ジェニファー・ロペスは花嫁姿でも戦闘態勢…映画『ショットガン・ウェディング』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2022年)
日本では劇場未公開:2023年に配信スルー
監督:ジェイソン・ムーア
恋愛描写
ショットガン・ウェディング
しょっとがんうぇでぃんぐ
『ショットガン・ウェディング』あらすじ
『ショットガン・ウェディング』感想(ネタバレなし)
ライオンズゲートは心配だけど
「ライオンズゲート(Lionsgate)」という映画スタジオがあります。ハリウッドの大手と比べると規模は劣りますが、『ハンガー・ゲーム』シリーズや『トワイライト』シリーズの大ヒットもあって中規模メジャースタジオとしては大成功を収めてきた存在でした。
…「でした」と過去形で語ったのは現在はちょっと様子が異なるからです。
2010年代後半から経営がグラつき始め、コロナ禍が追い打ちをかけました。2020年代のコロナ禍から映画業界が回復しても「ライオンズゲート」の経営難はより一層深刻な状況が報告されています。かつては『ラ・ラ・ランド』を生み出したスタジオですが、あの映画の主人公みたいにハリウッドの片隅に沈んでしまうのでしょうか。
「ライオンズゲート」も起死回生の手段を全く考えていないわけではなく、好調の『ジョン・ウィック』シリーズを頼みの綱にしたり、『ハンガー・ゲーム』シリーズの前日譚を打ち出したり、今後の弾はありますが、どうなるか先行きは不透明です。
そんな経営的な苦しさもあるせいか、ここ最近の「ライオンズゲート」は自社配給の映画を他社サービスに売っていく傾向が顕著です。『ナイブズ・アウト』シリーズまで手放すのは驚きましたね…。
そんな中、この映画も「ライオンズゲート」は劇場公開の配給を諦めてストリーミング・サービスに流すことにしたようです。
それが本作『ショットガン・ウェディング』。
本作は映画館で公開されたら、きっと日本でも劇場に真っ先に足を運ぶ人は確実にいただろうなと予感させる訴求力の高い作品だったと思います。なぜなら主演があの“ジェニファー・ロペス”だからです。
“ジェニファー・ロペス”…愛称「J. Lo」で親しまれる、このカリスマ的な伝説を背負うスターの偉業を今さら語ることもないでしょう。近年は俳優業に舞い戻り、そのスター性そのままに製作も担い、『ハスラーズ』といった新しい時代を切り開くような映画を誕生させてみせ、時代を築く女の旗頭として一部で絶大に信頼されています。
その“ジェニファー・ロペス”が2019年の『ハスラーズ』に続いて主演・製作を手がけたのが『マリー・ミー』であり、こちらも“ジェニファー・ロペス”のパワーが炸裂していました。やや存在感が消えかけていたロマコメ(ラブコメ)に光をあててくれたことに嬉しさを感じた人もいたでしょう。
そして“ジェニファー・ロペス”がさらにロマコメにその身を投じてくれたのがこの『ショットガン・ウェディング』です。タイトルから丸わかりなとおり、『マリー・ミー』に続いてまた結婚モノなのですが、今回はあれですよ…。誤解を恐れずハッキリ書いちゃいますけど、この映画の9割くらいはアホで構成されていると思ってください。ええ、すっごくアホな映画です。
私も『ショットガン・ウェディング』を最初に観た時の正直な感想は「90年代のロマコメ映画を間違えて再生しちゃったかな」でしたから。ほんと、「これが2020年代の映画だと!?」というほどのバカさ加減で突っ走っています。それもあの“ジェニファー・ロペス”がね…。
物語はフィリピンで結婚披露宴のために家族などを招いた男女カップルが、その会場を現地の海賊に占拠されてしまうというもの。もうこの時点で「なんだそれ」だと思いますけど、実際に「なんだそれ」な中身です。
“ジェニファー・ロペス”の相手役で共演するのは、『Love, サイモン 17歳の告白』の“ジョシュ・デュアメル”。なんでも当初は“ライアン・レイノルズ”にやってもらう予定だったそうで、確かに彼がやりそうなノリのコメディです。
他の出演陣は、“ジェニファー・クーリッジ”や“ダーシー・カーデン”などこれまた愉快そうな女たちが揃っていたり、『蜘蛛女のキス』の“ソニア・ブラガ”といったアメリカ国外の大物女優も参加していたり…。
『ショットガン・ウェディング』の監督は、『ピッチ・パーフェクト』の“ジェイソン・ムーア”です。
全編にわたって“ジェニファー・ロペス”のおふざけPVみたいなテイストですが、目の保養みたいな気分で、“ジェニファー・ロペス”が好き勝手に暴れまくる姿を拝んでおいてください。
『ショットガン・ウェディング』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :暇つぶしに |
友人 | :俳優ファン同士で |
恋人 | :気楽に流す感じでも |
キッズ | :やや性的なシーンあり |
『ショットガン・ウェディング』予告動画
『ショットガン・ウェディング』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):結婚どころじゃない!
