海の怪物系ガールズ・アニメーション…映画『ルビー・ギルマン、ティーンエイジ・クラーケン』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2023年)
日本では劇場未公開:2023年に配信スルー
監督:カーク・デミッコ
自然災害描写(津波) 恋愛描写
るびーぎるまん てぃーんえいじくらーけん
『ルビー・ギルマン、ティーンエイジ・クラーケン』物語 簡単紹介
『ルビー・ギルマン、ティーンエイジ・クラーケン』感想(ネタバレなし)
ドリームワークス30周年
2023年はディズニーが創立100周年を迎えてあれこれと祝っていましたが、2024年は別のアメリカの有名なアニメーション・スタジオが節目の年を迎えることになります。
それが「ドリームワークス・アニメーション」です。
ドリームワークスは2024年で創立30周年となります。このスタジオはちょうどハリウッドのアニメーション業界の激動の時期だった1994年に創業しました。
“スティーヴン・スピルバーグ”、元ディズニー幹部の“ジェフリー・カッツェンバーグ”、ブロードウェイ・ミュージカル『キャッツ』にも関わった“デヴィッド・ゲフィン”の3名が設立の中心に立ち、ディズニー対抗のアニメーション・スタジオとして堂々とスタートを切ったのですが、当時、1995年に『トイ・ストーリー』で華々しくデビューした「ピクサー」という新顔スタジオが業界に激震を起こしました。時代はすぐさまCGアニメーションの競争へと突入し、ドリームワークスも大急ぎでその波に乗るべく必死になります。
1作目の長編映画『アンツ』(1998年)を皮切りに、当初はディズニーやピクサーの後追いという評価もありましたが、2001年の『シュレック』の大成功で確固たるスタジオ・アイデンティティを獲得。以降は、『マダガスカル』シリーズ、『カンフー・パンダ』シリーズ、『ヒックとドラゴン』シリーズ、『トロールズ』シリーズ、『ボス・ベイビー』シリーズとフランチャイズを次々と打ち上げてみせました。最近も『長ぐつをはいたネコと9つの命』のようなスピンオフ拡張や、『バッドガイズ』のような完全新規作など、精力的な創作を行っています。
そんなドリームワークスですが、全て順調というわけではなく、2024年は人員削減で自社スタジオを縮小し、外部スタジオ依存を高めるという報道もされています。今後は“売れる”IPに頼って稼いでいく方向になるのか…。
それでもドリームワークスは魅力的な新規タイトルを作る力を失わないでほしいものです。2023年の『ルビー・ギルマン、ティーンエイジ・クラーケン』はあらためてそんなことを感じさせてくれるパワーがありました。
このアニメーション映画は日本では劇場未公開で配信スルーになってしまったのですが、もったいないですね。かなり刺さる人には刺さる、ファンを新たに生み出せる一作だと思うのですけども…。
『ルビー・ギルマン、ティーンエイジ・クラーケン』は、海に暮らすクラーケンが陸上で人間と暮らしているという世界が舞台。でもピクサーの『あの夏のルカ』のように、海の異人がどうやって人間社会に馴染むのかという過程だけには終わりません。
主人公はその人間社会で暮らすようになったクラーケン世代の子どもであり、言わば移民2世みたいなポジションにあります。そして自分のルーツが海にあることを知らないので、これはルーツ探求の物語にもなっています。
さらに本作がガールズ・ムービーとして軽快なタッチにもなっているのも大きな特徴で、ピクサーが『私ときどきレッサーパンダ』でやってみせたことを、ドリームワークスはこの『ルビー・ギルマン、ティーンエイジ・クラーケン』で自己流に形にしています。
タイトルが『ミュータント・タートルズ(Teenage Mutant Ninja Turtles)』っぽいですけど、全然関係ありませんから、そこはあしからず。
『ルビー・ギルマン、ティーンエイジ・クラーケン』は『サウスパーク』の“パム・ブラディ”が初期から脚本で主導し、『ビーボ』の“カーク・デミッコ”が監督を務めています。
主人公の声を演じるのは、『好きだった君へ』シリーズの“ラナ・コンドル”です。
ドリームワークス・アニメーションの新時代にふさわしい、好きな人はハマれる『ルビー・ギルマン、ティーンエイジ・クラーケン』、見逃さずにどうぞ。
『ルビー・ギルマン、ティーンエイジ・クラーケン』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :海外アニメ好きに |
友人 | :ハマる人に推薦 |
恋人 | :趣味に合うなら |
キッズ | :子どもは楽しい |
『ルビー・ギルマン、ティーンエイジ・クラーケン』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):クラーケン、ahoy!
