こんな顔です…映画『ドミノ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2023年)
日本公開日:2023年10月27日
監督:ロバート・ロドリゲス
ドミノ
どみの
『ドミノ』あらすじ
『ドミノ』感想(ネタバレなし)
ロバート・ロドリゲスは普通にドミノを倒さない
「ドミノ倒し」という遊びがあります。いっぱい並べて、一気にパタパタパタっと倒す…あれですね。
このドミノ倒しにおける倒す“モノ”…これは元はと言えば「ドミノ」と呼ばれる「2つの同じ大きさの正方形をくっつけた形をしている牌」で、本来は麻雀やトランプのような類のドミノ・ゲームに使うものです。サイコロのような目が描かれていて、それを使ってゲームが成り立ちます。
歴史をたどると12世紀~13世紀の中国まで遡るそうですが、18世紀にはヨーロッパで普及します。このときは当然、ドミノ牌を本来のかたちでゲームとして使って遊んでいます。
ところがどこの誰が最初に思いついて始めたかは知りませんが、このドミノ牌を無数に立てて並べて一気に倒したら面白いと考えた人が現れたようで、気づけばドミノ倒しという完全に脇道にそれた遊びが成立していました。1976年に大規模なドミノ倒しがメディアに取り上げられ、瞬く間にちょっとしたブームになったとのこと。
日本では「ドミノ」と言えばドミノ倒しのことだと大半の人が認知しているくらいです。日本人もドミノ倒し、好きですよね。え? 好きじゃない? あれ、私だけかな…。
そして本題。今日、紹介する映画はその名もずばり『ドミノ』です。
でもこの映画の原題は「Hypnotic」なんですけどね。「催眠」という意味ですが…。世界中の多くの国でこの映画のタイトルは「催眠」の意味の各国ごとの題名がついているのに、日本だけ思いっきり全く違う「ドミノ」できているという、すごい浮きっぷり。これは、あれなのか、日本だったら「ドミノ」のほうが親しまれているからこれでいこう!…という配給の戦略なのか…。
一応、ドミノ倒しの要素もでてくるから邦題も偽りというわけではないんですけどね。
で、この原題が「Hypnotic(催眠)」というあたりでもう匂わせているのですが、本作はサイコロジカル・スリラーで、「一体どういうことなんだ!?」という謎だらけのシチュエーションに翻弄されつつ、二転三転する展開が売りとなっています。
当然、迂闊にネタバレすると話の面白さを削いでしまうタイプの作品です。だから、事前の紹介では何を説明すればいいのだろうか…。主人公は刑事で“ある人物”を追います…うん、それしか言えないかな…。
本作『ドミノ』を監督したのは“ロバート・ロドリゲス”。1992年に『エル・マリアッチ』で監督デビューした“ロバート・ロドリゲス”は、『フロム・ダスク・ティル・ドーン』や『シン・シティ』のような大人ジャンルのエンタメから、『スパイキッズ』『ヒーローキッズ』のような子ども向けのジャンルなど、多彩な創作の幅を持っています。
『アリータ: バトル・エンジェル』といった大作映画でも、『ボバ・フェット/The Book of Boba Fett』のようなドラマシリーズでも、なんでもござれな“ロバート・ロドリゲス”監督ですが、今回の『ドミノ』は比較的低予算な部類です。2019年にはこちらも低予算ながらスリルで引っ張る『Red 11』を監督していたので、この『ドミノ』もそれに連なる感じですかね。
ただ、『ドミノ』は主演に“ベン・アフレック”を配置しているので、ちょっとネームバリューを持たせています。今回の“ベン・アフレック”は…いや、これを言ったらネタバレだな…。『AIR エア』といった近年の監督業もなかなかにいい仕事をしていますが、こうやって俳優もしっかり両立していく“ベン・アフレック”、堅実です…。
共演は、『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』の“アリシー・ブラガ”、『アルマゲドン』の“ウィリアム・フィクナー”、『ザ・コントラクター』の“J・D・パルド”など。
“ロバート・ロドリゲス”監督はこの『ドミノ』の脚本アイディアを相当昔から温めていたそうで、ストーリーのノリは確かに“ロバート・ロドリゲス”監督が初期からやっていそうだなと思えるものです。
何度も言いますが、本作『ドミノ』は低・中予算規模の作品なので、そこまで大スケールな映像が目白押しというわけではありません。あくまで小粒な映画だけど「威勢のいい物語で攻めるやつだったな」と印象に残る、そんな出会いを期待してくれれば…。