フィリピンのとあるプライベート・アイランドのリゾート地。夜、ひとり意を決するように息を吐き、黄色のドレスでダーシーは会場に現れます。
ダーシーは自身のデスティネーション・ウェディングの真最中で、この島には多くの家族や友人が集っていました。ひとまず母のレナタと話し込み、不安を吐露します。
一方でダーシーの婚約相手であるトムは少し離れた場所で、スーツ姿でボードに飾りつけをしてロマンチックなサプライズを企てていました。しかし、怪しんだ警備員にライトに照らされ、水に落ちてずぶ濡れになります。ここは海賊もいるので警戒もやむなしです。
会場ではトムの母であるキャロルがひときわ陽気に登場。ダーシーは精一杯笑顔で迎えます。そのキャロルをトムの父のラリーがカメラを回して撮っていました。
ダーシーの父であるロバートは妻と離婚中で、今日は何食わぬ顔で若いガールフレンドのハリエットを連れてきていました。
そこへトムがラフな格好に着替えて到着。髪は濡れたままです。ダーシーは家族付き合いにいっぱいいっぱいだと愚痴りつつ、トムにリラックスしてキス。最高の時間にしようと2人は目的を共有しています。
すると今度はヘリで颯爽とダーシーの元カレであるショーンが登場。トムを紹介し、圧倒されつつもトムは必死に話を合わせます。
その後のディナーのトークで笑いをとりながらも上手く場を盛り上げるダーシー。トムの番になりますが、緊張しながらメモを投げ捨て話し始め、スライドショーでプロポーズなど思い出の写真を映すも、ただしトークはぎこちなく、ダーシーが強引に切り上げて乾杯に。
長い一夜でした。明日はメインの式です。
やっと部屋で落ちつく2人。ダーシーはベッドで待機するも、トムはパイナップルの飾りつけに夢中。ダーシーは下着姿でセクシーに体を見せつけて誘い、2人はベッドでイチャイチャしだしますが、何かとトムは話を脱線。すっかり興ざめのダーシーです。
翌朝、いよいよ晴れの舞台。きっちり正装する2人。会場の準備も整います。
ダーシーはウェディングドレスに着替えますが、しかし表情は固く、不安が蓄積していました。そして2人は外で対面したとき、口論に発展。ここに来てからもギクシャクしたすれ違いがありましたが、その鬱憤が爆発しました。
他の招待者はみんな外で待っており、なぜ主役の2人が来ないのかと心配しています。
決裂する2人はその場で別れてしまい、状況は悪化。
ところかこの島はもっと悪いことになってしまっていました。
海賊に占拠されてしまったのです。待機組の招待者のところにも武装集団が現れ、全員をプールの中に立たせます。銃声を聞きつけたトムがみんなのパニックを遠くから確認。ダーシーは大丈夫だろうか…と慌てます。
その頃、ダーシーは脱げないドレスにイラつき、酒とスナックをヤケ食いして荒れていました…。
主人公が映画に収まりそうにない
『ショットガン・ウェディング』という映画のタイトルは、いわゆる「できちゃった結婚」を示す英語のスラングですが、今作では文字どおり花嫁がショットガンをぶっ放すという、あまりにもネタにしても直球すぎるアプローチそのまんまです。
というか本作は全体的にギャグがストレートすぎるものが連発し、なんというか、企画会議室で10分くらいで考えてホワイトボードに張り付けたものを全部映像化しました!みたいな勢いありきにすら思えてくる…。
しかもそのギャグを全力で体現するのが真っ先に“ジェニファー・ロペス”で、「そんなに頑張らなくても…」とこっちが遠慮してしまうくらい張り切っています。
序盤のストレス過多で精一杯な姿に始まり、それでもこの武器は自信がありますからと言わんばかりに夫の前だけに披露されるセクシー・ボディさえも、この注意散漫な夫にはスルーされてしまい、「じゃあ、どうすればいいの!」と打つ手なしでパニクるダーシー。こんなに手札を失って自暴自棄になる“ジェニファー・ロペス”、現実では見れないですからね。
ちなみに今回の婚約者であるトムはその性格含めてギャグとして片付けられていますが、こういう性質はADHDなどに重なる部分も少なくないので、そういうキャラクターとして見えなくもないのかもしれない…。
話を戻して、とにかく本作の“ジェニファー・ロペス”は大胆不敵というかヤケクソ。海賊の頭に火をつけたかと思えば、ドレスが引きちぎれようとも気にしないし、ジップラインだってお手の物(?)。
