なかなか結婚させてくれないループ…映画『ネイキッド』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:アメリカ(2017年)
日本では劇場未公開:2017年にNetflixで配信
監督:マイケル・タイデス
ねいきっど
『ネイキッド』物語 簡単紹介
『ネイキッド』感想(ネタバレなし)
裸ギャグもあるNetflix
Netflixというと、この映画感想ブログでも数多くの映画を紹介しているとおり、大手の映画配給会社が劇場公開しないような尖った作品をたくさん扱っています。なかには「これは名作・傑作だ!」という至極の一作にも巡り合えたりして、「Netflix=隠れた良作に出会える場所」みたいになっています。劇場もTVも有名作品ばかりしか公開・放映しなくなった現在、Netflixはこういう偶然良い映画にばったり巡り合う体験ができる数少ない場所と言えるでしょう。
しかし、当然といえば当然なのですが、Netflixで扱っている作品が全て誰でも親指をグッと上げるようなものとは限りません。場合によっては「なんでこれをNetflixは配給しようと思ったの?」という困惑の反応でユーザーに受け止められる作品も…。
最近、まさにそんな感想が散見されたのが、Netflixが2017年8月に独占配信した本作『ネイキッド』というコメディです。
この作品はなかなか結婚できないループに陥った男の話。といっても、婚活に何度も参加しても相手を見つけられない人の話じゃありません。文字どおりループものです。結婚を直前に控えたお調子者黒人の主人公が、式当日に目覚めるとなぜかエレベーターで素っ裸。しかも、何をやっても何度もこのエレベーター&素っ裸状態に戻ってしまい、絶体絶命。彼はこの最悪のループを抜け出し、無事、結婚できるのか…というストーリー。雰囲気的には、結婚式前のパーティの後に記憶を失って大騒動を繰り広げつつ結婚式を済ませようとする『ハングオーバー!』シリーズに、タイムループ要素を足したようなものです。
監督の“マイケル・タイデス”は、本作でも主演する“マーロン・ウェイアンズ”とコンビを組むことが多い人で、パロディ作品をよく撮っています。例えば、前作は『Fifty Shades of Black』という作品で、これは公開前から話題の大きかった官能ベストセラー小説を映画化した『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』のパロディ。『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』自体がゴールデンラズベリー賞を受賞するほど散々な評価だったのですが、そのパロディでもある『Fifty Shades of Black』も評価はどん底でした。
そのコンビの最新作となる本作は、なんでも2000年のスウェーデン映画『Naken』のアメリカ・リメイクらしいです。私は元の『Naken』を観たことがないので確かなことは言えないですが、もしかしたら本作もパロディ的な位置づけが大きいのかもしれません。
とまあ、そんな『ネイキッド』なのですが、評価は「なんでこれをNetflixは配給しようと思ったの?」という声が上がるくらいの微妙さなわけです。私も個人的には面白かったかと言われると…。
ただ、こういうコメディはツボに入る人とそうでない人の差が激しいジャンルですから、他人の意見はあくまでいち感想に過ぎません。少なくとも“マイケル・タイデス”&“マーロン・ウェイアンズ”のコンビが好きな人は必見ですし、結婚ドタバタコメディが好みの人も受け入れやすいと思います。逆にループのSF部分には期待しないほうがいいかな…。あと、音楽家の“ブライアン・マックナイト”が本人役でがっつりゲスト出演しているので、それが見たい人は観る価値ありです。
「なんでこれをNetflixは配給しようと思ったの?」なんて言う意見もありますが、こんなニッチな映画を届けてくれるのもNetflixならではじゃないでしょうか。
『ネイキッド』を観る前のQ&A
A:Netflixでオリジナル映画として2017年8月11日から配信中です。
『ネイキッド』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):なんでこうなった?
