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『ミッドナイト・ゴスペル』感想(ネタバレ)…インタビューしていい?

ミッドナイト・ゴスペル

インタビューしていい?…アニメシリーズ『ミッドナイト・ゴスペル』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:The Midnight Gospel
製作国:アメリカ(2020年)
シーズン1:2020年にNetflixで配信
原案:ペンデルトン・ウォード、ダンカン・トラッセル
性描写

ミッドナイト・ゴスペル

みっどないとごすぺる
ミッドナイト・ゴスペル

『ミッドナイト・ゴスペル』あらすじ

あらゆる世界にいる人間の崇高で超越的なトークを聴く手段なんてない? いいえ、実在します。この摩訶不思議なシミュレーターを使って広い宇宙に散らばる不思議な世界をまわるのです。今日もスペースキャスターであるクランシーはユニークなゲストを迎えて語ってもらいます。その目的は、生と死、そして存在にまつわる疑問を解き明かすこと。「ミッドナイト・ゴスペル」の始まりです。

『ミッドナイト・ゴスペル』感想(ネタバレなし)

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まさか感動してしまうとは…

「瞑想」をしたことはあるでしょうか。

心を静めて無心になり、静寂の中で健全な心身を取り戻したり、はたまた普通では到達しえない洞察を会得したり、さらには未知の存在との邂逅を体感したり…。まあ、目的は人それぞれでいいのです。

この瞑想は人によってはオカルトだと思っていることもあるでしょうが、原点は宗教由来であり、ヒンドゥー教や仏教から発展していきました。私たち日本人も武士は瞑想修行を積極的にしていた歴史があるはずなのですけど、すっかり現代日本では風化した概念になってしまいましたね。もう瞑想どころか、せわしなく時間どおりにセカセカと働くしか考えていない民族になってしまいました。今こそ瞑想の文化を日本人に復活させるべきなのかもしれません。

瞑想なんて自分には無理…という人、ではこんなアニメーションはどうですか?

それが本作『ミッドナイト・ゴスペル』。このアニメシリーズ作品は世にも珍しい“見る”&“聴く”瞑想を提供しています。

意味不明でしょう。ええ、そうだと思います。ちょっと情報を整理しないといけません。

まず本作は“ペンデルトン・ウォード”による最新のアニメ作品です。彼は『アドベンチャー・タイム』というアニメシリーズで非常に有名なクリエイター。カートゥーンアニメなのですが、非常にシニカルでクレイジーな作風が強烈で、絶大な個性を放っており、多数の賞にも輝きました。そんな“ペンデルトン・ウォード”が完全に大人向けカートゥーンアニメに乗り出すというこの『ミッドナイト・ゴスペル』はさぞかしぶっとんだ内容になるのだろうということは想定の範囲内です。

ところが『アドベンチャー・タイム』的なノリを期待して『ミッドナイト・ゴスペル』に手を出した強者すらも本作にはおったまげることになります。なんだこれは…と。

もう、どう形容すればいいのかもわからない。作家性とか云々以前の狂気か何かなのか、いや、もしかして新興宗教なのか? 頭には無数のクエスチョンマークが大繁殖することに。ストーリーも見えてこないし、世界観もあやふやで、キャラクターも珍妙…手の施しようがない作品なのです。

しかしこの『ミッドナイト・ゴスペル』、作品を解釈するうえで知っておきたい製作の前提があります。実は本作はもうひとりのクリエイターにクレジットされている“ダンカン・トラッセル”の、非常に私的な物語なのです。加えて“ダンカン・トラッセル”がやっている「The Duncan Trussell Family Hour(DTFH)」というポッドキャストの音声が素材に使われています。このポッドキャストはかなりのご長寿で、かれこれ現時点で381エピソードもあり、毎回ゲストを呼んで話を聞く…というスタイル。この『ミッドナイト・ゴスペル』も各話でいきなり「ゲスト:○○○」と表示され、しかもそのゲスト名が作品内のキャラでもなく、明らかに世界観にそぐわない実社会の話をしだすので、理解不能状態に陥る人もいるでしょうが、要するにそういうこと。本作はポッドキャストのアニメ化なんですね。

ポッドキャストに独自の世界観を肉付けしてアニメでオリジナルにしてしまうという、斬新すぎるアイディア。なかなかこの発想はないです。これは下手したら新しい表現市場の開拓なんじゃないか。ちょっとVtuberに近いものを感じるけど、『ミッドナイト・ゴスペル』はアニメ自体もオマケレベルではなく、手が込んだ唯一無二の世界表現のオンパレードですからね。

で、どんな内容なのかというと、主にスピリチュアル的な話をしており、瞑想や宗教、死生観に関するトークばかり。もちろん脈絡のないデタラメではなく、ちゃんと元のポッドキャストのゲストのトークですからね。

ただなぜこんな話をしているのかおそらく最初はわからないはずです。しかし、最後まで鑑賞するとわかります。ヒントはすでに述べたようにこれは“ダンカン・トラッセル”の個人的物語なのです。彼は俳優や声優、スタンドアップコメディをしている人なのですが…。