『ドミノ』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :暇つぶしの気分で |
友人 | :俳優ファン同士で |
恋人 | :家族愛要素はある |
キッズ | :ややわかりにくいかも |
『ドミノ』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):疲れた顔がどう変わるか
ダニー・ロークはカウンセラーの前に座っていました。疲れ切った顔で、「ああ、すまない」と我に戻るローク。実はこの男は、公園にて7歳の娘ミニーがほんのちょっと目を離した隙に消えてしまい、その事件以来すっかり塞ぎ込んでいました。自分がそこにいたのに何も助けられなかった…その自責の念が彼を押しつぶしています。
事件は誘拐と思われ、娘は見つかりませんでした。それが原因で夫婦生活も破綻。スマホの中にしか家族の幸せな思い出はない状態です。
今はこうしてカウンセリングで苦しそうに打ち明けることしかできませんが、電話が鳴って仕事に向かいます。ロークは刑事です。この仕事で紛らわすことだけが自分の精一杯…。
ロークがカウンセリングの施設を出ると、相棒のニックスが車で迎えに来てくれていました。車に乗る前に何かを踏むローク。なんだろうか、違和感がある…。
とりあえず気にせずに車に乗り込むと、銀行の貸金庫の箱が盗まれるという匿名通報があり、不審な点もあったのですが唯一の情報なので対応に急ぎます。
その銀行の前で入念な設備と共に張り込みし、武装チームも待機。監視していると、謎の男がベンチに座り、隣の女性に「暑い日だ」と天気の話を語り、それから銀行へ向かいました。一見すると普通に見えます。でもロークは何かおかしいと勘づき、銀行へ直行します。
一方、その話しかけられた女性は「暑い」と言いながらフラフラと歩き、服をどんどん脱いでいき、道路にまで飛び出してしまいます。そして交通事故が起き、あたりは騒然。当の女性はお構いなしに噴出した水を気持ちよさそうに浴びています。
心配したロークは貸金庫の箱を確認。その中には「レヴ・デルレインを見つけろ」と書かれた「ミニーの写真」がありました。なぜここに? 理解できない事態です。
そして銀行のロビーで銃声が聞こえ、何事もなかったかのようにスタッフの女性が貸金庫の箱を取り出しに来ます。止まれと銃を突きつけても全く動じません。
そのまま貸金庫の箱は武装した男とあの女に盗まれ、ロークは追跡。屋上であの謎の男を追い詰めますが、他の捜査官2人に何かささやくと、急にその捜査官2人はこちらに銃を向けてきます。混乱しながらもロークはこの写真はなんなんだと問い詰めます。
次の瞬間、捜査官2人は互いに撃ち合ってしまい、謎の男は姿を消すのでした。
ロークは娘の失踪事件と関係していると睨み、捜査を進めます。そしてダイアナ・クルスという占い師に辿り着きます。けれども奇妙な銀行強盗の男の話を持ち出すと焦ったように「出ていって」と言うだけ。
しかし、直前にいた客の男がいきなり襲撃してきて、失敗すると自らの頭に破片を刺して命を絶つ出来事が発生。
ダイアナに署で事情聴取すると、あの謎の男の名はレヴ・デルレインで、ダイアナと「ディヴィジョン」という組織に所属し、そこで人の心を操る「ヒプノティクス」という能力に関わっていたという、信じられない話を聞かされることに…。
まだよくわかってない顔
ここから『ドミノ』のネタバレありの感想本文です。
映画『ドミノ』は終盤に至るまで主人公のダニー・ロークがひたすらにわけのわからない状況に翻弄される姿を眺めることになります。
“ベン・アフレック”の生気を失った顔はもう他の映画でも何度も観ていますが、『ゴーン・ガール』のせいで「こいつに非があるんじゃないか」という疑惑が初っ端から沸き上がって私はソワソワしていましたよ…。
でも今回の“ベン・アフレック”は依存症とかにはなってないです。『ザ・ウェイバック』みたいに何かしらの依存症で人生が沈んでいる役もよくやってきた“ベン・アフレック”ですし、そもそも本人も通じる経験をしてきているのですが、またそんな辛そうな姿を観なくてホっとしました。
もちろん依存症のような描写が主題になっていないのは、その後の真相でわかる”ある仕掛け”に観客を集中させたいからなのでしょうけど…。
ただ、それゆえにこの冒頭からロークについてはやっぱりかなり怪しく見えてきます。実在感みたいなのが全然描かれませんからね。
そしてさっそく明らかにされる脳のハッキングの能力「ヒプノティクス」。ハッキングというよりはマインドコントロールなのかもしれませんが、作中で見ている限り何でもありです。