ミステリアスな海の深き世界。誰も知らない秘密がまだまだ存在しています。それは陸地と意外な接点も…。
海辺の町オーシャンサイドにて暮らす高校生のルビー・ギルマン。両親のアガサとアーサー、弟のサム、ペットのネッシーとの生活はいたって普通。ルビーが10代のクラーケンであるということを除けば…。クラーケン…本来は海にいる生物です。
ルビーは今日も軽快に起床して、手を伸ばして着替え、親友のマーゴットと電話しながら、学校へ行く準備をします。人間社会にはすでに馴染んでいます。クラーケンが人間の世界で暮らすうえでいくつもルールがあります。最も大切なルールは水への接近の禁止。もちろん海に入るのもアウトです。何かと制約があるので不便もありますが、ルビーは律儀に守ってきました。
でも人間の高校生にとって最大のイベントであるプロムにだけは行きたいと考えるルビー。コナーという誘いたい相手もいるのです。
母に懸命にその想いをプレゼンテーションしますが、仕事一筋の母の答えは嬉しいものではありません。プロムの場所が海の船上であるという理由で許可はでません。
登校すると、いつもの友人のマーゴットとブリスとトレビンが待っていました。プロムに行く許しがでないと嘆くと、「やってみなよ」と背中を押され、「やってみる、プロムに行く!」と張り切るルビー。
と言ってもルビーは無知です。だいぶ抜けているルビーを心配し、マーゴットからプロムのあれこれを教えてもらいます。
学校の廊下でスケボーに乗ったコナーとすれ違い、うっとりするも、テンパりながら会話するだけで肝心の誘いの勇気がでません。
学校前のベンチにいるコナーを前に、ドギマギしながら、再挑戦。しかし、うっかり紙吹雪鉄砲を暴発させ、コナーは海に落下してしまいました。海流が激しいのか、気絶にしているのか、浮上してくる気配なし。
ルビーは思い切って海に飛び込むも、暗い水底でルビーも気を失いかけ…。
気が付くと、コナーは陸で目を覚まし、ルビーは自分が助けたらしいことを感じていましたがよくわかりません。
ところが、人混みの中で颯爽と立っているのは赤髪の美少女のチェルシーで、コナーを救ったと言ってのけていました。さっぱり意味不明で混乱する中、ルビーは自分の手に吸盤が現れ、光りだしていることに気が付きます。
急いでその場を去って図書館に逃げ込むも、みるみるうちに体が巨大し、建物におさまらず、一気に外へ。
そして慌てて駆け付けた母から衝撃の話を聞きます。自分はジャイアント・クラーケンの末裔だと言うのです…。
怪物化する女子はそのままでもいい
ここから『ルビー・ギルマン、ティーンエイジ・クラーケン』のネタバレありの感想本文です。
『ルビー・ギルマン、ティーンエイジ・クラーケン』はかなりスタンダードな青春ガールズ・ストーリーです。純真な主人公女子高校生が、気になる男の子とプロムに行きたいと熱意を燃やし、少しおっちょこちょいなところがありつつ、優しい友人に支えられて、一歩を踏み出す…。いたってわざとらしいほどにテンプレなノーマル。でもクラーケンであるというアブノーマルをそこに重ねて、物語上の最大の仕掛けにしています。
もともとクラーケンであるという亜人要素がありながら、なおかつジャイアント・クラーケンという極端な存在だと発覚し、しかもプリンセスですからね。情報過多ですよ。
このプロットの根幹にある、青春のある時期に「怪物化する女子」というキーワード。『私ときどきレッサーパンダ』のように思春期の身体変化への戸惑いとも重ねられますし、また『ニモーナ』のようにさらに発展してジェンダー・アイデンティティの自覚とも受け取れます。どちらにせよ、こういう時期は自分の身体が異常に気になってしまい、他者の視線が突き刺さるというのは、多くの共感を得やすい経験談でしょう。
『ルビー・ギルマン、ティーンエイジ・クラーケン』の場合は、ここにルーツの探求の物語も加わり、ルビーは自ら海へと潜り、そこで開放感を感じつつ、自己肯定と向き合います。他人への評価の前に、自分が自分を受け入れられるか…そのステップのクリアです。
そしてまだあります。本作は『リトル・マーメイド』(ディズニーの最初のアニメーションのやつ)のプロットをあえて裏返しにする設定を用意しています。学校の注目のマトとして現れる赤髪のチェルシーという少女は、明らかに『リトル・マーメイド』の人魚のデザインを意識していますが、今作ではヴィランです。
