感想は2100作品以上! 検索はメニューからどうぞ。

『フェアリー・ゴッドマザー』感想(ネタバレ)…幸せになる魔法の現代版

フェアリー・ゴッドマザー

女の幸せは王子様でもドレスでもなく…映画『フェアリー・ゴッドマザー』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Godmothered
製作国:アメリカ(2020年)
日本では劇場未公開:2020年にDisney+で配信
監督:シャロン・マグワイア
恋愛描写

フェアリー・ゴッドマザー

ふぇありーごっどまざー
フェアリー・ゴッドマザー

『フェアリー・ゴッドマザー』あらすじ

新人見習いの魔法使いであるフェアリー・ゴッドマザーであるエレノアはフェアリー・ゴッドマザーの仕事が絶滅の危機に直面していると知り、人々がまだ魔法の助けを必要としていることを証明しようとする。そこで悩みを抱える10歳の少女であるマッケンジーからの手紙を見つけたエレノアは、彼女を探す旅にでた。ところがマッケンジーはすでに大人に成長しており…。

『フェアリー・ゴッドマザー』感想(ネタバレなし)

スポンサーリンク

あのキャラクターが廃業のピンチ!

世は動画配信サービスの戦国時代。各社が己のコンテンツを引っ提げて動画配信サービスをぶつけあい、あてもない戦乱が始まっています。ただやっぱりやることはどうしても似通ってくるものです。

そのひとつが、季節に合わせた作品の配信。例えば、12月が近づけば当然配信されるのはクリスマス映画です。劇場でも毎年この時期になるとクリスマス映画が投入されるのが定番でしたが、動画配信サービスは小中規模の作品を提供するのがお手の物なため、そして家庭で見やすい作品と相性がいいため、クリスマス映画は格好のコンテンツです。

結果、各社動画配信サービスで新規のクリスマス映画をバンバン送り出してくるので、なんか大変賑やかなことになっています。「うちのクリスマス映画はどうですか!」「いや、こっちのクリスマス映画がいいよ!」「待って、わが社のクリスマス映画も魅力満載です!」とアピールの応酬。こんなにクリスマス映画だらけだと、ちょっと観る側も作る側も苦労しそうです。

なにせクリスマス映画はフォーマットが決まっていますから、その中でどうオリジナリティを出すかという勝負になってきます。競争相手が多ければ多いほど、その個性を打ち出すのもハードルがあがります。まあ、そこがまた注目のポイントになってくるのでしょうけどね。

今回紹介する映画は「Disney+」が2020年に贈るオリジナルのクリスマス映画。でもサンタクロースは出てきません。その代わりに登場するのは、あの人。ふと現れて魔法でドレスやカボチャの馬車やガラスの靴を与えてくれる、魔法使い、フェアリー・ゴッドマザーです。映画のタイトルもそのまんま、『フェアリー・ゴッドマザー』となっています。

ディズニーでフェアリー・ゴッドマザーと言えば、もちろんおわかりのとおり『シンデレラ』のあのキャラクターです。『シンデレラ』ではこのフェアリー・ゴッドマザーがいなければ物語が成り立ちません。ストーリーに転換点を生みだすキーキャラクターです。困っている人(主に女性)に最高の贈り物を与えるのですから、だいたいはサンタクロースと同じようなものです。

この映画『フェアリー・ゴッドマザー』はそのキャラクターをピックアップして実写化したもの。しかし、ちょっと状況は違います。なんと社会は多様な価値観に変化したことで、フェアリー・ゴッドマザーの出番は消え失せ、消滅の危機にある…という設定に。まさかのフェアリー・ゴッドマザーの廃業のピンチ。こんなところにまで景気の悪さが…世知辛い世の中だ…。

御伽噺をメタ的に風刺した実写映画ということで、『魔法にかけられて』(2007年)に近い雰囲気がありますね。そういう作品が好きな人は楽しいと思います。『フェアリー・ゴッドマザー』は完全にその系譜の現代アップデート版ですから。

