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ドラマ『イングリッシュ・ティーチャー』感想(ネタバレ)…政治の先生じゃないよ!

イングリッシュ・ティーチャー

でも教師は常に政治の渦中にいる…「Disney+」ドラマシリーズ『イングリッシュ・ティーチャー』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:English Teacher
製作国:アメリカ(2024年)
シーズン1:2024年にDisney+で配信
原案:ブライアン・ジョーダン・アルバレス
LGBTQ差別描写 恋愛描写
イングリッシュ・ティーチャー

いんぐりっしゅてぃーちゃー
『イングリッシュ・ティーチャー』のポスター。

『イングリッシュ・ティーチャー』物語 簡単紹介

テキサス州オースティンの高校で英語教師をしているエヴァン・マルケス。この職場はやる気だけでは乗り切れない問題が次から次へとやってくる。同僚の教師や生徒とときに協力したり、すれ違ったりしながら、この困難を乗り越えようと奮闘する。そして、政治的側面が交差する状況の中、プライベートな人間関係が最も厄介な難問となるかもしれなかった。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『イングリッシュ・ティーチャー』の感想です。

『イングリッシュ・ティーチャー』感想(ネタバレなし)

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今の時代、教師は大変だよ!

日本は子どもの数が減っているわりには教員が不足しています。「定額働かせ放題」と揶揄されるほどの労働実態の問題が今やすっかり露呈し、憧れられる職業ではなくなってきています。

一方、アメリカの教員状況も暗雲が立ち込めています。2度目の大統領の座に就いた“ドナルド・トランプ”は教育省の廃止を掲げているからですNPR。その狙いは教育を州に委ねるためであり、もっと言えば、保守的な州が学校で教える内容をコントロールできるようにするためと分析されています。

そんなありさまですから「こんなところで働けるか!」と教員の職を投げ捨てる人も少なくないでしょう。

今回紹介するドラマシリーズは、このご時世の政治に翻弄されまくっている教師の魂の叫びがキレキレにぶちまけられていく作品です。

それが本作『イングリッシュ・ティーチャー』

本作は2024年から開幕となった高校の教師を主人公にしたシットコムです。主人公の目線で校内におけるいつもの勤務の中で起きるドタバタ劇が面白おかしく展開されます。

「FX」の制作なのですが、同じ「FX」で教師が主人公のドラマとして絶賛大好評の『アボット・エレメンタリー』があり、「被ってないか?」と思ったのですけど、実際観てみるとかなり雰囲気が違いました。

『アボット・エレメンタリー』は小学校を舞台にモキュメンタリー風のコミカルさでシュールに演出していますが、『イングリッシュ・ティーチャー』はより切れ味鋭く、学校という職場における政治的問題を正面突破していく風刺の強さがあります。とくに主人公がゲイであり、その当事者目線で展開するのも大きな特徴であり、当然ながらLGBTQトピックをたっぷり扱っています。

今のアメリカの「学校教育×LGBTQ」の事情をご存じの方はわかると思いますが、現在、保守的な州の中には「学校でLGBTQを教えてはいけない」という法律の規制を進める動きが活発化しており、「親の権利」などというレトリックで学校を都合よく牛耳りたい一部の保護者もモンスタークレーマーのように暴れています。今度の大統領である“ドナルド・トランプ”は「学校で子どもに勝手に性別適合手術が行われている!」と叫んでいるくらいですからね(もちろんそんなことはしていません)。

そんな保守的な州で「教師」という職業をしているゲイ当事者の心境はいかに?…というのがこの『イングリッシュ・ティーチャー』では内面を抉るように痛烈に描かれたりしています。

それでも基本的に深刻な問題をあえてユーモアを過剰気味に盛り込んで風刺するスタイルなので、題材のわりにはシリアスさはなく、わざとらしく軽薄です。でも芯の部分は真面目さを感じます。

この『イングリッシュ・ティーチャー』を原案として生み出し、自身で主演もしているのが、コメディアン兼俳優の“ブライアン・ジョーダン・アルバレス”。母方はコロンビア系でスペイン語も流暢に話せるブライアン・ジョーダン・アルバレス”ですが、オープンリーなゲイであり、キャリアの初期からこの性的指向をネタにした作品を手がけたりしていました。

今回の『イングリッシュ・ティーチャー』は脚本やエピソード監督も手がけ、批評家から高評価を受けたので、代表作としてキャリアに花を添えたでしょう。

共演は、ドラマ『レッスン in ケミストリー』“ステファニー・コーニッグ”、ドラマ
Allegiance』“エンリコ・コラントーニ”『Rotting in the Sun』”ジョーダン・ファーストマン”など。

『イングリッシュ・ティーチャー』は日本では「Disney+(ディズニープラス)」で独占配信されており、全8話で1話あたり約20~25分。見やすいのでサクっと楽しめます。

