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『陰陽師 とこしえの夢』感想(ネタバレ)…Netflix;式神みたいな恋をした

陰陽師 とこしえの夢

中国の式神バトルをご覧あれ…Netflix映画『陰陽師 とこしえの夢』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:The Yin-Yang Master: Dream of Eternity
製作国:中国(2020年)
日本では劇場未公開:2021年にNetflixで配信
監督:グオ・ジンミン

陰陽師 とこしえの夢

おんみょうじ とこしえのゆめ
陰陽師 とこしえの夢

『陰陽師 とこしえの夢』あらすじ

数百年に一度目覚めるという強大な不死の魔物。その異形の怪物は放置していれば、世界に混沌をもたらすものであり、封印をしなくてはいけない。4人の陰陽師が守護神を召喚し、魔物を祓うべく集結する。そこには師匠の死を目の前にして自分の運命に直面したばかりの陰陽師もいた。しかし、都には恐ろしい陰謀を抱いた者が虎視眈々と策略を張り巡らしており…。

『陰陽師 とこしえの夢』感想(ネタバレなし)

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中国版「陰陽師」の召喚!

2021年2月、競争が激化しつつある動画配信サービス業界で独走している「Netflix」は月額料金の値上げを発表しました。ベーシックは880円から990円へ、スタンダードは1320円から1490円へ。日本の料金アップは2018年8月に次いで2度目。今後さらにコンテンツを制作していくためにも、ここで収益をあげておこうという算段なのでしょうか。このペースだと10年後くらいには2000円とかになりそうだけど、それはないか…。

個人的にはまだ値上げは許容できる範囲とはいえ、おカネを支払っている以上はいろいろな注文をしたいところです。そもそもこういう動画配信サービスは何を観れるのか、こちらで選択するわけではなく、蓋を開けてみないとわからないタイプですから。支払う側としては“自分の観たいコンテンツ”を配信してほしいと思うのは当然のこと。

私は中国映画をもっと取り扱ってくれないかなと思います。中国映画業界では年間興収が北米市場を超え、初の世界1位となりました。これはもちろんコロナ禍の特殊な事情があるゆえですが、それでも著しい回復力を見せたのも事実。2020年度の全世界興行収入1位だった映画は中国の『八佰』で興収31億1000万元(約494億5000万円)。日本の『鬼滅の刃』ブームも凄かったですが、やっぱり中国は規模が違う…。本気を出さずにこの数字ですからね…。

そんな今や無視できない中国映画なのに日本ではそのほとんどが公開されていません。中国の権利元が海外展開をしようとしないのか、それとも日本の配給側が買おうとしないのか、よくわかりませんが、とにかく中国映画を観れない状況。今の中国映画は巨大怪物が登場するものだったり、凄いスケールの世界観だったり、絶対に日本の映画マニアにも受けそうな作品もあるのに、このスルー状態。もったいないですよね。世界トップの市場を持つ国の映画がよく観れていないっていうのもおかしな話です。

だから私はNetflixに中国映画を期待したいのです。

…と、そんなことを思っていたら中国映画大作を配信してくれました。それが本作『陰陽師 とこしえの夢』です。

タイトルですぐにわかりますが、本作はあの“夢枕獏”の小説「陰陽師」を実写化した中国映画版。原作の「陰陽師」は、平安時代の陰陽師・安倍晴明の活躍を大胆にアレンジして描いた伝奇小説で、日本では話題になりました。漫画にもなったのでそれで知っている人も多いでしょうし、2001年には稲垣吾郎の主演でドラマシリーズ化し、2015年と2020年にも単発でテレビドラマ化しています。さらに野村萬斎の主演で映画化し、2001年に第1作『陰陽師』、2003年に続編『陰陽師II』が公開され、映画界隈を盛り上げました。今もこの日本映画はレンタルで観れると思うので探してみてください。

ややブームは過去のものになったのかなと思っていましたが、ここに来て中国から映画をお見舞いされるとは…。

『陰陽師 とこしえの夢』の監督は“グオ・ジンミン”(郭敬明)という人。大半の日本人には「誰?」という反応でしょうけど、中国では非常に有名なクリエイターで、1983年生まれで若いのですが、中国で最大の成功をおさめた商業同人作家と評されるほどの人気で、とくに若い女性の間では支持が絶大なのだとか。確かに写真を見ると、すごくイケメンで、アイドルとしても人気がでそうな雰囲気を持ってます。小説・映画・俳優とマルチで活躍しており、大学在学中の2003年にファンタジー小説「幻城」でデビューし、映画では『Tiny Times』(2013年)を監督し、シリーズ化もしています。

