ワーナーに捨てられ、Netflixに拾われた…Netflix映画『モーグリ ジャングルの伝説』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:イギリス・アメリカ(2018年)
日本では劇場未公開:2018年にNetflixで配信
監督:アンディ・サーキス
モーグリ ジャングルの伝説
もーぐり じゃんぐるのでんせつ
『モーグリ ジャングルの伝説』あらすじ
ジャングルで野生動物たちと一緒に育ったモーグリという名の人間の少年は、自分は何者なのかと悩む。他の個性豊かな動物たちと自分は違っている。そんなモーグリに危険な魔の手が迫っていた。待ち受ける運命の先には何があるのか。
『モーグリ ジャングルの伝説』感想(ネタバレなし)
Netflixの拾い物シリーズ
映画会社「大事な話がある」
製作中の映画「なに?」
映画会社「もう私では面倒みきれない」
製作中の映画「え」
映画会社「いいか、とにかく映画館では公開は無理だ」
製作中の映画「そんな!ここまで頑張ってきたのに」
映画会社「惜しいとは思っている。でもこっちにも事情があるんだ」
製作中の映画「じゃあ、僕はどうなっちゃうの」
映画会社「それは…なんとも」
???「ちょっと待った!」
映画会社「お前は…Netflix!」
Netflix「その話、聞かせてもらった」
製作中の映画「どういうこと?」
Netflix「うちで引き取ろう」
製作中の映画「それはネット配信ってこと? そんな急に…」
映画会社「はい、じゃあ、お願いします」
Netflix「うむ」
製作中の映画「えぇーーー」
最近はこういうパターンの映画が本当に増えました。
そろそろこのパターンの経緯をたどった映画に総称として名前をつけたいところ。個人的には「モーグリ・ムービー」って呼べばいいんじゃないかと思ったりも。
ほら、「ジャングル・ブック」の主人公モーグリは人間社会から引き離され、ジャングルで育つじゃないですか。そんな感じですよ。
そんなことを思っていたら、まさに「ジャングル・ブック」を題材にした映画が全く同じ目に遭っていました。
本作『モーグリ ジャングルの伝説』は、もともと『Jungle Book: Origins』というタイトルでワーナー・ブラザースが製作していた大作で、その名のとおりラドヤード・キップリングの名作小説「ジャングル・ブック」の実写映画化。この「ジャングル・ブック」はこれまで幾度も映像化されてきたのですが、最新映像で再映画化するという確かに狙う価値のある企画でした。製作は紆余曲折あり、監督は、映画『ハリーポッター』シリーズの脚本でも有名なスティーヴ・クローヴスだったり、今ではアカデミー賞常連となったアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥだったり、困った時のロン・ハワードだったり、コロコロ変わったのち、結果、モーションアクターの巨匠になっている“アンディ・サーキス”にバトンが回ってきて、「“アンディ・サーキス”初監督作」という宣伝文句もつきました。
ところがワーナーがまごついているうちに、しれっとディズニーがアニメ版「ジャングル・ブック」を実写映画化し、しかもこの2016年のジョン・ファヴロー監督版『ジャングル・ブック』がなかなかの良作だったものだから、さあ、大変。
ワーナーも「やばい」と思ったのか、公開を2年遅らせて2018年に設定するも、さすがに興行的な成功は見込めないと降参したらしく、Netflixに全世界の配給権を売りました。
まあ、さすがに今回はタイミングが悪かったですよね。早い者勝ちだったなぁ…。あと公開が4~5年早ければ、もっと話題になっただろうに…。どうしたって「また、ジャングル・ブック?」って観客に思われてしまいますもんね。
ちなみに“アンディ・サーキス”は2017年に『ブレス しあわせの呼吸』という監督作を公開しちゃったので、『モーグリ ジャングルの伝説』は初監督作ではなくなりました。
どうしてもディズニー版実写『ジャングル・ブック』を鑑賞済みの人は既視感が多めだと思いますが、歌の要素もなく、若干ダークな側面もチラつかせる“亜種”としてお楽しみいただけるのではないでしょうか。
もとは劇場公開作として企画されただけあって、声をあてている俳優も豪華です。少年が“クリスチャン・ベール”に拾われ、“ナオミ・ハリス”らに育てられ、“ケイト・ブランシェット”に意味深なことを囁かれ、“ベネディクト・カンバーバッチ”と戦います。
映像も豪勢ですし、なるべく大きい画面で鑑賞したい映画です。スマホよりはパソコン、パソコンよりは大画面テレビで観ましょう。
『モーグリ ジャングルの伝説』感想(ネタバレあり)
