それだけだよ!…映画『コカイン・ベア』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2023年)
日本公開日:2023年9月29日
監督:エリザベス・バンクス
ゴア描写
コカイン・ベア
こかいんべあ
『コカイン・ベア』あらすじ
『コカイン・ベア』感想(ネタバレなし)
実話です(盛ってます)
唐突な疑問。人間はドラッグなどでハイになったりしますけど、他の動物はどうなのか。
実は多くの動物もドラッグで同じような状態になることが観察されています。有名なのは、ネコに対するマタタビですが、野生動物も自身を興奮状態もしくはリラックス状態にさせるような化学物質を含む植物などをあえて摂取することが時々あるようです。
一方で、動物も依存症になることも報告されているので、そうした化学物質との付き合い方は適切な距離感が必要なのも人間と同じ。どんな物質も適量を超えれば体に毒ですから。
でも今回紹介する映画にはそんな警告も無意味かな…。とある野生動物がコカインを大量に食べてハイになって人間を襲いまくるという、もうアホとしか言いようがないコンセプトの作品です。
それが本作『コカイン・ベア』。
信じられないことにこの映画、なんと実話を基にしており、1985年に麻薬密売業者が投棄した大量のコカインを摂取してしまったアメリカグマ(日本のヒグマやツキノワグマとは違う種です。ツキノワグマより大きく、ヒグマより小さいぐらいの身体のサイズ)を題材にしています。このクマはそのなんとも珍妙な境遇から「Pablo Eskobear(パブロ・エスコベア)」とユーモラスにあだ名をつけられるなど(麻薬王のパブロ・エスコバルに由来)、当時からネタにされまくったそうです。
それがなぜか今さらになって映画化しだしたのですけど、発端は『スパイダーバース』シリーズでおなじみの“フィル・ロード”&“クリス・ミラー”がこの実話を気に入って2019年から映画化の企画を練りだしたとのこと。まあ、このコンビならやりそうだな…。
そしてついに映画が実現したのですが、完成した映画は史実とはだいぶかけ離れています。どう違うのかは後半の感想で詳しく語るとして、基本的には「動物パニックスリラー」の皮をかぶったコメディです。手足がもげたり、残酷描写は多少ありますが、全編にわたってふざけまくりで、120%アホな映画です。なので真面目に見ないでください。いや、観てほしいですけど、これで当時の事件やクマの生態が学べる…とかは考えないでね…という話。
でもこれだけは言えます。人間はいっぱい死にまくるのですが、肝心のクマに対しては優しい物語ですよ。最近の映画の中でもトップクラスに生き生きと描かれるクマが見れます。
このバカバカしさがみなぎっている『コカイン・ベア』を監督するのは、『ピッチ・パーフェクト2』や『チャーリーズ・エンジェル』の“エリザベス・バンクス”。個人的にはかなり良い人選だったと思います。なんかこう「女性監督にはフェミニズムな作品を担ってもらおう」みたいな感じでもなく、この「クマが暴れるだけ」のアホ全開な作品を担えるのがいいですよね。
俳優陣は「こんなに多いの?」ってくらいに登場人物がわんさかでてくるのですが(でも誰が死ぬかを楽しめるという意味でもある)、見慣れた役者もたくさん。
まずドラマ『ザ・ディプロマット』の“ケリー・ラッセル”が母親役。そして『ザ・ファイブ・ブラッズ』の“イザイア・ウィットロック・Jr”がベテラン刑事役。さらに『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』の“オールデン・エアエンライク”がメンタルがガタガタの麻薬王息子役で、“アイス・キューブ”の長男で『ストレイト・アウタ・コンプトン』のアイス・キューブ役で俳優デビューした“オシェア・ジャクソン・Jr”がそんなダメそうな麻薬組織を支える苦労人を熱演。その麻薬王を演じるのは『ソプラノズ ニューアークに舞い降りたマフィアたち』の“レイ・リオッタ”で今作が遺作となりました。
他にもドラマ『レポーター・ガール』で抜群の名演を見せた子役の“ブルックリン・プリンス”、ドラマ『スイート・トゥース 鹿の角を持つ少年』でこちらも愛嬌たっぷりで魅了してくれた子役の“クリスチャン・コンヴェリー”、『ブロー・ザ・マン・ダウン〜女たちの協定〜』の“マーゴ・マーティンデイル”などが参加しています。
疲れもたまるこの時期、変なクスリに手を出すくらいなら、この『コカイン・ベア』を鑑賞してスッキリしましょう。
『コカイン・ベア』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :気楽に笑って |
