2021年の時代にどう変身をする?…映画『シンデレラ(2021)』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ・イギリス(2021年)
日本では劇場未公開:2021年にAmazonで配信
監督:ケイ・キャノン
シンデレラ
しんでれら
『シンデレラ』あらすじ
お約束どおりに人々が暮らす平穏な町。しかし、町の女性たちは城で開かれるという舞踏会にドキドキワクワクしていました。ハンサムな王子をひとめ見られる、いや、結婚できたら最高なのに…と。ところが、この町で義姉たちにイジメられながら退屈に暮らしていたエラという少女は違います。彼女には衣服のデザイナーになるという夢がありました。ここでは注目されることもない。そんなエラに思わぬチャンスが…。
『シンデレラ』感想(ネタバレなし)
2021年は魔法でどう変わるのか
変異によって想像以上にしつこく私たちの社会に猛威を振るい続けているコロナ禍。映画界では劇場公開とVOD配信を同時展開するケースがワーナーやディズニーを中心に見られていました。
そんな映画企業の姿勢に対してソニー・ピクチャーズの幹部のひとりが「我々の業界全体を破壊しています」と厳しく非難していました。それも映画館を愛する者としてもっともな意見で同意です。映画館あってこその映画業界。それは揺るぎない事実であり、大切な要です。
ただ、ソニーはソニーで自社の映画を他社の動画配信サービスに結構売り払っているんですよね。とくにファミリー向けの映画は売られまくりです。ソニー製作のアニメ映画なんて連続4作も動画配信サービスに渡してしまいました。これだと劇場側の利益は皆無なわけで(まだ同時に配信の方が利益はある)、なんだかダブルスタンダードじゃないかと思わなくもないのですが…。
そんな中、このソニー・ピクチャーズの映画も劇場公開を断念し、「Amazonプライムビデオ」へと送り飛ばされてしまいました。それが本作『シンデレラ』です。
シンデレラ? あのガラスの靴の? そのとおり。でもディズニーのアニメではもちろんなくて実写版。え? 実写版はもうあったでしょ? そうなのですが、また実写版が作られたのです。
シャルル・ペローの童話「シンデレラ」の映像作品と言えば、1950年のディズニー製作のアニメーション映画『シンデレラ』。2015年にはディズニーが実写映画化。ケネス・ブラナー監督&リリー・ジェームズ主演でアニメに沿いつつ華やかに映像化していました。最近は『フェアリー・ゴッドマザー』という変化球な映画もありましたね。
今回の2021年版の『シンデレラ』はディズニーではなく製作しているのは前述のとおりソニー・ピクチャーズ。もちろん内容も過去作品とはアレンジが加えられており、一言で言えばものすごく「今っぽく」なっています。詳細は観てのお楽しみですが、すでに古い女性像の烙印を押されつつある「シンデレラ」をアップデートしていくのは当然の流れでしょう。「女性は王子様を見つけて救われる」というシンデレラ・ストーリーの呪いは相当に執念深く世に蔓延ってしまっていますからね。
そんな新しい『シンデレラ』を監督したのは“ケイ・キャノン”。『ピッチ・パーフェクト』や『クリスマスに降る雪は』で脚本を担当し、2018年の『ブロッカーズ』で監督デビューしたばかりですが、価値観の変化に追いつきながらのシナリオ構成を得意としており、今後も活躍の機会は多そうです。
ヒロインを演じるのは、キューバ系の“カミラ・カベロ”。本作はミュージカル色が濃く、シンガーソングライターである“カミラ・カベロ”も歌いまくり。もはや全編110分が“カミラ・カベロ”のミュージック・ビデオだと言っても過言ではない…。作中では最近の曲をカバーしまくっています。
共演は、『アナと雪の女王』でおなじみの“イディナ・メンゼル”が継母役。無論、歌唱力は絶品。絶対にこの継母、歌手で大活躍できる…。王子役は『ザ・クラフト: レガシー』の“ニコラス・ガリツィン”。王様の役は“ピアース・ブロスナン”で、王女の役は“ミニー・ドライヴァー”。この王国、よく崩壊せずに持ちこたえているな…。でも“ピアース・ブロスナン”もミュージカルはお手の物。そして、フェアリー・ゴッドマザーを演じるのは『POSE ポーズ』の“ビリー・ポーター”で、ファビュラス・ゴッドマザーにネームチェンジ。なんというか、一発芸な感じはある…。
あとネズミの役で“ジェームズ・コーデン”も出ています。やっぱりギャグ担当です。
ミュージカル・パフォーマンスが売りの賑やかな映画なので劇場で大音響で観れないのは寂しいのですが、今作の内容はデートムービーとしてチョイスするのにもぴったりなんじゃないでしょうか。この物語に対して付き合う男性の反応がどうなのか、それは女性にしてみればかなりの大事なポイント。デートで映画を観るのってそういう評価に応用できるものだから、とくに男性諸君は油断しないでね…。
『シンデレラ』を観る前のQ&A
A:Amazonプライムビデオでオリジナル映画として2021年9月3日から配信中です。
オススメ度のチェック
ひとり | :暇つぶしにどうぞ |
友人 | :興味ある者同士で |
恋人 | :デートムービーに |
キッズ | :観やすい内容です |
『シンデレラ』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):この世界では夢は叶う?
