宝よりも肉だ!…Netflix映画『パイレーツ: 失われた王家の秘宝』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:韓国(2022年)
日本では劇場未公開:2022年にNetflixで配信
監督:キム・ジョンフン
恋愛描写
パイレーツ 失われた王家の秘宝
ぱいれーつ うしなわれたおうけのひほう
『パイレーツ 失われた王家の秘宝』あらすじ
『パイレーツ 失われた王家の秘宝』感想(ネタバレなし)
韓国の海賊が再来!
「海賊」と言えば、カリブ海の海賊がなんだかんだで有名です。ポップカルチャーで真っ先にイメージされる海賊の姿はたいていはこのカリブ海の海賊です。髭があって、剣を持っていて、オウムを肩に乗せて、髑髏マークの旗をたなびかせる…あんなやつ。
でも実際は世界中の海に海賊はいたわけです。それこそアジアにも…。
例えば、800年代前半頃、当時の新羅、唐、日本にまたがって巨大な海上勢力を築いた人物として知られるのが“張保皐”です。手広く交易活動を展開していましたが、海賊たちのようなならず者を取り締まるためにあらゆる支配力でこの一帯の海を統治していきました。交易というのは大事な要素ですから、ある意味ではものすごい権力を持っていたとも言えますね。
この“張保皐”の名残りと言いますか、現在の韓国海軍は“張保皐”関連に因んだ名の部隊や潜水艦を持っています。海の治安を守る感じの印象があるのかな。
今回紹介する映画はそんな韓国が生み出した海賊を主役とする海洋アドベンチャーアクション大作です。それが本作『パイレーツ 失われた王家の秘宝』。
で、この『パイレーツ 失われた王家の秘宝』の話をさっそくする前に、実はこの映画は精神的続編ということになっていて、それよりも前に土台となる映画があるのです。それが2014年に公開された韓国映画『パイレーツ』という作品です。やけにシンプルな邦題ですけど…(韓国映画の邦題は単純すぎる)。
2014年の『パイレーツ』は韓国映画としては珍しい、海賊を描く海洋アクションアドベンチャー。ハリウッドの『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズの大ヒットもあって後押しされたのかはわかりませんが、韓国版『パイレーツ・オブ・カリビアン』と言い切れるほどの賑やかなエンターテインメント性が抜群に詰まっていました。韓国国内ではその年の大ヒット映画の一本となり、大鐘賞でも最優秀女優賞や最優秀助演男優賞を受賞するなど話題となりました。
そして2022年、『パイレーツ 失われた王家の秘宝』の公開。といってもこの映画、正統な続編ではありません。ストーリーは繋がっていませんし、キャラクターも全く別。同じなのは朝鮮半島の海賊を描くということと、ドタバタ劇満載の作風のノリだけです。だから精神的続編というわけです。
『パイレーツ 失われた王家の秘宝』はコロナ禍で制作され、かなり撮影も大変だったと思いますが、韓国国内では2022年1月に劇場公開。コロナ禍であることを考慮すればなかなかに好調なヒットとなり、映画業界に活気が戻ってきたことを証明してくれました。何かと暗い世の中、こういう底抜けに明るいエンタメを見たくなるのも当然です。良いタイミングでカムバックしてくれたのではないでしょうか。
『パイレーツ 失われた王家の秘宝』の監督は、『探偵なふたり』を手がけた“キム・ジョンフン”。コメディが得意な人というだけあって、今作もコミカル度が強いです。脚本は前作に続いて“チョン・ソンイル”が担当しています。
俳優陣は、どこかマヌケで愛嬌もある義賊の男を『ミッドナイト・ランナー』の“カン・ハヌル”が演じ、荒々しくカッコいい海賊の女船長を『監視者たち』『ビューティー・インサイド』の“ハン・ヒョジュ”が熱演。この2人が基本の主役です。
他には『フィッシュマンの涙』の“イ・グァンス”、『探偵なふたり』の“クォン・サンウ”、ドラマ『キミと僕の警察学校』の“チェ・スビン”、アイドルグループ「EXO」の“セフン”、『少女は悪魔を待ちわびて』の“キム・ソンオ”など。どの登場人物もみんな濃い(濃すぎる)のですぐに覚えられると思います。
『パイレーツ 失われた王家の秘宝』は日本ではNetflixで独占配信されたので、わりと簡単に見れるようになりました。子どもでも大人でも楽しめる気軽なエンタメですので、暇な時間にぴったり。ダイナミックな映像も多いので、できるかぎり大画面で鑑賞しましょう。
