お願い、マイグレーション!…映画『FLY! フライ!』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2023年)
日本公開日:2024年3月15日
監督:バンジャマン・レネール
FLY! フライ!
ふらい
『FLY! フライ!』物語 簡単紹介
『FLY! フライ!』感想(ネタバレなし)
イルミネーションは飛び立つ
最近、家の玄関をでると、ふと「グワーッ、グワーッ」と甲高い鳴き声がどこからともなく聞こえ、空を見上げると、大きめの鳥たちが「V」の隊列を組んで飛んでいくところでした。
たぶんハクチョウ(白鳥)だったと思います。オオハクチョウやコハクチョウは「渡り」をします。つまり、季節に応じて大きな移動をするということです。渡りをする鳥は、その地ごとにどの時期に見られるかによって「夏鳥」や「冬鳥」と呼び分けられます。
オハクチョウやコハクチョウは日本では冬鳥で、普段はユーラシア大陸北部などで繁殖するのですが、冬になると群れで南下し、日本だと北部地域に訪れます。冬が終わると、またユーラシア大陸北部に帰っていきます。
そんな長距離をどうやって自分たちの位置を正確に把握して移動できるのでしょうか。人間だったらスマホの地図アプリが欠かせませんけど…。
実は鳥が渡りをする際に位置を把握できるメカニズムはよくわかっておらず、昔は太陽から位置を導き出しているとか、磁場を読み取れるとか、いろいろ言われていました。磁気を検出できる能力があるという説もあります。
人間には謎だらけですが、今日も鳥たちは世界中を飛び回って空を渡っているのです。
おしまい…。
いや、おしまいじゃありません。映画です。映画の感想です。
今回紹介する映画は、その渡りをする鳥たちを主役にしたCGアニメーション映画です。
それが本作『FLY! フライ!』。
本作は「ミニオン」でおなじみの「イルミネーション」の最新作。このスタジオは2023年は『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』を特大ヒットさせ、その年の最大の成功者となりました。
でもあちらはあくまで大人気IPに依存した成功でしたから、評価も何もこれくらいの話題性は当然かなという感じでもあったと思います。
対する、この本国では2023年終わりに公開された『FLY! フライ!』は「イルミネーション」にとっては久しぶりのオリジナル作品となります。オリジナルこそ、そのスタジオのクリエイティブの真価が問われることはありますよね。
動物を主題にしたキャラクター作品でもあり、「イルミネーション」としては2016年の『ペット』や『SING/シング』に続くかたちとなり、今作は初めて野生動物を描いています。
しかも、ここが海外アニメーション・ファンにとっては特筆点なのですが、今回の『FLY! フライ!』の監督は、あの『くまのアーネストおじさんとセレスティーヌ』(2012年)や『とてもいじわるなキツネと仲間たち』(2017年)を手がけた“バンジャマン・レネール”なのです。
「イルミネーション」のスタジオがフランスにあるとは言え、ハリウッド商業世界とは無縁にみえたフランスのアニメーション・クリエイターの“バンジャマン・レネール”をわざわざ引っ張ってくるとは…。なかなか粋なことをやりますね。
その監督となっているせいか、これまでの「イルミネーション」作品と比べると、悪ガキ感はほんの少し抑えられ、ちょっと正統派な安定感が増した気もする…。まあ、でも相変わらずふざけまくったノリもいっぱいあるので、これまでどおりに笑って楽しめるエンターテインメント作です。
とくに舞台がフランスになるわけではないです。
声で参加するのは、『エターナルズ』の“クメイル・ナンジアニ”、『コカイン・ベア』を監督して絶好調な“エリザベス・バンクス”、『ホーンテッドマンション』の“ダニー・デヴィート”、『クイズ・レディー』の“オークワフィナ”、『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』の“キーガン=マイケル・キー”、ドラマ『スタートレック:ストレンジ・ニュー・ワールド』の“キャロル・ケイン”など。
”オークワフィナ”は実写『リトル・マーメイド』で鳥の声をノリノリで演じていたので鳥慣れしてますね(ん?)。“キーガン=マイケル・キー”も『アングリーバード』で鳥の声を演じていたので鳥慣れしてますね(んん?)。2人とも声を聴いたら一発でわかりますよ…。
子どもはもちろん鳥が好きな大人も楽しめる『FLY! フライ!』。あなたの位置は席に座っていればいいだけ。後は物語がナビゲートします。気楽に飛んでみてください。
