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『少女バーディ 大人への階段』感想(ネタバレ)…結婚は嫌だ!

少女バーディ 大人への階段

結婚は嫌だ!と小鳥は叫ぶ…映画『少女バーディ ~大人への階段~』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Catherine Called Birdy
製作国:イギリス・アメリカ(2022年)
日本では劇場未公開:2022年にAmazonで配信
監督:レナ・ダナム
恋愛描写

少女バーディ 大人への階段

しょうじょばーてぃ おとなへのかいだん
少女バーディ 大人への階段

『少女バーディ 大人への階段』あらすじ

活発で好奇心旺盛な14歳の少女であるバーディは、家でじっとしていることなんてできなかった。いつも農家の子どもたちと遊び、泥まみれになって家に帰ってくる。レディとしての嗜みを覚えるという役目なんて気にしたこともない。しかし、家の財産状況が厳しくなり、バーディを花嫁に送ることを父が決める。卿という肩書欲しさに次から次へと求婚者が現れるが、その男たちをバーディは強気で跳ね除けていく…。

『少女バーディ 大人への階段』感想(ネタバレなし)

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この小鳥は規範に従わない

鳥は、オスとメスがカップルを作って卵を産んで育てるので、いかにも仲良い夫婦のようなイメージで重ねて見られがちです。確かに現在知られている鳥類の種の約95%は一夫一妻制と言われています。

しかし、必ずしも一夫一妻制だからといってパートナーひとりと添い遂げるわけではありません。実は鳥の多くでは相手がいるにもかかわらず、他の相手と繁殖する個体も存在することが知られています。人間社会で言うところの「浮気」ですが、動物学ではこれを「つがい外交尾」と呼び、英語では「extra-pair copulation」と表記し、略して「EPC」と学術書などでは記されることがあります。

この他にも同性愛カップルを作る鳥も中にはいます。単に一緒にいるだけでなく、交尾や子育てまで同性と行う鳥も観察されています。同性愛なんて自然に反すると頑なに認めたがらない保守派の人なら「きっとごく一部の個体が混乱してそんな行動をとっただけだ!」とゴネるかもしれませんが、例えばイワドリという鳥のオスは約40%の個体が同性愛行動をとるという研究もあり、そんなに珍しい現象ではないです。

そもそも鳥の繁殖行動を観察するのは大変です。大半の鳥は飛びますからね。人間が血眼になって双眼鏡を覗いて鳥の行動を追いかけても全ての挙動を観察しきれません。なのでまだまだ知られていない規範的ではない繁殖行動をとる鳥は思っている以上にたくさんいるかもしれません。

今回紹介する映画もそんな型にハマらない小鳥の物語。といっても本物の鳥ではなく、小鳥(バーディ;birdy)の愛称を持つ、とある人間の女の子のストーリーです。

それが本作『少女バーディ 大人への階段』

正直、この邦題の副題「大人への階段」は余計な蛇足だと思うのですが、まあ、忘れてください。原題は「Catherine Called Birdy」です。

本作は“カレン・クシュマン”というアメリカの作家が書いた1994年の児童文学が原作になっています。この小説は高い評価を受けました。

13世紀のイギリスを舞台に、当然のように親の決めた相手と結婚をすることを求められる14歳の少女の主人公が、そんな外野からの結婚圧力を押しのけつつ、自分の幸せを模索する…というのが物語の大筋です。

『少女バーディ 大人への階段』はこの原作を映画化するにあたって、かなりイマドキのアレンジを加えつつ、フェミニズム溢れるパワー全開の少女として生まれ変わらせています

最近だと『Emma. エマ』やドラマ『ディキンスン 若き女性詩人の憂鬱』と同じアプローチですね。『少女バーディ 大人への階段』は14歳と少し幼いのが特徴ですが、ドラマ『アンという名の少女』みたいな方向性としては一緒であり、同じ感覚で楽しめると思います。

『少女バーディ 大人への階段』を監督するのは、製作・監督・脚本・主演を務めたドラマ『GIRLS/ガールズ』で大成功をおさめた“レナ・ダナム”。2010年には『タイニー・ファニチャー』を監督するなど、ちょっとずつですが監督業も実績を積み、今に至っています。一時期は不適切発言で世間から厳しい目を向けられましたが、このまま良作を生み出し続けてくれればいいんですが…。

『少女バーディ 大人への階段』でも“レナ・ダナム”が監督だけでなく、製作と脚本も兼任。

そして主演するのは、ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』のリャンナ・モルモン役で話題となり、ドラマ『ミルドレッドの魔女学校』でも活躍し、アニメ『ヒルダの冒険』でも印象的な声をあてていた“ベラ・ラムジー”です。すでに2023年の注目のドラマ『The Last of Us』でも重要なメインキャラクターを演じており、今後も間違いなく話題であり続ける若手俳優でしょう。

