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ドラマ『ホイール・オブ・タイム』感想(ネタバレ)…中年女性が活躍するファンタジー大作

ホイール・オブ・タイム

時の車輪のなすがままに…ドラマシリーズ『ホイール・オブ・タイム』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:The Wheel of Time
製作国:アメリカ(2021年~)
シーズン1:2021年にAmazonで配信
シーズン2:2023年にAmazonで配信
原案:レイフ・ジャドキンス
性描写 恋愛描写

ホイール・オブ・タイム

ほいーるおぶたいむ
ホイール・オブ・タイム

『ホイール・オブ・タイム』あらすじ

喧騒とは無縁で静かに歴史を受け継ぐ末裔たちが暮らす小さな村。そこに暮らす5人の若者は突如として運命に翻弄される。この中の誰かが世界の命運を握る「竜王」なのだという。「絶対力」と呼ばれる魔法を駆使する女性たちの組織である「アエズ・セダーイ(異能者)」のひとりであるモイレインは、右も左もわからない若者を連れ出す。しかし、そこに闇の軍勢が迫る。果たして本当に竜王の再来は実現するのか…。

『ホイール・オブ・タイム』感想(ネタバレなし)

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ロザムンド・パイクがプロデュース

長編ファンタジー小説の映像化は難しいです。その理由はなぜか。何よりも「長い」というのが頭を悩ませる部分です。しかも、ファンタジーなのでもともとの映像化難易度は高いわけです。壮大な物語を長期にわたって継続的に映像化していくなんて至難の業…。

そもそも長編ファンタジー小説自体さえもシリーズを順調に継続して完結させるのも大変ですからね。

例えば、“ロバート・ジョーダン”が執筆した「時の車輪(The Wheel of Time)」という長編ファンタジー小説シリーズがあります。1990年に第1巻となる「竜王伝説(The Eye of the World)」が刊行され、その後も継続的に続編が生み出されていき、人気作となりました。ところが途中で作者が亡くなってしまい、しょうがないので遺された原稿・草稿などを元に他の人が執筆を受け継ぎ、なんとか2013年の第14巻「A Memory of Light」で完結。これが作者の望んだ結末かはわかりませんが、とりあえず物語は幕を閉じました。

結果、「時の車輪」は非常に超大作となりました。前日譚も含めて全15部。オーディオ版によれば、全部を再生して聴くのに「19日5時間25分」かかるそうです。19日ですよ。それなりに人生の時間を犠牲にする覚悟がないとダメです。

その「時の車輪」が2021年に実写ドラマシリーズ化されることになりました。それが本作『ホイール・オブ・タイム』です。

こうなってくると当然気がかりになるのはどこまで映像化できるの?ということで…。さすがに原作を全部映像化するのは厳しいのかな…でも頑張ってほしいな…とは思うのですけど。

なにせこの『ホイール・オブ・タイム』、製作陣は強力な顔触れが揃っています。まず企画を担当するのは『エージェント・オブ・シールド』を成功に導くことにも貢献した“レイフ・ジャドキンス”。そして本作の主演のみならず、プロデューサーとして企画を引っ張っているのが“ロザムンド・パイク”なのです。『ゴーン・ガール』『プライベート・ウォー』での名演も記憶に新しいですが、『パーフェクト・ケア』でのあの悪いことをしているはずなのにカリスマ性が溢れ出る存在感も魅力的でした。その“ロザムンド・パイク”がこの長編ファンタジー小説の映像化を先導するのは意外に思えますが、本人はノリノリのようです。

本作『ホイール・オブ・タイム』は“ロザムンド・パイク”が主役のひとりとなっており、つまり中年女性が主人公となっている珍しいタイプのファンタジー作品です。その中年女性の主人公が若者男女たちを導いていく物語であります。さらに実は中年女性同士のレズビアン・ロマンスまであるという…。こうやって要点を整理すると本作はとても中年女性のエンパワーメントが爆発している作品なんだなというのがわかります。あまりその点を推して宣伝されていないのですけど…。

