配管工の兄弟が異世界転生でピアノが上手いカメを倒すようです…映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ・日本(2023年)
日本公開日:2023年4月28日
監督:アーロン・ホーバス、マイケル・ジェレニック
ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー
ざすーぱーまりおぶらざーずむーびー
『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』あらすじ
『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』感想(ネタバレなし)
CGアニメ映画でもレッツゴー!
2023年は「ゲームの実写化は失敗する」という業界のジンクスが完全に打ち砕かれる年になりました。
ドラマでは新年早々に『THE LAST OF US』が絶好調の視聴者数を記録し、難しい原作ゲームを見事に映像化してみせました。
そして映画はこいつらがやってくれました。それが本作『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』です。
「スーパーマリオブラザーズ」については説明不要ですね。この世界的な人気ゲームが2023年4月についにCGアニメーション映画化され、公開となりました。
正直、私も大ヒットするだろうなとは思っていました。最近のハリウッドでは、『名探偵ピカチュウ』『ソニック・ザ・ムービー』と、ゲームの映画化作品が好調が続いていましたし、流れは確実にありました。とくにファミリー映画の勢いがぐんぐん伸びています。私の勝手な分析なのですが、おそらく親もゲーマー世代になり、親が関心を持って子どもを映画館に連れて行きやすいのではないかな。
その流れでの『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』。これは絶対にここ最近のファミリー向けのゲーム原作映画の中では盛大なバズりを見せるに違いないと…。
で、アメリカで公開されるとそれはもう想像以上の特大ヒット。米市場のアニメーション映画史上でもトップ級の興行収入で、これは2023年に一番ヒットした映画になるのはほぼ確実なのでは?…というくらいです。さながら無敵スターをゲットして爆走するマリオのごとく、敵なしで豪快に蹴散らし、独走態勢に入りました。
思えば「スーパーマリオブラザーズ」というのは、ある意味では「ゲームの実写化は失敗する」という業界のジンクスを決定づける不名誉な歴史が過去にありました。
その汚点を作った張本人が1993年にハリウッドで実写映画化された『スーパーマリオ 魔界帝国の女神』。酷評&商業的失敗のダブルコンボで、あえなくゲームオーバー。まあ、でも私は好きですよ。いつものマリオのおなじみのBGMが流れつつ、「ブルックリン、6500万年前」とデンと表示されるあのオープニングに勝る衝撃は今もなかなかないし…。観たことない人はぜひ見てほしいです。スゴイから…。
ちなみにハリウッドで実写映画になる前に、「スーパーマリオブラザーズ」は日本でアニメ映画になったことも実はあります。1986年の『スーパーマリオブラザーズ ピーチ姫救出大作戦!』です。こっちもこっちでクッパの声を“和田アキ子”が担当していたり、別方面でスゴイのですが…。
そういう波乱万丈な経緯のある「スーパーマリオブラザーズ」の映画なのですが、今回の2023年の『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』が成功したのは、「任天堂」が関与していたのはもちろんのこと、やっぱり「イルミネーション」のおかげかな。「ミニオン」でおなじみのスタジオですが、この「イルミネーション」と「スーパーマリオブラザーズ」、相性が抜群なんでしょうね。「これしかない!」というベストパートナーですよ。
なお、本作のアメリカの配給は「ユニバーサル」で、ユニバーサルと言えば、「ユニバーサル・シティ・スタジオ 対 任天堂 裁判」…通称「ドンキーコング裁判」というかなりデカい法廷闘争で戦った因縁の相手なのですが、「ユニバーサル・パークス&リゾーツ」と共同でマリオをテーマにしたアトラクション「スーパー・ニンテンドー・ワールド」を築いた経緯もあって、今やすっかり仲良し。そして映画まで一緒に作っているという、昔を思うとなんだか不思議な風景です。
とにかく『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』は「マリオ」ファンにしてみれば、おもちゃ箱をひっくり返したような楽しさ満載の映画であり、「マリオ」くらいの知名度だとそんなにゲーマーじゃなくても「これ、知ってる!」という描写も複数あるでしょう。逆に「マリオ」を全然知らない人でも、この映画は「マリオ」紹介ムービーとして非常によくできています。
『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』は超初心者向けのイージーな難易度で、あなたのステージ・クリアを待っています。
『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :ファンも満足 |
友人 | :ゲーム好きな人と |
恋人 | :気軽に見やすい |
キッズ | :子どもも笑顔に |
『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):マリオ、出番です!
