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『これからの人生(2020)』感想(ネタバレ)…Netflix;行き場を失った世代の“年の差”交流を描く

これからの人生

行き場を失った世代の“年の差”交流を描く…Netflix映画『これからの人生』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:La vita davanti a sé(The Life Ahead)
製作国:イタリア・アメリカ(2020年)
日本では劇場未公開:2020年にNetflixで配信
監督:エドアルド・ポンティ

これからの人生

これからのじんせい
これからの人生

『これからの人生』あらすじ

自宅で行き場のない子どもたちに居場所を提供してあげることしかできない老齢の女性。そんな彼女の前に、社会に失望して心を閉ざしている少年がやってきて一時的に引き取ることになる。反発し合う2人だったが、共に暮らすうちに少しずつ心を開いてゆく。しかし、この女性にもまた心に閉じ込めている過去があった。2人の感情が触れ合うとき、微かな共感が芽生えることに…。

『これからの人生』感想(ネタバレなし)

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あの名作があの女優の息子の手で蘇る

移民を最も受け入れている地域はヨーロッパです。2019年のデータによれば8200万人を受け入れたようで、その国別に見ると、ドイツ(1300万人)、イギリス(1000万人)、フランス(800万人)、イタリア(600万人)といった具合です。その移民の約4分の1がやむを得ず避難してきた強制避難民で、なおも増加傾向にあります。移民の7人に1人は20歳未満だそうです。移民が世界人口に占める割合も約3.5%まで上昇し、今後もこのような状態は加速すると考えられています。

しかし、ヨーロッパでは移民は流れとしては社会に溶け込むことになります。例えば、フランスでは親が移民であってもその移住地で子どもが生まれればその子はフランス人。なので1世代限りの移民であり、その子たちはもう移民ではありません。表向きは…。

そう、表向きと言葉を濁したのは実際はそんな単純な話ではないからです。『獣の棲む家』でも描かれたように難民や移民が新天地で待ち受ける現実は過酷です。先進国で悠々自適に暮らせてハッピー…などというお気楽さは皆無です。

そんな問題に直面する移民たちは何も最近になって目立ってきたわけではありません。昔からシチュエーションは多少違えど移民は常にいました。今の移民を迎えることになるのは「昔の移民」。そういう構図も普通に存在します。今の移民を嫌う昔の移民だっていたり…。

今回紹介する映画はそんな年代をまたがってそれぞれの移民がクロスすることになる今の実情を映し出した作品です。それが本作『これからの人生』

本作は原作があって、“ロマン・ガリー”というフランスの小説家が1975年にエミール・アジャール名義で執筆した「これからの一生(La vie devant soi)」という小説です。ロマン・ガリーは1914年にロシア帝国領ヴィリナ(現在のリトアニア共和国)で生まれ、親はユダヤ系だったそうです。子どもの頃にフランスに移り住んで帰化します。しかし、それからすんなり小説家になったわけではなく、ユニークなキャリアがあって、なんと最初は空軍でパイロットとして世界大戦で活躍。その後に小説を書きながら、外交官の仕事にも就いたとか。

1975年に執筆したこの「これからの一生(La vie devant soi)」という小説は非常に高く評価されたものの、別名で発表していたために、当初はロマン・ガリーの作品だとわからなかったそうです。この出版の5年後にロマン・ガリーは自殺。死後になって彼の著作だと判明しました。

ちなみにロマン・ガリーはあの女優のジーン・セバーグと一時は結婚しており、ロマン・ガリーが監督として手がけた映画『ペルーの鳥』(1968年)と『殺し』(1971年)に出演しています。このジーン・セバーグも1979年に自殺しており、詳細はわかりませんが、なんだか悲劇が付きまとう人間関係になってしまっていますね。

話を戻すと、この「これからの一生(La vie devant soi)」はすでに映画化されており、1977年にモーシェ・ミズラヒ監督のもと『これからの人生』というタイトルで公開され、アカデミー賞では外国語映画賞を受賞。このときの主演のシモーヌ・シニョレも演技が称賛を集めました。

そんな映画を事実上リメイクすることになったわけですが、やはり今さらというよりは、今もなおこの本で描かれているテーマは通じるということが大事なのかなと思います。本作は、移民の少年とユダヤ系の老齢女性の交流物語です。まさに世代の異なる移民同士のクロスオーバーであり、2020年でも全く古さを感じない、むしろ時勢にぴったりな内容です。

2020年版の『これからの人生』は舞台がフランスから南イタリアに移っており、多少のアレンジがありますが、大枠は変わりません。

監督は“エドアルド・ポンティ”という人で、あのイタリアを代表するスター女優“ソフィア・ローレン”の息子。そして本作はその監督の母である“ソフィア・ローレン”を主演に起用するという、なんとも大胆というか、家族ぐるみな映画になっています。“ソフィア・ローレン”はもう86歳でかなりのお年になったのですが、私も久々に演技をしている姿を観た気がする。でもやはりそこは“ソフィア・ローレン”、抜群に演技が上手いし、それに実年齢よりもっと若くみえる美貌をいまだにもっているんだなぁと再確認しました。

