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『雄獅少年 ライオン少年』感想(ネタバレ)…少年とそらに舞う獅子

雄獅少年 ライオン少年

獅子舞とアニメーションの見事な融合…映画『雄獅少年/ライオン少年』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:I Am What I Am
製作国:中国(2021年)
日本公開日:2022年4月29日(字幕版)、2023年5月26日(吹替版)
監督:ソン・ハイペン

雄獅少年 ライオン少年

らいおんしょうねん
雄獅少年 ライオン少年

『雄獅少年 ライオン少年』あらすじ

広東の田舎で暮らす少年チュンは家が貧しく、両親は長年にわたり都会の広州に出稼ぎしていたほどだった。しかし、そんなチュンは獅子舞に魅了されており、それは両親との数少ない思い出でもあった。ある時、自分と同じ名をもつ獅子舞の演者の女性と知り合ったことをきっかけに、チュンは獅子舞の世界に自分も飛び込めるのではないかという夢を抱くようになる。それは獅子になりたいという心の声を呼び覚ます。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『雄獅少年 ライオン少年』の感想です。

『雄獅少年 ライオン少年』感想(ネタバレなし)

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獅子舞、そして中国アニメの入門編

中国や日本で伝統文化となっている「獅子舞」。獅子の被り物で舞い踊るのが基本ですが、その発祥は古来中国とされ、昔からさまざまな動物の姿で舞う仮面舞踊があったそうです。秦や漢の時代の資料にも記載があるのですが、ではなぜ「獅子」になったのか。

これには諸説あるようで、そもそも中国にはライオンはいません(更新世;約35万年前にはライオンの仲間が生息していたけど)。中央アジアを経由して伝わったという説もあります(当時はライオンは中国に献上されていた)。ともかく獅子舞の詳細な記述はの時代の資料で見られるので、もうその頃には獅子で舞うのは定着していたみたいです。

唐の時代の獅子舞は色鮮やかなバリエーションがあり、目や耳も稼働し、現在の獅子舞の形式とよく似ています。

中国の旧正月では獅子舞は縁起の良い緑色のレタスなどの葉物野菜を摘み取るのが習わしです。何も文化を知らないと「なんで?」となるのですけど、そういう伝統なんですね。

伝統から発展して獅子舞は競技化もしており、国際的な競技大会まであります。20本以上のポールが並び、その長さは数メートル。その上を獅子舞がぴょんぴょん飛び乗って移動しながらパフォーマンスするという、かなりアクロバティックなコンテストになっています。

日本だとこの競技としての獅子舞を生で見るのはなかなか機会がないのですが、ちょうどいい映画が中国からやってきました。それもアニメーション映画です。

それが本作『雄獅少年 ライオン少年』

本作は現代の中国を舞台に、獅子舞に憧れるひとりの少年とその夢に刺激されて集った友人たちが、獅子舞競技大会の出場を目指して奮闘する、青春獅子舞ムービーです。貧しい境遇で世間からは”持たざる者”として扱われてきた若者が、獅子舞への情熱だけを原動力に自己実現を果たしていくという、ストレートな物語になっています。

主人公たちが基本的に獅子舞初心者という設定になっているので、獅子舞のことを全く何も知らなくても、一緒にゼロから学べてその世界に入り込むことができます。ビギナーに優しい映画です。

映画だと“ジャッキー・チェン”監督・主演作『ヤングマスター 師弟出馬』など、獅子舞が目立ってでてくるものはあるにはありますが、『雄獅少年 ライオン少年』ほど入門編になっている作品は他にはないのではないでしょうか。

もちろんアニメーション映画だからこその見やすさもあります。中国映画界はアニメーションも盛況で、とくに国産アニメーションはたくさん生み出されています。最近は日本にも中国アニメーション作品が続々と輸入されており、映画だと『紅き大魚の伝説』(2016年)、『羅小黒戦記』(2019年)、『白蛇:縁起』(2019年)、『ナタ転生』(2020年)、『白蛇2 青蛇興起』(2021年)などがなだれ込み、アニメシリーズでも『時光代理人 LINK CLICK』『万聖街』など一部で日本のファンも生み出しています。

今後ますます存在感を示しそうな中国アニメーションですが、この『雄獅少年 ライオン少年』は2022年に日本で「雄獅少年 少年とそらに舞う獅子」の邦題で字幕版が公開されて熱烈な称賛の声が拡散し、このたび2023年に吹き替え版の公開にいたりました。

こういう現象はこれからもありそうですね。それだけ熱量があるということか…。

『雄獅少年 ライオン少年』自体は2021年の作品ですが、中国国内ではそんなにヒットはしなかった様子。中国映画界も競争が激しいので大変です。でも『雄獅少年 ライオン少年』の評価は高いようで、中国のレビューサイト「Douban」での評価値は「8.3」となっています。

映像面に関しては、映画内の登場人物と観客の一体感をとても上手く演出している作品ですから、劇場で鑑賞する方が臨場感は圧倒的に増すでしょう。終盤なんて思わず大興奮で、席から立ちあがりたくなるかも。

