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『アイ・フィール・プリティ!』感想(ネタバレ)…人生最高のハプニング

アイ・フィール・プリティ!

私は変わるべき?…映画『アイ・フィール・プリティ!人生最高のハプニング』(アイフィールプリティ)の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:I Feel Pretty
製作国:アメリカ(2018年)
日本公開日:2018年12月28日
監督:アビー・コーン、マーク・シルバースタイン

アイ・フィール・プリティ!人生最高のハプニング

あいふぃーるぷりてぃ じんせいさいこうのはぷにんぐ
アイ・フィール・プリティ!

『アイ・フィール・プリティ!』あらすじ

容姿にコンプレックスがあり、何事にも積極的になれないレネーは、ある日、自分を変えようと通い始めたジムでハプニングに見舞われ、頭を打って気を失ってしまう。目が覚めたレネーは、自分の見た目が絶世の美女になっていると思い込むようになり、性格もポジティブになるが…。

『アイ・フィール・プリティ!』感想(ネタバレなし)

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エイミー・シューマーを知っていますか

“ある若い女性芸能人”が政治的発言をするとボロクソに批判しまくる人が大勢いる日本では信じられないかもしれませんが、アメリカでは大衆の支持を得るには自分の意志を明確に示せないといけません。それこそ政治的な話題であろうとも、自分が何を良しとし、何をダメだと思っているのか、ハッキリ言える人物が、リーダーであり、憧れのまとになります。

今、アメリカの若い女性たちの間で絶大な賛同を集めている女性芸能人のひとりが「エイミー・シューマー」です。

彼女はコメディアンであり、女性が抱える悩みや社会への不満をオブラートに包むことは一切なく吐き出すのが得意技であり、魅力。例えば、「“プッシー”(何を指しているのかはわかりますよね)が臭いのは当たり前でしょ? だから気にすることないのよ。むしろ臭い“プッシー”が嫌だという男がいたら、崖から突き落としてもいいんじゃない?」…ってな調子です。エイミー・シューマーのスタンドアップコメディのライブ動画番組がNetflixで配信されていたりするので、気になる方は視聴してみてください。

そんな“素直な”エイミー・シューマーですから、政治的な領域にも気にせず、突っ込みます。アメリカの銃社会を批判したり、性的暴行疑惑があったにも関わらず合衆国最高裁判所判事に指名されたブレット・カバノーに猛抗議したり、実に自由です。それで自分を批判してくる相手がいれば、喜んで挑んでいきます。怖いものなしです。

さらにエイミー・シューマーは、俳優としても活躍の場を広げています。2015年の『エイミー、エイミー、エイミー! こじらせシングルライフの抜け出し方 』という映画では主演を務め、ゴールデングローブ賞で主演女優賞(コメディ・ミュージカル部門)にノミネートされるなど、高い評価を受けました。

ところでエイミー・シューマーが最も得意とするネタは「体型」に関するギャグです。彼女はいわゆる“ぽっちゃり”体型(デブキャラとかの極端なものでなく、リアルな“ぽっちゃり”)。アメリカでは「痩せてスラっとしている」「小顔で整っている」「胸やお尻が豊満」など従来では“理想”とされてきた体型への考え方を改め直そうとする「ボディ・シェイミング」と呼ばれる動きが目立っています。そんななかで、エイミー・シューマーの訴える姿はまさに「ありのままの体型を愛そう」という、新しい“理想”として支持されているんですね。

そして、“エイミー・シューマー”主演最新作にして、彼女が製作にも入り、この体型問題をテーマにストレートに体当たりで描き出したのが、本作『アイ・フィール・プリティ!人生最高のハプニング』です。

俗に言う「ガールズ・ムービー」ですが、“エイミー・シューマー”のような人間がこのジャンルを牽引するようになったというだけで、時代の変化を感じますよね。「ガールズ・ムービー」がどう変化したかを追うだけで、その国の時代の流れを理解できるというのは、それだけこのジャンルが時代の鏡になっているということ。バカにできないものです。今は“エイミー・シューマー”時代なんです。

そうは言っても「体型への偏見」は社会に深く根を張っており、そんな簡単に根絶できない、しつこい雑草みたいなものです。引っこ抜いても引っこ抜いてもまたニョキニョキ生えてきます。

でも、本作のような映画が除草剤になって活躍してくれればいいなと思っています。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『アイ・フィール・プリティ!』感想(ネタバレあり)

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変わった!(変わっていない)

『アイ・フィール・プリティ!』は、いわゆる「入れ替わり系」もしくは「変身系」映画のひとつです。

その中でも“美貌”をテーマにした作品は枚挙にいとまがありません。不老不死の秘薬を飲んだ女性たちの姿をブラックユーモアたっぷりに描いた『永遠に美しく…』とか、ブサイクだからと自信のない女性が整形で美女になって人生を変える『カンナさん大成功です!』とか。

また、ディズニーのクラシカルなプリンセス作品も同じといえるでしょう。『白雪姫』や『シンデレラ』のように、普通だと思っていた女の子が実はプリンセスだったと気づく。直接的には“美貌”を描いていませんが、「プリンセス=美人」という図式が成立している以上、それを間接的に表しているのは言うまでもありません。

さらに『ハンサム★スーツ』のように男性版もあったりします。最近だと『ジュマンジ ウェルカム・トゥ・ジャングル』が男女ともに変身してしまうパターンでしたね。

ともあれフィクションの世界だからこそ、普段の自分とは違う別の自分になってみたい…そう思う気持ちは誰でもわかるのではないでしょうか。

本作『アイ・フィール・プリティ!人生最高のハプニング』の場合、それらと決定的に違うのは、“実際に姿は変わっていない”ということ。変わったのは“意識”だけ。これが本作のアイディアの重要な肝です。