氷の大地にマグマが降り注ぎます。禍々しい城が氷の国に着地し、軍団を放ち、戦闘態勢。カメックの紹介で勇ましく降臨したのは、世界支配を企むクッパです。「扉を開けるか、死ぬかだ」とすごみます。
迎え撃つかたちで出てきたのはペンギンの王。ペンギンたちが雪玉で攻撃するも全くの効果なし。クッパは不敵に笑い、カメックの魔法でペンギンたちを脇にどけ、氷の城を自らの吐く灼熱の炎で溶かします。
城の奥から現れたのは眩しく光り輝くハテナブロック。クッパがそれを叩くとスターが出現。雄たけびをあげるクッパでした。
そんなことも知らない、全くの別の場所。ニューヨークのブルックリン。マリオとルイージの兄弟は、最近になって配管工事の仕事を自分たちで起業しました。「スーパーマリオブラザーズ」と謳う宣伝CMもかっこよくできてご満悦。元雇用主のブラッキー(スパイク)は認めていませんが、マリオは強気の態度です。
さっそく仕事があり、車が動かないのでダッシュで現場に駆け付けます。その家で水漏れをパパっと修理。しかし、ルイージが犬に恨まれ、マリオはジャンプでそれを避けたり、いろいろしたせいであちこちから水が噴き出す騒ぎも…。
そんなこともありつつ、仕事を終えて帰宅。家族の食卓では、マリオはキノコが嫌いでパスタのキノコを皿のすみっこに取り除きます。父親はこの仕事をあまり快く思っていない様子。
自室でゲームをしてややいじけるマリオ。もっと認めさせるにはデカい仕事をしないと…。
そのとき、ニュースでマンホールから水が吹き上がっている事件が生中継されており、これぞ運命だとマリオはひらめきます。
さっそく現場に直行。夜の街は浸水しており、誰も対処できずにいるようです。マリオは張り切り、マンホールに飛び込み、ルイージも続きます。
地下水路でバルブを発見。手を伸ばすも落下して脆い壁を突き破ってしまいます。そこはパイプがいくつも複雑に絡んだ場所で、巨大な緑の土管もありました。マリオが目を離すとルイージが消えており、マリオも土管に吸い込まれてしまいます。
不思議な空間を通り抜けると、そこは赤いキノコでいっぱいの世界。夢じゃないと痛感するマリオ。さらにキノコ頭のキノピオが出現し、ここはキノコ王国だと紹介してくれます。なんでも城にピーチ姫という人がいるらしいので、その人に聞けばルイージの居場所もわかるかもしれません。
マリオはキノピオたちでいっぱいの街を探索し、城になんとか到着。大広間ではクッパが侵攻している事態を協議しており、ピーチ姫はみんなを奮い立たせていました。
マリオはそんなことも知らずに騒動に首を突っ込むことに…。
これが見たかった!という理想
ここから『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』のネタバレありの感想本文です。
『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』は、ファンのためのファンサービス特化型の映画の究極形みたいなエンターテインメント作品でした。
物語自体はものすごく単純で、ゲームクリアするまでの過程を倍速視聴しているような気分であり、とくに真新しい独自性の高い展開とか、予想外の捻りとかはありません。「すでに知ってる世界」を安心して見せてくれます。
笑っちゃうのが序盤からあのいわくつきの『スーパーマリオ 魔界帝国の女神』をなぞる出だしになっており、マリオとルイージの兄弟が仕事していて、マンホールから地下に行って、未知の世界に迷い込むまでがほぼ同一です。
でもあえてなぞることで「ほんとはこういうのが見たかったんでしょ?」という、「ファンが見たかったマリオ映画を私たちは創りましたよ」というアピールにもなっていて、「イルミネーション」なりの皮肉といった感じ。
そして事実、全編が「スーパーマリオブラザーズ」のイースターエッグが散りばめられており、「そうだよ、これがマリオだよ!」とファンはまんまと拍手喝采してしまうという…。
おなじみの横スクロールアクションに始まり、キノコ王国では立体的なアクションも見せつつ、ドンキーコングと戦ったり、マリオカートもするし…。なんだか「スーパーマリオブラザーズ」のゲームの歴史をまとめる「おさらい映画」みたいになってる…。
マリオ関連のイースターエッグだけでなく、任天堂の他のゲームや、あげくには任天堂の出発点である「花札」まで、本当に多種多様なファンなら気づけるネタがいっぱいで、ちょっと目移りしてきます。2度目の鑑賞でもこれは絶対に楽しくなるやつです。
今回、マリオの声は英語では“クリス・プラット”が演じていて、公開前はかなり批判されていましたが、初登場時にいかにも「マリオっぽいモノマネ」感のある演技を披露して以降、わりと大人しく演じているので、比較的穏やかだった気がする…(でもところどころでマリオの真似音声が炸裂するけど)。
