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『モアナと伝説の海』感想(ネタバレ)…物語の裏にこめられたディズニーと監督の軌跡

モアナと伝説の海

物語の裏にこめられたディズニーと監督の軌跡…映画『モアナと伝説の海』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Moana
製作国:アメリカ(2016年)
日本公開日:2017年3月10日
監督:ジョン・マスカー、ロン・クレメンツ
モアナと伝説の海

もあなとでんせつのうみ
モアナと伝説の海

『モアナと伝説の海』物語 簡単紹介

モトゥヌイと呼ばれる島では、外洋に出ることが禁じられていた。しかし、モアナは幼い頃から海への好奇心を抑えられなかった。ある時、島で作物や魚たちに異変が発生する。その原因はわからず、島の人たちは困惑していた。モアナは自分が海の不思議な力に選ばれたことを知る。そこで思い切って行動に出る。今もどこかで生きている伝説の英雄と言われたマウイを探し出し、島を救うために大海原に旅立つ。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『モアナと伝説の海』の感想です。

『モアナと伝説の海』感想(ネタバレなし)

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ディズニーの光と闇を知る二人

世間ではよく「ディズニーはアニメーションの優等生」などと言われることがあります。

でも、多くの今は善人と評される人物でも悪いことをした時期があるように、実はディズニーにも暗黒時代があったのです。それは2000年代。この時期、ディズニーは儲かると言う理由で自社の有名過去作の安易な続編をOVAで乱発し、版権で金を搾り取ることに執心。さらに、当時、協力関係にあったピクサーの作品の続編を“勝手に”作る強引な契約を交わしていたほど。完全にアニメーターは金を稼ぐための奴隷でしかなく、失望した多くの優秀なアニメーターがディズニーを辞めていきました。

そんなディズニーを去ったアニメーターの中に、ロン・クレメンツジョン・マスカーという二人の人物がいます。『リトル・マーメイド 』や『アラジン』などディズニーの黄金期を支えた、まさにトップクラスのアニメーターでした。そんな彼らさえ辞めるなんて、よほど腐敗したディズニーが辛かったのでしょうね。

しかし、ディスニーは生まれ変わりました。契機はピクサーのジョン・ラセターがトップになったこと。アニメーターを何よりも尊重するジョン・ラセターが、真っ先にしたことのひとつが、ロン・クレメンツとジョン・マスカーをディズニーに呼び戻すことでした。

ディズニーに戻ったロン・クレメンツとジョン・マスカーが監督したのが『プリンセスと魔法のキス』(2009)。ニューオーリンズに住む黒人の少女が夢を実現するために奮闘する物語で、往年のディズニーらしさとこれまでのディズニーになかった要素が見事に融合していました。ここからディズニーは高評価な傑作を連発。今の輝かしい姿を取り戻しました。

そして、ロン・クレメンツとジョン・マスカーが再び監督したのが本作『モアナと伝説の海』。ディズニーらしいミュージカル調で、プリンセスではない、非白人の少女が主人公ということで、『プリンセスと魔法のキス』との共通点が多く、でもさらなるパワーアップを魅せています。

ヒロインのモアナの声に抜擢されたのは新鋭の“アウリイ・クラヴァーリョ”。ハワイ育ちで先住民の血を受け継ぐ若手です。

他のキャラクターもポリネシアやハワイなどに関連のある俳優が声をあてています。サモア系の“ドウェイン・ジョンソン”、マオリの血をひく“テムエラ・モリソン”など。

とくに本作の監督たちのディズニーとの関わりの歴史を知っておくと、違う形でより深く心に刻まれる作品になると思います。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『モアナと伝説の海』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):心が海に行きたいと言っている

大昔、この世界は海しかありませんでした。そこへ現れたのが母なる島「テ・フィティ」。そのには偉大なる力が宿り、命を創り出すことができました。やがてそのテ・フィティの心を狙う存在がいくつも出没します。命を創り出す力を欲したのです。そしてある日、誰よりも恐れ知らずの者が心を奪うべく広大な大海原を渡りました。彼は風と海をつかさどる半神半人(デミゴッド)。神の釣り針の力で自在に姿を変えられる男でした。その名は「マウイ」。しかし、マウイが心を奪うとテ・フィティは崩れ、恐ろしい闇が世界を覆い尽くします。さらに大地と炎の悪魔「テ・カァ」がマウイの行く手を遮り、マウイを倒します。そして神の釣り針とテ・フィティの心は海の底に沈んでいき…。

1000年後。その物語はモトゥヌイ島の伝承として語り継がれていました。祖母タラからその話を聞かされ、夢中になって聞くのは幼いモアナ。いつか心を救って世界を助けるという物語の言い伝えを信じていました。でもモアナの父で村長であるトゥイは「サンゴ礁の外には行くな」と教えます。暗黒の闇なんてないし、魔物もいない…と。

でも幼いモアナは透きとおった海の寵愛を受けていました。そして海に導かれるように緑の石を拾います。

モアナは成長していきますが、村長になることにはあまり興味がありません。それよりも海に出てみたいという冒険心だけがくすぶっていきます。祖母だけが自分の気持ちを理解してくれますが、父は許しません。

ある日、父は聖なる場所を案内してくれます。モアナも村長になってここに石を置くのだ、と。

こうしてモアナは村人を導く役割という期待に応えようとします。今、村ではココナッツが腐ってしまうという謎の病気が蔓延していました。モアナはアドバイスしますが、今度は魚が獲れないという困りごとを聞きます。「サンゴ礁の外なら魚がいるのでは?」…しかし、父は厳しくその考えを制します。