そして告白すると私は「クレイジーなアニメが見られればいいや」と軽い気持ちで視聴し、『ミッドナイト・ゴスペル』の最終話で、感動して涙しました。はい…。やられてしまいました…。いわゆる神回というやつですよ。あれは卑怯だよ…。

なんで感涙したのかは後半の感想で述べるとして、本作は喪失感を抱えている人によっては、とてつもなく刺さる一作になっています。ほんと、刺さりすぎるくらいに…。

ということでこの『ミッドナイト・ゴスペル』、ネタバレなしで言えるのは、バカにせずに向き合ってほしい…それだけかな。

オススメ度のチェック

ひとり ◎(喪失感を抱えている人にぜひ)
友人 △(かなりのクセがあって人を選ぶ)
恋人 △(かなりのクセがあって人を選ぶ)
キッズ △(大人向けなので成長してから)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ミッドナイト・ゴスペル』感想(ネタバレあり)

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収録を開始します

シーズン1の第1話。ありきたりな作品説明的なイントロダクションはありません。

「こんにちはマスター、今日はどの仮想世界に入りますか?」とシステムボイスが尋ねてきます。その相手はクランシーという奴です。彼は謎の家でひとりで暮らしているようですが、「ミッドナイト・ゴスペル」というポッドキャスト配信をするのが仕事なのか趣味なのか、とりあえずそれをやっているのです。ただ、ひとりでトークしても面白くないので、そのネタを探しに「仮想世界農場(シミュレーション・ファーマー)」を活用します。このシミュレーターには無数の仮想世界の枠性が点在し、クランシーはその世界をアバターになって疑似体験ができるのです。そこで出会ったユニークな人物にインタビューして、その模様を配信するのです。

第1話では、オペレーター・エラーでゾンビパニック中だというアース4169に行きます。狙いを定めたサングラス男はまさかの大統領でした。さっそくインタビュー開始。話題はドラッグ、大麻についてです。その会話中もパンデミックは拡大し、ライフルでゾンビを撃ったり、途中で人を助けたり助けなかったり、自分たちもゾンビになったり、いろいろ発生。でも会話は止まりません。「薬に良いも悪いもない、問題は人間と薬との関係性だよ」「悪い薬なんてない、状況による」という格言が聴けたところで終了です。

この第1話のゲストである「ドリュー・ピンスキー医師」は中毒などの専門家で、アメリカではメディアによく顔を出す、お茶の間に知られている有名人です。

第2話では、別の惑星…赤ちゃん道化師(クラウンベイビー)を食べる不気味なシカ犬…の角が体に刺さっちゃった状態でインタビュー開始。「昔は死に触れるのはマナー違反だった、今の若者は死を歌っている」「死を受け入れたら自由になれる」と語りだし、創作やら精神性やら、話題はどんどんベルトコンベア式に移動していきます。その間、シカ犬もろとも食肉処理場でミンチになり、やがてはハエに吸われ、ウジ虫の餌になりますが、お構いなしです。

この第2話のゲストである「A・ラモット&R・マーカス」は小説家で、アルコール依存症だった経緯もあり、苦難をどう創作に活かしていくのか、とても説得力ある言葉が聴けます。

第3話では、アイスクリームの惑星を探し、アバターはチビザルで、水没ワールドへ。そこで出会ったのは金魚鉢野郎と猫船兵たち。「瞑想は大事だ」と瞑想の歴史について語られていき、「東洋はシンプルな悟り、そこにジェット燃料を注いだのが魔術だ」と発展し、話はオカルトな方向へ。「悟った後が大事なんだよ」と大切さを語ります。にゃー、にゃー、にゃー、ぐっぐっぐっ(親指)の猫たちが可愛い。

この第3話のゲストである「ダミアン・エコールズ」は、「ウェスト・メンフィス3」と呼ばれる1993年に起きた3人の男児の殺人事件について有罪判決を受けた3人の少年のうちのひとりです。オカルトじみた殺害だったため、悪魔的儀式に興味があった3人に疑いが向けられ、エコールズは死刑判決を受けるも、冤罪を訴える声が世界的に高まり、最終的に釈放となりました。

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悟ることはできましたか

第4話では、マーキュリータヴィレという天国のような快楽だらけの惑星にエロティックなアバターを作って行こうとしたところ、何かにぶつかって違う惑星に。殺伐とした中世ファンタジー世界で、口にバラをくわえている長身の強い奴にインタビュー開始。「自分が孤独なら他の人も孤独なの」「孤独の時は仲間を探すの」「深く耳を傾けると幸せになれる」とトークは弾みます。ボーイフレンドであるジェラルドを殺したジャム・ロール王子が回転斬り(下半身丸出し)してきたり、ジェラルドの生首にポーションで復活させたり、あれこれ起きていますが…。