共演は、ドラマ『Fleabag フリーバッグ』のセクシー神父役でバズった“アンドリュー・スコット”、ドラマ『ドクター・フー』のローズ・タイラー役で有名な“ビリー・パイパー”、『ビリー・リンの永遠の一日』の”ジョー・アルウィン”、『目指せメタルロード』の“アイシス・ヘインズワース”など。

『少女バーディ 大人への階段』は残念ながら日本では劇場未公開で、2022年10月からAmazonプライムビデオでの独占配信となってしまいましたが、フェミニスト少女の勇ましい闘いをぜひ目に焼き付けて、パワーをもらって帰ってください。

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『少女バーディ 大人への階段』を観る前のQ&A

✔『少女バーディ 大人への階段』の見どころ
★結婚&家父長制に豪快に立ち向かう少女の勇ましさ。
★痛快でテンポの良いストーリー。
✔『少女バーディ 大人への階段』の欠点
☆14歳の子が大人に求婚される姿は現代感覚では不愉快。
☆終盤はやや都合よくまとまりすぎかもしれない。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:フェミニズムな物語が好きなら
友人 3.5:元気を貰える
恋人 3.5:ロマンス要素あり
キッズ 3.5:自分らしさを貫く大切さを
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『少女バーディ 大人への階段』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『少女バーディ 大人への階段』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):私も嫁に行くの? 子を産むの?

イギリス、リンカンのストーンブリッジ村。この地域の大地主で邸宅を持つ一家に生まれたレディ・キャサリン。彼女は鳥をたくさん飼っており、自身も元気いっぱいに駆け回ることから「バーディ」という愛称で親しまれていました。

今日も泥まみれになって帰宅。乳母モーウェナに世話されながら、「ブタたちを自由にしてやったの!」と誇らしげ。

「そんなことより大変なの。パーキンからどうやって赤ちゃんができるかを聞いた。おぞましくて吐きそう…」と語りだしたバーディに、「14歳ならもう知ってもいい頃です」と乳母は平然と口にします。「こんなことを知って落ち着いていられる!? 男が赤く焼けた火かき棒を女の鼻にぐいぐい刺して鼻の穴を広げる。そして人間の種を脳に植え付ける。種はお腹に根付き、9カ月かけて育ち、お尻から赤ん坊が飛び出す。最悪!」…そう語り終えたところで、モーウェナの反応で、嘘を吹き込まれたとわかり、激怒するバーディ。

バーディの父はロロ卿、酔っ払いで裕福ですがイマイチな大人です。母はレディ・アシュリンで、世間では美人と評判らしいです。兄のエドワードは修道士で、わりと面白い奴。でも2番目の兄のロバートはむかつく嫌な奴。

バーディにはパーキンというヤギ飼いで親友の男の子がいました。いつも彼ら農民の子と遊び、レディらしくなんて無理だと投げ出しています。乳搾り係で友人のメグはバーディをお辞儀しながらお嬢様と呼ぶのですが、バーディとしてはレディでいたくないのです。父の下手な剣術を笑い、小屋づくりを邪魔し、イタズラや盗み聞きに興じる。そんな生活でじゅうぶんです。

さすがに母に呆れられ、糸紡ぎをやめて兄のエドワードへ日記を綴ることになったバーディ。それをとりあえず続けます。

一方、シベリアから連れてきたトラも死んでしまい、負債に困った父はバーディを縁談にだすことを提案されます。あんな小娘を欲しがる者はいるだろうか…誰も寄り付かないだろう…そう考えましたが、かといってこの荘園を失うわけにはいきません。

バーディの方でも問題発生です。初めての生理が到来。モーウェナは「いつ嫁に行っても子を産む義務を果たせます」と言い、「あなたは立派な女性になったのよ」と告げます。あて布のあて方を教えてくれ、生理痛に効く薬草も学びますが、バーディにとっては最悪。結局、生理の血が染みついた布はトイレの板の隙間に隠し、母に黙ります。

親友のアリスが来る日となり、バーディは気分上々。体が不自由の高齢者サイドボトム卿とその妻ベレニスは相変わらずよくわからないですが、アリスとなら何でも話せます。バーディは叔父のジョージへの想いを語るのでした。

そしてバーディとアリスの花嫁修業が始まり…。

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14歳、フェミニストになる

『少女バーディ 大人への階段』、小鳥というか、初っ端から全力で疾走するダチョウのようにぶっ飛ばしています。

まず冒頭、バーディはブタを解放し、すっかり「動物の権利」の戦士になっており、有言実行の活動家っぷりを披露してくれます。この子が現代に存在していたらフォロワー数万のインフルエンサー&アクティビストになっていたでしょうね。

口も達者で「ドラゴンの餌になる方がマシ」などと豪語し、大修道院にいる兄エドワードのもとへ行った際にはバチあたりすぎる大胆な行動をとったり(わりと美男子な修道僧にも笑う)、ざっくり言えば活発な子を通り越して粗暴。

