例え話ではありません…Netflix映画『エリアンと魔法の絆』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2024年)
日本では劇場未公開:2024年にNetflixで配信
監督:ヴィッキー・ジェンソン
えりあんとまほうのきずな
『エリアンと魔法の絆』物語 簡単紹介
『エリアンと魔法の絆』感想(ネタバレなし)
スカイダンス・アニメーション第2弾
日本では11月22日は「いい夫婦の日」だと巷では持てはやされています。「ステキな夫婦を祝福しましょうね」みたいなアットホームな雰囲気をだしまくっていますが、この日を提唱したのは財団法人余暇開発センター(現在の「日本生産性本部」)だと知ると、なんかもういろいろな魂胆が透けてみえる…。
11月22日は1963年にアメリカ第35代大統領の“ジョン・F・ケネディ”が妻の目の前で脳天を撃ち抜かれて暗殺された日だし、縁起も悪そうなんだけどな…。
そんな11月22日(2024年)に「Netflix」で独占配信されたこのCGアニメーション映画は、たぶん「いい夫婦の日」に合わせたわけではないのだと思いますけど(アメリカの作品だし…)、偶然ながらものすごく「夫婦の関係性」というテーマ性がバシっと一致しています。
それが本作『エリアンと魔法の絆』です。
本作はわりと最近に生まれた「Skydance Animation(スカイダンス・アニメーション)」というスタジオの長編アニメーション映画の第2弾となります。
「Skydance Media」という実写映画製作を手がけてきたアメリカの大手企業があり、そのアニメーション・スタジオがここです。ピクサーの古巣を飛び出した“ジョン・ラセター”を雇用し、相当に後発となるスタジオを稼働させ、2022年に最初のCGアニメ映画『ラック 幸運をさがす旅』を公開しました。
ただ、その『ラック 幸運をさがす旅』は「Apple TV+」で独占公開され、今後のスカイダンス・アニメーション作品も「Apple TV+」で扱われる予定だったのですけど、契約変更で次以降の作品の居場所は「Netflix」に移動。今回の『エリアンと魔法の絆』は「Netflix」独占配信となりました。
どうしても他社の動画配信サービスをプラットフォームにしてしまうと、スカイダンス・アニメーション作品というよりはNetflix作品として視聴者は記憶に残るでしょうし、スタジオのブランドはあまり育ちづらいのかもしれない…。
ともかく今作『エリアンと魔法の絆』は、ファンタジーな世界が舞台で、プリンセスが主人公となっており、しかもミュージカルを軸にしていて、やけにディズニー路線です。
物語は、国王と女王の両親がモンスターに変身してしまい、それに対処するべくプリンセスの少女が奮闘するというシンプルなストーリーライン。親子関係に焦点をあてたものとなっており、隠されたテーマ性は結構デリケートなのですが、まあ、その話は後半の感想で…。
『エリアンと魔法の絆』を監督するのは、ドリームワークスの『シュレック』を大成功させた“ヴィッキー・ジェンソン”。久しぶりにアニメーション映画に戻ってきたのですが、今まで何をしていたのかと調べると戯曲の舞台監督とかやっていたらしいですね。
そして音楽はあの『リトル・マーメイド』、『美女と野獣』、『アラジン』などのディズニーの黄金期を支えた”アラン・メンケン”が担当しています。
主人公のオリジナル英語の声を担うのは、“レイチェル・ゼグラー”です。“レイチェル・ゼグラー”は2025年に実写版『白雪姫』で主演に抜擢されていますが、声優としてひと足先にこちらの『エリアンと魔法の絆』でプリンセスをやってしまいましたね。よく歌いまくるし…。
基本的に子ども向けのアニメ映画なので、小さい子にはオススメです。子どもには楽しい魔法の映像がいっぱい展開されますし、ミュージカルもあるので…。ただ、本質的なテーマは年齢の低めな子どもにはちょっと伝わりにくいかもしれません。それこそティーンくらいにならないと実感のわかない題材ではあるので…。今はわからなくても後々わかるようになるでしょう。
『エリアンと魔法の絆』を観る前のQ&A
A:Netflixでオリジナル映画として2024年11月22日から配信中です。
オススメ度のチェック
ひとり | :気軽な暇つぶしに |
友人 | :海外アニメ好きなら |
恋人 | :喧嘩は一旦置いておいて |
キッズ | :子どもが楽しめる |