『FLY! フライ!』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :動物モノが好きなら |
友人 | :子ども向けだけど |
恋人 | :気楽に眺めて |
キッズ | :子どもは楽しい |
『FLY! フライ!』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半)
昔々、美しい池がありました。それはまるで楽園のようで、水鳥たちが幸せを謳歌していました。平和でゆったりした時間が流れています。
ただし、全員ではありませんでしたが…。ある2匹のマガモは退屈に沈んでいました。ため息ばかり。もっと刺激がほしい…。そこで思い切って外の広がる空へ飛び立ちます。
けれどもすぐさま獰猛な捕食者に襲われ…死にました。以上です。
そんな話を子どもに聞かせているのは、マガモのマック。息子のダックスは「またか」という顔。幼い娘のグウェンはショックな様子。「死んじゃって…終わり?」と困惑しています。
マックはどうやって残酷に死んだのかを語ろうとしたところ、そこに子どもたちの母のパムが割り込んできて、取り繕うように物語を語り直します。でも内容をめぐってマックと矛盾し合い、結局はマックの語りは止まりません。とにかく危険がいっぱいだと…。
子どもたちは眠りにいき、マックとパムも寄り添って寝ます。
ここは森にある木の下。水鳥はこの家族くらいしかいません。傍の池で過ごし、遠くに行くことはまずありません。家族は楽しく過ごしていました。
ある日、上空から水鳥の群れがやってきて、池に着水します。パムは子どもたちにその光景を見せ、興奮を隠しきれません。でもマックは興味なく、あえて無視しようとします。
ダックスはグウェンを連れて積極的に水鳥の群れに混じっていきます。キムという女の子の水鳥と挨拶を交わすダックス。実はダックスの家族はここから離れたことがありません。何よりも父のマックが絶対に外に出るなと言い張るのです。
それを知ったキムは驚きます。1度も渡りをしたことがないなんて…。「一緒にくれば? 渡りを気に入るはず!」と提案してくれます。
そんな子どもたちを目にしてすぐさまマックは他の水鳥から引き離そうとします。しかし、親切な水鳥の家族に話しかけられてしまいます。なんでもこれからジャマイカに戻るらしいです。
ジャマイカは素晴らしい場所だと聞いて、パムは目を輝かせます。子どもたちも思わず興味を惹かれます。ただ1羽、マックだけは誤解だと訂正し、「また来年!」と言い残して別れます。
パムはそんなマックの消極的な姿勢に子どもたちと揃って声をあげ、外に出るべきだと進言します。頑ななマックの態度に失望しながら…。
そのような家族からの言葉を直球でぶつけられ、マックは夜になっても考え込んでいると、叔父のダンが足元にいるのに気づきます。そのダンの何気ない言葉で、やる気を出し始めたマックは家族を叩き起こし、出発しようとします。
パムたちはびっくりです。急な心変わりに驚きますが、その決断を歓迎します。
グウェンはダンおじさんも連れて行くといって意地を張るので、仕方なく同行することになりました。ダンは行きたくないと言っていましたが、グウェンに簡単に話に乗せられます。
翌朝、5羽は意を決して翼を広げ、飛翔を開始。目指すはジャマイカ…!
旅は道連れ世は情け
ここから『FLY! フライ!』のネタバレありの感想本文です。
動物たちが長距離を移動することになるアドベンチャーを主題にしたアニメーション映画はよくあります。『ファインディング・ニモ』や『マダガスカル』など野生動物から飼育動物まで、そのバリエーションもいろいろ。
そもそも「移動する物語」は古代ギリシアの長編叙事詩「オデュッセイア」を始め、大昔からの定番で、人類は大好きです。実際、人類は歴史的に絶えず移動しまくってきましたから、身近なのでしょう。
そんな「移動する物語」を動物に置き換えたのが、近年もよく見られるタイプです。動物だって移動しますし、動物に例えると子どもに親しみやすいストーリーにできますので、相性はぴったりです。
『FLY! フライ!』はその中でも「渡り」をする鳥に焦点をあてることで、動物の長距離移動という生態をそのまま素材に、自然に物語を構築できます。
本作で主人公となっているのはカモの家族。たぶん「マガモ」です。世界の北半球に広く生息するカモの一種で、日本でも普通に見られます。
日本では基本的に冬鳥ですが、『FLY! フライ!』でマックの家族がいる場所はアメリカ合衆国北東部のニューイングランド。この地ではマガモは渡りをしないこともあるそうで(「留鳥」と呼ぶ)、なので作中みたいなマガモは実際にあり得ますし、とくに生存にも困らないはずです(マックの渡りをしないという方針も間違ってはいない)。