最近実写化もされた『リトル・マーメイド』ですが、そちらではなおもクラーケンが敵として配置され、わりと露骨に悪そうにデザインされていましたが、御伽噺をひっくり返して、クラーケンを現代の少女の代弁者として主役にするというのは、共感性という点では理にかなっているのかもしれません。
クラーケンという異人のままの見た目でも、恋人と一緒になれるというオチも含めて…。
こんなふうにいろいろな物語の類型をあちらこちらから引用して現代らしくアレンジして組み合わさることで、『ルビー・ギルマン、ティーンエイジ・クラーケン』は2020年代ガールズ・アニメーションとして成立しています。
ラストは怪獣映画級
私としては『ルビー・ギルマン、ティーンエイジ・クラーケン』は趣味に合いやすい作品でした。
まず根本的に「怪物」を主役にする作品が私は好きですからね。今回は子ども向けなので、そんなにおどろおどろしい恐怖満載なビジュアルにはできませんけど、あのルビーのニュルっとしたデザインといい、アニメーションとして気持ちがいい可愛い系モンスターになっていたんじゃないでしょうか。
そこから巨大化する際のデザインも絶妙に怪獣っぽさをだしていましたし、変身シーンも巨体の重量感がでていてよかったです。
そして終盤では、『ウルトラマン』的な巨人同士の格闘戦がしっかり展開するとは…。なんか『私ときどきレッサーパンダ』といい、最近のガールズ・アニメーションって巨大化するのが流行ってるの?
目からレーザーもだせるし、あのバトルは完全に特撮のノリだったな…。
母のアガサと祖母のグランママも合わせての3人がかりでの一大決戦だから、これはもう海の怪獣つながりで『ゲゾラ・ガニメ・カメーバ 決戦!南海の大怪獣』級ですよ(一緒くたにしたら怒られそう)。
個人的にちょっと惜しいのは、チェルシーの扱い。ゴードン・ライトハウス船長に捕まるだけではさすがに単純すぎるので、もう少し懲らしめる別のやり方でもよかったのではないかなと思います。今作の「クラーケンvsマーメイド」の戦いも、歴史があると説明されるわりにはボリュームに対するあっけなさが目立つので、「一体なんだったんだ…」という後味になってるし…。
あと、プロムが理想的な高校生のハッピーエンドというオチは、やっぱりプロムを持ち上げすぎなので、当然そこは私にはモヤっとはしますけど。『ザ・プロム』など、マイノリティな立場にいるキャラクターがプロムの場に立つ意義があるのはわかりますけどね。
そう言えば、今作のルビーの親友であるピンク髪のマーゴットは、ケイラという女の子からプロムに誘われ、ラストでもたぶんその子だと思われる相手とマーゴットが踊っているシーンが一瞬映ります。なのでマーゴットはレズビアンで典型的なゲイフレンドです。まあ、こういう子ども向けアニメーション映画では同性愛表象自体がレアなので、これでも貴重なのですが、もうちょっと目立たせてもいいだろうとは思います。
『ルビー・ギルマン、ティーンエイジ・クラーケン』は2020年代に出現したガールズ・アニメーションの歴史を語るうえで、きっとドリームワークスの代表作に挙げられる一作になるでしょう。願わくばこれがピークではなく、ずっと巨大化するようにこの流れが発展するといいな。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 66% Audience 81%
IMDb
5.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
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・『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』
作品ポスター・画像 (C)DreamWorks Animation ルビーギルマン ティーンエイジクラーケン
以上、『ルビー・ギルマン、ティーンエイジ・クラーケン』の感想でした。
Ruby Gillman, Teenage Kraken (2023) [Japanese Review] 『ルビー・ギルマン、ティーンエイジ・クラーケン』考察・評価レビュー
#アメリカ映画2023年 #ドリームワークスアニメ #人魚