ということで往年のヨーロッパ映画ファンにとってみればなかなかに見逃せない贅沢さのある映画になっています。

『これからの人生』はNetflixオリジナル作品として2020年11月13日から配信中です。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(俳優ファンもぜひ)
友人 ◯(シネフィル同士で)
恋人 △(恋愛気分ではない)
キッズ △(大人のドラマです)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『これからの人生』感想(ネタバレあり)

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ここは居場所になるのか

「モモ? 何してるの?」

アパートの廊下で子連れの女性に呼びかけられた黒人少年。その子は一瞬の迷いを見せつつ、すぐさま走って逃げだします。「モモ!待ちなさい!」と女性は後を追いますが、その子は階段を勢いよく降り、ある地下のうす暗い部屋に閉じこもってドアを閉め、じっとうずくまるしかありませんでした。

6か月前。市場を物色していたモモは青い服の高齢女性に目を付けます。大きな鞄を肩にかけており、警戒はしておらず、狙い目でした。隙をみてサッと鞄を奪い去り、その場を逃げ切るモモ。鞄の中には大きめの骨董品が入っており、わかりやすい金銭的価値は不明です。知っている人に売り込もうとするものの誰もそんな骨董品に見向きもせず相手にされません。

自分が慕っているルスパという男に頼ろうとしますが、別の男に門前払いされてしまいました。

モハメドは12歳で「モモ」と呼ばれています。学校はワケあって退学となり、今はコーエン先生に引き取られて過ごしています。家に仕方なく帰ったモモは盗んだ骨董品を隠しますが、すぐにコーエン先生に見つかり、「盗品を持ち込まれたら困る」と優しく諭されてしまいます。

一方、ローザは大事な品物を子どもに窃盗されて家で憤慨していました。するとコーエンがやってきて、その骨董品を返してきます。後ろには隠れて様子を窺っているあの少年。「ごめんなさい」と渋々、そして明らかに反省してなさそうに謝るモモ。「マダム・ローザ」と呼びなさいと厳しく叱るりますが、全く気にしていないようで、先が思いやられます。

しかも、ローザは思わぬお願いをコーエンから受けることに。「数週間、長くて1か月預かってもらえないか」「私には年すぎる」とコーエンは言うのです。
ローザは独り身で、今は部屋に行き場のない子どもを預かるということを自主的にやっていました。現在はヨシフという少年とバブーという幼い子を預かっています。それでも軽々しく子どもを面倒見れるほどの余裕のないローザはコーエンの願いを断ります。しかし、「モモは悪い子ではない」「彼の母親は私の患者だった人で、セネガルから来た時はあの子は3歳で…」と事情を語るコーエン。

一旦、家を出たコーエンとモモ。モモは「あの家は嫌だ」「福祉施設の方がいい」と言ってのけますが、他に選択肢もありませんでした。

しょうがなくローザの家に泊まることになり、ヨシフの部屋にズカズカと入り、彼のベッドを占領。さすがにそれは許されず、結局侘しいベッドをあてがわれます。

ある日、女性が部屋にやってきます。その人はローラで、バブーの親らしく、ずっと仕事があるので預けているようです。ローラは上機嫌に音楽をかけ、乗り気ではないローザと踊ります。それを陰からジッとみるモモ。

洗いものの最中、ローザの腕に数字が刻まれているのを目にするモモ。ヨシフに尋ねると、暗号だと言われ、そういうものなのかとその場は納得。

モモはルスパという男のもとで実はドラッグの売人をしていました。売人の仕事は順調で、さらに任されることになります。

そんなことを知らないローザは、モモに知り合いの店を手伝う仕事を与えます。

地下で謎の部屋を見つけ、「この部屋なに?」とローザに聞くと、「戻りなさい」「ここには誰もいれたくないの」といつになくキツイ口調で起こられてしまいました。

少し落ち着いたのか、ローザが申し訳なさそうにやってきて、モモに「好きにいていい。ヨシフの部屋で寝ていい」と許してくれます。ヨシフと同じ空間で寝食をともにすることで、ヨシフも心に空白を抱えながら必死に耐えていることもわかってきます。

それでもモモは、あんなに嫌だったこの家もなんだか馴染んできました。ここが自分の新しい居場所なのか。そう思った矢先、事件は起きてしまい…。

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いろいろな居場所なき者たち

『これからの人生』は雑に短くまとめると、「過去に迫害を受けて逃れてきた者」「今、迫害を受けて逃れてきた者」の人生が触れ合う瞬間を描いた映画だと思います。

ローザは腕の番号を見ればわかるとおり、アウシュビッツ収容所にいた経験のあるホロコースト・サバイバーです。彼女がどれほどの凄惨な人生を送ってきたのか、その具体的なエピソードはわかりません。しかし、それは想像を絶するものだったことは容易に推察できます。この地に移り住んでもその過酷さは変わらなかったでしょうし、人生に絶望したことも2度3度ではないのでしょう。