そんな渡り経験ゼロのマガモたちが渡りをする!という大チャレンジに挑むのが本作の醍醐味です。
そうやって単純に動物の行動として捉えて楽しむのもいいですが、こういう動物たちの移動はそのまま人間社会における「移民」の体験にも重ねやすいです。本作の原題も「Migration」ですからね。
マックたちはいざ思い切って家族で飛び立つと、道中でさまざまな境遇の鳥たちと出会います。
故郷ジャマイカから連れてこられてマンハッタンのビルで鳥籠に閉じ込められているコンゴウインコのデルロイ。はたまた農場で自分たちが食肉用に出荷されるとは知らずに過ごしているアヒルたち。
マックたちはそんな自由を奪われた鳥たちを結果的に救い出し、どんどん旅仲間を増やして移動を行います。この過程は非常に移民っぽいです。大所帯になっていくもマックたちは前向きで、そこに生きがいさえ感じていきます。本来の渡りをするという動物の自然行動上の目的よりも、善意の行動に動機が移ります。
後半のヴィランやアヒルのエピソードは『チキンラン ナゲット大作戦』を彷彿とさせる、ヴィーガンなプロットにもなっていますが、やや毒気は薄めですかね。それでもアクティビズムに論点が着地するところはそっくりだと思います。
やっぱり音楽は欠かせない
根底にあるテーマはかなり真面目な『FLY! フライ!』。とは言え、やっぱりイルミネーション・スタジオ。ふざけまくったノリも随所にあって楽しいです。
個人的に一番イルミネーションらしいなと思うのは、何か所かあるダンスの音楽演出ですね。
ニューヨーク・シティでジャマイカの手がかりを求めてデルロイを探すのですが、そこでデルロイの鳥籠の鍵を見つけることになり、レストランのシェフから鍵を盗まないといけません。このレストランの厨房スタッフがみんな海賊風になっているのも、またシュールなのですが、鍵を盗んだマックとパムはクラブのダンスホールに迷い込み、そこで大勢の踊る人間に踏みつぶされそうになりながらも、自分たちもいつの間にかサルサのダンスを踊って回避します。
また、追いかけてきたレストランのシェフに捕まった際に、輸送ヘリ内で籠の中から移動するのに、またマックとパムは息を合わせてダンスをします。
これらのダンス、冷静に考えると全くやる意味ないのですが、マックとパムの夫婦が信頼を再構築するステップとして導入され、同時にユーモアも提供してくれています。
イルミネーションはやっぱり音楽の勢いで押し通すところがあるな…。
他だと、旅開始から最初に出会う鳥であるオオアオサギのエリンとハリーの老夫婦。沼地という舞台や不気味な雰囲気といい、家の中の食人ならぬ食鳥を匂わせる要素といい(わざわざフライパンをベッドに与える)、明らかに『悪魔のいけにえ』のパロディです。
アオサギと言えば日本でも『君たちはどう生きるか』で奇想天外な見た目の奴が登場したばかりですが…。
ハト集団のリーダーのチャンプ(すっごく“オークワフィナ”)だったり、ユーモラスな鳥のキャラクターたちは見ていて飽きません。
家族のドラマだと、マックとパムの夫婦だけでなく、ダックスとグウェンの兄妹の絆も素直に温かくまとまっていてホッコリします。基本的にこの家族は虐待的な関係性が生じていないので、気楽に眺めていられるのがいいですね。
グウェンはキュートで、最後もジャマイカから帰ろうとするときに現地のワニを連れて行こうとするなど、しっかりオチをつけてくれるのも楽しいです。
そしてマックたちは今度はペンギンを南極まで導こうと張り切り、エンドクレジットを見る限り、成功した様子。もちろん実際のマガモは南極なんて行きませんよ。ただ、過去の記録だと、ニュージーランドの北東にある「ニウエ」という小さな島国に突如として現れた1羽のマガモがいて、「トレバー」と名付けられて話題となりました(The Guardian)。どういう経緯でここにいたのかは不明だったそうです。
渡りをしている鳥を上空で見かけたら、優しく見守ってあげてください。初の渡りで緊張しているかもですからね…。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 72% Audience 88%
IMDb
6.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
関連作品紹介
イルミネーション制作のアニメーション映画の感想記事です。
・『ミニオンズ フィーバー』
作品ポスター・画像 (C)2023 UNIVERSAL STUDIOS. ALL Rights Reserved.
以上、『FLY! フライ!』の感想でした。
Migration (2023) [Japanese Review] 『FLY! フライ!』考察・評価レビュー
#イルミネーションアニメ #楽しい