母は父も海に惹かれていた以前にサンゴ礁の外に出たことがあると教えてくれます。けれども荒波で友人を失ったと…。

期待に応えたい。でも心の声は違うと言っている…。思い切って小さな船でサンゴ礁の外へ行ってみようとします。しかし、波に飲まれ、友達のブタが危険なことに。助けられたものの海の怖さを痛感しました。

祖母はそんなモアナを目にして、それでも呑気です。そしてまだ教えていない昔話があると洞窟に導いてくれます。その洞窟には巨大な船が安置されていました。実はこの村の祖先は海を渡ってやってきたという歴史があったのです。先祖は冒険家だったのでした。

でもなぜ旅をやめてしまったのか。祖母はマウイのせいだと言います。闇が広がり、海は危険なものになってしまった…いずれこの島も…。

「お前は海に選ばれたんだよ…」

モアナは自分の運命を知り、決断を迫られますが…。

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新しくなって舞い戻るプリンセス・ストーリー

『モアナと伝説の海』の感想を見ると「目新しさがない」という声も聞かれます。でも、私は「目新しさ」だらけだと思いました。

なにせ恋愛が一切物語に絡んでこないプリンセス・ストーリーですよ。こんなのディズニーで初です。

それに別の見方ができると思いました。

本作は一見すると王道な物語です。窮屈な狭い世界で暮らし、外の世界を夢見る少女が、冒険に出て成長する…普通と言ってしまえばそれまでの話でしょう。

でも、先にも言ったとおり、監督のロン・クレメンツとジョン・マスカーがディズニーで辿った歴史を知ると、別の深みが浮かび上がってくると思いませんか?

本作の物語は、ロン・クレメンツとジョン・マスカーが経験したことそのものです。闇に覆われた世界と島は、例の暗黒時代のディズニーとその時代。モアナの故郷であるモトゥヌイという島の住人たちは、かつて海で出ていたことを封印し、内にこもるようになったわけですが、これなんてまさに昔の栄光を忘れて儲け主義に染まったディズニーの状態そのままです

モアナは不安にかられながらも、島と世界を良くするために、よく知らぬ大海原へ“出ていく”。ディズニーを辞めたロン・クレメンツとジョン・マスカーも同じ気持ちだったでしょう。そして、モアナは大冒険をして、また島に“戻ってくる”。ディズニーに戻ってきたロン・クレメンツとジョン・マスカーに重なります。

本作は“行って戻ってくる”だけの話ですが、実はそこにこそ意味がある。少女の成長とか、女性の社会進出とか、そういうテーマ以前に、本作はディズニーに失望したアニメーターたちの軌跡なのではないでしょうか

そうやって捉えると、過去の栄光にすがるマウイはディズニー史でいうところの何なのか…考えると面白いですね。彼の栄光はタトゥーという形で昔ながらのセルアニメで描かれるわけですから。

ディズニー史の暗喩といえば、本作と同時上映の短編『インナー・ワーキング』も、そのブラック企業ぶりがかつてのディズニーっぽいです。たぶん、ディズニーのクリエーターたちは昔の暗黒時代のディズニーには戻らせまいと必死なんじゃないでしょうか

他にも細かいところにも、ロン・クレメンツとジョン・マスカーらしい彼らの集大成的な要素がたっぷり詰まってます。海を舞台にするところなんて『リトル・マーメイド 』だし、まるで生き物のように愛らしく描かれる“海”は『アラジン』の魔法のじゅうたんを思わせます。また、マウイのタトゥーのアニメーションといい、本作は3Dと2Dが上手く融合しており、これもアニメーターだった二人だからこそのこだわりなのだと思います。

ズートピアでは社会の人種多様性をメタ的に描いたわけですが、今回はディズニーらしい自己実現をディズニーの歴史をメタ的に描くことで示す。ロン・クレメンツとジョン・マスカーしか作れない世界でした。

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ポリネシアにもっと光を

あと、忘れてはいけないこととしては、本作はポリネシアの人々に焦点を当てたという意味でも、非常に価値ある一作でしょう。

ポリネシアと呼ばれる海洋諸島に暮らす人々の歴史は、常に強者に踏みにじられる散々なものでした。捕鯨産業が盛んになると、列強の国々が島に入り込み、住人は労働者として酷使。しかも、持ち込まれた感染症や外来の生物が島の生活や生態系を破壊。太平洋戦争になると植民地支配され、第2次世界大戦終了後は核実験の試験として水爆を投下されまくる。現代では地球温暖化で島自体が沈みそうになる。悲惨すぎます。なんかポリネシアの人々に恨みでもあるのか。

現代の世界でもポリネシアの人々は、黒人やユダヤ人といった他のマイノリティと比べても、全然クローズアップされないです。私は、もっとポリネシアを映画の主題にするべきだと思うのですが…本作がきっかけになると良いですね。

ロン・クレメンツ監督とジョン・マスカー監督には、いまだ光の当たらないマイノリティに、ディズニーの光を当ててほしい…そのクリエイティブ精神を持って、どこまでも遠くに行ってほしい(How Far I’ll Go)…そんな風に心から願います。

『モアナと伝説の海』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 95% Audience 89%
IMDb
7.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★★
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関連作品紹介

ディズニーアニメーション映画の感想記事です。

・『ミラベルと魔法だらけの家』

・『ラーヤと龍の王国』

・『アナと雪の女王2』

・『塔の上のラプンツェル』

作品ポスター・画像 (C)2017 Disney. All Rights Reserved.

以上、『モアナと伝説の海』の感想でした。

Moana (2016) [Japanese Review] 『モアナと伝説の海』考察・評価レビュー