物語は、“ロザムンド・パイク”演じる主人公が世界を揺るがす力を持つ「竜王」の再来の予言に該当する人物を探そうとするところから始まります。この予言は「竜王は世界を救うか、滅ぼす」というなんとも大雑把な中身なのですが(もうちょっと具体的に予言してくれよと思うのも無理ない)、とにかくその竜王に当てはまる若者を見つけていち早く確保しないといけません。ところがその竜王に該当しそうな若者が5人もいたから、さあ大変。誰が竜王なのか、どんな力を持つのか。詳細もわからないまま、迫り来る世界の暗黒を退けるために各自の運命が動き出す…という内容。魔法も魔物も出てくるファンタジーなので、このジャンルが好きなら楽しいと思います。

『ホイール・オブ・タイム』は「Sony Pictures Television」と「Amazon Studios」の制作であり、「Amazonプライムビデオ」で配信中です。シーズン1は全8話。1話あたり約60分とボリュームがあるので、じっくり腰を据えて鑑賞してください。

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『ホイール・オブ・タイム』を観る前のQ&A

Q:専門用語ばかりで難しい?
A:いくつか専門用語が登場しますので以下に解説しておきます。
【世界観】
「全界崩壊」と呼ばれる世界の崩壊が起きた後に復興した世界が舞台になっており、またも世界が崩壊する危機が迫っているのか?…という物語です。
【アエズ・セダーイ(異能者)】
絶対力と呼ばれる特別なパワーを使える者たち。かつては男性が担っていたが、今は白い塔で訓練を受けた女性がアエズ・セダーイとして世界に影響力を持っている。各自が異なる役割を持つ7つのアジャの1つに所属しており、新たな竜王を探している者もいる。
【絶対力(One Power)】
アエズ・セダーイの女性が駆使できる魔法のような力。傷を癒したり、戦闘に使えたりする。男性が使用すると正気を失うとされている。
【竜王】
光もしくは闇の戦士。世界を救うのか滅ぼすのかはわからない。
【闇王】
混沌や破壊をもたらす邪悪な存在。トロロークやミルドラルといった軍勢を従える。闇の信徒と呼ばれる人間の支持者もいる。かつて闇王に仕えた異能者たちは「闇セダーイ」と呼ばれる。
【白マント】
アエズ・セダーイも含めて絶対力を扱うすべての者が闇に仕えていると信じている集団。その名のとおり白い装束に身を包み、「光の子」と自称し、狂信的。

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:ファンタジー好きなら
友人 4.0:ジャンル好き同士で
恋人 3.5:異性愛&同性愛もどちらも
キッズ 3.5:子どもでも観れる
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ホイール・オブ・タイム』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):時の車輪のなすがままに

かつて世界は崩壊しました。「万物源」から「絶対力」を引き出した異能者の男であるルース・セリン・テラモンが「闇王」と戦ったものの、闇を封じたにもかかわらず、海は沸き、山は飲み込まれ、街は焼かれました。万物源は男性源と女性源に分けられ、男性源が汚染されたので男は異能者になろうとすると正気を失います。そこで女の異能者(アエズ・セダーイ)は世界の修復の乗りだし、彼女たちは全界崩壊を招いた男のことを心に刻み、「竜王」と名付けました。

それから幾年も経ち、新たな竜王が再びこの世に誕生しました。生まれた場所も性別もわかりません。わかっているのはその子どもが成人したことだけ。その子を見つけなければ、闇王よりも先に…。

赤の衣をまとうアエズ・セダーイの赤アジャのリアンドリンの一団は万物源に触れて正気を失った男を始末しました。それを遠くで見ていたのは青の衣をまとうアエズ・セダーイの青アジャのモイレインとその護衛士のラン・マンドラゴラン。モイレインは竜王の再来に該当する人物の目星がついていました。そこでトゥー・リバーズに向かいます。年齢の合う歴史の織り人が4人いるはずの場所に…。

女会の一員となったエグウェーンは激流に落とされる儀式を乗り越えて認められます。一方で酒場では頼りない父を持ち、いつもカネに困っているマット・コーソンは友人2人に揶揄われていました。ランド・アル=ソアは父と暮らし、昔からエグウェーンに好意を持っていましたが関係は上手く発展できません。ライラと結婚したばかりの鍛冶場のペリン・アルバラも実は人間関係にモヤモヤを抱えていましたが、親友にも言えていません。

そこにエグウェーンが酒場にやってきてみんな拍手で迎えます。夜まで飲み明かしているとそこにモイレインとランが来訪。泊まるところが要るらしいです。

2人きりのときにランドはエグウェーンにキスします。「賢女」になる誘いをナイニーヴに受けたことを告白するエグウェーン。でも賢女になれば結婚も子どもも持たない掟です。