お話自体は大人の女性を主役にしていることもあって、大人向けではあるのですが、ファミリー映画なので間口は広いです。決して恋愛ありきの作品ではありません。むしろそういうのは古いよね…という視点を分かち合うストーリーです。

監督は『ブリジット・ジョーンズの日記』(2001年)で成功をおさめた“シャロン・マグワイア”。『ブリジット・ジョーンズの日記』も今の価値観で観るとやや古めかしい作品になっちゃいましたけど、この『フェアリー・ゴッドマザー』で価値観も適度に更新ですかね。

俳優陣は、主役の若きフェアリー・ゴッドマザーを演じるのは“ジリアン・ベル”『ブリタニー・ランズ・ア・マラソン』でベストアクトを見せていましたが、今回のフェアリー・ゴッドマザー役も彼女ならではのフィット感があります。

共演は『ウェディング・クラッシャーズ』『バチェロレッテ あの子が結婚するなんて!』の“アイラ・フィッシャー”。なお、彼女のパートナーはサシャ・バロン・コーエンで、家族はユダヤ教です。

他には『コーンヘッズ』の“ジェーン・カーティン”、ドラマ『スタートレック ピカード』の“サンティアゴ・カブレラ”、『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』の“ジューン・スキッブ”など。それにしても“ジューン・スキッブ”はもう90歳超えなんですね。『ブロー・ザ・マン・ダウン 女たちの協定』や『ヒュービーのハロウィーン』など最近の映画にもガンガン出ていて凄いバイタリティなのですが、元気そうでなによりです。

『フェアリー・ゴッドマザー』は誰でも気楽に観れる作品ですので、クリスマスのちょっとした空き時間にぜひどうでしょうか。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(独りでも幸せになれる)
友人 ◯(友達とも楽しいクリスマスを)
恋人 ◎(クリスマス気分の盛り上げに)
キッズ ◯(子どもとも鑑賞できます)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『フェアリー・ゴッドマザー』感想(ネタバレあり)

スポンサーリンク

ハッピーエンドの魔法は廃れる?

昔々、あるところに「マザーランド」というおとぎの国がありました。そこでは数多くのフェアリー・ゴッドマザーたちが暮らしており、魔法を学んでいます。

そしてこれはエレノアというひとりのフェアリー・ゴッドマザーの物語。でもいつものハッピーエンド…とは限りません。

エレノアはここで一番若いフェアリー・ゴッドマザー。一人前になって物語に登場することが目標であり、その夢に向かって誰よりも張り切っています。

今日も講義に意気揚々と望んでおり、やる気に満ち溢れているのが外からでも伝わってきます。校長のモイラがやってきて、毎度おなじみのフェアリー・ゴッドマザーとしての大事な3ステップを語りだします。他の受講者はもう聞き飽きたとうんざり顔。エレノアを除いては…。

ステップ1はキラキラのドレス。次に理想の相手を見つける。そしていつまでも幸せに。ハッピーエンドで終わるステップ3。ずっとこの教えを大切に守ってきました。

ひとりの受講者が「また同じ型ですか」と苦言を呈しますが「従えば必ずうまくいく」と頑なです。それでも「今はもう誰もそんなの信じていません」と大多数は否定的でした。もちろんエレノアを除いては…。

別のひとりが不吉な話をします。このままではゴッドマザーの修業はなくなり、みんな歯の妖精になるしかないという噂もある、と。もしそれが事実ならフェアリー・ゴッドマザーの存在意義はなくなり、世界にハッピーエンドをもたらせなくなってしまいます。

焦ったエレノアは“お願い部屋”を漁ることに。そこは全世界から届いた切実な願いのメッセージが集められている場所。しかし、すっかり埃をかぶっており、確かにここ最近は全然そんな願いは届いていないようです。

しかし、マッケンジー・ウォルシュという10歳の女の子のお願いの手紙を発見。家はボストン。内容は、学校にいるハンサムな彼に気づいてもらえるように…とのこと。これです。これを叶えれば自分も大満足だし、きっとフェアリー・ゴッドマザーの消滅の危機も回避できるはず。