一方でこの“グオ・ジンミン”はスキャンダルも起こしており、一番は盗作騒動。いくつかの作品が盗作ではないかと疑われ、業界から反発を受ける事態に発展(中には日本の作品からの盗作を指摘されるものも)。さらに性的暴行を告発されたりと、カリスマ的な支持の中でもあれこれとスクープに事欠きません。そういう背景もあり、熱狂的なファンがいる反面、コテンパンに酷評されていたりもします。

おそらくこの“グオ・ジンミン”は日本コンテンツなど中国の若者層にウケそうなカルチャーを引っ張ってきて自己流に手を加え、中国市場で人気を獲得したんでしょうね。今回の『陰陽師 とこしえの夢』もそういう経緯を知るとなぜ今になって誕生したのかわかる気がします。

中身としてはこれぞ陰陽師という感じで、中国になっても作品性はそこまで変わっていません。もちろん中国映画らしく凄まじい物量の映像で圧倒してきますし、イチイチ話のスケールがデカいですけどね。

“グオ・ジンミン”という中国の人気クリエイターの手によって蘇ったという意味では盛大な二次創作映画であると言えるかもしれません。

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『陰陽師 とこしえの夢』を観る前のQ&A

Q:『陰陽師 とこしえの夢』はいつどこで配信されていますか?
A:Netflixでオリジナル映画として2021年2月5日から配信中です。
Q:鑑賞前に原作の「陰陽師」を読んでおく必要はありますか?
A:読まなくても物語は理解できるでしょう。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(気楽に観れるエンタメ)
友人 ◯(暇つぶしにどうぞ)
恋人 ◯(暇つぶしにどうぞ)
キッズ ◯(子どもでも見れる内容)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『陰陽師 とこしえの夢』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):誰を想う?

「お師匠様、守護呪が出せません」と弱音を吐く子ども。その子の前に毅然と立つ師匠の男は「清明よ、命を懸けて守りたい者がいるか?」と尋ねます。

「母です」「では母を想え」

何度も試す子ども。それはやがて大人になっても続きます。鍛錬に終わりは見えません。

「守護呪は必要なものでしょうか」と清明は疑問を口にします。別の空間を繋げ、攻撃を回避することもできるため、いまさらなぜ守護呪が求められるのか理解できません。

「真に強大な敵と出会ったらどうするのだ? お前は最も優秀なる弟子だ。守護呪は陰陽師にとって最も基本で最強の印。使えないお前は真の陰陽師ではない

師匠はそう告げます。

すると大きな音。何か強大な存在が蠢くのを2人は見ます。それは大蛇です。師匠はすぐさま式神を召喚。雪天狗、金霊子、狂画師…この3体が空から光とともに出現しました。

戦闘が始まります。敵は巨大。攻撃は激しく、飛んできた牙のようなもので、師匠は怪我を負い、金霊子は身代わりのように消えてしまいました。

ひとまず大蛇「禍蛇」を抑え込んだものの、師匠は苦しそうです。解毒する薬はないのかと質問すると、「禍蛇は天地開闢以前から存在していた生き物だ。この世の執念と欲を糧とし、衰えることなく、永遠に生き続ける」と語り、解毒は不可能であるという残念な事実を教えます。

あれは影であり、本体は天都城にいるらしく、ある者が体を器として禍蛇を封印しているのだとか。そして歴史を語ります。300年前のこと。南彊・東島・西域・北天都…4つの流派が力を合わせ、蛇を天都城に封じ込め、青龍・朱雀・白虎・玄武という四神の像に守護させた。各流派最強の法師が影を斬ってきた…。

「今はお前だ。東に迎え」と言い放つ師匠。自信なさげな清明。それでも死に際の師匠は「お前の名は陰陽師だ」と強く言葉を残すのでした。

それから…。賑やかな都に来た清明。明かりで煌めき、人々は幸せを享受しています。すると妖魔を察知。それは愛する者を想うゆえに玄象という琵琶を盗み出した存在でした。同時に別の法師「博雅」もやってきて、この妖魔を倒そうとします。しかし、清明は妖魔に情けをかけ、黒い衣をまとう博雅は驚き、考え方の違いから一触即発に。それを交わし、清明は退散します。