人面動物の楽園です
これはどうあがいても避けられないことですが、本作『モーグリ ジャングルの伝説』はディズニー版実写『ジャングル・ブック』と比較してしまいます。その論点で考えると、結構、対比できるくらい両極端な違いがハッキリした映画になっているのではないでしょうか。
最も異なるのは動物の描き方です。
ともに最先端のCGを駆使して非常にリアリティを重視して創られているのは同じですが、創造する際の基本的なコンセプトが全く違います。
ディズニー版実写『ジャングル・ブック』の場合、監督のジョン・ファヴローがインタビューで言っていましたが、クラシック・ディズニーアニメに登場した動物たちをそのままCGに置き換えたように描いています。つまり、可能な限り本来の動物そのままの動きを再現し、過度な擬人化をしないという方針です。なので、CGとなった実写『ジャングル・ブック』では限りなく本物に近い動物が外見だけでなく、動作まで忠実に表現されています。もちろん、喋ったりするのですが、口元などをなるべく映さないなどの工夫で、違和感を抑えており、そのぶんのミュージカル的な歌唱シーンでエンタメ成分を増しているというバランスでした。
対する“アンディ・サーキス”版の本作は、さすがモーションキャプチャーの第一人者である“アンディ・サーキス”なだけあって、動物の表情演技に力点を置いていました。登場するさまざまな動物たちがほぼ全員、実際の動物ではありえない“人間じみた”表情をしまくります。
声を演じた俳優の顔をキャプチャーしているので、動物の顔が俳優にそっくりなんですね。クマのバルーは、声が“アンディ・サーキス”なので、顔もそのまんまです。ただ、“アンディ・サーキス”はクマ顔だと思うので、あんまり違和感ありませんでしたね。
笑ってしまったのが、オオカミのリーダーであるアキーラです。映画を観た人ならすぐに感じたはず。「えっ、ずいぶん個性的な顔のオオカミだな…」と。そう思ったのなら、ぜひ声を演じた“ピーター・マラン”という俳優の顔を検索して調べてみてください。瓜二つですから。正直、こんな顔のオオカミ、絶対にいないのですけど、この顔をOKにして押し通すあたりが、この映画の方向性を示しています。
さすがにヘビのカーは、人間顔にするのは限界があったみたいですが…。
ともあれ、“アンディ・サーキス”もフェイシャル・モーションキャプチャー魂が注ぎ込まれた一作なのは間違いありません。
終盤から滲み出るダークさ
あともうひとつ、違いといえば、ダークでシリアスな部分があるということです。これは事前に“アンディ・サーキス”監督が、本作とディズニー版実写『ジャングル・ブック』の違いについて言及したものとしてクローズアップされていた要素。
最初、本作を見始めたときは「なんだ、そんなにダークではないじゃない、子どもでも観れるよ」なんて思っていました。序盤の導入はかなりディズニー版実写『ジャングル・ブック』に通じるものもあって、おなじみ。ましてや本作の場合、動物の顔が人間ですから、余計に親しみを持ちやすい印象すらあります。
ところが、モーグリが火を使ったことで、オオカミたちジャングルの世界から追放され、人間の村に捕まって以降、雰囲気がガラリと変わります。とくに人間の欲の怖さをまざまざと見せつけられる、あのアルビノのオオカミの子どもの生首シーンは完全にホラー。
「君は失敗作なんだ」とアルビノのオオカミに言い放ったり、モーグリ自身も自分の特殊性に悩んでいたり、そんなテーマに対して、その珍しさは個性でもある一方で、希少価値として欲の対象にもなるという二面性が突きつけられる本作。社会風刺SFの側面がグッと前にでるあたりは、確かにダークです。
その後、ゾウの協力で人間の村を破壊するのですが、この展開は原作小説の続編である「続ジャングルブック」からインスピレーションを膨らましたのでしょうけど、スケール的には同様の展開がある『ターザン:REBORN』にも劣るので、終盤の見せ場としては物足りなさはあります。
それでも“アンディ・サーキス”といえば「猿の惑星」でも定番である“動物たちの反逆”を描くのはお約束になってきたところもありますから、期待していたものを見れた満足感はありました。
ちなみに“アンディ・サーキス”監督は次回作として、なんとあのジョージ・オーウェルの小説「動物農場」をNetflixで映画化する予定だとか。動物たちが人間の農場主を追い出して理想的な国を築くが、動物だけの世界は決して平和ではなく…というディストピアSFの代表格です。『モーグリ ジャングルの伝説』はこの「動物農場」のイントロみたいなものですね。きっと今度の映画は相当にダークなものを見せつけてくれるとワクワクしています。
このキャラは何の動物?