とくに印象的なのは、大人の男性たちに公然と口答えすることです。やんちゃな子なら普通にたくさんいるでしょう。でもバーディはそういうのとも違う。成人男性に対して主張をすることを躊躇わない。その姿勢は明らかにフェミニストの魂を示しており、これぞバーディのアイデンティティになっています。

そんなバーディですが、求婚者を立て続けに嘲笑って追い払う中、自分ではジョージという叔父に好意を抱いています。このジョージについて、バーディは「きっと私を理解し、抗議してくれるはず」と理想を期待していますが、ジョージはエセルフリサという年配の裕福な女性と結婚することになり、彼もまた家柄を重視した結婚規範に逆らえないということが浮き彫りになります。

叔父ジョージさえも抑圧に逆らえないとなるとどうすればいいのか。ここでバーディは奇しくも非常にフェミニストらしい難題にぶち当たります。これまでは理想的な男性(ジョージ)が救ってくれると淡い期待をしていましたが、それが無理と突きつけられる。女は男無しで主体性を築けるのか?という問題です。

ここでバーディは一旦は落ち込みますが、一時期は嫉妬で仲違いしてしまったアリスと和解し、シスターフッドを取り戻し、そこから自分の抵抗の土台を再構築し出します。

勢いを復活したバーディは、最後の求婚者にして下品なひげもじゃのジョン・マーゴー8世と対峙し(演じているのは“ポール・ケイ”というイギリスの有名なコメディアン)、カネに換算して婚約のやり取りをされるアリスの立場に激昂し、「私たちはモノじゃない!」と言葉をぶつけ…。

やがては家出というかたちでジョージの家へ退避するも、そこでエセルフリサから女同士で逃避行を提案。これが実現するのが一番フェミニストっぽいオチかもしれません。しかし、バーディはまだ子ども時代に未練がある…。14歳ですからね。

14歳のサイズ感のフェミニズム・ストーリーとしては丸っと綺麗にまとまったものでした。

バーディを演じる“ベラ・ラムジー”も良かったです。あのムスっとしながら怒れる雌鶏のように突きまわる様は“ベラ・ラムジー”の表情あってこそだったと思います。

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包括性と未来性を意識した改変

『少女バーディ 大人への階段』は原作どおりではなく、かなり意図的にイマドキの需要に合わせて、この主人公バーディをZ世代的な価値観を持つ若者へとチェンジさせています。

物語の本筋は家父長的な女性差別抑圧への抵抗であり、自由恋愛の獲得の物語ですが、この映画版である本作はバーディに恋人となる存在を用意しておらず、あまり恋愛に帰結しない着地になっていました。それはとても良い改変だったと私も納得です。

また、本筋とはズレますが、さりげなく包括性をカバーする目配せもありました。例えば、バーディの心の友である男友達のパーキンは「どの女性とも結婚したいと思わない」という発言からして明らかにゲイとして描かれており、ラストではパーキンは男友達と仲良さそうに談笑する姿をバーディも微笑ましく眺めています。この時代を描く作品であっても異性愛規範に陥らないようにするという作り手の意思を感じるところです。

そして、バーディはラストでは「女の子がやれること。野原を駆け回る、罵倒の言葉を作る、人を救う、立ち小便もできる」と快活に語り、とても未来の女の子たちに向けたメッセージを放って終わります。本作は未来への継承を描くことに力点を置いているのがよくわかる終わらせ方です。

あえて苦言を書くなら、終盤で父親の改心があり、ジョン・マーゴー8世との決闘に勝つことでバーディは嫁に行かなくて済むのですが、あれだと父の「男を見せた」実績だけが目立ち、結局、バーディは男たちの勝利の成果物になってしまうので、あそこはもっと展開を変えるべきではないかと思いました。決闘しかできない男たちに対して「ふざけるな!」と泥をぶつけるくらいのバーディの行動があっても良かったのかな、と。

それにバーディの家柄的には富裕層なので、そういう意味では女性差別を受けているとは言え、バーディも特権を持った立場です。一応は本作においてもその意識は製作者にはあるようで、ロバートとアリスの婚姻のためにおカネを寄付したり、農民たちに支援をするべきだと進言したり、利他的な責任感の芽生えも描いています。それでも描写としてまだまだ踏み込みの弱い部分もあるかなと思います。

そうは言いつつ、全体として『少女バーディ 大人への階段』は女の子を対象としたエンパワーメントに満ち溢れており、子どもに見せたくなるポジティブな映画として軽やかに飛び立っていました。

『少女バーディ 大人への階段』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 88% Audience 72%
IMDb
6.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0

作品ポスター・画像 (C)Amazon

以上、『少女バーディ 大人への階段』の感想でした。

Catherine Called Birdy (2022) [Japanese Review] 『少女バーディ 大人への階段』考察・評価レビュー