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実写映画『わんわん物語』感想(ネタバレ)…名作の実写化は何が変わった?

わんわん物語

名作の実写化は何が変わった?…実写映画『わんわん物語』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Lady and the Tramp
製作国:アメリカ(2019年)
日本では劇場未公開:2020年にDisney+で配信
監督:チャーリー・ビーン
恋愛描写

わんわん物語

わんわんものがたり
わんわん物語

『わんわん物語』あらすじ

コッカー・スパニエルのレディは優しい人間の家で飼われており、この家に来たときからずっと愛情に包まれて生きてきた。しかし、飼い主に赤ん坊が生まれたことで、少し生活に異変が起き、失敗をしてしまう。さらにうっかり外に飛び出してしまって途方に暮れていると、野良犬のトランプに助けられる。それから2匹の犬はかけがえのない関係になっていくが…。

『わんわん物語』感想(ネタバレなし)

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あの名キスシーンも実写化!

「ジョー・グラント」というとても優秀なアニメーターがいました。

彼は1933年からウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオで働き、スタジオの生みの親であるウォルト・ディズニーと一緒に並んでこの後に世界トップのクリエイティブの場になるスタジオの初期黄金期を支え、その才能を活かしていました。

そんな“ジョー・グラント”はアメリカン・コッカー・スパニエルという犬種の犬を飼っており、名前は「レディ」と言いました。ある日、話の流れからこの自身の飼い犬をもとにしたアニメーション作品の企画を考えることになります。しかし、企画は映像化の段階までスムーズに進まず、一旦は頓挫。“ジョー・グラント”もディズニーを退社してしまいます。それでも盟友ディズニーの提案もあって、その飼い犬をもとにした物語の小説を執筆。1953年に出版されたこの小説がもとになってついにアニメーション映画化が実現します。それが『わんわん物語』です。

ところがアニメ映画『わんわん物語』には“ジョー・グラント”の名前はクレジットされていません。原案には“ウォード・グリーン”の短編小説が挙げられています。実はこの『わんわん物語』は“ジョー・グラント”の作った物語とは“ウォード・グリーン”の作った物語を組み合わせた一作になっているという、かなりややこしい構成なんですね。だったら“ジョー・グラント”も原案に入れてあげればよかったのに…と思わなくもないですけど。

とにかくそんないきさつで生まれた『わんわん物語』。レディというメスの犬と、トランプというオスの犬のロマンスであり、『101匹わんちゃん』に並ぶディズニー犬作品の代表作。ディズニー作品で一番好き!と愛情を捧げるファンも多く、昔の作品ですが今も愛されています。

あの主役のカップル犬が、1本のスパゲッティを食べている最中に偶然キスをするシーンはとても有名で、よく映画のベストキスシーンにも挙げられます。人間がマネをするとすごくダサくなるので、犬しかできない特殊演出ですよね(まあ実際の犬はあんなお上品に食べないと言ったらそれまでなのですけど…)。

ちなみに原題は「Lady and the Tramp」で、主役の犬の名前からとっているわけですが、「tramp」というのは「浮浪者」という意味なので(大統領じゃないよ!)、タイトルは「貴婦人と浮浪者」ということに。なんでも実際にこの直訳の邦題にする話もあったみたいですけど、『わんわん物語』になって良かった…。

その『わんわん物語』がついに実写映画化です。昨今のディズニーは往年の自社名作アニメをどんどん実写化しており、2019年は『ダンボ』『アラジン』『ライオンキング』と大作ラッシュで興収にも大きく貢献したわけですが、『わんわん物語』も抜かりなく手を出してきました。

実写版『わんわん物語』。ファンにしてみればオリジナルのアニメからどう変わってしまうのかと心配になるものですけど、基本的には安心してもいいのではないかなと思います。あまり改変させようのないシンプルな物語ですし、雰囲気はそのままに実写で映像が再現されています。それでも現代を意識してちょっと変わったところもあって、そのあたりは後半の感想で言及します。

そして何よりも犬が可愛い。これに尽きる。実写版になったことで鑑賞するだけで「犬を飼いたくなる」効果が倍増しており、これは犬を飼っていないご家庭では子どもに見せるのは要注意ですよ…。コッカー・スパニエルの人気が爆上がりとかしないかな…。

監督は『レゴ ニンジャゴー ザ・ムービー』の“チャーリー・ビーン”です。前回は長編監督デビュー作だったのにいきなりディズニーの実写映画をやっているのは意外に凄い飛躍ですね。

主役である犬たちの声を担当する人にも注目。レディの声を演じるのは『マイティ・ソー バトルロイヤル』や『クリード』シリーズでも大活躍の“テッサ・トンプソン”。トランプの声を演じるのは『バンブルビー』で悪役の声もしていた“ジャスティン・セロー”。トラスティという老いぼれの犬の声は名俳優“サム・エリオット”、他にも“アシュリー・ジェンセン”、“ジャネール・モネイ”、“ベネディクト・ウォン”と、とにかく豪華で多才な顔ぶれ。