はい、ここからは動物解説のコーナーです。
子どもとかに「この動物は何?」と聞かれたときの参考にしてください。
本作の舞台はアフリカだと勘違いされやすいですが、インドです。アフリカなのは「ターザン」のほうですね。原作者のラドヤード・キップリングはインド出身であり、ジャングルに登場する動物たちもインドの生き物ばかりです。
まずバギーラは「クロヒョウ」。厳密には「ヒョウ」の遺伝子が変異して黒い姿で生まれた個体なので、クロヒョウという生物種は存在しません。「ブラックパンサー」と呼ばれることもあります。アフリカ大陸からアラビア半島・東南アジア・ロシア極東と、非常に広範囲に生息しているので、実は最もどこにでもいる野生のネコ科動物です。朝鮮半島にもいるので、日本列島にいてもおかしくないですが、幸か不幸か分布はしていません。ヒョウ柄は美しく、毛皮狙いの密猟で絶滅の危機に瀕しています。
続いて、シア・カーンは「ベンガルトラ」。トラは、インドからロシア東部までこれまた広い範囲に生息していますが、アフリカにはいません。絶滅危惧種ですが、密猟はいまだにあって、家畜を襲うなどの被害によって地元では争いの火種にもなることもしばしば。映画で起こっていることはあながちフィクションではないのです。
バルーは「ヒマラヤヒグマ」です。作品によってはバルーは「ナマケグマ」という扱いになっていることもありますが、少なくとも本作では怠けてもいないので、ヒグマかな。かなり限定的な場所にしかいないクマで、その珍しさのせいなのか、イエティの正体はこのヒマラヤヒグマだとも言われています。北海道にいるヒグマと基本は同じ生き物です。獰猛そうに見えますが、基本は雑食。映画に登場するトラやヒョウ、オオカミと比べれば、食生活は人間的です。
モーグリを育てるアキーラなどは「インドオオカミ」です。オオカミはいろいろな亜種がいるのですが、インドオオカミはそのひとつ。実はインドではトラ以上に人を襲う動物として忌み嫌われている一面があるのですが、インド神話にも登場するので、良くも悪くも人間とは関係の深い動物なのでしょう。ヒョウとは餌を奪い合うライバルですが、映画では仲良いですね。ちなみにオオカミの群れは「パック」と呼ばれます。
作中でタバキーというボロボロな動物が現れますが、一瞬なにこれ?となりますけど、あれは「シマハイエナ」です。アフリカにもいる、ごく一般的なハイエナですね。なんでハイエナはいつも悪者なのでしょうかね。
巨体がインパクトのあるカーは「インドニシキヘビ」。東南アジアにいる大型のヘビですが、最大で8mを超える個体が記録されています。それだけ大きければ、ヒョウを食べることもあるらしく、おそらく映画に登場する動物で最強の捕食者はこのインドニシキヘビでしょう。
他にも「インドゾウ」「ハヌマンラングール」などが登場していました。
動物を知るきっかけにするのも良いですね。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 57% Audience 83%
IMDb
7.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★
作品ポスター・画像 (C)Netflix
以上、『モーグリ ジャングルの伝説』の感想でした。
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