生死の境を考察も彷徨う…「Disney+」ドラマシリーズ『照明店の客人たち』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:韓国(2024年)
シーズン1:2024年にDisney+で配信
監督:キム・ヒウォン
自死・自傷描写 交通事故描写(車) 自然災害描写(地震) 恋愛描写
しょうめいてんのきゃくじんたち
『照明店の客人たち』物語 簡単紹介
『照明店の客人たち』感想(ネタバレなし)
韓国ドラマは2024年も照らす
2024年も韓国ドラマの快進撃は続きました。「k-drama」という世界的なコンテンツとして拡大は止まりません。
日本でもすっかり各社の動画配信サービスが独占配信の韓国ドラマを毎年何作かキープしており、それを扱うことで「こっちに来ればこれが見れるよ」とアピールしています。
「Disney+(ディズニープラス)」も2023年は『ムービング』を大ヒットさせるなど、韓国ドラマを豊富に取り揃えており、動画配信サービス名に反して「いや~、韓国ドラマ目当てで利用してます」なんて人も普通にいるでしょう。
2024年も「Disney+」は韓国ドラマを多数揃えていましたが、年末に配信が始まったこちらのドラマシリーズが最もこの年の話題を集めた作品になったかもしれません。
それが本作『照明店の客人たち』です。
2023年の「Disney+」独占配信韓国ドラマで大ヒットを記録し、第60回百想芸術大賞3冠、アジアコンテンツ&グローバルOTTアワード6冠、第3回青龍シリーズアワード3冠と、数々の賞レースを席巻した『ムービング』。こちらの作品は韓国のウェブトゥーン作家である“カンフル”の原作で、原作者である“カンフル”自らが実写ドラマ化の脚本を担っていました。
『照明店の客人たち』は同じく“カンフル”の原作を実写ドラマ化したもので、制作陣が再集結となっています。といっても、作品の雰囲気はだいぶ違います。『ムービング』はシリアルキラーのサスペンス・スリラーかと思いきや、青春学園ドラマも同時並行で描かれ、やがては盛大に超人アクションへと発展していきましたが、今作『照明店の客人たち』は…秘密。
ネタバレしないほうが絶対にいい内容ですから。でもあらためて思いましたけど、“カンフル”はジャンルをミックスさせるのが絶妙に上手いクリエイターですね。「それとそれでそうくるか!」っていう気持ちよさが毎回ある…。
ただ、一応これだけは事前に言っておきますが、序盤は相当に直球なホラーのジャンルになっています。苦手な人は「ええ!?」とびびってそこで視聴をやめてしまいそうになるかもですが、ぜひ頑張って見続けてください。中盤からまた全然違ってきますから。
『照明店の客人たち』の俳優陣もゴージャスです。本作のキーパーソンであるミステリアスな照明店の店主を演じるのは、『ランサム 非公式作戦』やドラマ『支配種』など多彩に活躍する“チュ・ジフン”。今回はサングラスの出で立ちで、すでにそれだけでファンの間ではネタにされています。
他には、ドラマ『今日もあなたに太陽を ~精神科ナースのダイアリー』の“パク・ボヨン”、ドラマ『輝くウォーターメロン ~僕らをつなぐ恋うた~』の“シン・ウンス”、ドラマ『私の国』の“キム・ソリョン”、『ボストン1947』の”ペ・ソンウ”、ドラマ『Pachinko パチンコ』の“キム・ミンハ”、ドラマ『約束の地~SAVE ME2』の”オム・テグ”、『パラサイト 半地下の家族』の“イ・ジョンウン”、ドラマ『放課後戦争活動』の“キム・ギヘ”など。
今回も“カンフル”が脚本を務め、もうしっかりドラマ構成で魅せていく技を習得しています。まんまとハラハラドキドキさせられるはず。
『照明店の客人たち』は全8話。1話あたり約40~50分です。
まずは4話まで一気に鑑賞するのを強くオススメします。そこから1話ずつじっくり楽しんでいきましょう。
『照明店の客人たち』を観る前のQ&A
鑑賞の案内チェック
基本 | 生々しい交通事故や被災の描写があります。自殺の直接的な描写もあります。また、同性愛嫌悪や障害者差別のシーンもわずかに含まれます。 |
キッズ | やや怖いシーンが前半は続きます。小さい子には怖すぎるかもしれません。 |
『照明店の客人たち』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
眩い照明がたくさん陳列されているレトロな店。夜なのでひときわ店内が明るくみえます。その店の前にひとりの女性らしき人が静かに立っていました。そして何もせずに夜の住宅地の道路に消えていきます。
ある場所、夜、髪の長い女性はバス停の前に座っていました。バスから降りてきたスーツ姿の眼鏡の男ヒョンミンは不思議そうにその女性を見つめます。いつも同じ時間に同じバス停にいます。横には大きなスーツケース。
