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『K-Pop Evolution』感想(ネタバレ)…K-POPを知るための入門ドキュメンタリー

K-Pop Evolution

K-POPに熱狂している人も知らない人も…ドキュメンタリーシリーズ『K-Pop Evolution(K-POPの興隆)』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:K-Pop Evolution
製作国:アメリカ(2021年)
配信日:2021年にYouTubeで配信

K-Pop Evolution

けーぽっぷ えぼりゅーしょん
K-Pop Evolution

『K-Pop Evolution』あらすじ

今や世界中を魅了するワールドクラスのカルチャーとなった「K-POP」。歌、ダンス、パフォーマンス…。次々と現れるアイドルグループたちはファンを歓喜させ、SNSは熱狂の渦を巻き起こす。元は韓国の音楽界で始まったにすぎないものがいかにして国際的な支持を得るに至ったのか。その歴史、そしてK-POPを支えるファンの姿、さらに厳しい芸能の世界を生き抜くアーティストの素顔に迫っていく。

『K-Pop Evolution』感想(ネタバレなし)

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K-POPってこんな背景があったのか…

昔は「韓流」という言葉が日本でも持てはやされました。しかし、それも今は死語なのかもしれません。すでに別の言葉があります。そうです、「K-POP」という存在が。

素直に告白をすると、私はそれほど音楽エンターテインメントに興味がない人間であり(好奇心は映画に全振りしています)、ミュージシャンに関しては何が流行りなのかもずっと前からよくわかっていませんでした。あまりこれだという自分の好きな音楽アーティストもいません。カラオケにも全く行きませんし、音楽番組だって見ないし、以前からポータブル音楽プレイヤーには映画関連の曲しか入っていませんでした。

その私がK-POPを理解しているはずがありません。気が付いたら「え? K-POP? 韓国の? 話題になっているグループでもあるのかな? そんなに熱狂しているの? 日本だけでなく世界中で?」と大変なことになっていました。

2021年7月29日時点における日本のオリコンを覗くと、デイリーシングルランキングの3位は「ATEEZ」の『Dreamers』、週間合算シングルランキングの2位は「BTS」の『Butter』、デイリーアルバムランキングの1位は「TWICE」の『Perfect World』、2位は「SHINee」の『SUPERSTAR』…。もはや当たり前のように多数の韓国のグループが上位ランクインしています。

アメリカも同じ。2021年にはグラミー賞で「BTS」がノミネート。あの名だたるアメリカの有名スターと並んでいる。韓国人のグループが…ですよ。信じられない光景です。

一体何がどうなってこうなったのか…。浦島太郎状態でオロオロしている私に誰かわかるようにイチから説明して…。

そんな私にぴったりのドキュメンタリー・シリーズがありました。それが本作『K-Pop Evolution』です。

本作は全7話で1話あたり約20~30分程度のボリュームですが、その全てがK-POPを題材にしています。といっても単なるアーティスト紹介の動画ではありません。K-POPがどういう歴史を経て誕生し、世界的な存在へと進化していったのか、その流れが業界関係者の言葉と共に明らかにされますし、現在のK-POP業界で人生を捧げているアーティストたちの素顔や苦悩が批判的に語られることもありますし、ファンたちの姿を捉える内容もあります。

ともかくこの『K-Pop Evolution』を鑑賞すれば、私のような門外漢でもおおよそのK-POPの全体像をざっくりは掴める…といった感じです。

率直な私の感想を最初に言うと「K-POPってこんな深い歴史や背景があったのか…」と感心してしまいましたし、K-POPがここまでの世界的地位を確立した理由もわかった気がします。必然的に日本の音楽業界との違いも見えてくるし、K-POPの成功は偶然ではなかったんだなと納得。知ったかぶりはできないけど、鑑賞後はK-POPを理解できたような気分でちょっと自信がついたりも…。

これまでアーティストに密着した音楽ドキュメンタリーはいくつも観てきました。『レディー・ガガ:Five Foot Two』『ミス・アメリカーナ』『ビリー・アイリッシュ 世界は少しぼやけている』…K-POP関連なら『BLACKPINK ~ライトアップ・ザ・スカイ~』も観ましたね。それらは確かにアーティストを主軸に知るうえでは格好の素材だったのですが、この『K-Pop Evolution』はひとつの音楽ジャンルそのものをテーマにしているので範囲が広いぶん、俯瞰的に学べるという別の面白さもありました。