『エリアンと魔法の絆』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(前半)
個性溢れるさまざまな生物が暮らす自然豊かな王国ランブリア。その国のエリアン姫は空を飛ぶ生物であるグリフォンにまたがり、気持ちよく空を飛びまわっていました。何でも拾ってくる小さな紫のフリンクという大切な生き物も一緒です。
王国の城の前に近くづくと、何かの信号が打ちあがり、エリアンは呼び出しに答えに行きます。具体的にどんな用事なのかは詳細は言いません。友人にはもうすぐ15歳の誕生日パーティーで忙しいと言い訳しながら…。
城に入ると、ナザーラ大臣が「国王と王女が呼んでいる」と慌てて駆け寄ってきます。衛兵には聞かれないようにここでも言葉を抑えつつ…。
その国王と王女である父と母は実はモンスターなのです。父は青色、母は緑に頭部がピンク色、それぞれが図体の大きい体毛で覆われたトカゲのような生物になっていました。今はボリナー大臣をオモチャのようにして遊んでいます。
こうなったのは1年前、両親が暗闇の森を旅した後でした。凶暴なモンスターに変身して帰ってきたのです。いろいろと解決できないかを試したものの、無駄骨でした。
巨体の両親は無邪気な動物のように自由気ままで動き回るだけで周囲は大変です。娘を認識している様子もなく、本能的に行動するのみ。その間、城の業務はすべてエリアンがこなしていました。このことは城の関係者以外には秘密です。訪問者は全て理由をつけて追い払っていましたが、いつまでも隠し通すことはできそうにありません。
大臣たちは誕生日を機会にエリアンを新しい女王にして、国を立て直そうと考えます。両親は死んだということにしてしまえばいい…。
一方、エリアンは解決策をまだ模索していました。そのとき、希望が降ってきます。太陽と月の予言者から手紙が届き、問題に対処できると書いてありました。今日にもこちらに来るようです。
少人数での大広間の誕生日パーティーの最中、ついに例の予言者が到着します。現れたのはルーノとサニーという小柄の存在。2人もモンスターというのは例え話だと思っていたらしく、実物を目にして驚いています。早く元に戻さないと一生あのままらしいです。
そして2人はフォブというアイテムを取り出します。これは魔法をかけられるようです。
しかし、2人はモンスターの両親に追いかけられ、逃げ出してしまいました。
落ち込むエリアン。もうかつての元の姿の両親と一緒に暮らすことはできないのか…。懐かしい記憶だけが蘇ります。
さらに両親が逃げ出し、街で大暴れする騒ぎに。兵士たちが取り囲む中、やむを得ずエリアンは両親だと説明し、事情を明かします。国民は混乱し、追及は止みません。衛兵隊長は姫が女王となり、モンスターは地の果てまで追放すると勝手に宣言してしまいます。
困り果てたエリアンはあの予言者が忘れていったフォブというアイテムを見つけ…。
両親にあの出来事が起きたとき
ここから『エリアンと魔法の絆』のネタバレありの感想本文です。
『エリアンと魔法の絆』は、魔法のあるファンタジー世界が舞台なので、国王と女王である両親が怪しげな森で怪物に変身してしまいましたというのも、とくに違和感のない設定です。
しかし、これは人間関係のメタファーであり、そのテーマ性は後半になって判明します。
よくありがちなのは親子間の対立を表現する方法として、親か子(もしくはどちらも)怪物になるという設定。『メリダとおそろしの森』や『私ときどきレッサーパンダ』なんかはそれでした。
一方、『エリアンと魔法の絆』は夫婦喧嘩という両親同士の対立が「双方の怪物化」という現象で表現されていました。そしてユニークなのが、「最後は怪物から人間の姿にも戻ってみんな仲直りでめでたしめでたし」ではなくて、両親は関係解消を決断するということです。事実上の離婚ですね。
この事態を受け止めきれず、主人公のエリアンは暗い感情に囚われ、自身が怪物化しかけます。
つまり、本作は親の離婚という家族の大きな出来事に直面する子どもを描いた物語なのでした。
本作は離婚自体を悪いこととして描かないという基本姿勢はとても良いと思います。「夫婦は仲睦まじくするべき」という規範自体をちゃんと疑い、離婚することのほうが双方の幸せになる場合もあることをしっかり描いているのは堅実です。
同時に、ではそれに直面することになった子どもはどうケアするべきかということも忘れずに描く。このバランスが上手く取れているので、本作はデリケートな話題のわりには危なげなくストーリーとして処理できていると思いました。