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『イングリッシュ・ティーチャー』を観る前のQ&A

✔『イングリッシュ・ティーチャー』の見どころ
★教育における政治的トピックもキレキレに風刺する。
✔『イングリッシュ・ティーチャー』の欠点
☆ある程度の社会事情を知っておく必要があり。

鑑賞の案内チェック

基本 LGBTQ差別の内容もいくつかありますが、全てが当事者視点の風刺の対象であり、トラウマを煽るようなものではないです。
キッズ 2.5
大人向けのコメディです。子どもには風刺がわかりにくいです。
↓ここからネタバレが含まれます↓

『イングリッシュ・ティーチャー』感想/考察(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤)

エヴァン・マルケスは高校の英語教師です。今日もパンツ一丁で朝を迎え、軽快に体操で体をほぐし、シャワーの後に朝食をすまして、ちょっとした空き時間に採点を片付け、車で出勤します。生徒よりも遅刻ぎみで教室に入ってきましたが、清々しく前に立ち、授業を始めます。

同僚教師のグウェン・サンダースといつものお喋りをしながらランチをとっていると、体育教師のマーキー・ヒルリッジが割り込んできます。なかなかに先走りがちな人で、政治的話題にもやや勘違い傾向で躊躇いがありません。

さらにスクールカウンセラーのリック・サンタナも隣に座り、会話はわけのわからない方向に脱線します。

そのとき、ふと廊下で見慣れぬ大人が目に入ります。新任教師のハリーという名らしいです。

しかし、エヴァンはグラント・モレッティ校長に呼び出されます。なんでも生徒の前で当時教師であった元カレとキスしたことについて保護者のひとりであるリンダ・ハリソンからクレームがあったらしいです。そして、調査を受けることになるのだとか。軽いキスなのに…。全く納得いかないエヴァンですが、校長はこれ以上取り合ってくれません。

エヴァンは、その目撃者の生徒がすでに卒業済みであり、しかも現在はゲイとして生活していることを知っており、その親であるリンダは「息子をゲイにした」とかでいちゃもんをつけているのだろうと察します。でも相手は保護者であることには変わりなく、学校としては無視できません。

仕事が終わって、不満を引きずるエヴァンはその元カレのマルコムに事情を話し、この仕事を辞められないと愚痴りますが、なんだかんだで気分が盛り上がり、家でホットに楽しんでしまいます。

しかし、現実は変わりません。弁明の文章を考えますが、微塵も面白くなく、溜息ばかり。

ある日、学校で読書クラブの監督をしていると、情報通の生徒たちはエヴァンが調査を受けていることを知っているようで、そんな酷い扱いなのになぜこの仕事をしているのかと元も子もないことを聞いてきます。それは…。

悩みが尽きませんが、意外な終止符を迎えました。校長はマーキーがリンダと話し、訴訟を取り下げるよう説得したと言ってきます。これで終わりだというのです。

エヴァンはマーキーに一体どうやって事態を収めたのかと質問します。すると、なんでもリンダの息子がゲイであることを彼女のエリートクラブのメンバーに暴露すると軽く脅してみせたらしいです。

ホモフォビアと闘うためにホモフォビアを使うなんてとエヴァンは真面目に反論しますが、職がそれで守られたのは事実だったので何も言えません。

ひと騒動後、エヴァンは新しい教師のハリーの紹介を受け、そのハリーの気さくな振る舞いで彼もゲイだと気づきます。そして惹かれている自分を自覚しますが…。

この『イングリッシュ・ティーチャー』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2024/12/18に更新されています。
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切り分けたい複雑な心情

ここから『イングリッシュ・ティーチャー』のネタバレありの感想本文です。

『イングリッシュ・ティーチャー』は学校という職場においてたびたび発生する政治的問題に対して、切れ味鋭く風刺していく痛烈さが印象的でした。

主人公のエヴァンは人生の二面性を持ち合わせています。つまり、「ゲイ」であるという個人的アイデンティティと、「教師」であるという職業的アイデンティティ…この2つです。この2つを両立させるのに直面する課題を浮き彫りにさせるのが、本作が全体を通して描いていることだったと思います。

そもそもエヴァンは当初はこの2つを切り分けていなかったようです。第1話で持ち上がる「当時のカレシとの学校でのキス」の騒動。エヴァン自体は「軽いチュって感じのキスだよ」と反論していましたが、回想では結構いかにもゲイらしいアツい抱擁を交わしていました。もちろん高校ですし、別に生徒同士だろうか、教師同士だろうが、多少のキスくらい全然いいと思うのですが、エヴァンにとってはもはやうんざりする人の視線だったのかもしれません。