また、K-POPにドハマりしている人でもその初期の歴史までは知らなかったりする人もいるでしょうし、本作を観ておけばそこもバッチリ把握できて、さらにK-POP通になれます。K-POP界のレジェンドな人たちもドキュメンタリー内でコメントしていたりして貴重ですしね。

この『K-Pop Evolution』、2021年の作品なのですが、なんと「YouTube Originals」なのでYouTubeで視聴できます。もちろん全部無料。しっかり日本語字幕つき。とくに登録とか必要なしで、今すぐパっと観られるので、K-POPの世界をもっと覗いてみたいと思った人はぜひ。

K-POPなんて自分には興味ないよとか小馬鹿にしていたような人にも観てほしいドキュメンタリーです。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:K-POP初心者にも最適
友人 3.5:ファン同士で観るのも
恋人 3.5:互いに興味があるなら
キッズ 3.5:ファンなら関心ありかも
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『K-Pop Evolution』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『K-Pop Evolution』感想(ネタバレあり)

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K-POPの歴史;誕生

エピソード1から3まではK-POPがどのように誕生してどのように世界に飛び出したのか、その歴史が解説されていきます。「へ~」の連続で個人的にはこのエピソードが一番面白かったですね。

K-POP発祥の地、それはソウルの梨泰院地区。ここは米軍基地が隣接していたために米軍兵を相手にする商売が成り立ち、それが起点となったのでした。時代は1966年。韓国における解放後の大衆音楽は祖国喪失の哀歌でしたが、当時のアメリカの主流はロックンロール。そこで誕生したのが韓国初のロックバンド「KEY BOYS」。ギタリストのキム・ホンタクは「稼ぎが良かった」と振り返ります。

しかし、過酷な時代が到来。パク・チョンヒ大統領による独裁政権の樹立です(『KCIA 南山の部長たち』を観てね)。若者の自由を規制し、ロックバンドも犯罪者扱い。音楽を奪われてしまいます。せっかく原型を確立したのに途絶えさせ、黄金時代を押しつぶした軍事政権。検閲は暗黒時代の象徴に。

その暗い時代を経て、1987年に韓国は民主化(『1987、ある闘いの真実 』を観てね)。88年のオリンピック後に韓国は国際化し、新しい音楽が大量に入ってくるように。梨泰院はナイトクラブが盛んになり、ヒップホップ指向の人が集まる聖地に。そこで西洋と東洋の融合というK-POPの本質を見い出したのは「SOLID」でした。そのメンバーのチョン・ジェはロサンゼルスから西洋音楽を導入し、ヒット曲を分析して、大ヒットさせます。

そしてモダンK-POPの始まりとして伝説になったのが「ソ・テジ」。それはソ・テジの前と後で分かれるほどの時代のマイルストーン。大衆はブラック・ミュージックに慣れておらず、「これが本当に韓国の音楽か?」と不安に感じるほどでしたが、すぐにソテジワアイドゥルが一世を風靡。

さらに1996年に「H.O.T」がアイドルの先駆けとなり、ルックス重視という変化を生み出します。「ニュー・キッズ・オン・ザ・ブロック」をモデルに作り上げたという話も面白かったですね。アイドルグループという概念は当時はなかったですが、着ぐるみっぽい可愛い衣装で強烈な印象を生み、ミトンも大流行。

アイドル文化が生まれた1990年代後半はもうそれはアイドル百花繚乱。1997年には「S.E.S」という女性グループが誕生(「人間じゃなくて妖精ですね」というコメントが面白い)。他の事務所メディアも乗り出し、「ジェクスキス」などが生まれ、競争が勃発。「god」のようにリアリティ番組で日常を曝け出してファン層も拡大させる戦略も。

歴史的な屈辱がK-POPの原動力になり、経済発展にともなってテレビという芸能界を伝えるメディアが基盤になっていく。まさに韓国の歴史はK-POPの歴史と一致しますね。

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K-POPの歴史;世界へ

順調に見えたK-POP。ところが1997年のIMF危機(『国家が破産する日』を観てね)で音楽業界は危機に。そこで国外の市場に目を向けるようになります。

ここが日本との決定的な分岐点だなと思います。日本もバブル崩壊を経験しましたが、それでも世界第2の経済市場を持つゆえか、あくまで国内市場を優先に業界を発展させるガラパゴス化にシフトしました。一方の韓国は追い込まれたがゆえに世界に挑戦する賭けに出るわけで…。