さすがに気になってある日、挨拶をして「ここで何を?」と質問をしてみます。女性は「待ってます」と言います。スマホも持っていないので電話を使わせようとします。「私を知りませんか?」と言われますが、見覚えがありません。あまり会話にならずにその場を離れます。
またあのバス停。大雨なのに傘もささずにあの女性がいます。慌てて傘を差しだしますが、よくわからないことをその女性は言ってきます。家に来たいようで急に歩き出したので、仕方なく並んで歩くことにします。アパートの部屋まで着いてしまいました。男は玄関を開けますが、女性は入らずにそこに立つだけ。「どうぞ中へ」と声をかけると、女性はゆっくり足を踏み入れます。
ユジン大学病院のICU(集中治療室)では、看護師の女性たちはモニタリングを続けていました。そのひとりのヨンジは立ち入り禁止のはずのこの部屋に一般人らしき男がふらふら歩いているのを目にし、注意をします。ところが男は「霊安室は?」と聞くだけ。そのとき、モニターが異常を知らせ、慌ててひとりの患者のもとに駆けつけます。すぐに同僚たちもやってきましたが、亡くなってしまいました。チューブが外れていたようですが、これはミスなのか。気まずい空気が流れます。ヨンジはふと思い出しますが、あの男は消えていました。
夜のどこかの街の片隅にある照明店。その店主のサングラスの男がじっと座っていました。ひとりの男が入ってきます。電球がほしいそうです。次にまた客が来ます。その男は店内をキョロキョロと見渡し、無言で出ていきます。次は蛍光灯を買いに来た女性です。さらに家が寒いという男が来ますが犬が気になると去っていきました。続いて赤いハイヒールの髪の長い女性が来店するも、やはり去ってしまいます。
ところかわって学校で夜間自主学習が行われています。多くの生徒が教室に来て点呼される中、一番後ろの左端の女子高校生のヒョンジュは右斜め前の子が友人と「知らない子がいつの間にかいる」という話題で盛り上がるのを聞いています。帰り、その子たちは傍の横道の暗い路地が怪しいというトークでまた怯えていました。
ヒョンジュはその路地を進みます。足音が聞こえた気がして逃げるように奥へ行くと、照明店が現れます。中へ入ります。店主とは顔なじみです。母の頼みでよくここで買いに来るのです。ヒョンミンは先ほど路地で何かを見たと説明すると店主は気にします。
「君は普通の人が見えないものが見える体質なのかもしれない」と店主は言い、「私も見える」と口にします。なんでもいつしか常連客を観察するのが日課になったそうで、大部分は普通の人ですが、でもその中に“違う存在”が紛れている…。じっくり観察すれば見抜けるらしいですが、「奇妙な人には注意しろ」と忠告されます。
でももし見えてしまったら?
「見えてないふりをしなさい。何事もなく振るまえばいい」
店主は手回しライトをくれ、ヒョンジュはアパートに帰ります。ちょうど部屋のある外廊下でドアからスーツケースを持って出てくる女性とすれ違い、ヒョンジュは何気なく挨拶します。
ヒョンジュはそのまま気づきませんが、その女性はゆっくり振り返るのでした…。
登場人物たちの正体
ここから『照明店の客人たち』のネタバレありの感想本文です。
ネタバレせずに感想を語ろうとするとどうしてもフワっとした語り口になってしまう『照明店の客人たち』。今から思いっきりネタバレしていきます。
そうは言ってもこの作品が「亡くなった人」を描いているのは、その思いっきりホラーなテイストが強い第1話からすぐに察しがつきます。しかし、状況はもっと複雑です。なぜなら本作には「亡くなった人」「意識不明の人」が同時的に混在しており、死後の世界ではなく見た目は現世そのものですが「現世とあの世の狭間のような空間」を舞台にしており、そこでは先に挙げた二者のほかに「生きている人」まで存在して同居していることになっています。つまり、現世の私たちの一部(“見える人”が稀にいる)がときたま認識できる幽霊は「亡くなった人」なのですが、その「亡くなった人」は「意識不明の人」とも交流できるということです(三日葬に関連して故人には3日しか時間がないらしい)。
第4話のラストで、ユジン大学病院のICU(集中治療室)でそれぞれ意識不明で眠っている人たちの顔が映っていき(8名いる)、初めて種明かしがされます。そして第5話でそうなった経緯(バス事故)の惨状が描かれます。治療室からそれぞれの親族が座って待つ中、ベッドで運ばれてくる当事者が「死亡」と「意識不明」で扱いが分かれるので、そこで明確な答え合わせになると同時に、視聴者の胸を苦しくさせる…効果的ですが何とも嫌な演出でしたね。
ひとりひとりを簡単に説明すると…。