『パイレーツ 失われた王家の秘宝』を観る前のQ&A
A:Netflixでオリジナル映画として2022年3月2日から配信中です。
A:一応の前作となる『パイレーツ』(2014年)とは物語の繋がりがないので、鑑賞しないとストーリーが理解できないということはありません。
オススメ度のチェック
ひとり | :暇つぶしに最適 |
友人 | :気楽に観れる |
恋人 | :ロマンスも一応はある |
キッズ | :子どもでも笑える |
『パイレーツ 失われた王家の秘宝』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):海賊どもは肉を焼く準備をしろ
粗末な板でできたイカダのようなものに乗せられ、海に浮かぶ、というか漂流している男たち。彼らは義賊として陸地で活動していましたが、盗賊として非難され、挙句にこんな目に遭っていました。だいたいは頭領であるウ・ムチのせいです。「民を邪険にするからムカついたんだ」とムチはぼやきますが、こんな海に放置されたら後は死を待つしかありません。義賊たちの体力は急速にしぼんでいき、疲労困憊。もうダメだ…。
そこに大きな船が通りかかります。なんだか美しい女性が乗っていてこっちを見下ろしているように見える…。ムチは「迎えが来たのか、なんて美しいんだ」と意識が遠のき…。
3カ月後。なんとか助けられた義賊たちはヘラン船長率いる海賊船でこき使われていました。海賊船と言っても見てくれは漁船です。ずっと漁をするだけの日々です。義賊にしてみればそろそろ獣の肉が食べたい気分ですが、ここには魚介類しかいない…。ムチは態度がでかく、ヘランと対立してばかりであり、自分の部下である義賊がヘランの配下のようになっているのが気に入りません。
とそこに遠くで倭寇の船が見えました。盛り上がる船員たち。これで肉が食べられる…。
一番に乗り込んだのは随一の剣豪を自称するムチ。倭寇の船は漁船だと油断しており、完全に不意をつかれます。海賊の助けなしで倒してみせるムチでしたが、その船に肉はありませんでした。魚だけです。
ところが通訳で会話をしていると、高麗の親衛隊が書いたものらしい地図を持っていることが判明。どうやら財宝を捜しているようです。これは肉もいいけど、財宝もいいんじゃないか。「宝を見つけるぞ」と意気込む海賊と義賊。
こうして陸地にあがり、地図が示す場所を目指します。偶然にも見つけた象牙をヒントに、さらにお宝に近づくことができそうになり、いよいよ本格的な宝探しが始まります。
ヘランは「これより海賊船には海賊だけを乗せる」と言い放ち、義賊たちを勝手に海賊へと昇格。ムチは副船長だと言われ、それが納得できないムチは「俺はここで降りる。俺と進みたい奴は?」と主導権をとろうとします。しかし、義賊は誰もムチに従いません。右腕だったガンソプさえも…。
夜、船の上で大盛り上がりの中、ムチは陸でひとりぼっち。ところが朝になると例の象牙が消えており、ムチが盗んだのだろうと察した一同は陸へムチを探しに行きます。ヘランはムチに「象牙を渡せ」と剣を向けて戦闘になりますが、股間に一発お見舞いされたムチは顛末を告白します。
どうやらマギが持って行ったらしいです。一緒に陸に戻ったそうですが、まんまと騙されたと…。ムチは馬鹿でした。
今度はそのマギを見つけて、そばにいた高麗最後の王女だとのたまうヘグムも拉致し、宝探しを再開します。
しかし、その財宝を狙っているのはヘランたちだけではありませんでした。逆賊のプ・フンスを含む強欲に駆られた集団が強力な武器とともにその財宝の在りかを見つけるべく参戦してきます。
これはもう海賊と義賊で喧嘩している場合ではありません。まだ喧嘩しているけど…。
作品の背景にある歴史を知る
『パイレーツ 失われた王家の秘宝』は前作の『パイレーツ』もそうだったのですが、一応は歴史を下地にしています。歴史フィクションになっているわけです。
『パイレーツ』では朝鮮建国の証し「国璽」がしばらく行方不明になっていたという歴史的実話を踏まえ、映画内ではそれがクジラに飲み込まれていたというかなり大胆な脚色のもとで、争奪戦を展開するという荒業を見せていました。
今回の『パイレーツ 失われた王家の秘宝』は冒頭で説明があるとおり、もっと歴史が遡り、李氏朝鮮の始祖である「李成桂(イ・ソンゲ)」の話題から言及されます。たぶん韓国の人は歴史の授業で学んでいるから知っているのでしょうけど、日本人にとってはあまり馴染みがないかもしれません。