マットは村を訪れた行商人のパダン・フェインと取引をしていました。一方で「闇王」の手先ミルドラルを村内で感知するモイレイン。

ランドは父と一緒に亡き母を弔う準備をします。ランドは「時の車輪が魂を世に戻すまでの時間は?」と聞きますが、父は「わからないが前世の記憶が残らないのは意味がある。安らぎを見つけるんだ。車輪は回り続けるのだから」と答えます。

夜の宴は盛り上がっていましたが、そこに襲撃。異形の姿の存在が村人を襲います。父といたランドのもとにも襲撃があり、父は「あれはトロロークだ」と言います。

モイレインが絶対力で敵を倒していく中、マットは妹たちを探します。エグウェーンの目の前でナイニーヴはトロロークに連れ去られます。戦いの最中、ペリンは妻のライラを誤って殺してしまい、絶望します。

光の力でなんとか敵を殲滅したモイレイン。しかし、闇王の軍勢はまたやってくるのも時間の問題。モイレインはランド、マット、エグウェーン、ペリンの4人に告げます。

「彼らの狙いは私と同じ、4人です」

白い眼のアエズ・セダーイが予言した竜王の再来。モイレインは20年前に生まれた4人の若者のいずれかが、復活した闇王と対抗できる「竜王の再来」であるとの予言に従い、4人を村から連れ出します。白い塔を目指して…。

こうして旅は始まりました。

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シーズン1:アジア文化の影響

まず『ホイール・オブ・タイム』の世界観をざっと振り返ってみると、かなりアジアの宗教観・文化の影響を受けているのが隋所でわかります。

世界観の土台になっている「時の車輪」はまさに輪廻転生ですし、竜王の再来もそうですが、本作にはある行為による責任を次の運命を背負った者が担うという因果応報のドラマも根底にあります。

数千年前に起きたという全界崩壊という危機を男である竜王が完全に救えずに世界を破壊したという物語も、非常にアンチ・キリスト的な救世主否定の語り口だとも思います。

細かい世界観要素もアジアっぽいです。別にアジア系のキャラクターが多く登場するわけでもないのですが、世界を構築する文化がそれらしいものばかり。

アエズ・セダーイたちは瞑想のような行動で能力を高めて、武術の舞いのような動作で静かに能力を発揮します。盛大に呪文を唱える欧米の魔法とは違います。モイレインはアミルリン位に面前で謝罪をするときには土下座みたいなことをしますし、護衛士のステピンは切腹のような自殺をしたり、その葬儀はお経みたいな重々しい空気だったり、挙げだすとキリがないほどのアジアっぽい要素の数々。共用風呂があるのもアジアン・テイストなのかな。

こういうのはやはり欧米人の考えるアジアへのファンタジックでエキゾチックな憧れというのが背景にあるんでしょうね。1990年代の本作の原作の時点でもそういうアジアへの眼差しはジャンル作品にはあったのでしょうけど、最近はすっかり日常にまで浸透しつつあり、アジア系への差別がいまだに根強い中、文化だけが消費されていく構図を痛感もするのですが…。

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シーズン1:中年女性が前に出ます

『ホイール・オブ・タイム』の魅力のひとつ、それは前述したとおり、「中年女性」に焦点をあてた展開です。もともとこういうジャンルは若者向け、もしくは男性のテリトリーのように扱われ、一番に蚊帳の外だったのが中年女性でした。その削ぎ落されてきた立場の層にあえてスポットライトをあてるというのは、さすが“ロザムンド・パイク”がプロデュースしているだけあります。

本作は歴史的な男性の失態により、結果的に女性が世界の主導権を握れることになった世界観です。アエズ・セダーイという女性たち(トップにいるのは多くが中年女性)が主体になり、影響力を持っています。

その中でも各アジャの駆け引きがあったり(赤アジャは男性嫌悪が強いとか)、女性の政治劇もあるのも印象的。ちなみにモイレインが属する青アジャは“ロザムンド・パイク”いわくMI6みたいなもので、秘密の活動に従事しているので、他のアジャからも得体の知れない奴らとして怪訝な目で見られています。しかも、モイレインはアエズ・セダーイの統率者アミルリン位であるシウアン・サンチェと恋仲の関係にもあるという秘密も隠しており、なかなかに入り組んでいます(この2人の馴れ初めは原作の前日譚を描く「New Spring」で描かれている)。

