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ドラマ『フライト・アテンダント』感想(ネタバレ)…当機は泥酔しております

フライト・アテンダント

当機は泥酔しております。でも離陸します…ドラマシリーズ『フライト・アテンダント』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:The Flight Attendant
製作国:アメリカ(2020年)
シーズン1:2021年にU-NEXTで配信(日本)
原案:スティーブ・ヨッキー
児童虐待描写 性描写 恋愛描写

フライト・アテンダント

ふらいとあてんだんと
フライト・アテンダント

『フライト・アテンダント』あらすじ

パーティ好きで自由奔放なフライトアテンダントのキャシーは、ある日、バンコク行きのフライトで出会った乗客アレックス・ソコロフとホテルで一夜を共にする。ところが、翌日にいつもどおり目が覚めると隣には血だらけで殺害されたアレックスが横たわっていた。パニックと恐怖のあまり自分がいた痕跡を隠蔽して、ニューヨーク行きのフライトに乗ってしまったキャシーだったが、それで済むはずはなかった…。

『フライト・アテンダント』感想(ネタバレなし)

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こんな客室乗務員、いないと思うけど

民間飛行機の客室乗務員という職業は、海外便の飛行機内で乗務が終わった後は、その海外のステイ先で次の常務の仕事時間までそれぞれが自由に過ごすことができます。レスト時間と呼ぶそうですが、何時間飛んだら最低でも何時間休まなくてはいけないというルールがあるらしく、とにかくそのおかげで客室乗務員の人たちは異国で遊べる時間ができる、つまり仕事とセットで海外旅行が楽しめることになります。これは客室乗務員という職業のメリットとして挙げられたりもします。

その客室乗務員はどうも映画やドラマなどの創作物の中では、そのレスト時間にやたらと盛大にハメを外していくような姿を描写されることも多い気がします。ある種の客室乗務員に関する創作におけるステレオタイプと言えるのかな…。

実際にそうやって満喫する客室乗務員もいるのかもしれませんが、さすがに次の仕事もスケジュールできっちり決まっていますし、極端にハメを外しまくる人はいないと思うのですが、映画やドラマなどでは淡々と勤務する客室乗務員の裏の顔…みたいな描写として好まれるのでしょうね。

今回紹介するドラマシリーズは客室乗務員を主役にしたものですが、その客室乗務員をこれ以上ないほどに過剰に裏表ある存在として描いており、正直、航空会社や客室乗務員当事者にしてみれば「真に受けないでね?」と念押ししたくなるかもしれません。でもフィクション作品としての面白さはあります。

それが本作『フライト・アテンダント』です。

ドラマ『フライト・アテンダント』は、“クリス・ボジャリアン”というアルメニア系アメリカ人の作家が2018年に執筆した「The Flight Attendant」という小説が原作です。わりと新しめの作品なんですね。

それをドラマ化したのがドラマ『スーパーナチュラル』の“スティーブ・ヨッキー”です。

物語は、ひとりの客室乗務員の女性が主人公で、この女性が何というかその…問題を多数抱えている…。まず重度のアルコール依存症なのですが、本人はそれを自覚しようとしていません。さらに勤務の合間のレスト時間には異国で出会ったイケメンとしょっちゅうワンナイトラブをしていますし、にもかかわらずアルコールのせいもあって記憶がよく飛びます。加えてメンタルヘルス面でも複雑な事情があって、かなり心理的にパニックを起こしやすい人間でもあります。こうなってくると「よく客室乗務員の仕事できるな!?」と思うのですが、そんな主人公が異国の地でとんでもない犯罪に巻き込まれてしまう…というあたりからこのドラマは開幕します。

ジャンルとしてはミステリーサスペンスであり、典型的な「フーダニット(whodunit)」…犯人は誰なのかと突き止めるのがメインです。『フライトプラン』みたいに飛行機内でミステリーが起きるわけではないですよ。

しかし、物語のテーマとしては、問題を抱え込みすぎている主人公が自分を見つめ直す姿を描くものであり、極限状態に追い込まれて痛々しすぎる自分と必死に向き合う女性を描き出す『ロシアン・ドール 謎のタイムループ』なんかと通じるものがあります。

作品自体も既存のヒッチコック的な伝統のサスペンスを女性主体で塗り直しつつ、定番に対してあえて意趣返しを仕掛けたり、遊び心の多いものになっています。

製作総指揮やエピソード監督には、『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』の脚本を手がけ、『バッド・スパイ』を監督したりと、キャリアもノっている“スザンナ・フォーゲル”も関与。確かにその“スザンナ・フォーゲル”らしいテイストがこの『フライト・アテンダント』にも漂っていますね。

ドラマ『フライト・アテンダント』の主演を飾るのは、『ビッグバン★セオリー/ギークなボクらの恋愛法則』で大活躍の“ケイリー・クオコ”。『フライト・アテンダント』は新たな代表作になりました。