子どもでも見やすいコミカルなテイストもありつつ、大人の鑑賞でも満足できるクオリティもある、幅広い人に受け止めてもらえる、中国アニメーションなんて観たことないという人にもぴったりな『雄獅少年 ライオン少年』です。

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『雄獅少年 ライオン少年』を観る前のQ&A

✔『雄獅少年 ライオン少年』の見どころ
★映画と観客の一体感を上手く演出。
★獅子舞を見事にアニメーションで表現。
✔『雄獅少年 ライオン少年』の欠点
☆ギャグはかなり子どもっぽい。

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:かなり見やすい
友人 3.5:オススメしたくなる
恋人 3.5:気楽に一緒に
キッズ 3.5:子どもでも見られる
↓ここからネタバレが含まれます↓

『雄獅少年 ライオン少年』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):獅子になりたい

春節で盛り上がる広東の田舎。そこで暮らす18歳の少年チュン。自転車を飛ばして地元を疾走し、向かっているのは獅子舞をやっている広場です。人で賑わう会場へ行くと、すでに獅子舞の演舞が行われていました。2つのチームの獅子舞が互いに狭いポールの足場で動きながら競っています。

チュンは観客の前方に強引に進んで、獅子舞の動きに合わせて自分も動いてみます。獅子舞が大好きでした。しかし、柄の悪い黒獅子のチームに文句を付けられ、カネをとられます

そのとき、颯爽と赤獅子の頭をかぶった人物が現れ、黒い獅子舞チームに挑戦を叩きつけます。受けてたつ黒獅子。赤獅子は軽快な動きで組まれた足場を登っていきます。そして圧倒的な技で、チュンのお年玉袋のおカネを取り返してくれました。

チュンは自転車をだし、後ろに赤獅子の人を乗せて逃がしてあげます。何とか逃げ切ると、その赤獅子の頭をとって顔を見せたの若い女性でした。

自己紹介すると同じチュンという名だそうで、「これも縁だから」と赤獅子の頭をくれます。言われるがままに被ってみて、目を閉じると何とも言えない気持ち。「心の声が聞こえない? 獅子になって」…そう言って若い女性のチュンは消えました。

あとで町に張り出された第6回獅子舞競技会のポスターに掲載してあった前回優勝チームの写真から、あの若い女性のチュンはそのメンバーだったのがわかります。

チュンは祖父と暮らしています。チュンの両親は出稼ぎに行ったっきりで何年も戻ってきていません。たまに両親と電話し、元気そうな声をききます。

獅子舞競技会の会場は広州。親のいる場所です。喜ばせたいと願うチュンは自分も獅子舞をやってみようと覚悟を決めます。

でもひとりではできません。そこで数少ない友人であるマオを誘います。興味なさそうでしたが、女の子の話をすると関心を持ってくれました。

次にマオの知り合いで食いしん坊のワン公を勧誘。太鼓打ちを任せます。けれども肝心の太鼓がない…。

そこで協賛を求めて市場で宣伝。するとまたも黒獅子のチームにいちゃもんをつけられ、赤獅子の頭を踏みつけられて、壊されてしまいます。悔し涙を流すしかできません。

諦めかけたそのとき、建物の屋上から獅子舞の練習をしている光景が見え、心の闘志を燃やすチュン。諦めない…。

あてになる人物がいると聞き、案内されるとなんてことはない近くでした。干物がおいてある魚店で、しかもでてきたのはみすぼらしい男。あれが達人なわけないと帰ろうとする3人。しかしその男は音楽をかけ始めると、信じられない華麗な動きをみせます。

チアンというその男に「獅子舞を習わせてください」と直談判。ところがチアンは覇気はなくやる気はなさそうです。それでも諦めずについていく3人。

チュンの熱い言葉もあり、少しずつチアンは指導してくれるようになります。チアンの妻アジェンも認めてくれ、彼女によればチアンは20歳のときは獅子舞の名人だったそうです。

まだまだ初心者から脱していない3人を鍛え上げるために、チアンは乱暴な育成を試み、3人はそれにひたすら耐えますが…。

この『雄獅少年 ライオン少年』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2024/01/06に更新されています。
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笑えると思ったら…

ここから『雄獅少年 ライオン少年』のネタバレありの感想本文です。

『雄獅少年 ライオン少年』は物語の基本軸は単純で、底辺で全く取り柄がなかった若造3人がボロボロになりながらもその悔しさをバネに、獅子舞に情熱を燃やして見返していくという、“負け犬たち”の奮闘記です。そこは日本でも馴染みのあるものなので、だからこそ日本でも親しみをもって見られます。

主人公チュンとその友人となるマオやワン公の、あまりの下っ端ぷりはコミカルな演出も相まって徹底的に誇張されて描かれていますが、かなりの酷い境遇ではあります。

「捨てられた猫」「痩せ猿」「太った豚」と容姿を揶揄われまくり、あげくには「塩漬け魚チーム」になるわけですから。

なお、本作はデザイン面、とくにキャラクターの目のデザインについて中国国内でちょっとした論争になったそうで、というのも細い目をしているのでステレオタイプなアジア系の表現として批判されたりもしました。本作はただでさえこの主人公たちがバカにされまくるので余計に反感を買いやすかったのでしょうけど。

