TAXi5は評価も失速、でも平常運転…映画『TAXi ダイヤモンド・ミッション』(タクシー5)の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:フランス(2018年)
日本公開日:2019年1月18日
監督:フランク・ガスタンビド
TAXi ダイヤモンド・ミッション
たくしー だいやもんどみっしょん
『TAXi ダイヤモンド・ミッション』あらすじ
最高のドライビングテクニックを持ちながら、問題だらけの警官マロはパリからマルセイユへ左遷されてしまう。赴任先のマルセイユ警察は、フェラーリなどの高級車を使ったイタリアの宝石強盗団に頭を悩ませていた。
『TAXi ダイヤモンド・ミッション』感想(ネタバレなし)
コンニショア~!
日本とフランス。この9000km以上離れた2つの大国を“経済”という名の巨大な道路で結ぶことに大きく貢献していたのが、日産とルノーの2つの自動車企業です。しかし、この2社が信頼していた「カルロス・ゴーン」という最良の燃料だと思っていた存在が、まさかのエンストの原因に。巨大道路を走行する車は大渋滞、両者で正面衝突を起こしかねない状況です。
かつていないピンチを迎える日本とフランス。
この状況に明るいムードを巻き起こせるのは“彼”しかいない。
そう、「コンニショア~!(CON NiCHON AHH!)」と高らかに日本語で挨拶をしてくる、あの『TAXi』シリーズの名キャラクター「ジベール」です。
『TAXi』シリーズはご存知の方も多い…と思ったのですが、もう1作目が1998年なので20年以上も前なんですね。じゃあ、「コンニショア~!」も知らない人がいるのか…。
フランスのカルト的支持の高い映画人“リュック・ベッソン”がプロデュースしたフランス製カーアクション・シリーズ『TAXi』。改造タクシーが常識外の爆走で事件やらトラブルやらを解決していく、ただそれだけの痛快で単純な映画。それでも、挿入歌として使われるDICK DALE & his DEL TONESによる「MISIRLOU」や、コミカルすぎるキャラクターたちが人気を集め、フランスのみならず、世界中でファンを獲得しました。『ワイルド・スピード』シリーズがマッチョ方向に進化していくカーアクションならば、この『TAXi』シリーズはひたすらアホ方向に進化しているカーアクションです。
ちなみに「コンニショア~!」は、『TAXi2』の作中で、訪仏した日本の防衛庁長官をマルセイユ警察の面々がお迎えするために、ジベール署長が日本の挨拶を教えているときに出てくるセリフ。この2作目はとことん日本要素で遊んでいるので、日本人が観るとニッコリできます。
そんなシリーズがなぜか20年の時を超えて新作『TAXi ダイヤモンド・ミッション』として復活。フランスのオリジナル・シリーズは4作目まで公開され、その後にアメリカ映画版『TAXi NY』とドラマ版の『TAXi ブルックリン』がありましたが、ここに来てなぜまたもやフランスで再始動したのか。
どうやら監督・脚本・製作・主演を手がける“フランク・ガスタンビド”という男の熱意あってのようです。ここまでくると「俺の“TAXi”を作りたいんだ!」という魂だけですね。
本作は5作目で続編なのですが、主人公組は過去シリーズから一新されています。ただし、どういうわけかジベールは登場し、しかも市長になっているという、謎のキャリアアップ。なぜこいつが市長になれたのか。フランスの政治はかなりヤバいんじゃないか。あ、だから「黄色ベスト(ジレ・ジョーヌ)運動」が起きているのか、納得。
フランスの3大自動車メーカーとして、ルノー、シトロエンに並ぶ、プジョーの車が登場するのがお約束の本シリーズ。今作でも登場しますが、4作目から継続して「プジョー・407」を使用。すでに旧型の車なのですが(改造されているけど)、いいのだろうか。
過去作を観ておく必要は、たぶん、ないです(テキトーな言葉)。アホやっているだけですからね。でも、過去作の方が面白い、いや何でもないです。
ということで、日産とルノーの新しいトップには「ジベール」を私は推薦します(えっ)。
『TAXi ダイヤモンド・ミッション』感想(ネタバレあり)
主人公、変わったのは俳優だけではない
新スタートとなった『TAXi ダイヤモンド・ミッション』が過去1~4作目から何が変わったかといえば、もちろんまずは主人公です。