李成桂はもともと高麗の武官でした。高麗というのは918年に建国され、1392年まで続いた国家であり、朝鮮半島を含みます。この高麗は後年はモンゴルとの対立や倭寇の出現によって弱体化していきました。この弱った高麗を救ったのが李成桂といった武官です。
しかし、その戦いで功績をあげて台頭していた李成桂は、1388年に満州に向けて派遣されるも鴨緑江の威化島(ウィファド)で軍を引き返させてクーデターを起こして政権を掌握。1392年に恭譲王を廃して自ら国王に即位し、朝鮮王朝(李氏朝鮮)を興すという歴史的転換を巻き起こします。
これによって「朝鮮」という言葉が国号として採用され、『パイレーツ 失われた王家の秘宝』の映画は朝鮮太祖(テジョ)4年から始まるんですね。
映画内ではその李成桂にまんまと敗れることになった崔瑩(チェ・ヨン)将軍が王家の財宝を略奪し、遠い海へと逃げて持ち帰ろうとして、どこかにそれを隠した…という出来事を主軸に大騒ぎが起こります。
作中では後半に明らかになるように、イナズマ島(ポンゲ島)というそう簡単にたどり着けない難攻不落の島に隠したということになっています。
別に詳細な歴史を知らなくても楽しめるノリなのが『パイレーツ 失われた王家の秘宝』の良さですが、知っているとそれはそれで味わいも深くなるのでやっぱり歴史の勉強はいいもんです。
李成桂の物語は、『鄭道伝』『六龍が飛ぶ』『私の国』などの韓国ドラマでも描かれているので、気になる人はそっちもチェックしてみてください。
ペンギンにビンタされる海賊
そんな国家を揺るがす大きな争いがあったばかりの時代。『パイレーツ 失われた王家の秘宝』で描かれるのも、ムチたち義賊とヘランたち海賊の争いですが、これは比較にならないほどに…しょぼい…。あまりにもマヌケな奴らによる、あまりにも情けない小さな意地の見せあい。でもこれはこれで歴史的な戦いを相対的に皮肉っているようにも見え、面白いのですけどね。
韓国はハリウッド的なコンテンツを自国作品にするとき、変にかっこつけずにむしろダサさをあえて誇張して、ものすごく庶民派のテイストにリイマジネーションするのがクセなんだなぁ…。
今作も前作に引き続き、コミカルなタッチが強めです。序盤の「魚は嫌だ。肉がいい!」という食い意地のアホさ。そこからの牛にやられるムチのどうしようもないバカキャラっぷり。
そのムチに付き合わされた結果、クール系だったヘラン船長もどことなくバカキャラのノリに巻き込まれて行ってしまうという、そういう王道の関係性もしっかり展開されていました。クジラに飲み込まれて潮吹きで打ち上げられるとか、完全に漫画のオチだった…(あそこは前作オマージュかもだけど)。
ただ、後半で見事に「こいつ、主役じゃないか」というくらいに目立っていくのがマギです。今作のユーモア担当サブキャラクター。海賊王気分で威張ったかと思えば、一気に信用を失って今度はペンギンとの遭遇。ペンギンを尋問するというシュールな場面もありつつ(「お前は鳥なのか?」)、ペンギンに囲まれて、ビンタの応酬をして、糞を浴びせられ、突かれて…あんなペンギンに愛される海賊、なかなかないですよ。このシリーズ、前作も山賊が初めてサメと遭遇して鯨だと思いこみながらバカをやらかすというネタがあったのですが、動物ギャグが恒例なのだろうか。
映像面はここ数年での韓国映画のVHXと特撮技術の高さを今作でも見せつけていました。もう今ではハリウッドと全く遜色はないです。終盤の大渦潮でのスペクタクルな自然現象ディザスターのシーンを始め、迫力は満点。船が壊れない方が不思議。そして山頂ではムチが因縁の敵と剣技で勝負。ここではオーバーキルにもほどがある雷電剣劇が炸裂し、これもなかなかに豪快で気持ちがいいです。ムチの汚名返上です。
『パイレーツ 失われた王家の秘宝』は特別に光るものがあるわけではないですし、韓国エンターテインメントの最先端というほどでもないと思いますが、映画が娯楽を与えてくれることは財宝よりも嬉しいという不変の価値を思い出させてくれる作品でした。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience 67%
IMDb
6.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)Netflix
以上、『パイレーツ 失われた王家の秘宝』の感想でした。
The Pirates: The Last Royal Treasure (2022) [Japanese Review] 『パイレーツ 失われた王家の秘宝』考察・評価レビュー