平和な王国。この国の城に近い町も平穏でした。住人ものんびりと暮らしています。
夫を亡くして独り身のヴィヴィアンは2人の実の娘たちに力を入れています。誰と結婚するか、それで女性の幸せは左右される。そう信じて疑っていませんでした。マルヴォリアとナリッサという娘たちはそんな母の愛を受けてひねくれ者で自分に陶酔した性格に育っていました。
そのヴィヴィアンにはもうひとり娘がいます。亡き夫の連れ子。継娘のエラです。義姉たちからは「シンデレラ」と呼ばれて揶揄われています。その理由は「灰(シンダー)で汚れているエラ」だからです。
エラは普段は家の薄暗い地下室で、熱心に衣服デザインに取り組んでいます。壁には自分がイメージしたドレスなどの絵がびっしり。こうやってドレスメイカーとして成功するのが夢ですが、こんな地下にずっといれば自分の服を他の人に見てもらう機会すらもなし。傍にいるのはネズミたちだけ。
たまに地下室から出て継母のお手伝いをしますが、お茶を泥水と酷評されるなど、亡き夫の連れ子への愛情は微塵もないようで、そのたびに絶望します。
家にはトーマスがたびたび訪ねてくるのですが、どうやらエラを嫁に貰いたいようですが、エラにはそんな意思はひとつもありません。退屈で、新しい世界を求めていますが、そのきっかけもゼロです。ドレスを作って売るつもりでも「女のお前に商売はできない」と継母は嫌味たっぷりに言い放ちます。
一方、国の中心部、王室の屋敷にもひとりの悩める若者がいました。それはロバート王子です。国王から早く結婚して王位を継ぐように迫られますが、当人は結婚する気はない様子。国王は結婚の縁談を拒否する王子に腸が煮えくり返るほどの憤慨していますが、愛する人を自分で見つけることに夢を抱いているロバートにはどうでもいいこと。「妹のグウェンに王位も宮殿も継がせるぞ」と脅されても心は動きません。
ロバート王子は、愛する人を見つけられないかとモヤモヤしていましたは、それは偶然にも唐突にやってきました。一目惚れする女性がいたのです。正確には無礼にも王の銅像に登っていました。エラです。エラは単に目立って注目を集めたいだけでしたが…。
もう一度出会いたい一心のロバートは、家柄を問わず全ての女性を舞踏会に参加させることを国王に約束させます。そして自分自身でまずあの女性の素性を確かめるべく、変装して町へ繰り出します。直感でビビっときた女性は本当に素晴らしい人なのか…。
ロバート王子は町の広場で一生懸命にドレスを売ろうとしているエラに出会います。エラの夢へのひたむきさに心を打たれ、思わずドレスを高額で買ってあげるロバート。エラも自分の作った服がそんなに高値で評価されるとは思ってもおらず喜びます。ロバートはこのエラならパートナーに最高だと確信しました。
しかし、エラは舞踏会に行けません。継母がそれを許すはずもありませんでした。ひとり凹んでいると、ファビュラス・ゴッドマザーという妖精が突如出現。あのエラの空想のデザインのドレスを実体化させてくれました。エラは魔法の馬車と、ネズミが変身した従者とともに、舞踏会の会場へと向かいます。
自分の夢を叶えるために…。
あのキャラのせいでテーマが台無しでは?