主役ではないけど人間キャラも負けてません。“トーマス・マン”“キアシー・クレモンズ”、“イヴェット・ニコール・ブラウン”、“エイドリアン・マルティネス”、“F・マーリー・エイブラハム”などなど。ちなみに私が好きな“ケン・チョン”もすさまじく短い出番ながら、しっかり印象に残る演技をするのでぜひ見てほしいところ。

実写版『わんわん物語』はついに日本でもサービスを開始した「Disney+」でのオリジナル作品として配信中。ここでしか観れない映画です(おそらくDVDやBlu-rayは発売されないはず)。これ目当てでサービスに加入するのも悪くはないでしょう(他にも今後はいっぱい配信されるしね)。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(犬を眺めるならこれ一択)
友人 ◯(気軽に見やすい)
恋人 ◎(犬好き同士で鑑賞したい)
キッズ ◎(犬好きの子どもは歓喜)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『わんわん物語』感想(ネタバレあり)

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愛された飼い犬と愛を忘れた野良犬

とある家。ディア家ではジムが愛する妻ダーリングにクリスマスプレゼントを渡していました。箱の中は何かとドキドキしながら開けるとそこには1匹の子犬が。

その可愛らしい雌の子犬は「レディ」と名付けられ、さっそくこの日からディア家の一員です。

甘えん坊なのか、夜中に飼い主のベッドに潜り込むレディ。「今夜だけだぞ」と許可をもらい、ぬくぬくと温かさを味わいます。

朝。そこには成長したレディ。もちろんバイオテクノロジーで一夜にして成犬になる驚異のモンスターだった…というわけではなく、すっかり月日が経過していただけのこと。

今日は飼い主から念願の首輪をもらい、レディはご満悦。玄関から外に出ると、玄関脇に置いてあった牛乳が荒らされているのを発見、犯人のネズミを追いますが逃げられます。

お隣のブラッドハウンドのトラスティにネズミを報告すると、嗅覚で探しだそうとしますが高齢のせいか役に立ちそうになし(ブラッドハウンドは嗅覚を用いた狩猟に適した犬で警察犬としても重宝されています)。

別のお隣のスコティッシュ・テリアのジョックは絵のモデルになっている最中。ひと仕事終えたジョックは、首輪をもらったレディが正式な家族の一員になれたことを祝福します。

一方、汽車の操車場にて1匹の野良犬が駆け回っていました。この雑種犬は人間に追われても軽々と逃げ切り、ハンバーガーを食べている人間の男からも巧妙にその食事をかっさらう、野良生活もベテランです。ただ、途中で2匹の野良子犬を発見し、おなかがすいたと甘えるのでしぶしぶあげるという優しさも持ち合わせていました。

この街では野良犬は保健所(ドッグキャッチャー)の男に捕まえられてしまいます。しかし、この雑種犬はその捕獲からも何度も逃げおおせており、ドッグキャッチャーの人間からはなんとしても捕まえたい相手として目をつけられていました。

レディは今日も飼い主にたくさん可愛がられようと張り切っていますが、なぜか散歩の時間なのに飼い主はそれどころではない様子。人がいっぱい来客して、プレゼントを渡されています。

しょうがなく庭で時間を潰すレディ。そこに野良犬と遭遇。柵を飛び越えてやってきます。最初は吠えるレディですが、一時的に犬小屋に隠してあげることに。その雑種犬は「赤ん坊が来ると犬は追い出される」「待遇も変わる」…そう言って立ち去るのでした。

そんなはずはない。そう思っていたレディですがそうも言っていられない事態がやってきます。飼い主の夫妻に赤ん坊が生まれたのです。かまってくれと吠えると赤ん坊が寝ているんだと外に追い出されてしまい、あげくに自分を家に置いて出かけてしまう飼い主たち。

家には意地悪なセーラおばさんがやってきます。しかし、ここでトラブル発生。セーラおばさんの飼い猫2匹が家を荒らし、めちゃくちゃに。しかも自分のせいになってしまいました。

セーラおばさんに猛犬扱いされ、首輪をとられ、口輪を強制的につけられるレディ。たまらず逃げだし、路地裏で出会ったのは怖そうな野良犬。そこへ駆け付けたのは家の庭で会った雑種犬。狂犬病のふりをするというアイディアで助けてくれたこの雑種犬はいろいろな名前で呼ばれているらしく、その名のひとつが「トランプ」だとか。

レディとトランプ。レディの知らない自由な広い世界。素晴らしい音楽。ミートボールスパゲッティ。2匹の犬は仲を深めていき…。

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犬の名演がいっぱいです

実写版『わんわん物語』は言うまでもなく犬が主役です。

これまでの最近のディズニー実写映画は『ジャングル・ブック』『ダンボ』『ライオンキング』と動物モノだとその動物がフルCGで映像化されているものでした。厳密にはディズニーではなく20世紀フォックスですが『野性の呼び声』の犬もCGでしたね。