一方で男たちにもそれにふさわしいエピソードがちゃんとあり、多くは暴力の誘惑にどう立ち向かうか、劣等感や恐怖心とどう向き合うか…といった”男らしさ”に付随するテーマを扱っています。

個人的に印象的なのはアエズ・セダーイと護衛士の関係性。男女の関係ながら性愛や恋愛ではない、でも特別な信頼で結ばれている2人。女が主で、男が従という構図も大切で、これが逆だと単に家父長的になってしまいますが、女男の主従でありつつも対等さもあるパートナーシップは新鮮です。ランを演じた“ダニエル・ヘニー”もかっこよかったですね。

ただ、どうしても二元論を世界観の軸にしているせいで「女」と「男」の二項でしか語れないのはジェンダー的な観点からみれば限界を感じる部分はありますね(今後の展開しだいだけど)。

シーズン1の最終話では、ついにランドが闇セダーイと対峙。それを打ち払うも「俺はここで死んだと伝えて」とどこかへ立ち去ってしまい、マットも旅から外れ、ペリンも暴力の残酷さにまた直面し戦意喪失。男たちが路頭に迷う中、モイレインは万物源から遮断されて力を失い、ナイニーヴとエグウェーンは力の本流を身を持って味わい、こっちもこっちで大変です。そして一難去ってまた一難。異国の軍勢が絶対力で津波を起こして攻めてきて…。

続きはシーズン2までお預け。どこまで完結に近づけるかの勝負の始まりです。

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シーズン2:対等な関係性に未来を求めて

※シーズン2に関する以下の感想は2024年4月6日に追記されたものです。

『ホイール・オブ・タイム』のシーズン2は、バラバラになった一同が己の宿命を噛みしめ、再び集うという、起承転結の「承」のストーリーが展開されます。

冒頭、絶対力から切り離されて能力を失ったモイレインは田舎で水汲みなどをしていて、さらに「白の塔」で修練生となったエグウェーンとナイニーヴも下働きばかり。なんだか女性陣が家事労働される身分に落ちています。

結局、このアエズ・セダーイという女性たちが主体となった世界にも、女性の階級があり、能力が低いとみなされれば、女性の下に女性がつく。家母長制が色濃いことがシーズン2ではより浮き彫りになります。モイレインの妹のレディ・アンバエレの家名などもそうですが、女性が上に立っても家という制度に縛られていますね。

そんな中、対等な関係性を築くことの難しさが本作のテーマなのかな。

自尊心を失ったモイレインは護衛士のランさえも遠ざけますが、最後にようやく再度絆を結び直します。モイレインの愛しい想い人であるシウアンとの関係はまだひび割れたままですが、どうなるやら…。

逆に敵勢力は対等ではなく、服従を軸にします。白の塔のアエズ・セダーイたちのコミュニティもそうですし、今回本格登場するショーンチャン人もそうです。ショーンチャン人は独自の文化があり、スル=ダムという飼い主がダマネという奴隷を従え、能力者が能力者を使役します。今回はエグウェーンがそのダマネにされ、水を注げハラスメントなど酷い目に遭いました。

竜王の素質を知らしめたランド、ナイフの恐怖を乗り切ったマット、狼の精神を身に着けたペリン、力を増強したエグウェーン、アーチのトラウマを乗り越えたナイニーヴ、さらに今回になってアンドール王国の王位継承者であるエレインも加わり、チームはまた同じ地に立ちました。

しかし、イシャミールを倒しても、すべての闇セダーイを復活させたそうで、闇姫ランフィアから、最後にチラ見えしたモゲディーンなど、戦いはこれからが正念場。老いた息子アルードランのために闇王に付き闇の使徒に堕ちた姉妹(黒アジャ)となったリアンドリンの行く末も気になります。

己との向き合いは終えても、次のシーズン3では対面で戦うべき存在が多そうです。

『ホイール・オブ・タイム』
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 83% Audience 77%
S2: Tomatometer 86% Audience 81%
IMDb
7.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0

作品ポスター・画像 (C)Amazon ホイールオブタイム

以上、『ホイール・オブ・タイム』の感想でした。

The Wheel of Time (2021) [Japanese Review] 『ホイール・オブ・タイム』考察・評価レビュー