ドラマ開始時点でその元カレのマルコムは教育現場から離れ、エヴァンだけが教師を続けています。ハリーというハンサムな男が同僚としてやってきて惹かれるも、エヴァンは恋愛関係になろうとはしません。もうあのときの二の舞を避け、「ゲイ」と「教師」を意地でも分離しようとします

これも一種の「内面化されたホモフォビア」と呼ぶのかもしれません。でも私も気持ちはわからなくもないです。おそらく今を生きる性的マイノリティ当事者の多くは実感することではないでしょうか。

何らかの性的マイノリティであることをオープンにしている場合、そのレンズを通して「模範的か?」みたいな視線でばかり見られてしまうことがあります。不本意なかたちで性的マイノリティとしてのアイデンティティとそれ以外の自分のアイデンティティが接続してしまうので、だからこそあえて切り分けようと固執してしまう…。キャリアにおける生存戦術ですよね。

第8話で、ゲイだとどうカミングアウトすべきか迷っていると心配そうに相談しにきた生徒に、エヴァンは「今の時代、そんなことで悩むの?」と無礼な反応をついしてしまい、すぐに教師モードに戻って建設的なアドバイスを一応はする…というシーンがあります。

確かに2024年であれば、性的マイノリティの受容は上がりました。保守的な州でもそうです。しかし、葛藤が無くなったわけではない…ということ。この時代ならではの葛藤はやっぱりどこかにある。それはまだ名前もついていない心理的苦悩なのかもしれませんが、とにかくそういうものを本作は映し出している感じでした。

シーズン1の最終話である第8話では学校ではなく「ゲイバー」という空間が舞台になります。エヴァンがゲイとしてのアイデンティティのモードでいるところに、他のゲイでもない教師陣が混ざってくるので、切り分けたいエヴァンにとっては若干面倒な状況です。

でもその力場が反転する中で、エヴァンはハリーではなくマルコムを選び、キスをする。この選択はこれまでどおりの「切り分け」を望むということなのか、それともかつての「切り分けていなかった愛」に戻りたいという渇望の表れなのか、それはわかりません。

どちらにせよ大人のエヴァンも、子どもの生徒と同じように、悩んで手探りで生きているのですよね。

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それでも恥ずかしくはない

『イングリッシュ・ティーチャー』では「ゲイ」と「教師」を切り分けたいエヴァンの本心をよそに、周囲の同僚や生徒は全くそんなことを気にせず、エヴァンのことを「ゲイで教師」という存在としてみてきて、遠慮なくいろいろな問題を持ち込んできます。それが毎回ユーモアたっぷりに描かれます。

「ノンバイナリーについて生徒に説明して?」といきなり頼んできたかと思えば、「パウダーパフ問題に対処して?」と押し付けられたり。この第2話のパウダーパフのエピソードは非常にグっとくるストーリーでした。パウダーパフというのは、女子がアメフトをするイベントのことで、作中の舞台となる学校ではそのうえで男子が女装でチアリーディングするというのが伝統になっているようです。表向きは、男女の典型的なジェンダー役割を反転させるイベントになっています。しかし、それに抗議しているのは意外なことに校内の「LGBTQIA2S+同盟」。その理由は、女装自体が笑いものになるのは嫌で、やるなら真剣に受け止めてほしいということでした。全くそのとおりですね。

そこでエヴァンは知り合いのドラァグクイーンのキース(芸名はシャザム)を招いて、女装する男子たちを指導してもらいます。結果、堂々たる女装パフォーマンスを大衆の前でみせ、エフェミフォビア(フェムフォビア;男性の女らしさへの恐怖)を吹き飛ばす。良い回だった…。誇らしそうに窃盗していくキースのオチも含めて…。

他の教師陣もいいですね。無能なのかと思ったらなぜか異様に人間関係の分析力に長けているマーキーとか、とりあえずフェミニストとして振舞って模範を取り繕うも実は誰よりも自己評価を気にしすぎる癖があるグウェンとか。グラント校長も苦労人です。

カンニング対策、AIレポート不正、反抗的な生徒の対応、親の授業干渉、不安定な雇用環境、銃乱射事件…。教育現場で起きるあれやこれやを全部風刺しながら、それでも教師を続ける自分たちを慰め合う。なんだかんだでこの仕事も好きだから、と。そんな悲喜こもごもな職場模様。

『イングリッシュ・ティーチャー』は2020年代の時代を切り取った教師モノの代表作として、ドラマ史の廊下に掲示されていくことでしょう。

『イングリッシュ・ティーチャー』
シネマンドレイクの個人的評価
7.0
LGBTQレプリゼンテーション評価
○(良い)

作品ポスター・画像 (C)FX イングリッシュティーチャー

以上、『イングリッシュ・ティーチャー』の感想でした。

English Teacher (2024) [Japanese Review] 『イングリッシュ・ティーチャー』考察・評価レビュー
#FX #ゲイ #ドラァグ #学校 #教師 #教育