エレノアはさっそく荷造りをします。172歳の大ベテランのアグネスから出口を教えてもらい、なんとか出口を抜けます。

そこは人間の世界。とりあえずマッケンジーのもとへ向かわないといけません。かぼちゃを見かけたので魔法で馬車に変えて移動手段にしようと試すと、かぼちゃは爆発。全然上手くいきません。しょうがないのでドレスにくるまって木の下で休んでいると、ベスというトラック運転手が話しかけてきて、送ってくれました。

マッケンジーがいると思われる建物に到着。中に入るとニュースの撮影の真っ最中。そこはメディア企業です。そして予想していなかった事態に直面。

10歳だと思っていたマッケンジーはすっかり大人の女性になっていました。「私はあなたのフェアリー・ゴッドマザーよ」と訴えますが、不審者扱いで全然信じてくれません。追い出されるも、しぶとく駐車場でまたアプローチ。警察に通報すると脅されつつ、魔法を見せてダウンジャケットを巨大にさせると、さすがにオカシイとマッケンジーも気づいたようです。さらに10歳のときに出した手紙を見せると、なんとなく事情をわかってくれました。

とりあえず泊めてもらうことになり、娘たちには会わないでと念を押され、地下室に。今のマッケンジーはジェーンミアの2人の娘がおり、普段は姉のポーラに面倒を見てもらっていました。

そしてどうやらもう運命の人との出会いで幸せになる人生を信用はしていないようです。それでもエレノアは頑固に教えどおりのハッピーエンドを与えようとします。

マッケンジーの家をイメチェンして中世風の城っぽくしたり、掃除ができるアライグマのゲーリーを召喚したり…。ジェーンとミアは楽しんでくれますが、当のマッケンジーは迷惑そうです。

そのまま彼女の仕事現場についていくことに。そこにはヒュー・プリンスという男性の同僚がいて、マッケンジーはなんだか気にしている様子。プリンス…王子、この人だ!とエレノアは張り切ります。

一方、マザーランドはいよいよ閉鎖まで目前となり、出入り口は封鎖されようとしていました。このままではエレノアは魔法が使えなくなりますが、本人はまだそのピンチに気づいておらず…。

スポンサーリンク

シンデレラ・ストーリーは呪いになった

『フェアリー・ゴッドマザー』は御伽噺をモダンに変えるための最前線の一作です。

その御伽噺とはいわゆる「シンデレラ・ストーリー」と呼ばれる、ごく普通の一般人女性が、ある瞬間的なきっかけによって見違えるほどの成長と幸福を手にし、芸能界や社交界などに華々しい世界にデビューしたり、あるいはリッチでゴージャスな生活を送る資産家と結婚する成功物語のこと。これは女性の理想的な到達点とされ、いまだに根強く残っている価値観です。

しかし、そのシンデレラ・ストーリーは本当に良いものとして妄信していいものなのか。ましてや女の子にまで読み聞かせてその理想を当然の正しさとして教えてきて良かったのか。それは今の現代社会ではよく主張されていることです。

結局は女性の幸せは男性が提供する愛やカネでしか得られない。そこに主体性はない。これを理想とするのはあまりにも女性を鎖に繋ぐだけではないか…。
もちろんシンデレラ・ストーリーに憧れる女性がいてもいいです。でもそれが女性全員の模範になるのは勘弁してほしい。そんな新しい価値観が前面に出始めたことで、シンデレラ・ストーリーの見直しも進み始めています。

そのシンデレラ・ストーリーを誰よりも世界に広めたのは、無論、ディズニーです。だから最近のディズニーはクラシックな御伽噺をベースにしたアニメーション作品を実写化する際に、それとなく現代的なアップデートを加えていますし、最近のアニメーション作品でもその過去のお約束に乗っかりすぎないように努めている節がしばしば見られました。

『ラプンツェル ザ・シリーズ』や『アナと雪の女王』などディズニープリンセスものを観ても、恋愛要素がかなり薄れていますし、『モアナと伝説の海』にいたっては恋愛要素は皆無ですからね。