ここからしばらくは「これは一体何なんだ…?」「それも…幻覚だよ…」みたいな展開が連発し、“ベン・アフレック”の顔を往復ビンタすることになります。
別に薬物にハマっているわけではないのに、すっかり現実がわからなくなって、終始キョトンとしている“ベン・アフレック”。可哀想だ…。
この展開におけるロークは「本当に主人公なのか?」っていうくらいに蚊帳の外で、刑事としてもさほど優秀に見えませんし、目の前で相棒は操られて撃たれてしまうし、メキシコに逃亡しても状況が掴めないばかりだし、頼りがいはゼロです。確かにこんな男だったら、すぐそばで娘くらい誘拐されてしまいそうだと思うほどに隙ありすぎです。
これも後のさらなる“大仕掛け”が明らかになれば、ある程度は納得がいくのですけど、それにしたって無能さが際立つポジションで、“ベン・アフレック”史上でも最弱そうですね。
やってやったぜという顔
映画『ドミノ』の中盤、やっとこの「ぼく、無能です…」みたいな顔つきで立っているだけだったロークに光があたります。
メキシコで操られた住人に囲まれた際、どうやらこのロークも「ヒプノティクス」が使えるんじゃないかという可能性が浮上。
ここから盛大なネタバレ。
実は同行していたダイアナ・クルスこそがロークの妻であり、2人の娘が秘密兵器「ドミノ」と呼ばれる逸材で、ロークはこの組織から娘を逃がすために脱出を決行し、娘を隠してしまったのでした。そしてその娘の在りかを探るために、組織はロークを大規模なマインドコントロールに陥らせ、この「カウンセリング→銀行→男の追跡→逃避行の謎解明の旅」の流れを何度も繰り返させていた…。
わざわざ映画のセットみたいなものまで作って、そこをカートとかで移動しながら、一連の場面を移動しているロークのあの何とも言えない間抜けっぷり。
どおりでロークの顔に疲労と無感情がこびりついているわけです。これはきっと“ベン・アフレック”による、つまらない映画でも頑張って出演しているときの心情を反映させた演技なんだな(そうか?)。“ベン・アフレック”ならそんな感じで仕事していそうだもん(失礼です)。
小規模『インセプション』だと思ったら、蓋を開けてみれば小規模『トゥルーマン・ショー』だった…くらいのオチ。ロークはもうすっかり疲弊しているので、全然ショーになってないですけども、疲れるのも無理はない…。
ここでロークの渾身の反抗。こんなクソな仕事辞めてやる!と言わんばかりの大脱走。おお、そうだそうだ、辞めてしまえ、いいぞ!
最後は娘と再会し、この娘がラストの大仕掛けをドヤ顔で明かしてフィニッシュです。
まあ、ずっと思ってましたけど、この映画、基本は永遠と後出しじゃんけんなんですよね。だからプロットのロジックを考えるというよりは「これはこうだ!」「いや、それよりもさらにこうだ!」という上乗せ合戦で終わってしまうので、私はこのタイプは少しサスペンスとしての緊張感に欠けると思うんだけど…。
最後は娘が持っていくので、ここでもロークは再度蚊帳の外に戻ってしまうのですが、自分の娘なので多少誇らしく立っていました。やってやったぜという顔です。本人がそれでいいなら、まあいいか。
ちゃんとエンディングでは家族ドラマという体裁で寄り添って終わるというあたりは(そしてラテン系のルーツも忘れない)、“ロバート・ロドリゲス”監督はつい最近も『スパイキッズ: アルマゲドン』でもそうでしたが、基本として家族を第一にする人ですよね。
この映画だって、プロデューサーや編集、音楽などの製作面で“ロバート・ロドリゲス”監督の家族が関与していて、ほとんど家族製作な作品になっていますし…。
そんなふうに丸く収まったと思ったら、別にやらなくてもいいのにエンドクレジットで「アイツが生きていた!」というオマケのオチまで見せるこの映画。“ロバート・ロドリゲス”、わざと片付けをしない悪ガキの手癖、いつまでも大切に…。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 33% Audience 62%
IMDb
5.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
関連作品紹介
ロバート・ロドリゲス監督の作品の感想記事です。
・『ヒーローキッズ』
・『アリータ バトル・エンジェル』
作品ポスター・画像 (C)2023 Hypnotic Film Holdings LLC. All Rights Reserved.
以上、『ドミノ』の感想でした。
Hypnotic (2023) [Japanese Review] 『ドミノ』考察・評価レビュー