子どもたちに文学を楽しく教えるロブ・アンダーソン。「ライ麦畑でつかまえて」と「蠅の王」、どちらが好きかを生徒たちに訊ねます。先生であるロブの答えは…「蠅の王」。
ロブは臨時教師でここに来ているだけでしたが、メロン校長いわく、まだ本来の先生の治療が終わっていないので正規雇用で働かないかと持ちかけられます。しかし、「私は週に2~3日が限界です。失礼します。明日、結婚するので」と断ります。
急いで空港に向かいますが、飛行機に乗り遅れます。でも恋人メーガンの機転で次の便に乗れることに。宝くじを買っていたロブに呆れるメーガンでしたが、仲は良いです。
教会に到着。メーガンの両親がすでに首を長くして待っていました。彼女の父親は厳格で、遅れてきたロブに嫌味な言葉を浴びせます。すかさずメーガンは「ロブは学校でも子どものウケがよく、きっと良い父親になれる」とフォロー。ロブの母も「孫の顔を見るのが待ち遠しい」と楽しそうです。それでもメーガンの父は気を許しません。「式次第のフォントが間違っているので修正版を朝一番にもらえ」と指示。
そのとき、メーガンの父の電話が鳴ります。「投資家グループが敵対的買収を企てている」と言ってその場を離れます。父はリハーサルには参加しないようです。
ロブはいつもその場のノリで乗り切ってきた男なのできちんとした行動が苦手です。結婚式の誓いの言葉さえも即興でやると言い切っています。
夜。メーガンの元カレであるコーディが高級車で颯爽と到着。メーガンの父が招待したようです。
メーガンは他の女性たちとバチェロレッテ・パーティーに向かってしまったので、ロブは友人と1杯くらい飲もうと出かけます。1杯だけ…。
目が覚めるロブ。床です。なぜ冷たい床で寝ていたのか。しかも裸です。見渡すとここは狭い部屋だとわかります。というかエレベーターです。その扉を誰かがこじ開けようとしているので慌てるロブ。「満員です。次のに乗ってください!」
扉が開いてしまい、全裸の自分がホテルのロビーで晒し者に。部屋の鍵が欲しいとスタッフに要求しますが、「ご予約はありません」と言われてしまいます。
フロントで電話を借りて友人のベニーに連絡。彼は今は教会にいるようです。そして衝撃的な事実を聞かされます。もうすでに式は始まっていると…。
とにかく会場に向かわないと…その前に自分の部屋に行かないと…。そこで気づきます。ここは自分が泊っているホテルではない、別のホテルだ…と。
パニックは拡大しつつ、警備員から逃げるように外に出たロブ。当然、全裸なので周囲からは変態扱いされるだけ。警察に追われることになってしまい…。
ループの過度な使用はご用心
本作『ネイキッド』は、ロブ・アンダーソンが結婚式に必要な諸々(衣装、式次第、指輪、誓いの言葉、そして結婚の覚悟)を揃えつつ式場へ到着できるかというパートと、なぜエレベーターで裸なのかという謎を解き明かすパートの2つに分かれます。
まず、エレベーターで素っ裸から始まるループというアイディア自体は非常に面白いですよね。まあ、それは本作の功績ではなく、元になった映画のものなのですが…。あと、これはアメリカ・リメイクならではの点ですが、黒人ファミリーが主役というのもオリジナリティがあって良いです。
一方で、これらの割とボリュームたっぷりな要点が上手く絡まって、かつスマートに語られていたかというと、そうではない気も。やっぱりループ要素がイマイチ合ってない気がする…。
本作はロブが結婚という新たな階段を登れる人間にループを通して成長していく姿を見せていくのがドラマの大部分を占めます。確かにループはキャラクターが学習していく過程を視覚的に見せるうえで効果的ですが、逆に本作はあまりに連発しすぎて軽く見える副作用が勝ってました。しかも、そのうえ本作はコメディですから、何でもありなノリにさらに拍車がかかってしまっています。
ロブが最初にぶつかる難問が裸でスタートして式場にたどり着けるのかです。この過程は比較的長く見せ、またループものとしても節度があり、面白かったです。しかし、式場に着いて以降は、ループの大安売り状態。もう乱発です。主人公もループの仕組みをわかってしまったため、何か失敗しても時を戻ればいいやとどんどん雑になっていきます。これでは主人公がダメな奴になっていくように見えるのでは? せめて後半はループが使えなくなって自力で解決する展開を見せてほしかったものです。
ループの使い方や見せ方もとくに新鮮なものはなく退屈。コーディと戦う場面の『オール・ユー・ニード・イズ・キル』で見た“やられて覚えるアレ”とか、知ってる演出ばかりです。
ループでごり押しはあんまりやってほしくないですね。
お父さんも裸になるのはどう?
ギャグも個人的にはそんなにツボに入るものはなかったかな…。裸ギャグが全面に出ている作品ではありますが、いわゆる下ネタはそこまでない本作。良くも悪くも普通です。ちなみに、本作の元になった『Naken』。カンヌ映画祭に出品した際、監督が裸で登場するパフォーマンスをして逮捕されたそうです。こっちのほうが衝撃だよ!
また、ブラック・ムービーでもあるのですが、黒人にありがちなお笑いキャラクターにも見えなくもないクオリティで、これはこれでステレオタイプにハマっただけにも思えるし…。
ただ、一番気になったのは、花嫁メーガンの父とのドラマ部分。メーガンの父親は、とにかく厳格で、バリバリのビジネスエリート。対するロブは正規教師の誘いを断るほど仕事にそこまでがっついてはいない自由人。そんなロブに「目標も野心も定職もないから、お前は嫌いだ。結婚相手としてふさわしくない」と痛烈なセリフを吐きつけます。
で、コーディの買収の企みを告発したりとなんだかんだあって、ロブは認めてもらってめでたしめでたしで終わり。でも、私はメーガンの父親の考え方にも引っかかるものがあって。やっぱりこのエリート主義的思考もどうかなと。そもそも結婚をビジネス仕事と同列に語るのがダメな気も…せめてビジネス的価値観以外での結婚の捉え方ができるようになるなど、父親側にも成長を示していれば、もっとスッキリしたかもしれません。このままだと『フェンス』のあの父みたいになりそうです…。
ここで最後のオチに、今度は父親が裸でエレベーターで目を覚ます…とかだったら、最高だったんですけど。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 0% Audience 30%
IMDb
5.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 3/10 ★★★
作品ポスター・画像 ©Netflix
以上、『ネイキッド』の感想でした。
Naked (2017) [Japanese Review] 『ネイキッド』考察・評価レビュー