その後、あの妖魔が話しかけてきて「あなたの式神になりたい」とお願いし、「殺生石」と名乗りました。

祭天大典が間近に迫った日。また再び会う清明と博雅。そこに女性、南彊の阿瀧(アーロウ)法師も加わり、博雅を諫めます。さらに鶴守月という男も現れ、この司天監は結界で守られているので妖魔は通さないと言います。彼は内廷の法師でここを統べているそうです。

翌朝。公主が姿を見せます。30歳になっても嫁がない謎めいた人物です。しかし、4人集まるはずがもうひとりの法師が来ません。そこに亡くなったという知らせが…。

殺人など前代未聞。御簾の奥で姿を見せず、影だけが見える女帝は一刻も早く妖魔の問題の解決を命じ、鶴守月を法師の代わりとします。

結界も破られておらず、痕跡もない。すでに何者かが侵入しているのか。

阿瀧は妖魔を見つけられるオタマジャクシを試すも、一度は清明に反応してしまい、疑心暗鬼に。さらには今度は公主に反応するオタマジャクシに、間違いも多いですとその場はなかったことにする阿瀧。結局は有耶無耶です。

こうして互いの疑念が消えぬまま、蠢く妖しい存在を解き明かすことになりますが…。

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蛇が吠える!街で暴れる!

『陰陽師 とこしえの夢』の見どころはまず映像。さすがの中国。物量で攻めていくようなパワープレイです。

冒頭からいきなり観客の心を掴む映像の乱れ撃ち。式神を投入しての禍蛇との対決シーン。最初からクライマックスなんですが、もう「何が起こっているのかわからんが、とにかく凄いことが起こっている」…みたいな感想を抱くしかない。

一応、式神が登場するときは名乗り上げるんですけど、つまりなんなんだよという説明は全くないという…。この“感じ取れ!”的なゴリ押し。凄いですよ。

中盤では式神といったあれこれな術で探り合いをする法師たちが注目ポイントになり、ここでもさりげなく映像で楽しませます。

あの阿瀧の「妖魔に反応するオタマジャクシ」とか、無駄に面倒くさい手段が出てくる感じも嫌いじゃありません。わざわざ飼育しているのかなぁ…。

蝶に変身する女性の姿をした式神の蜜虫とか、何しに出てきたのだろうという疑問もあるけど。式神の出番を増やしてもっと個性と愛着を持たせてほしいですね。

法師の戦闘スタイルとしては陣を使ったもので『ドクター・ストレンジ』で観たやつです。まあ、こっちのアジア圏の方が本家ではないかとも思うのですが、とりあえず既視感はあります。個人的には清明の陣はどうもデジタルっぽさが強すぎるような気もするのですけど、あれくらいかな。

中盤に出現する敵として、髪の妖魔がビュンビュン飛び回りますが、あそこあたりはVFXとしては普通。

そういえば、本作の街並みといい、どれくらいがセットで、どこまでがVFXなのかな。かなりVFX寄りのような気もしたけど。

そしていよいよ終盤。公主こそ女帝であり、御簾の奥にいたのは紙人形だと判明するという大オチも暴露され、大蛇が街で大暴れ。完全に怪獣映画です。この禍蛇もどこかで聞いたような怪獣みたいに吠えるんですよ。蛇なら「しゃー!」って音を出すのかなと思うじゃないですか。まさか吠えるとは…。

禍蛇と一体化した鶴守月とのバトルは激しさを増し、式神の戦闘も本当にクライマックスに。鶴守月、あれじゃあ身動きとれないのではと思いましたけど、蛇の体表ならどこでも飛び出せるみたいでなんかシュールではありましたが…。

世にも珍しい蛇サーフィンも観れるし、ヘンテコな映像だった…。

ただ、不満があるとすれば陰陽師は棒立ちすぎやしませんか。なんか式神にやらせておいて、自分は見上げて眺めているだけのような…。あれではポケモンに戦わせている人間みたいじゃないですか。