そのローザは身寄りのない、もしくは親とずっと一緒にいられない子どもたちを預かることを自分なりに実施しています。おそらくこれは何かの制度に基づいた慈善活動ではなく、完全にローザの自主的な取り組みでしかないでしょう。言ってしまえばそういう支援制度などの社会のセーフティーネットにすらも頼れない子どもを救おうとささやかに生きています。その動機はやはりローザの人生とも関係があるということは察することができます。

対してモモはセネガルから3歳のときにやってきた難民で、母は亡くなってしまい、今は完全に独り。しかし、その状況にすっかり慣れてしまっており、母親の記憶もほぼないために、孤独の辛さがよくわかっていません。物心ついた頃から独りなのが日常でした。

この2人を決して単純に同類としてまとめることはできません。同じような移民的な境遇に見えても、やっぱりそこは別。実際、ローザはモモに対して最初は生活を脅かすものとして警戒の目を向けていました。

それでもだんだんと互いの苦しみを共有していくことになる2人。年齢は違えど、そこには案外と壁はありません。

本作の物語は下手をすると「ホワイト・セイバー」的な白人が黒人を救う構造になりかねないと思うのですが、そこをローザの過去がしだいに明るみになっていき、逆にモモが彼女を救おうとする逆転を描くことで、上手い具合にステレオタイプにならずに済ませていました。

また、ローザとモモの二項対立だけでなく、そこに母がどこに行ってしまったのかわからないヨシフの孤独だったり、はたまたトランスジェンダーとして生活サポートが何もない中で必死に子育てするローラの苦悩だったりを周囲に配置しているのも効果的です。

とくにローラ(演じている“アブリル・ザモラ”もトランスジェンダー女性です)は、メインテーマとして描かれてはいないですけど、育児に苦しむのもリアルな姿だと思います。ただでさえシングルマザーはツラいのに、それがトランスジェンダーとなると世間は素直にサポートしてくれませんから。なんかトランスジェンダーが身寄りのない子を育児する映画も日本ではマジョリティにウケがいいですけど、現実は実の子だって育てるのがハードモードすぎるんですよね。

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ソフィア・ローレンの名演は老いない

2020年版『これからの人生』でローザを演じた“ソフィア・ローレン”の貫禄、やはりここは本作の一番の見どころです。

前述したとおり“ソフィア・ローレン”、今も若々しさがあります。とくに序盤のローザは見え方によっては普通に共演しているコーエン役の“レナート・カルペンティエリ”よりも若く見えます(こちらは77歳)。なんかもうエネルギーを依然として放っている感じですね。

当初のキャリアではセックスシンボル的な扱いだったわけですけども、そんな扱いで影に隠れていた演技力が今なお老熟しようとも輝いている…この姿に言葉にならない不老のパワーをもらえますね。

そんな“ソフィア・ローレン”も作中ではしだいに老いていくローザを巧みに演じており、あのエネルギーを序盤で発露している姿を見せつけられたからこそ、どんどん弱っていく彼女の姿がまたショッキングで…。

ここはなんでしょうか、息子の“エドアルド・ポンティ”監督ゆえに上手く撮れているのか、それはわかりませんが、とにかく虚脱したかのように放心状態で佇むローザが痛々しくもあり、また悲しくもなってきて…。このへんの演技に釘付けになってしまうのも本作の注目ポイントでした。

あと思わぬ印象的な演出として飛び出すのが「ライオン」です。もちろんあのライオンはVFXなのですが、こういう映画でCGがポンと出てくると浮いてしまうこともありますが、本作では逆にその唐突感が意表を突かれるものになっていて面白かったです。

ちなみにセネガルにもライオンはいます。しかし、西アフリカ全体でも約250頭程度のライオンしか確認されておらず、絶滅危惧種です。要するにあのライオンもまた「迫害を受けてきた存在」であり、一方で移民のように住処を移せない存在でもあります。だからモモが見るライオンは自分の知らない故郷の残影なのでしょうね。

本作のラストではモモはローザを看取ることになり、いよいよまたも孤独になってしまいます。しかし、今度は孤独ではない家族がいる楽しさを知ってしまった後に孤独になったので、その辛さを実感してしまっています。そんな状態で生きていけるのか。それはきっとモモにもわかりません。

同時にこれは私たちに突きつけられた課題でもあり、今まさに絶望の淵にいる子どもを救えますかという話です。もしかしたらモモが大人になったとき、高齢になったとき、別の世代の移民と巡り合うのかもしれません。いや、たぶんそうなるでしょう。問題はそこまで生きられるのかという、かなりひっ迫した難題があるということなのですが…。

これからの人生はこういう子どもたちを犠牲にせずに未来に繋げるかにかかっていますね。

『これからの人生』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 94% Audience 78%
IMDb
7.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C) Netflix

以上、『これからの人生』の感想でした。

The Life Ahead (2020) [Japanese Review] 『これからの人生』考察・評価レビュー