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LGBTQキャラクターのトロープ(trope)のリスト【ステレオタイプなお約束や型】

LGBTQキャラクターのトロープ(お約束や型)

さまざまな作品でLGBTQのキャラクターが描かれていますが、その中にはステレオタイプな「お約束」や「型」に当てはまるような、よく見られがちな描かれ方というのがあります。これは英語で「trope(トロープ)」と言ったりもします。

こうしたLGBTQキャラクターのトロープは絶対にやってはダメというわけではないですが、ときにネガティブな反応を招く表象となり、その描写を目にしたセクシュアル・マイノリティ当事者を傷つけるだけでなく、現実社会の偏見を助長することもありえます。一方で、LGBTQコミュニティにこそウケる表象として歓迎されるものもあります(もちろん当事者によって反応はまちまちなこともよくあります)。

今回の記事ではこれらLGBTQキャラクターにみられるトロープの定番を整理しています。

Bait-and-Switch Lesbians

作品内で2人の女性同士の関係がクローズアップされて描かれるも、恋愛で結ばれる関係性のように見えつつ、単なる疑似恋愛の友情だったという見え方もできる…といったようにどっちつかずでころころと視聴者を弄ぶような描写です。「Bait-and-Switch」とは「おとり商法」のことです。クワロマンティック(クォイロマンティック)を描くという明確な意図がある場合はこのトロープには当てはまりません。

Bury Your Gays

同性愛者(もしくは性的マイノリティ)のキャラクターが不幸な結末を迎えるという描写です。最終的に犠牲になるためだけの存在にとどまっていることが多いです。歴史的には性的マイノリティ表象は「表現すべきではない」「表現したとしても邪悪でなければいけない」という検閲を受けたため、結果的に不幸な結末を迎えることが多くありました。しかし、社会の変化にともなって性的マイノリティの同情が増えると、今度は作り手側にしてみれば配慮の形態として「悲劇的な死を遂げる苦しむ犠牲者として描く」ことがセオリーになり始めました。これは現実の性的マイノリティの迫害の実態(ヘイトクライムなどの暴力、イジメの被害、自殺率の高さなど)を投影しているとも受け取ることができますが、一方で性的マイノリティに対する暗いイメージを持続させていると当事者から否定的にみなされることもあります。

Camp Gay

女性的な口調やファッションで振る舞う男性のキャラクターの描写です。日本では「オネエ」「オカマ」などと呼ばれる場合もあります。ゲイのキャラクターの定番の表象のひとつですが、ときにギャグ扱いなどマジョリティ側からみた笑いの対象としてステレオタイプな偏見の混じった表象に陥ることもあります。

Celibate Hero / Chaste Hero

恋愛よりも他のことを優先するがゆえに恋愛に全く興味を示さない主人公は「Celibate Hero」、恋愛や性欲についてそもそも無知でよくわかっていない主人公は「Chaste Hero」と呼ばれます。男性主人公であるならば、周囲の女性キャラクターにどんなに恋愛的に迫られても興味を示しません。アセクシュアル/アロマンティックである場合もありえますが、たいていはそういう性的指向や恋愛的指向を描く意図はありません。作り手にとってその主人公が恋愛すると都合が悪い(「もっと別の物語を描きたい」「恋愛は弱さなので描きたくない」など)ので、恋愛をオフにしているようなかたちとなっています。物語終盤の展開によってはいきなり恋愛していたりします(「エンディングで結婚したことが明らかになる」など)。

Cross-dressing Killer/Criminal

殺人など重大な犯罪行為のために異性装をして性別をなりすますという描写です。トランスジェンダーへの偏見が土台になっています。こうした表象は「トランスジェンダーの権利を認めると女性スペース空間に侵入する性犯罪者が現れる」といった反トランスのモラルパニックな誤解を助長する場合があります。

Depraved Bisexual

キャラクターのバイセクシュアルの性質が危険人物の設定として利用されている描写です。悪役なことが多いです。典型的な同性愛もしくはバイセクシュアルへの偏見が土台になっています。

Depraved Transgender

キャラクターのトランスジェンダーの性質が危険人物の設定として利用されている描写です。悪役なことが多いです。典型的なトランスジェンダーへの偏見が土台になっています。「Cross-dressing Killer/Criminal」のトロープとも関連します。

Flying Under the Gaydar

露骨に性的マイノリティの当事者であるキャラクターが、何かしらの一時的な理由で、異性愛者やシスジェンダーのふりをして誤魔化すという描写です。クローゼット(カミングアウトしていない)というわけではなく、しばしば笑いを誘うためにわざとステレオタイプなクィアネスと逆のことをしてみせます。これは主にLGBTQコミュニティに伝わる楽しさとして提供されます。「Gaydar(ゲイダー)」とは、作品やキャラクターの性的マイノリティっぽさにいち早く気づくセンスのことです(「gay」と「radar」を組み合わせた造語)。