理想を言えば、式神と禍蛇が巨大バトルをしつつ、陰陽師と鶴守月は地上で肉弾魔法戦をしているという絵が見たかったです。阿瀧とかも実は死んでませんでした!死んだふりでした!という感じで再登場し、どんどん戦闘に参加してほしかったかな。オタマジャクシがカエルになって巨大化してくれたら最高だった(妄想)。

そういう意味では終盤のスペクタクルはまだまだ味が薄い、もっとトッピングが欲しいところでした。

でも中国も明らかにマーベル・シネマティック・ユニバースの影響を受けているなと思いますし、アクションもこれまでの武侠映画的なスタイルから変化していると感じますね。今後はもっとCG重視のアクションになっていくのか。中国のアクション映画大作の動向が気になります。

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「私をお前の式神にしてくれ」

そんな映像が真っ先に目が行く『陰陽師 とこしえの夢』ですが、真の見どころはキャラクターの人間関係であると思う人もいたはずです。いや、これは露骨だったと思います。

つまり、清明と博雅のBL的な関係性構築が…。

最初は「お前なんか大嫌いだよ」だったのが、「まだ信用できないけど、悪い奴じゃないかもな」に変わり、「なんだよ、お前のそういうとこ好きだぞ」にデレ始め、「やっぱりお前は本当に俺の信じられる相手なのか」と再度感情をぶつけ、最後は「お前とならどこへでもいく」と添い遂げる。これをBLと言わず、なんというのか。

清明がまたいい感じで博雅を振り回す男だし、この博雅も振り回しやすそうな男なんですよね。で、この2人が仲良くなる最初の共同作業が「おでこミミズを引っ張る」というちょっと絵面としては笑ってしまいそうな珍シーンなんですが、あそこでの博雅のびびりようがまた面白くて、きっと清明はあそこで博雅をすっかり気に入ったと思います。俺の男だなって(何が)。

それからの再び清明を疑う博雅でありつつも、鈴を渡してくれて「危険な時は私の名を呼べ」からの「危険な時は」「お前の名を?」の掛け合いといい、もう完全に以心伝心のカップル成立しているじゃないですか。

この後、博雅は鶴守月に右手を切り落とせと命じるというかなりの無茶ぶりを担当することになるのもちょっとおかしくて、いっつも損な役をしている気がする(というか清明も遊んでいるんじゃないか)。

そして禍蛇の大暴れ終盤での、博雅の「私の体を使って朱雀を降臨させるんだ」という最大の決断にして最後の言葉「私をお前の式神にしてくれ」。来ました、プロポーズです(大盛り上がり)。

これをもって2人はめでたくゴールインしました。おめでとうございます。

もう式神に生まれ変わった博雅の晴れ晴れしい雄姿。いろいろな経験をして愛に身を捧げた男の顔ですよ。

でもなんで半裸になるんだろう。博雅も鶴守月も半裸で殴り合いをするし、それを下で眺める陰陽師という構図だし、なにこれ、清明はそういう男同士の揉み合いを見物する趣味があるタイプのお人なのか。

とにかくこの清明と博雅のBL的な関係性構築がアツすぎて、一応のメインだった芳月との儚い愛とか、私の中では割とどうでもよくなってしまった部分もなくはない。阿瀧の退場もなんか邪魔だったからというだけの気もするし、鶴守月の存在も2人の間を引っ掻き回す男のポジションにしか見えなかったかな…。

『花束みたいな恋をした』並みのラブラブと切ない現実が待っていましたね、今作には。まあ、でも式神になっているし、こっちはあらゆるリアルな障害をファンタジーという名の荒業で凌駕してしまったけどね。

中国って同性愛などの表象はアウトな割にはBL的なネタの提供はしっかりしてくれるし、そこのところは緩いですよね。おそらく中国の同性愛当事者もそんな部分にいっときの餌をもらえている感じなんじゃないだろうか。

『陰陽師 とこしえの夢』はなんでも続編も企画しているらしく、まだあの2人の関係性が見れるかもしれません。次はどんなプロポーズが待っているのか、楽しみです。

『陰陽師 とこしえの夢』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience 91%
IMDb
6.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★

作品ポスター・画像 (C)Netflix

以上、『陰陽師 とこしえの夢』の感想でした。

The Yin-Yang Master: Dream of Eternity (2020) [Japanese Review] 『陰陽師 とこしえの夢』考察・評価レビュー