共演は、『ガーンジー島の読書会の秘密』の“ミキール・ハースマン”、『ディキンスン 〜若き女性詩人の憂鬱〜』でルイーザ・メイ・オルコットを演じていた“ゾーシャ・マメット”、『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』の“ロージー・ペレス”、『サブリナ: ダーク・アドベンチャー』の“ミシェル・ゴメス”など。

主人公のクセが強すぎて言動に不快感を持つ人も当然いると思うのですが、そんな主人公が下手糞に成長していく姿を見守りたいならドラマ『フライト・アテンダント』はオススメです。

『フライト・アテンダント』はアメリカでは「HBO Max」、日本では「U-NEXT」で独占配信されています。シーズン1は全8話(1話あたり約40~50分)です。

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『フライト・アテンダント』を観る前のQ&A

✔『フライト・アテンダント』の見どころ
★痛々しくも必死に自分を見つめ直そうとする主人公に注目。
★女性主体の物語で、問題を抱えた女性たちのドラマが多数。
✔『フライト・アテンダント』の欠点
☆かなり倫理観は緩い。仕事モノとしての真面目さはない。
日本語吹き替え あり
伊藤静(キャシー)/ 中井和哉(アレックス)/ 諏訪部順一(バックリー)/ 新祐樹(シェーン)ほか
参照:本編クレジット

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:やや人を選ぶけど
友人 3.5:気楽な友達と
恋人 3.5:ロマンス要素もあるけど
キッズ 2.5:やや残酷な描写あり
↓ここからネタバレが含まれます↓

『フライト・アテンダント』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):誰が殺したの!?

電車の座席で堂々と横になって酔いつぶれて寝ているひとりの女性。キャシー・ボウデンはそんな人間でした。

ある朝、部屋で目覚め、デンバーに住んでいる兄デイビーと電話していると、部屋のベッドに男が寝ているのを目にし、びっくり。イーサンだと名乗りますが、酔いつぶれていてよく覚えていません。私はこの男と寝たんだっけ…。「帰ってくれる?」ととりあえず別れます。

キャシーは出勤。彼女の職場は飛行機。インペリアル航空に勤める客室乗務員なのです。

今日のバンコク行きの機内で、アレックス・ソコロフというハンサムな男性客と談笑。思わずトイレで激しくキスし、関係を持ってしまいます。彼が降りる際、一緒に食事でもと連絡先を渡されました。

そしてキャシーは次の勤務までの時間、このアレックスとロマンチックなデートをします。豪華なホテルで熱い一夜を過ごし…。

朝、目覚めると手に血がついています。そしてベッドの隣にアレックスの血塗れの死体が横たわっていました。喉を切り裂かれている…。放心状態で固まるキャシー。目覚ましのアラームソングが虚しく鳴るだけ…。

咄嗟にフロントに電話してしまいますが、これはダメだとすぐに切ります。同僚のメーガン・ブリスコーに電話し、「もし外国で捕まったらウケるよね」と動揺を隠しながら、自分の状況を言わずに整理しようとしますが、タイは法律が厳しいと指摘され、真っ青に。

急いでその場を片付け、ガラスの破片で足を怪我するも、シャワーを浴びます。掃除係を追い出し、自分で徹底して掃除。そしてスカーフとサングラスで顔を誤魔化し、その場を移動。仕事に戻ります。

無事離陸した飛行機の中、キャシーは自分を落ち着かせようとしますが、「私は悪いことをしていない」と唱えるも、航空保安官の人が機内にいて余計に不安になってしまいます。

同僚のシェーンジェイダはあのアレックスという客とあなたが休み中に出かけたと思っているそうで、キャシーは「出かけてないとこれだけはハッキリ言えるから!」とやけに大袈裟に否定しかできません。

その頃、FBIのキム・ハモンドがジャネットという年配の女性に電話していました。「息子さんが亡くなりました」と伝えることに…。

ソウルに到着し、ホテルの部屋で休むキャシー。でも全く平静ではいられません。すでにアレックス死亡のニュースは客室乗務員の間にも拡散。しかも、自分の鞄の中にアレックスの名刺が入っていました。どうしてもフラッシュバックしてしまう中、アレックスの持っていた本まで持ってきてしまったことに気づき、パニックは拡大。でも断片的にしか思い出せません。あの夜、何があったのだったか…。

そうこうしているうちに警察が客室乗務員を集めさせると聞き、事情聴取が開始。キムとバン・ホワイトという捜査官を前に、キャシーは「そう言えば他にも女がいた」とあの夜の断片的記憶を思い出し…。

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シーズン1:自分をケアしてもいい

『フライト・アテンダント』は冒頭からわかるのはキャシー・ボウデンという女のどうしようもない現状です。別にアルコールが好きだとか、性関係が盛んだとかそういうのはいいのです。ただ、仕事中の機内ですらも客の残したウォッカを飲み、男とヤってしまうなんて、ちょっとアウトです。