両親が怪物化していることで(モンスターといってもまだキャラクターとしてじゅうぶん愛嬌のあるデザインですし)、リアルな人間同士の夫婦対立をそのまま描いていたらかなりギスギスとしてしまうであろう展開でも、比較的心を穏やかに加工してくれるので、メンタル的にも負担が少ないです。
離婚をネガティブに描かない子ども向けのアニメ作品というのは、たぶん現状で相当に珍しいと思うので(たいていの子ども向けのアニメでは両親というのは仲睦まじく描かれる)、『エリアンと魔法の絆』が切り開いた一歩は、世界のどこかに一定数いるであろう子どもにとってはとても大切なことでしょう。
不満点もいくつか…
そのテーマへの挑戦心は非常に良かったのですが、『エリアンと魔法の絆』の全体の完成度としてはあまり高まっていないところもありました。
この「両親の離婚」というテーマ性も、しょうがないとはいえ、描かれ方自体はとてもマイルドに中和されているので、離婚の本質的な部分を捉え切れていない面は否めません。
例えば、一番に「う~ん」となるのはラストの着地で、あの両親は同じ王国内で大きく離れた別の塔で暮らすという道を選び、実質的には別居します。でも国王と王女の権威は失っていないので、離婚しているとも言い難い、なんとも都合がいい立ち位置におさまっています。
国民からしてみれば、1年も統治の責任を放棄しておきながら、何もお咎めなしで権力の座に戻るのはさすがに図々しくないかと思うのですけども…。
あそこは「わかりました。私たち夫婦は離婚して、それぞれで別の人生は別の場所で歩みます。統治は娘のエリアンを中心に民主制に移行します」くらいの政治的変化をみせても良かったでしょう。もっと両親側のエピソードも膨らまし、母と父がどんな人柄で、何をして生きることに喜びを感じているのか、そういう人生設計の将来性も描いているほうが納得しやすかったとも思います。
「変化を受け入れましょう」というメッセージ性も、「ではどうやって受け入れるのか」という問いには答えず、優しさや気楽さで片付けられた感じもありました。
フリンクの身体になってしまったボリナー大臣も、ギャグの要素としてだけでなく、もっと活かせた気もします。幼虫を食べてすっかり懐柔されるあのテンションにはいささかびっくりですよ…。
あと、ミュージカル。本作はあの大ベテランの”アラン・メンケン”が手がける楽曲が並んでおり、前半なんてほぼ10~15分には1曲を歌うほどにハイペースで展開しますが…。このミュージカルがどうにもエモーショナルに響いてこない…。
別に1曲1曲のクオリティが低いわけじゃないし、歌のセンスもあるのですが、ストーリーに絡まないというか、あくまでそのパートのキャラクターの感情を代弁しているだけにとどまり、全体的に相乗効果を生まないんですよね。
だってこの映画の代表曲を挙げろと言われても、もう思いつかないし…。それくらいに映画鑑賞後に頭の中から記憶が飛んでいく…。
せめて1曲くらいはテーマソング的な象徴的なフレーズを用意し、作中で何度も繰り返すべきだったのではないか。例えば、両親にとって最初は夫婦愛を示す曲だったものが、いつしか亀裂を表す苦々しい曲に変貌してしまったとか。それを知らずにエリアンはその曲を気楽に歌ってしまい、両親はますます気まずくなるとか。曲を使ってテーマを巧妙に表現できたはず。
やっぱりミュージカルというのはストーリーに対する仕掛けと相性がガッチリとハマってこそ最高の効果を発揮するものだなと再確認しました。
「Skydance Animation(スカイダンス・アニメーション)」は今後も「Netflix」との契約がしばらく続くのかな? 今後に控えている映画は、ディズニーやピクサーで名作を作りだした大物監督たちが起用された作品が続々と構えているので、スカイダンス・アニメーションはこれからが踏ん張りどころになるでしょう。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
作品ポスター・画像 (C)Netflix スペルバウンド
以上、『エリアンと魔法の絆』の感想でした。
Spellbound (2024) [Japanese Review] 『エリアンと魔法の絆』考察・評価レビュー
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