友人 | :一緒にエンタメを |
恋人 | :気分転換に |
キッズ | :少し残酷描写あり |
『コカイン・ベア』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):ある日、森の中で…
1985年、1機の飛行機が夜間の上空を飛行していました。そこに乗っていたのは麻薬密輸業者のアンドリューで、大量のコカインを詰め込んだ積み荷で機内は満載です。アンドリュー自身もコカインでハイになっており、さっきからその積み荷を手あたり次第に空から落としまくっています。
そして自分もパラシュートを装着して、ハイテンションのままに飛び降りようとしますが、扉の上部に頭を強打。気絶したまま落下し…。
後日、エルサとオラフは自然豊かな山を散策して、まったりしていました。川沿いをのんびり会話しながら歩きます。お喋りに夢中で、足元にクマの足跡があること、近くの木にバックが不自然に引っかかっていることにも気づきません。
絶景を前に寄り添っていると、1匹のクマがいるのを発見。距離が離れているので安心してカメラを向けていると、なんだか様子が変です。体をしきりに木にぶつけたり、なすりつけたりしています。ふと目を離すとこっちを睨み、近づいてきました。
エルサは走ってしまい、オラフも追いかけます。クマはあっけなく追いつき、エルサに飛びかかり、噛み殺してしまいました。足の破片が転がります。雄たけびをあげたクマは次は蝶を追いかけます。
ニュースでは、テネシー州ノックスビルで麻薬密輸業者の男がコカインと一緒に落下してきたと話題になっていました。
地元刑事のボブは、セントルイスの麻薬王シド・ホワイトに関連するものだと睨み、残りの大量のコカインの行方が気になって調査を始めます。愛犬を警察官のリーバ巡査に預け、コカインが落下しているであろう森へ単独で向かいます。
一方、シドはダヴィードに指示し、コカインを捜索させます。ダヴィードはシドの息子のエディを引っ張り込んで森へ。妻を失ったばかりで傷心気味のエディはバーで飲んだくれていました。
ところかわって13歳のディーディーは新しい恋人に夢中な看護師の母親のサリに嫌味をぶつけつていました。そして悪友のヘンリーと学校をさぼって山へ行きます。
この娘の反抗を把握したサリは、山に探しに行くことにし、レンジャーのリズとピーターと共に森へ入っていきます。
その頃、一足先にディーディーとヘンリーは森を歩いていましたが、見慣れない小包を発見。これはきっとコカインに違いないと考え、ナイフで破ってディーディーは白い粉を度胸だめしで口に入れてきます。でも味が酷いのですぐに吐き出し、ヘンリーも続きます。
破けた小包も見つけ、「シカがハイになってるかもね」と気楽にお喋りしていると、背後に動物の気配を感じます。
クマです。そのクマのくしゃみでコカインを浴びた子どもたち2人は一目散に逃げ出します。
ここはコカインに夢中になってしまったクマの生息地。それぞれの思惑を抱えた人間たちが集いますが、クマはどんなお出迎えをするのでしょうか…。
参考資料はウィキペディア
ここから『コカイン・ベア』のネタバレありの感想本文です。
『コカイン・ベア』は冒頭で、クマの生態に関する文章が表示され、「死んだふりは意味ないので反撃するほうがマシです」みたいなことが書かれているのですが、しっかり「Source: Wikipedia」とオチがつきます。要するに「この映画もこんな感じでいい加減だからね!」と最初に宣言しているわけで、この映画のスタンスを実にわかりやすく表していました。
そう、この映画は史実が基になっているわりには全然実話どおりではなく、ひたすらにアホな方向で脚色しまくっているのが最大の特徴です。
事の発端であるコカイン落下事件の描き方もそうで、史実では、アンドリューは飛行機内の積載量オーバーゆえにコカインの一部を捨てていたとFBIは分析しており、死亡理由もパラシュートが開かなかったことに原因があるとされています。
しかし、この映画ではアンドリューは最初からハイで、アホがアホなままに自業自得で死んだことになっています。
そしてこの映画では登場する人物がみんなアホです。ヒトってアホな生き物なんです。
ディーディーとヘンリーの危なっかしくもある可愛らしい掛け合いもずっと見ていたくなりますし、そのディーディーの母であるサリもずいぶんアグレッシブで面白いです。母親というポジションですが、そんなにステレオタイプではなく、さばさばと物語上で役割を果たしているのがいいですね。