そんなキャシーが遭遇した突然の凄惨な死体。ここでキャシーは同僚のベテラン客室乗務員であるメーガンに「アマンダ・ノックス」の話を持ち出すのですが、この人物は2007年にイタリア・ペルージャで起きた殺人事件の容疑者になってしまった女性で、一時は懲役28年の判決が下るも、その後に警察の杜撰な捜査が明らかになり、一転して無罪となりました。そのアマンダ・ノックスと自分を比較してなんとか打開策を見い出そうとしているわけですが(全然参考にならないけど)、キャシーの行動は明らかに焼け石に水。というか火に油を注いでしまっています。視聴者側としても「もう手を動かすのやめて!」と制止したくなるくらいに、キャシーはてんでダメです。

これだけだとなんだかもう「自業自得じゃないか」と切り捨てたくもなってきますが、実はそんなキャシーには事情があって…ということが徐々に判明してきます。

幼い頃から家父長的な父親に育てられ、飲酒を推奨されるなど、すでに子ども時代からアルコール依存症に陥っており、父を交通事故で亡くしたのも、そんな自分のせいだと背負いこんでいたのでした。だからアレックスの死体を見たときも、父の死と重なり、パニックを起こします。アレックスの殺人事件でPTSDになったのではなく、その前からPTSDだったんですね。

『ボージャック・ホースマン』の女性版みたいだな…。

『フライト・アテンダント』のシーズン1はそんなキャシーが「自分をケアできるようになるまで」を描いた物語です。「この事故はあなたのせいじゃない」と子どもの自分に言い聞かせて抱きしめる第8話でようやくキャシーは自分をケアするスタートラインに立ち、頭の中のアレックスを含めたノイズが消えたのでした。ふざけたノリもありましたが、その着地はしっかり誠実なものでしたね。

人生の離陸の準備がようやく整ったという感じかな。

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シーズン1:人生はいつでも再離陸できる

『フライト・アテンダント』はキャシー以外にも、かなり追い詰められている女性たちが複数登場します。

ひとりはキャシーの友人で弁護士のアニー・ムーラディアンです。一見すると真面目そうですが、実はかなり裏社会でヤバイ人を弁護したこともあり、思っている以上に行き詰っています。そのアニーも最後は事務所を辞め、あらためて人生をリセットしてやり直そうとします。

続いてはミランダ・クロフト。当初はアレックスとの一夜の場にいた謎の女性で、犯人かと思われていましたが、大物ビクターに差し向けられた人物でした。そんな使いっぱしりの人生に嫌気が差し、自身も殺されそうになったのでビクターに反逆。彼女も人生を再始動です。

そして予想外なドラマを見せるのがメーガン。ただの先輩客室乗務員かと思ったら、なんと北朝鮮に情報を流していたことが発覚。メーガンは最後は家族のもとを離れてしまうのですが、どういう人生の顛末を辿っていくのか、そのあたりはシーズン2へのお楽しみですかね。

こんな4人の女性が主体になって進む『フライト・アテンダント』。物語としては定番をわざとひっくり返すような遊びが多いです。例えば、「冷蔵庫の女」ならぬ「冷蔵庫の男」として登場する男性キャラクターのアレックスだったり(でも死後も脳内でよく喋りかけてきてちょっとウザい)、随分とベタなゲイフレンドじゃないかと思ったシェーンがまさかのCIAエージェントだったり…。

ちなみに本当にゲイなのはキャシーの兄で、おそらくそんなクィアゆえに幼い頃から父から男らしくないとイジメられていたということなんでしょうね。

『フライト・アテンダント』の物語に不満があるとすれば、ミステリー自体はシンプルで驚きは少ないです。「罪と罰」の本に秘密があるのはともかく、バックリー(フェリックス)が黒幕なのはさすがに消去法で観客も予想がついたでしょうし…。またやはり職業の扱いは雑ですよね。いくらなんでもキャシーはすぐには客室乗務員には復帰できないと思いますし、たぶん裏の仕事に異動されるのが現実的なのかな。あとシェーンも身分がバレたらおしまいだろうに、普通に客室乗務員を続けるのかい!って思いましたよ。でも人的アセットプログラムがどうとか言ってたからキャシーをそっちの仕事に誘うのか…。

落ち着かないジャグリングみたいなストーリーでどこまでも落ちていく登場人物にハラハラさせた『フライト・アテンダント』。シーズン2ではどこに着陸するのでしょうか。

『フライト・アテンダント』
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 97% Audience 67%
IMDb
7.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
6.0

作品ポスター・画像 (C)HBO フライトアテンダント

以上、『フライト・アテンダント』の感想でした。

The Flight Attendant (2020) [Japanese Review] 『フライト・アテンダント』考察・評価レビュー