とくに後半まで活かされるグレネード(手投げ弾)のギャグは本当にしょうもないです。あんなにグレネードを威風堂々と握りしめる女、滅多に見たことないですよ。いや、よく見れたらそれはそれでおかしいんですが…。
最終的には戦闘態勢になるかのように適度にドレスが裂けて、あの強キャラのような立ち振る舞いに変身。あのままの格好で手近なジャングルに行って、『アナコンダ』のリブートが始まっても違和感ないのではないか…。
血を見ると卒倒してしまうけど、人を殺すことについてはそんなに躊躇もなく、威勢はあるけど、銃は使いきれていない…。こんな設定モリモリの“ジェニファー・ロペス”は、正直、こんな単発の映画では収まりきらないので、どうしたものだろうか。とりあえず“ジェニファー・ロペス”の映画がもっと見たい…そんな欲求が溜まってくる作品だったかな。
もうひとりの「ジェニファー」
『ショットガン・ウェディング』は主人公だけでなく脇のキャラまでアホです。全員がアホに徹しています。「そうはならんだろ」とツッコミを全員にしないといけないので、観客は疲れますよ…。
とくに本作のもうひとりの「ジェニファー」である“ジェニファー・クーリッジ”はしっかり期待に応えてくれます。ドラマ『ホワイト・ロータス 諸事情だらけのリゾートホテル』でも思いましたけど、“ジェニファー・クーリッジ”は作品内のサイドにでてくるだけでも主役の座を奪いかねないほどのパワープレイを見せてくれますね。今回はまだ主人公が“ジェニファー・ロペス”だったから、対抗できていたけど…。
今作でキャロルを演じた“ジェニファー・クーリッジ”もボケて、歌い、銃を乱射し、実に楽しさの中心にいる存在だったと思います。本作は結婚披露宴の映画ですが、50代・60代の女性の俳優が印象的に暴れまくるコメディとして異彩を放っていましたね。
そんなおバカ映画である『ショットガン・ウェディング』ですけど、まあ、さすがにこれはあれかなという苦言もしようと思えばできます。
例えば、案の定ではあるのですが、フィリピンを舞台にしている以上、どうしてもオリエンタリズム色が濃くて、これはこの映画だけの問題ではなく、異国で執り行われるデスティネーション・ウェディング自体の構造的な話ですけど、そこを気にするとモヤモヤはしてきます。
しかも、本作はこれ見よがしに舞台装置として海賊がでてきて、いかにも「東南アジアのような発展途上国は野蛮で危ない」というイメージを利用してきますから。あの海賊もなんか『マッドマックス』みたいな誇張された装いだし…。
なお、東南アジア諸国周辺での海賊行為を取り締まる「アジア海賊対策地域協力協定(ReCAAP)」によれば、2022年における該当地域での海賊インシデントの件数は80件だそうです。
エンドクレジットではみんなで楽しそうに歌い踊るハッピーなシーンのオマケつきでしたが、どうせなら海賊の一部も招待して、仲間外れ無しで全員楽しんじゃえばよかったのでは…。
結論としては“ジェニファー・ロペス”はいつも最高ですという締めになるのですけども。
2023年も“ジェニファー・ロペス”映画は止まりません。
『The Mother』では元暗殺者を演じ、『Atlas』というSFスリラーも待機しています。アクションに特化した“ジェニファー・ロペス”が見れるのかな。そう考えると『ショットガン・ウェディング』で銃火器に触れ合う“ジェニファー・ロペス”は予行練習だったんだな…。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 45% Audience 52%
IMDb
5.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
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・『レディ・オア・ノット』
・『ロザライン』
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作品ポスター・画像 (C)Lionsgate, Amazon ショットガンウェディング
以上、『ショットガン・ウェディング』の感想でした。
Shotgun Wedding (2022) [Japanese Review] 『ショットガン・ウェディング』考察・評価レビュー