一方の麻薬王シドにこき使われるダヴィードとエディについては、チンピラのキッドも交えて、どことなく弱さを吐露する男性同士のメンタルケアを描き、情けなくもありつつ、ちょっぴり優しい物語です。
本作に登場する本来は専門家的な仕事を期待される、森林公園のレンジャー、警察官、救急隊員はこぞって役に立つことなく終わり、プロフェッショナルに厳しい映画でした。こういうジャンルではプロが真っ先に死ぬことで、残された素人がどう生存するのかというハラハラを演出するのは定番ですけどね。
あと最初の犠牲者となるハイキングの2人。名前がエルサとオラフという『アナと雪の女王』のパロディになっているのですが、ここでクマと遭遇して走って逃げてしまうという、一番やってはいけない行為をして死んでしまいます。
その後、レンジャーのピーターは木に登って避難しますが、それでもその獰猛な牙からは逃れられず、リズは家に立てこもるもやっぱり無意味で、救急車で逃げても無駄に終わる。クマに対する正しい対処方法でも教えてくれるのかなと思ったら「何をやってもダメじゃないか!」という、理不尽な突き放しで片付けられるところも、この映画の不真面目さの良さです。
アホでもアホじゃなくても死ぬんだったら、もう何でもいいか…。
ハイになってるクマは見ていても楽しい
クマなどの野生動物にアホな感じで襲われるのは、ハリウッドのコメディにおける昔からの伝統です。『コカイン・ベア』もその系譜で、ノリとしては80年代・90年代のコメディを彷彿とさせます。
80年代・90年代までの動物コメディは本物の動物を使って撮っていることが多かったのですが、この『コカイン・ベア』は当然それはやってはおらず、クマはVFXで制作されています。
近年はCGクマも表現力が格段にあがっていて、いろんな映画で人がクマに襲われるシーンを迫力たっぷりに見せてくれていますが、『コカイン・ベア』のクマはまたクオリティが一段と上でしたね。「Wētā FX」みたいな業界一流のスタジオが手がけているだけはある…。
本作のクマは徹頭徹尾、こちらもアホしかしないのですが、フォトリアルなCGクマがああやって奇行をしまくっているのを眺めるのはなんて楽しいのか…。
木をものすごい速さでかけ登ったり、車に全力で走って追いついたり、もはや“トム・クルーズ”並みのアクションを見せてくれます。かと思えば死んだふりのエディの上でぶっ倒れて寝たり、起き上がってコカインの包ごと食べたり、地面ずりずりとはしゃいだり、コカインをシャワーのように浴びてご満悦だったり…。最後は子熊も交えてコカイン・ベア・ファミリーだし…。
なお、レンジャーの家でクマがドアを壊して、倒れた人に覆いかぶさったドアの上をのしのしと歩くシーンは、たぶん1988年のこちらもクマにアホみたいに襲われる見どころがある『大混乱』(原題は「The Great Outdoors」)を意識しているのかな。
一応、クマの名誉のために補足しておくと、史実ではコカインを食べたクマは人を襲っていません。というか、コカインを食べたのは事実なのですが、あんなにハイになったという事実はなく、たぶん数グラムしか吸収していないのではないかと言われています。落下したコカインは80億円相当の34キロもあったのですが、きっと大半はどこかに散らばっただけなんでしょうね。コカインは無臭で苦みがあり、どうしてクマがコカインを食べたのかもわからないですが、胃に入れてもそんなに吸収はされなかったのかな…。
それでも実際のクマはコカインの過剰摂取で死亡したとされています。そのクマの死骸はその後に剥製にされたことになっていますが、とくにそこまで科学調査は行われていない様子。
ちなみにクマがアルコールを飲んで酔っ払うことはわりとあります。一部の酒は匂いがあるのでクマを誘引するんですよね。皆さんもクマの生息する地域でアルコールを保存する際は戸締りをしっかりした場所で保管しておきましょう。コカイン・ベアならぬアルコール・ベアが出現してしまいますからね。
野生のクマにはむやみに近づかない。写真を撮ってSNSにあげてバズらせようとか考えない。餌付けなんてもってのほか。もちろんコカインも与えてはいけない。
コカイン・ベアからの真面目なお願いでした。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 67% Audience 71%
IMDb
5.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)2022 UNIVERSAL STUDIOS コカインベア
以上、『コカイン・ベア』の感想でした。
Cocaine Bear (2023) [Japanese Review] 『コカイン・ベア』考察・評価レビュー