しかし、この実写版『わんわん物語』の犬たちは基本はCGではなく本物の犬に演技をしてもらっています。CGなのは主に顔のフェイシャルモーションだけ。

つまりあのシーンもこのシーンも全部犬の演技なのです。トランプがハンバーガーをくすねる場面も、ドッグキャッチャーを騙すために弱ったふりをする場面も。夜の街を駆け抜けるあの終盤のシーンも実際の犬が演技して走る姿をカメラが追いかけているのがメイキングを見るとわかります。

撮影現場が犬主体になっており、犬だけを撮るカメラが動き回っている光景はなかなかないんじゃないでしょうか。

それでいて本作はちゃんとオリジナルアニメーションの名場面を再現しようという意思も伝わってきます。有名なスパゲッティシーンもほぼコマ単位で一致していますし(さすがにここはCGかな)、ミュージカル場面も極力違和感がないレベルで挿入されています。

猫が部屋を荒らす場面はオリジナルでも不気味なシーンのひとつでしたが、今回は歌も演出も変えつつ(シャムネコではなくなっている)、リアルに再現されたことで余計に取り返しのつかない惨状になったことが強調されましたね。

昨今のディズニー実写化映画は動物キャラのコミカルさとリアリティのバランスをとるのに苦戦しているなと感じていたのですが、今回の実写版『わんわん物語』はもともとそこまでハジケていないですし、なにせ犬なのでフィットさせやすかったのかもしれません。観客も人の言葉を話す犬ぐらいは見慣れてしまった…というのもあるかもですけど…。

ちなみに終盤では「トランプvsネズミ」という(字面だけだど凄いな…)割とバイオレンスなシーンがあります。ディズニーはミッキーマウスのせいでネズミをネガティブに描けないとまことしやかに言われがちですが、そんなことはなくこうやってがっつりと害獣の側面も描きます。今作もそこは逃げずに描いてくれたのは良かったです。なお、新生児がネズミに襲われる事件は本当にまれにあって、場合によっては親が保護責任者遺棄罪で訴追されることもあるのだとか。ネズミって案外とバカにできないのです…。

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現代的なアップデートの数々

では実写版『わんわん物語』とオリジナルアニメーション版では映像以外にどこが違っているのか。

最も目立つ変更点は、ジェンダー面の調整なのではないでしょうか。オリジナルの『わんわん物語』は今の視点で見直すと結構保守的な家庭観を描いているなと思うところが目立つのです。

レディは「家庭に献身的で、赤ちゃん想いで、気品に溢れる」という女らしさ、トランプは「女遊び的で、力の誇示を優先する」という男らしさ。現代からすればステレオタイプなジェンダーロールです。

それがこの実写版では緩和されており、例えばレディはそこまで赤ちゃん一筋になっておらず、むしろ自立心の方が目立つ言動をとりますし、トランプは女遊び的な性格は消え、内面的な孤独への恐れを卒業するという成長に焦点があてられています。

お話の結末もオリジナル版ではレディとトランプの間に子どもが生まれるのですが、今回はそうではなく、ありきたりな家庭構築に着地しないつくりです。その代わりジョック(今作では性別が雌に変更されている)に野良子犬2匹が加わるようなオチになっており、ちょっと養子家庭的な雰囲気を出していますね。まあ、そもそも飼っている犬同士を繁殖させるというのはブリーダーでもないかぎりあまり推奨されないことでもありますしね…。

もうひとつの大きな変更点は人間側との描写です。

オリジナル版はレディの飼い主は顔があまり映らなかったのですけど、今回はもう冒頭からたっぷり描かれます。これによってオリジナル版にあった「犬視点の世界」というのは薄れたのでそこは残念に思う人もいるかもですが、そのぶん人間との関係性は濃厚に描かれることに。これもとても現代らしい変更なのかなと思います。今の時代は犬はより人間的に扱われ、対等な家族として尊重されています。もう犬の視点も人間の視点も同一なんですよね。実写版は犬と人間がいかに愛し愛され合うかに重点を置いていました。

おそらく本作の批判点に挙げられやすいのは、有色人種の描写でしょう。1909年が舞台だそうですけど、であるならば人種差別が劣悪に存在するはず。にもかかわらずレディの飼い主夫婦は白人と黒人とカップルで、他の黒人もなにひとつ平凡に馴染んで暮らしています。現実的にはあり得ないです。

『南部の唄』ほどではないにせよ、違和感は全くないとは気持ちよく言えません。でもファミリー作品でどうやって重苦しい社会派要素を投入するのかというのは難しいところですけどね。

また別の見方をすれば犬たちをめぐる物語で人種差別がメタファー的に描かれていると言えるとも思います。今作で出番が増量したドッグキャッチャーに関する展開といい、セーラおばさんの件といい、野良犬や犬自体への偏見をなくしていくストーリーは、結果的には多様性を認め合うことになります。

まあ、猫は嫌な奴のままでしたけどね…。その、犬の物語だからね…。それは「にゃんにゃん物語」でも作ってもらうとして…。

『わんわん物語』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 67% Audience 50%
IMDb
6.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)Disney レディ・アンド・ザ・トランプ

以上、実写映画『わんわん物語』の感想でした。

Lady and the Tramp (2019) [Japanese Review] 『わんわん物語』考察・評価レビュー