映画化としては、商業的な方面での優等生としての在り方を貫きました!という感じでしょうか。わりとジャンルのお約束をいじりまくる遊び放題だった「ミニオン」系のシリーズと比べると、「イルミネーション」はやはり「マリオ」を扱う以上、ちょっと真面目モードになったかな。
ピーチ姫始動でマリオが嫌いなキノコを無理やり飲み込みまくってステージ特訓する「トレーニング・モンタージュ」のシーンとか、おふざけとして楽しかった場面もありましたけどね。
ピーチはいまひとつ、でもクッパは最高
マリオ以外のキャラクターを見てみると、『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』の予告公開時から少し話題だったピーチ姫。
ゲームでもかなり変移があって、キャラクター性が変化してきたピーチ姫ですが、おっとり系のキャラとして描かれることもあったものの、最近のゲームではアクティブなピーチ姫も表現されていました。主にスポーツ系のゲームでスタイリッシュな格好で目立ちますが、「スーパーマリオUSA」や「スーパーマリオRPG」のようにピーチ姫がプレイヤーキャラとしてアクションを見せるゲームもわりと昔からありましたし…。
なので今回の映画のピーチ姫もその正統進化系というスタイルですかね。声を担当した“アニャ・テイラー=ジョイ”っぽいクールさもあるような…。
ただ、このピーチ姫のキャラクター性はともかく、作中の役回りはこれでもまだステレオタイプなところもあって、いわゆる「バッドな女性が平凡な男性を導いて主人公にしてあげる」という定番ですよね。『LEGO ムービー』(こっちも“クリス・プラット”)などでも見られる構図で、『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』にいたってはほぼ「異世界転生」と同様の導入なので、余計に際立ちます。
次回作があるならピーチ姫にもっと男性が関係ない、他の主体的な目的を与えてほしいところです。せっかくマリオのゲームには、デイジーとかロゼッタみたいな女性キャラもすでにいることだし、一緒になんかすればいいんですよ(まあ、何するんだって話だけど…)。
逆に今回の映画で、キャラクターとして最も新しい世界に羽ばたいていたのはクッパだと思います。やはり「イルミネーション」は悪役を魅力的に輝かせるのが上手い…。今作では、世界を支配する…と思ったら、ピーチ姫に求婚したいだけであるという、クッパのおなじみの設定が愛嬌に早変わりしており、異様にクッパが可愛いです。
そして必殺技のピアノ弾き語り。声を演じている“ジャック・ブラック”がもともと歌の才能があるということも合わさって、あの「ピーチ」を連呼しているだけの歌が妙に癖になる…。
このクッパが「イルミネーション」によって一番別次元の進化を見せそうだな…。
『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』がこれだけ大成功したのですから、当然続編も作られると思いますが(本作でも最後にヨッシーの卵がでてきたけど)、任天堂の他のゲームタイトルの映画化もありうるのか。それとも「大乱闘スマッシュブラザーズ」みたいにキャラクターをクロスオーバーさせる方向性か? どちらにせよ「イルミネーション」はしばらく安泰だなって感じでしょうか。
そう言っても「スーパーマリオブラザーズ」という最大のIP(知的財産)をいきなり使ってしまったので、もうマリオ以上の大ヒットの可能性を確実に持つタイトルはないでしょうし、他のゲームをアニメーション映画化するにしても今後はアイディア勝負になってくると思います(他の任天堂ゲームはイルミネーション向きとは言えないものもあるし…)。冒頭から無敵スターを使えた裏技はもう無しです。さあ、どうやって次のステージをクリアするのかな?
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 58% Audience 96%
IMDb
7.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)2022 Nintendo and Universal Studios. All Rights Reserved.
以上、『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』の感想でした。
The Super Mario Bros. Movie (2023) [Japanese Review] 『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』考察・評価レビュー