Gay Best Friend

主に異性愛の物語の中で、展開のちょっとしたバラエティや面白い仕草、安っぽい笑いを加えるために存在する同性愛者の友人(ゲイ・フレンド)を描写することです。例えば、女性主人公の傍にゲイ男性の友人がいることは、その女性の異性ロマンスに差し当たって影響もなく、都合のいい存在となります。基本的にそのゲイ友人の恋愛や性生活が描かれることはありません。「男性主人公の傍にいるレズビアン女性」や「女性主人公の傍にいるアセクシュアル/アロマンティック男性」も同様となりえます。トークン・マイノリティのサブトロープです。

Incompatible Orientation

2人のキャラクターの関係性が、両者の性的指向(もしくは恋愛的指向)が異なるがゆえに、亀裂が生じ、離れていってしまうという描写です。例えば、ヘテロセクシュアル男性とゲイ男性、レズビアン女性とアセクシュアル女性…といった組み合わせです。性的指向や恋愛的指向を極端に過大に扱っていることがしばしばあります。

Intersex Fantasy

生まれながらに男女の(機能する)生殖器の両方を持っている、もしくは生まれながらに男性の生殖器も女性の生殖器も痕跡すら一切持っていない…というキャラクター設定の描写です。これらの性的特徴は、インターセックスと呼ばれる典型的な男女のパターンではない性的特徴を持つ人とは全く異なります。しかし、この表象はインターセックスへの先入観に繋がり、偏見を助長することがあります。

Lipstick Lesbian(リップスティックレズビアン)

伝統的に女性らしいとみなされる服装や行動で自分を表現するレズビアンのキャラクターです。ときに過剰なまでに「女の子らしさ」で溢れています。リップスティックレズビアンは「善良」で「安全」とみなされることが多く、これは男性的なレズビアンがマジョリティの規範では威圧的で否定的にみなされやすいためであるとの指摘もあります。また、「あくまで女の子らしい可愛いものが好きなだけ」という方便でレズビアンのアイデンティティを消去することに繋がる場合もあります。

Magical Queer(マジカル・クィア)

「マジカル・ニグロ」の性的マイノリティ版です。主に異性愛者などのマジョリティの物語にフラっと介入し、そのマジョリティ主人公の人生に好意的な影響を与え、それ以外の役割はなく去っていきます。現実的な単独のキャラクターとして物語に乏しいです。「Gay Best Friend」もこのトロープの一種と言えます。ゲイ男性が主人公の場合はレズビアン女性がマジカル・クィアになりえます。

Non-Human Non-Binary

男性でも女性でもない非人間の存在によってノンバイナリーが表現される描写です。ロボット、エイリアン、その他の超常的存在として描かれます。ノンバイナリーという性同一性は現実の人間には存在しないという偏見を助長することもありえます。

Predatory Gay(Depraved Homosexual)

いわゆる「略奪的なゲイ」であり、ゲイのキャラクターが男性を襲う性的捕食者として描かれるものです。典型的なゲイへの偏見が土台になっています。ときに極端に癖の強い見た目で描かれることがあります。この女性同性愛者版は「Psycho Lesbian」です。

Psycho Lesbian(サイコレズビアン)

女性に常軌を逸して執着するレズビアンの描写です。精神的に不安定だったり、悪人だったり、異常行動をとったり、男性に対して不合理な憎しみを抱いていたり、極端に子ども嫌いだったりします。典型的なレズビアンへの偏見が土台になっています。

Single-Target Sexuality

同性愛であっても、唯一ひとりだけの人物にのみ極端に執着して惹かれているという描写です。周囲の他の人物は性別に限らず一切眼中にありません。「友情や恋愛を超えた関係」のトロープに接続しやすいです。

Tomboy and Girly Girl

女性同士のカップルにおいて、片方が男性的なジェンダー表現のキャラクター(Tomboy)であり、もう片方がより女性的なジェンダー表現のキャラクター(Girly Girl)であるという描写です。

Trans Tribulations

トランスジェンダーやノンバイナリーのキャラクターがさまざまな苦難に直面するという描写です。強制的なアウティング、陰湿なミスジェンダリング…それらを含めたイジメ、虐待…さらには自傷、自殺、殺害されるなど。悲惨な結末に繋がる場合は「Bury Your Gays」のトロープにも重なります。これらは現実の当事者の差別的な境遇を反映していますが、過度に悲劇的に片づけられるだけに終わる場合もあります。

Trap

ジェンダー表現が過度に女性らしいキャラクターでありながら、物語の展開によって男性に紐づけられる身体的な性的特徴を有することが判明し、それがショッキングなオチとして使われる描写です。現実におけるトランスジェンダー女性への暴力の背景と一致し、極めてトランスジェンダー当事者の偏見を招く描かれ方とみなされます。

ミスジェンダリングの天丼ネタ化

トランスジェンダー(とくにトランス女性)のキャラクターに対して「でもアイツは男だ」などとミスジェンダリングすることを執拗に繰り返して、定番のギャグやボケとして軽く扱う描写です。現実におけるトランスジェンダー女性が経験する嘲笑的誹謗中傷と一致し、極めてトランスジェンダー当事者の偏見を招く描かれ方とみなされます。