そこで韓国が狙ったのが日本市場。そして誕生したのが2001年の「BoA」です。徹底的に日本ウケを狙い定めてデザインされ、オリコンランキング1位を獲得。しかし、成功ばかりではありません。アメリカでは「ワンダーガールズ」が誕生し、レトロの女王だと語られますが、当時のアメリカ国内の反応は冷たく…。やはり同じアジアの日本と違って、アメリカとの文化や言語の違いは大きかった…。

ただ、そこで転んでもただは起きぬ。必勝法を見い出します。それが「フックソング」という繰り返しのある歌という概念。同じようなフレーズを、記憶に残るような振りを加えてパフォーマンスする。すると歌詞の意味を理解されなくても伝わるキャッチーが生まれ、言葉の壁を越え、バイラル効果が。

「少女時代」「KARA」とアイドルグループの全盛期の2009年。インターネットの普及も後押しに。「Super Junior」の『Sorry, Sorry』という曲は歌詞は子どもっぽかったですが、バイラル効果を上手く活かして世界を魅了し拡散。

それが想定外のバズりかたをみせたのが「PSY」『江南スタイル』。突然の大流行には韓国の音楽業界も困惑。若くもないオッサンで韓国語なのに…。本来は富裕層を皮肉する風刺歌で国外では意味がわからないだろうにそれでも世界でウケたのはやっぱりキャッチーだからなんですね。「PSYを笑っていたかもしれないがPSYに笑われていたのだ」という皮肉も印象的。

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K-POPの課題;商品として作られる側の苦悩

そのK-POPを支えるのは巨大なファンのコミュニティ。「メガチャーチのようだ」と形容されるのはいかにも韓国らしいところ(韓国はキリスト教の影響力が強い国です)。視聴者投票でアイドルを作る番組も盛り上がり(『ハンガー・ゲーム』ですというコメントが秀逸)、投票操作疑惑をファンが突き止めるという凄まじい執念(腐敗した韓国警察より優秀だ…)。「BTS」のファンたち「ARMY」がトランプ批判で絶大な威力を発揮したのも話題になりましたね。

一方でそんな大歓声とは裏腹に当のアーティストたちは現実的な苦悩に直面しており、本作はそこも隠さずに映し出します。K-POP好きには耳が痛い話題ですが、でもこの批判視点は大事ですね。

多忙による身体的披露、過酷な競争率による精神的重圧、暗黙の恋愛禁止、とくに女性は容姿重視の採点が加わり、さらにツラく…。

こうした問題はアーティストの自殺という最悪なかたちとなってしまうこともあります。そうでなくても作中で映し出された「カン・ダニエル」のようにパニック障害とうつ病を併発してしまうことも。

これはK-POPだけでなく、日本のアイドル業界でも同様ですね。厄介なのはこうしたアーティストやアイドルの苦労や葛藤さえもコンテンツとして消費されてしまいかねないということです。日本でも『DOCUMENTARY of AKB48 to be continued 10年後、少女たちは今の自分に何を思うのだろう?』のようにアイドルグループのドキュメンタリーは以前からあって話題を集めたりしました。そこでもアイドルの過酷さは映し出されても、改善する問題対象ではなく、可哀想エピソードで片付けられてしまいがちなんですよね。

『K-Pop Evolution』ではもう少し客観的な立場から改善の提案がなされています。メンタルヘルス、カウンセリング、そして当事者を守るシステムの必要性。それはどれも早急に求められるものであり、間違いなくこれからのK-POPが支持され続けるには欠かせないはずです。売れさえすればいい、ファンを熱狂させさえすればいいではもう通用しません。

今、韓国のエンタメの世界では少しずつフェミニズムが湧き上がっています。LGBTQをカミングアウトするアーティストも現れだしました。おそらくこうした要素を健全に取り入れることが世界のステージに立てるようになったK-POPの次なるミッションなのではないでしょうか。そうなっていけばK-POPを「商品」だと軽視する目線も吹き飛ばせるのかなと。

なにはともあれ今後のK-POPのエボリューションも見逃せないですね。

『K-Pop Evolution』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
?.? / 10
シネマンドレイクの個人的評価
6.0
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関連作品紹介

音楽アーティストを題材にしたドキュメンタリーの感想記事です。

・『ビリー・アイリッシュ 世界は少しぼやけている』

・『ミス・アメリカーナ』

・『レディー・ガガ:Five Foot Two』

作品ポスター・画像 (C)Banger Films K-POPエボリューション

以上、『K-Pop Evolution』の感想でした。

K-Pop Evolution (2021) [Japanese Review] 『K-Pop Evolution』考察・評価レビュー