女子高校生のヒョンジュは母親とバスに乗り合わせて事故に…。母は死亡し、ヒョンジュは意識不明になります。あの狭間で最も平凡に暮らしており、自分が意識不明の重体だと自覚していません。しかし他の生徒に無視されたり(ヒョンジュを認識していない)、死者が見えているあたりで、だんだんと違和感が増し、やがて母の電球を求める理由に行きつきます。この母の名前はチョン・ユヒなのですが、後に大きな伏線回収が…。
脚本家のユン・ソネは髪の長いパク・ヘウォンと同性の恋人同士。しかし、バス事故直前に性的指向を隠しての同居について考えの違いで喧嘩に。後悔を抱えたまま、ソネは意識不明になり、ヘウォンは死亡。病院でヘウォンが身寄りなしと示唆されるあたり、いかにも同性愛嫌悪の韓国社会での当事者の辛さが透けてみえます(おそらくこの2人は病院でも恋人関係と認識されずに別々に葬儀されるのでしょう)。狭間では記憶を失うのでソネは最初ヘウォンを幽霊のように認識して怯えています。
眼鏡男性のキム・ヒョンミンはバスにひとり乗って事故で意識不明に。デフ(聴覚障害者)の恋人であるイ・ジヨンはバス事故の瞬間を目撃し、交際に反対だったヒョンミンの親による「あなたのせいで死んだ」という大袈裟なテキストが原因で本当に亡くなったと誤解し、ジヨンは後を追うように首を吊ります。ただ死の直前、テキストでヒョンミンは意識不明なだけと知り、後悔のままに狭間でヒョンミンと再会します。
他には、男子高校生のホ・ジウンもバス事故で意識不明となり、同じく乗り合わせていた小さな男の子をささやかに救うことになります。運転手のオ・スンウォンは死亡しており、狭間ではずぶ濡れで佇み、事故の罪悪感(実際はバス会社が悪いけど)に苦しみ、意識不明者を照明に導く手助けをすることに…。
あと、いつも凍えながら吠え続ける犬に悩まされる男もいるのですが、この人はバス事故とは関係のない人でした。
恐怖が切なさに、意思が意志に変わるとき
『照明店の客人たち』の前半は露骨にホラーで、わりと定番のホラー的な恐怖演出を繰り出してきます。このホラー演出がかなり本格的で本作の迫力にもなっていました。そこらへんの雑なホラー映画よりも何倍も怖いです。
しかし、各自が恐怖するその幽霊的な存在は実は自分の大切な人だと後にわかるので、身の毛もよだつ怖さなんてものは鑑賞し続ければすっかり消え去るのですが…。
看護師のヨンジは“死者の意思体が見える人”で(過去に飲酒運転の車に轢かれる事故で意識不明になった経験があり、そのせいでその能力を持ったらしい)、健気に寄り添ってくれます。あのエレベーター内で水没するとか、相当に怖い悪影響も受けているのですけど、肝っ玉がありますよ。
そして刑事のヤン・ソンシク。彼は捜査中に事故で意識不明になり、視聴者にとっては最初にその瞬間を目にするので、この世界観の仕掛けに気づかせてくれる存在です。
こうやって各キャラクターを上手く使って世界観の全容を少しずつ明かしていく。その手際が見事でした。
後半は意識不明者がどうやって世界を理解し、大切な死者と再交流し、どの道を進むか。意識が戻る人もいれば、戻らずに亡くなる人もいます。でも意志で選択できるかのように描かれるのが印象的です。ソネとヘウォンの件なんかは、表面的には両者死亡という、最も不幸な結末なのに、選択の演出によって2人だけの幸せを手に入れたようにも思える味わいになっています(もちろん同性結婚できない社会が一番悪いのですが)。韓国作品では稀有なクィア・ホラーになったのでは?
また、謎めいた照明店の店主ウォニョンの秘密も明らかに…。ヒョンジュだと思わせておいて、その母が実は…っていうミスリードもハマってました。またしても“イ・ジョンウン”の名演。口に綿を詰められて大変だったろうに…。あの2人とおまけに犬も合わせて楽しそうに照明店で暮らしている姿が良かったですね。
後半はエモーショナルに振り切るので「次は何が来るんだ」という前半にあった緊張感がなく、トーンダウンする感じが否めませんが、綺麗に風呂敷を畳んでいたと思います。
個人的にひとつ不満なのが、ジヨンが死後は喋れるし聞こえるという状態になるところ。ディサビリティの表象としてはあまり良いものじゃないです。
ミッドクレジットではサングラス死神刑事がある人物と出会うことで『ムービング』との世界観共有も垣間見せ(『ムービング』はシーズン2が決定済み)、“カンフル”・シェアード・ユニバースの拡大がいよいよ本格化。韓国作品のシェアード・ユニバース成功例となるのかな?
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
△(平凡)
作品ポスター・画像 (C)The Walt Disney Company Korea ライトショップ
以上、『照明店の客人たち』の感想でした。
Light Shop (2024) [Japanese Review] 『照明店の客人たち』考察・評価レビュー
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