男の娘

2000年代の日本にてインターネット・コミュニティで使われ始めた用語とされており、漫画・アニメなどのサブカルのジャンルとなり、コスプレやセックスワーカーなど産業文化と関連深い言葉です。出生時に割り当てられた性別は男性であっても、容姿や振る舞いゆえに女性とみなされる(もしくは女性として生活している)子どもor若者を指します。「男の娘」のキャラクターはほぼトランスジェンダー女性と同質的ですが、一部のファンは「トランスジェンダー」というラベルを拒絶し、過度に区別したがり、その中には内面化されたトランスフォビアが観察できることがあります。また、「男の娘」とみなされるキャラクターは「可愛いものを求めているだけ」といったフェミニンな嗜好で語られるのみにとどまることが多く、性同一性の言及を意図的に避ける傾向もあります。

オチとしてのセクシュアル・マイノリティの発覚

物語の終盤や結末などで重要キャラクターがセクシュアル・マイノリティであることが判明するという展開となる描写です。それ以前まではセクシュアル・マイノリティであるという示唆はほとんどなく、意図的に隠されて、ミスリードを誘っていたりします。セクシュアル・マイノリティを仕掛けとして使う消費のいち形態とみなされ、LGBTQコミュニティからはネガティブな反応を受けることが多いです。

性別不合の誤解

誤った性別不合(かつての呼称は「性同一性障害」)の描写です。作り手が根本的に性別不合について理解しておらず、性別不合をトランスジェンダーや異性装と混同したりしています。また、性別適合手術を受けたことでいきなり性別が転換した…といった不正確な誤認識でキャラクターが造形されていたりもします。

性別適合手術の因果応報

何らかの性別適合手術を受けたキャラクターが後に「死亡する」など重大な生命・健康の危険に直面するという描写です。性別適合手術のリスクを大袈裟に誇張し、禁断の行為であったかのような印象を助長します。「Trans Tribulations」のサブトロープで、「Bury Your Gays」の性別適合手術版(医療への誤解)とも言えます。

転向療法(Cure Your Gays)

非異性愛のキャラクターが異性愛に、または、トランスジェンダーのキャラクターがシスジェンダーに変わる、もしくは変えようとするという描写です。いわゆる「転向療法(コンバージョン・セラピー)」を肯定的に描いており、セクシュアル・マイノリティであることは思い込みにすぎなく、矯正できるという印象を助長します。

浮世離れしたAセクAロマ

一般人とは明らかに常識離れした存在としてアセクシュアル/アロマンティックのキャラクターを描くものです。性的指向や恋愛的指向だけでなく、それ以外のさまざまな要素で常人から逸脱した描かれ方がされます。「Magical Queer」のトロープと重なることがあります。

障害・病理的なAセクAロマ

アセクシュアル/アロマンティックの性的指向や恋愛的指向のキャラクターを障害者や病人のような描き方で表現するものです。他者に触れられない、他者との接触でパニック症状がでるなど、身体や精神の機能悪化が強調されて描写されます。こうした表象はアセクシュアル/アロマンティックへの過度な健康面の同情を招き、ときに「アセクシュアル/アロマンティックは治せる」という誤解に繋がることがあります。

腐女子はゲイの敵(もしくは味方)

BL(ボーイズラブ)を嗜む女性はゲイ男性にとって敵対者であるという考え方を前提にした描写です。この反転で逆に味方であるという描き方もあります。背景として「BLはゲイを消費している」という批判がありますが、一方でその批判にはゲイ男性の内面化されたミソジニーが指摘されることもあります。そもそもBLは産業として複雑な構造を有しており(BLは女性以外の人も嗜んでいること、BLを提供する企業側の責任もあることなど)、この「腐女子はゲイの敵(もしくは味方)」は現実を単純化しすぎているとも言えます。なお、「腐女子」や「腐」という言葉は同性愛を咎めているとして当事者からネガティブな反応を招きやすいです。


以下は(厳密にはトロープというよりは)ネガティブな外部からの扱いの事例

友情や恋愛を超えた関係

同性同士キャラクターの親密な関係性を「友情や恋愛を超えたものである」と説明する描写です。いかにも綺麗ごとな言い方で修飾していますが、実際は同性愛の抹消をもたらし、作り手や宣伝側などの内面化されたホモフォビアが滲んでいます。作品内よりも、作品外の作り手、宣伝、メディアのキャラクター紹介、ファンの反応などでよく観察できます。

クィアベイティング(Queerbaiting)

認知されたもしくは潜在的なクィアネス(性的マイノリティっぽさ)をマーケティングに利用する方法です。商業的利益のためにLGBTQのイメージを借用する企業や有名人によくみられます。とくにその利用側がLGBTQコミュニティになんらコミットすることなく、消費しているだけの場合、厳しい批判を招くことが多いです。キャラクターの表象もクィアベイティングとみなされることがあります。一方で、セクシュアリティを曖昧にしている著名人に対してクィアベイティングの言葉をぶつけて非難する行為が、結果的にカミングアウトを強要するケースもあり、そうしたクィアベイティングという言葉の使われ方自体がむしろ批判されることもあります。


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