この第4話のゲストである「トゥルーディ・グッドマン」は、マインドフルネス瞑想を心理療法に応用することに関する有識者で、本やセンター運営などの活動をしています。

第5話では、惑星R3T8というアバターの魂の刑務所へ。舌を切られた囚人がいて、その声を代弁しているのかしていないかわからない鳥にインタビュー開始。「幻覚剤のトリップ中にオーガズムは小さな死だと気づいた」といつものノリなのかなと思ったら、「メガゾード(パワーレンジャー)」とか「ウォークラフト」とか、スピリチュアル用語ではない単語も連発。「希望は苦しみの原因だ、自分を希望で殴っている」と力説。なお、現場では刑務所から脱出しようと何度も失敗して死ぬのを繰り返す展開が起き、まさにテレビゲーム。

この第5話のゲストである「ジェイソン・ルーヴ」は、瞑想や魔術、オカルティズムに関する体系的な活動をしている作家。ちなみに顔がマーク・ラファロに似ていると言われているようです(確かにそっくり)。

第6話では、シミュレーターが壊れてしまい、暇なのでパイ・メシアを検索し、注文するも、ゴミ。ご近所さんに押し付けます。そして今度はアイ・メシアを焼いたというシミュレーター。なんか壊れているのか? 修理屋に電話すると「君のシミュレーターは違法なVelma960だ、完全に壊れている、緑の油は塗ったか?」と言われ、なんやかんやで修復します。ブートン78914に住む瞑想マスターを紹介され、タコ保安官で送り込まれると、インタビュー開始。最初はクソつまらんと思っていましたが、安らぎを得ることに成功し、悟ったクランシーとして覚醒した気分になるのでした。

この第6話のゲストである「デヴィッド・ニックターン」は、作詞作曲家で、仏教の講師でもあるそうです。

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「僕は死んだ?」「ここにいるだけ」

第7話では、ブランク・ボールという何もない惑星へ。うっかり自分のバックに入ってしまいます。そこで出会ったのは「デス」…死そのものです。一つ目の死神の姿になってもらい、南北戦争で死体の防腐処理が広まった話から、葬儀屋の役割が生まれたこと、どうやって人は大切な人物の死と向き合うのかということに話が拡大していきます。ここでクランシーの口から亡くなった父の話が飛び出すのがとても重要です。

この第7話のゲストである「ケイトリン・ドーティ」は、モルティシアン(葬儀屋)で、YouTuberでもあります。

いよいよ最終話となる第8話。クランシーがシミュレーターを使おうとした瞬間、誰かが来ます。それは「母さん?」。

ここで『ミッドナイト・ゴスペル』のクリエイターである“ダンカン・トラッセル”の身の上話をしましょう。彼の母、デニーン・フェンディグは2013年に亡くなりました。臨床療法士であり、多くの人の死に付き添ってきた一方で、自分も乳がんと宣告され、余命は半年だと言われた経験も作中内で語られています。

つまり、この最終話では亡くなった母との対話を回想するようなメタ的構成になっているのです。そもそもここまでの一連の脈絡のないエピソードに見えるものも全てはここに集結するためのものでした。

あのシミュレーターは思いっきり女性器のカタチをしており、そこにクランシー(もちろん彼は“ダンカン・トラッセル”の分身)が頭を突っ込み、いろいろな世界で終末的な事態を経験します。これは輪廻転生しているわけです。

本作の物語は“ダンカン・トラッセル”が人生を歩むための思考の映像化。彼は両親の死を経験し、自分も精巣がんになったり、2018年には息子が生まれたりしています。

第8話ではゲストに母デニーン・フェンディグを迎え、幼い自分の姿でアバターはスタートし、やがて母は死に、自分自身が赤ん坊を産み、その赤ん坊が母になる…というループを経験します。まさに“ダンカン・トラッセル”の人生の早送りを見せられているように…。

そんな母の言葉は格別に響きます。

「家は壊れるものと常に思っていればいい」

死に直面する人に何かアドバイスは?と尋ねると「泣きたいときは泣いていい、どんなに怖くても顔を背けないで、痛くない」「死は無料で学べる講師よ、いい先生、本物の先生」と優しく諭す。

最後、二人は惑星になっており、ブラックホールに吸い込まれる母は「愛はどこにも行かない、それは確かよ」と残し、物理的存在が無くなるのでした。

死というものに向き合うのは全人類共通の宿命で、どうすればいいのか、正直言って私もわかりません。私も他者の死をいくつか見てきましたし、その多くでは自分は無能で立ち尽くすしかできなかったわけですが、でも正解も見いだせない。

そんなとき『ミッドナイト・ゴスペル』のような提案というのは、とても意表を突くものです。でも、もしかしたらこれが瞑想であり、悟りなのか。そんな気すらしてくる。こんな作品を作れるとは…。とにかく“ダンカン・トラッセル”の自分との見つめ合いの姿勢が本当に素晴らしいです。

今は本作の鑑賞後の穏やかさを心の支えにしておきたい…そういう気持ちです。

『ミッドナイト・ゴスペル』
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 88% Audience 93%
IMDb
8.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)Oatmeal Maiden, Titmouse, Inc., Netflix ミッドナイトゴスペル

以上、『ミッドナイト・ゴスペル』の感想でした。

The Midnight Gospel (2020) [Japanese Review] 『ミッドナイト・ゴスペル』考察・評価レビュー