモンハンターズ
以上、『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』の感想でした。
KPop Demon Hunters (2025) [Japanese Review] 『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』考察・評価レビュー
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