2021年版『シンデレラ』、現代的アップデートに対してとても意欲的なのはよくわかりましたが、全体的に惜しい一作だなというのが正直な感想。
まず今作のシンデレラは「王子に出会って素敵なロマンスをする」ことに夢を抱いておらず、完全に「衣装デザイナーになる」ことに夢中になっています。もはや衣服デザインのオタクなんじゃないかと思うくらいにはのめり込んでいました。要するにキャリアを最重要視する女性です。
それはこの現代なら納得の設定。ただ、この『シンデレラ』の世界観が曖昧なこともあって、どうしたらどのようなキャリアが手に入るのか、そのリアリティラインがいまいちよくわからないんですね。たぶん庶民の衣服をデザインして製作するだけならそんなにハードルは高くないでしょう(労働者階級の仕事ですけど)。しかし、上流階級、ましてや王族のドレスをデザインするほどのプロフェッショナルになりたいなら難易度は跳ね上がります。
単純に考えるとそのキャリアを手に入れるのに必要なのは実力はともかくとして一番に必須なのは「コネ」だと思うのです。だったら王族に接近するのは悪くない選択肢。ドレスメイカーになるなら手段を選ばないとさえ考える人なら王子と結婚なんていくらでもするかもしれません。
そう考えると「王子と結婚するとキャリアは追えない」という最初の前提もやや納得いきません。そもそもあの王国は領土を広げまくって安泰のようですから、暇でしょう。いくらでも衣装デザインやら好きなことをできる時間はあるはずで…。
本作はどうしても最後は「愛がキャリアを支える」という方向性に持っていこうとするので当初のキャリア一筋のなりふり構わなさが減退しているのが気になります。最終的な「旅をする」というオチも謎ですし…(ドレスメイカーって旅するの大事なのか?)。愛がなくてもキャリアは叶うべきではないか、いや、そもそも権威に紐づけられたキャリアに意味はあるのか…などなど現代的価値観なら切り込める部分はいくらでもある…。
個人的に最大のツッコミ(ここは一番ツッコんではいけないところだけど)は、おそらくドレスメイカーという職を脅かす最大の存在があのファビュラス・ゴッドマザーだということですよ。あんな魔法でポンとドレス作られたら、手作り職人は廃業ですからね。ファビュラス・ゴッドマザーの存在が本作のキャリアをめぐるテーマを全部台無しにしている…夢を壊している…。エラも感動している場合ではないだろうに…。あそこでファビュラス・ゴッドマザーとエラのドレス製作対決とかが始まったら、この映画、キャリアを題材にしたものとしてかなり新鮮だったのに…。
継母にこそ魔法は必要
ディズニーの「シンデレラ」のときからそうだと思うのですが、この『シンデレラ』でも物語上の問題点になるのが「女たちの醜い争い」が土台になってしまうところです。
それを作り手も理解はしており、だからこそ継母のヴィヴィアンには音楽(ピアノ)の夢があったものの、結婚を機に諦めざるを得なかったという切ないエピソードが語られます。
ただ、そんな可哀想なエピソードを披露しても、あの家母長的な抑圧は正当化できないのではないかというのが現代の認識なのではとも思わなくもない。
本気であの継母の人生に決着をつけたいなら、それこそヴィヴィアンに関わった人間たちを物語に関与させてじっくり反省させるくらいしないと。そこであのファビュラス・ゴッドマザーがやってきて、魔法で継母をこんな状況に追い込んだ原因の男たちを一時的にも現世に蘇らせてちゃんと対話させてヴィヴィアンが再出発するチャンスを与えたらいいのに…。そういうのに魔法って求められるんじゃないのか。この『シンデレラ』にて一番に魔法が必要なのはヴィヴィアンですよね。
ロバート王子もあれだけ超大国(だと思われる)の世界の権力の座にいるのだから、「愛する女性が欲しい」という個人の欲求を求めていないで、エラだけでなく、あらゆる庶民の夢を叶える支援をするべきだろうに…。
唯一のユニークなキャラクターはあの王子の妹のグウェンなのですが(演じているのは“タッラー・グリーヴ”)、彼女の政策が効果を発揮するという部分が物語内で一切ないのは残念でした。「国民の皆さんの職業支援のための制度を作ります!」くらいはしてほしかった…。
あと、ファビュラス・ゴッドマザーですが、一応はノンバイナリーの設定なんですね。でもああいうちょっと現実離れしたキャラクターがマイノリティなジェンダーということにされると、そのジェンダー自体がファンタジーに思われてしまう弊害があって、あんまり今作のファビュラス・ゴッドマザーは気持ちが盛り上がらない存在でしたね…。
ミュージカルとしてもそれほど物語に噛み合っていなかった気がする。衣装デザインのキャリアを主題にしているのに音楽パフォーマンスしていたら、そりゃあね…。
何よりも本作『シンデレラ』が女性監督の作品であるのにそれが劇場公開から降ろされてしまったのは、テーマと逆行していると思うので、そこも残念でした。
せめて女性が映画監督として劇場作品を手がけられることを当たり前にできる時代になりたいものです。ファビュラス・ゴッドマザー、なんか魔法あります?
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 44% Audience 84%
IMDb
3.8 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)Amazon Studios
以上、『シンデレラ』の感想でした。
Cinderella (2021) [Japanese Review] 『シンデレラ』考察・評価レビュー