これについて「頭を打ったなら病院に行け」とか「そんな意識変化で自分を騙し続けることなんてできるわけない」とか、空気の読めない文句を作品に言い放つ人はいないと思いますけど、そんな奴は置いといて、こういう意識の持ちようで人生観が変わることは理解してくれる人も多いと思います。

私も「この映画を観たら世界が違って見えるような体験をした!」と言ったら、普段全然映画を観ない人に「映画を1回観た程度で変わるわけないよ」って言われますしね…。結局、何がその人に影響するかなんて千差万別なんですよ。

本作の主人公レネーの場合、それはジムのエアロバイクから転倒したというだけの話。

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レネーの考える「美女」

ただ、『アイ・フィール・プリティ!』の設定が上手いのは、結局、頭を打った後のレネーが自分をどんな「美女」だと認識しているのか、最後まで示されないことです。

これはとても重要なことで、というのもこの手の“美貌”をテーマにした作品では、何を理想とするかで議論が起こるのがいつもの定番。例えば、この見た目が“最高の美しさ”だと作中でいくら明言しても、そんなのは人の好みの問題だし、別の人からしてみれば「そこまで美しくないのでは?」と思うこともあります。美人コンテストで1位をとった人を世界中の人が美人と思うとは限らないのと同じこと。

本作はこの問題を回避して、レネーにしかわからない美女が存在していることになり、結果、万人が感情移入して投影しやすい作りになっています。

じゃあ、素のレネー自身はブサイクの象徴として本作は描いているのかと言えば、それも断言できないバランスになっているのが絶妙。

なぜなら、レネーに好意を向けてくれるイーサンをはじめとする周辺の人たちの存在があるため。ここでもレネーの見た目そのものは変化していないことが効果的に効いています。少なくともレネーのことを明確にブサイクで劣っていると考えているのはレネー本人なのですから。

よく変身系映画にありがちなのが「美女(イケメン)に変身したから好いてくれただけでは?」問題です。『君の名は。』で入れ替わる二人のもし片方が不格好な奴だったら物語は成り立ったのか。あえて不問にしがちですけど、リアルでは絶対に直面する問題です。

そういう意味では、この映画は素直に嘘偽りなく作られている作品でした。

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素直すぎるピュアな映画だけど

もちろん、『アイ・フィール・プリティ!』を成り立たせているのは主演の“エイミー・シューマー”のパワーです。

頭を強打して目覚めてからの、腕や足をまじまじ見つめながら鏡を見て「これが自分!?」と驚愕する姿と、その後のテンションあげあげでオシャレな格好で練り歩く姿。これを嫌味なくリアルに演じられるのは、普段からこのネタでコメディ・ショーをしている“エイミー・シューマー”だからこそ。

たまに“絶対にブスという設定にするのは無理があるだろう”というキャスティングがされている邦画を見かけるときがありますが(名前は伏せますけど)、そんな致命的な過ちは犯していないどころか、本作は最高のキャスティングをしている。この時点で勝ちですね。

監督の“アビー・コーン”“マーク・シルヴァースタイン”のコンビはこれが監督デビュー作だそうですけど、キャスト選びでは良い審美眼をお持ちだと、まことに偉そうながら思います。

他のキャストも良いです。

レネーが働くルクレア社のCEOで声の高さがコンプレックスのエイヴリーという女性を演じる“ミシェル・ウィリアムズ”とか。別にバカではなく、声の高さだけを自分の欠点として抱えているというのが良いと思います(声の高いキャラは往々にして性格までアホみたいに描かれることが多いので)。“ミシェル・ウィリアムズ”の知的さと愛嬌が上手くミックスされていました。

レネーの恋人となるイーサンを演じた“ロリー・スコヴェル”も、とても中立間のある立ち位置にハマった良さがありましたし、レネーの友人のヴィヴィアンやジェーン、同僚のメイソンなど、“美貌を持ち合わせていない”側にいる人たちも、個性があって生き生きとしていました。

本作が残念だなと個人的に思ったのはラスト。

もろもろの登場人物たちとの軋轢を全て急ぎ足でまとめてしまいすぎたかなと。レネーが自分の写真を見て思い込みに気づくのもアイディアとしては良いのですが、そこでは映画的な演出なのに、その後のレネーのスピーチシーンが、映画的な演出ではなく大演説になってしまうのはちょっと残念というか、もうひと工夫が欲しかったですね。

同様のテーマで『ビューティー・インサイド』のような、その肝心のラストを大胆な表現で押し切った作品もあるので、余計にそう思ったりも。

登場人物全員が素直すぎるのも、都合良く思ってしまう人もいるでしょうね。

苦言をこぼしましたが、でも基本は真摯でピュアな作品です。こういう映画こそ、思春期で体型を気にしだすティーンの子どもたちに観てほしいものです。

痩せようとしてはいけないと言っているわけでもなく、太るべきだと言っているわけでもない。ただ、ジェンダーに限らず、ありのままの自分が少しでも好きになれる世界になれれば、「私も(me too)良いでしょ」と気軽に言えるはずじゃないですか。

『アイ・フィール・プリティ!人生最高のハプニング』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 35% Audience 34%
IMDb
5.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

(C)2018 TBV PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

以上、『アイ・フィール・プリティ!人生最高のハプニング』の感想でした。

I Feel Pretty (2018) [Japanese Review] 『アイ・フィール・プリティ!人生最高のハプニング』考察・評価レビュー