それでもまだシンデレラ・ストーリーは払拭できません。皮肉なものです。かつては魔法を与えるものだったのに、自分自身に呪いとして跳ね返ってきているのですから。

『フェアリー・ゴッドマザー』はその現状を自虐的に風刺するところから始まります。完全に役目を見失ったフェアリー・ゴッドマザーたちの退屈な風景。それでもなおも固持されるハッピーエンドのお約束。全体的に高齢化しているせいか、もうデイケアサービスの真逆っぽくなっているのがなんとも…。むしろフェアリー・ゴッドマザーたちの方がケアを必要としているかもしれないですね。

スポンサーリンク

教科書を書き直そう

そんな中で純粋無垢にシンデレラ・ストーリーを叶えることの“正しさ”を信じているエレノア。言うなれば余計なお節介になるのですが、当人は気にもしていません。

『ロマンティックじゃない?』は恋愛を信じなさすぎるキャラクターでしたし、『アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング』は体型コンプレックスを抱えすぎているキャラクターでしたが、このエレノアのようにロマンスやサクセスを信じすぎているキャラクターというのも、現代ならではの風刺になります。

たぶんひと昔前だったらこんなエレノアを奇異に描くことはできなかったでしょう。こっちが普通だったし、映画はこういうエレノアみたいな存在を押し出していたのですから。

エレノアが痛々しいキャラクターになるというだけで、やっぱり現代の価値観は変わっているという動かぬ証拠でもありますね。

そのエレノアがシンデレラ・ストーリーの魔法を他者にかけるのではなく、自分にかかったシンデレラ・ストーリーの呪いを解くのが本作の肝です。

では『フェアリー・ゴッドマザー』はシンデレラ・ストーリーの呪いを解除できたのか。

マッケンジーは4年前のクリスマス前に交通事故でパートナーを亡くしており、まだその失望を引きずっています。本作ではそんなマッケンジーの前に現れるヒュー・プリンスをチラつかせ、新しい愛が芽生える予感を漂わせます。隣にダフという女性を配置することで、三角関係になりそうな空気も吹き込みつつ…。

でもそうはなりません。マッケンジーは自分なりのペースで実人生をゆっくりと進んでいくことにします。将来はヒュー・プリンスと結ばれるかもしれないし、別の人かもしれない。そこには本作では言及しません。ひとつ言えるのは、女の幸せには王子様もドレスもカボチャの馬車もいらないということ。
一方で現実の愛はもっといろいろなかたちがあると認めます。ラストでは赤ん坊を抱えたゲイのカップルも映っていたりしますし、とくに恋を匂わせていないポーラみたいな女性もいます。ちゃんとここまで範囲を広げてくれるあたりは、本作の現代アップデートとして誠実な姿勢だったなと思います。

そのうえで、魔法自体は失っていません。歌に自信がないジェーンに与える勇気は、杖や呪文をふって飛び出すマジカルなものではなく、もっと誰でも使える魔法です。

エンディングではアニメ調になり、新しいフェアリー・ゴッドマザーが新しい教えを多様な子どもたちに説いています。

シンデレラ・ストーリーの呪いは本作だけで解けるほどに弱くはないと思いますし、楽観もできませんが、こうやって少しずつ新しい物語に上書きされていくことで時代は変わっていくのかもしれません。その変化を感じ取れる一作でした。

シンデレラ・ストーリーをリニューアルする試みは他にもあって、ジェンダーの専門家として数多くの著作を生みだして有名になっているレベッカ・ソルニットが執筆した本「シンデレラ: 自由をよぶひと」もなかなかにいいですし、おそらく今後も無数に新たな物語が世に放たれるはずです。

ひとりひとりのマイ・ストーリーを大事にする時代になるといいなと願っています。

『フェアリー・ゴッドマザー』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 68% Audience 69%
IMDb
6.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

作品ポスター・画像 (C) Disney  フェアリーゴッドマザー

以上、『フェアリー・ゴッドマザー』の感想でした。

Godmothered (2020) [Japanese Review] 『フェアリー・ゴッドマザー』考察・評価レビュー