あと、ワン公みたいないわゆる“デブキャラ”で笑いをとるのは、中国はアニメでも実写でもたまに見られるのですけど、中国ではまだ定番なのかな…。

師匠チアンの必殺技として競技でも繰り出される臭い足といい、終盤でもわりとしょうもないギャグが連発するので、これらデザインやギャグの面では好き嫌いは分かれる作品だとは思います。

ただ、『雄獅少年 ライオン少年』はおふざけ一辺倒にならず、やはり後半のチュンの父の意識不明での帰還から一転して、現実というものがこの闘志を一瞬で挫いてしまうという貧困の残酷さも並列で描いており、この“笑えない”リアルを突きつける落差として効果的な演出になっていました。

とくにこういうタイプの作品ではお約束のトレーニング・モンタージュ。1回目がまずあって、同世代の獅子舞チームにコテンパンにされてから、もう1回のトレーニングがあるのですが、その2つはいたって普通。笑いありの訓練です。

しかし、3回目のトレーニング・モンタージュがあって、ここが本作の上手い演出で、それがチュンが出稼ぎに都会にいってからの彼の労働の姿。あそこも結果的にはチュンの弱点だった体力面の克服に繋がっているのでトレーニングなのは間違いないのですが、それにしたってあまりに辛い社会格差を映し出しています。

中国のアニメーション作品はこういうような社会の貧富格差のテーマを自然に取り入れることがよく観察でき、やはり当然そこは無視できないだろうという認識なのかな。

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ラストはさらなる高みへ

『雄獅少年 ライオン少年』はアニメーションとしてもとても気持ちがいい作品でした。何よりも獅子舞とアニメーションの相性がいいですね。

獅子舞というのは被り物を被りつつ、中に人間が入って、そこに本物の獅子が宿ったかのような動きで魅せていく代物です。まさに命を吹き込むわけです。

アニメーションもやっていることとしては同じであり、「モノ」に人が動きを付けて命を宿します。実際に中に人が入って動きを付けるか、絵などで動きを表現するかの違いはありますが、芸術としての在り方は同じ魂を共有しているでしょう。

なので獅子舞がアニメーションで描かれるのは相乗効果なのか、無性にワクワクしてきます。静と動のモーションを繰り返しながら躍動感を増して動いていく獅子舞の一挙手一投足。そこに「ああ、確かに生きているみたいだ!」という感動があって…。

チュン&マオ&ワン公のチームの獅子舞は最後の最後まで本領発揮で見せてくれないのですが、ついに本番でチュンが舞い戻ってからの展開は非常にアツいです。

ミカン障害物など仕掛けとしても目で楽しませてくれる要素が満載で、アクション映画感覚で充実したエンターテインメントになっているのも嬉しいところ。「獅子舞がこんなに手に汗握るものだなんて…!」と驚くくらいです。

そして最後の最後で本作はさらなる別次元の面白さを見せてくれます。延長の最終戦で見事にゴール手前まで到達したチュン&マオの獅子舞。しかし、チュンの視線はゴールではなく、そのさらに奥にそびえたつ誰も到達していない“高み”がある。その挑戦を察して、他のみんなも太鼓で鼓舞し、前人未到の夢を託す。こうなってくるとこの場面は競技ですらない、人間としてのある種の哲学的な問いかけみたいになってきます。

世の中には手の届かない奇跡がある。でも人は「上に行きたい」と願うのは悪いことなのだろうか…。

最終的にチュンはその最高部に立つことはできないのですが、獅子舞の頭だけが悠然とそこに鎮座する。あの何とも言えない世を達観する構図。神々しくすらある。非常に中国らしいオチだなと思いました。

そして意識不明の父の指がピクっと動いて、余計な感動さえ隙を与えずエンディングに移る。あのスマートな終わり方も良かったです。

一応、最後のクレジットでチュンは上海でまだ働いているシーンが映り、しっかり現実にまた戻してくるのですが、現実であっても今は誇りがそこにあるという成長を短く表現しており、ここも良いところ。本作、あんなに子どもじみたギャグを連発していたのに、急に「どうした!?」ってほどに大人になるから、そのギャップに面食らいますね…。

チュン以外の成長はあまり表立って展開していないのと、でてくる女性キャラクターがみな献身的な姿に終始しているなど、気になる点はややありますが、『雄獅少年 ライオン少年』は獅子舞を中国の伝統文化としてノスタルジーありきで描かず、しっかり現代に吠え飛び掛かる存在として描ききった勇猛な一作でした。

『雄獅少年 ライオン少年』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
7.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0

作品ポスター・画像 (C)BEIJING SPLENDID CULTURE & ENTERTAINMENT CO.,LTD (C)Tiger Pictures Entertainment. All rights reserved.

以上、『雄獅少年 ライオン少年』の感想でした。

I Am What I Am (2021) [Japanese Review] 『雄獅少年 ライオン少年』考察・評価レビュー