過去1~4作目の主人公組は、“サミー・ナセリ”演じるダニエルと、“フレデリック・ディーファンタル”演じるエミリアン。スピード狂のタクシー運転手ダニエルが、全く運転ヘタクソでドジばかりの警官エミリアンとコンビを組むというのが、シリーズの面白さのベース。
加えて、ダニエルは明示されませんが推察するに移民系であり、そんな彼がフランス白人であるエミリアンの尻を叩きながら、好き放題かっ飛ばしていくというのが、おそらくフランス庶民にとって留飲を下げる要素だったのだと思います。単にカーアクションとしてだけでなく、人種的にもスカッとする側面がある映画なんですね。
一方の5作目となる『TAXi ダイヤモンド・ミッション』は、パリから左遷されてきたスピード狂のマロという男が、ダニエルを叔父に持つマヌケなタクシー運転手のエディとコンビを組みます。つまり、過去1~4作目と比べると、警官とタクシー運転手の立場が逆転しています。マロの出自はよくわかりませんが、とりあえず車をぶっ飛ばすのが移民系という図式がなくなったため、過去作ほどのわかりやすいカタルシスは薄くなったのかもしれません。
それよりも今作ではあの『TAXi』が戻ってくるということに重きをおいて、「プジョー・407」がマルセイユの地で再びタイヤを回すという展開にアツさを持たせている感じでしょうか。
全体的にファンサービスに特化しているので、物語の主軸となるキャラクターもそこに寄っているのでしょう。
まあ、先にも言ったように、“フランク・ガスタンビド”の「俺の“TAXi”を作りたいんだ!」という思いが第一にあるというのも大事ですが。
“フランク・ガスタンビド”監督は、監督キャリアとしては、2009年に『Kaïra Shopping』というテレビシリーズを始め、2012年の『Porn in the Hood』、2016年の『Pattaya』と続いての本作だそうですが、映画業界に触れたきっかけは自身が犬のアニマルトレーナーだったかららしく、なかなか変わった経歴を持っているみたいです。
警察がさらにヤバい
主人公組の変更だけで済めば、本作は比較的にシンプルに収まっていたかもしれません。思えば1作目は低予算で製作されていましたし、今作も最初の一歩を手堅く踏み出すこともできたはず。
しかし、ここで本作はさらなるアレンジを加えてきたのでした。
それがマルセイユ警察署のメンバーたち。過去1~4作目ではわりとモブのような扱いで、バカではありますが、背景として映っているだけの集団に過ぎなかった警官たち。ところが、今作ではそのひとりひとりがクローズアップされ、しかもかなり強烈でクセのあるキャラづけがされています。
過去作にも登場していたアランが署長に就任していて、これはこれで大丈夫かという感じもしたのも束の間、他のメンツのヤバさはその比ではなかった。メナール、ミシェル、レジス、サンドリーヌ…どいつもこいつもバカしかいない。これでは『ポリスアカデミー』より酷いです。当然、捜査などカタチにすらならず、行き当たりばったりの連続。
そして、そこにジベール市長が加わるわけですから。ジベールも大人になって成熟した…なんてことは一切なく、相変わらずの頭のネジが外れている男であり…。
フランスには、選挙制度がないのかな…。
きっとフランス国民は「政治家も警察もどうせアホしかいないだろ」くらいに思っているのでしょうかね。権力者を滑稽に描く姿勢は好感が持てますが。
ただ、映画として面白いかは別。ここまでくると警察として成り立っていないので、一応の敵となる強盗団側との駆け引きも、考えなしの激突合戦みたいになってしまい、ケイパー的なエンターテインメントは弱くなってしまったかな。
次はこの人を主役にしてください
あとは、全体的にギャグセンスが低年齢化している感じは否めません。
もともとしょうもないコメディばかりだったのに、今作はそれに輪をかけてギャグが下品&単純にシフトチェンジ。シリーズで毎回のようにあったゲロ・ギャグも、本作では盛大なゲロ吐き攻撃へと変貌し、人の怪我も平気で笑いにしていくスタイル。人命もわりとどうでもいいノリです。このあたりは個人差ありますが、嫌悪を示す人もいるのかな。過去作は一定のラインは超えないようにセーブしていましたから。
肝心のカーチェイス・シーンも、ドライビングテクニックが凄いというよりは、車が頑丈なだけではないかと言わざるを得ない、ラストの船ツッコミ展開といい、とにかく雑。
最近のカーアクション映画はジャンル作品とは言っても、一級品にクオリティを極めたものばかりです。“インポッシブル”な例のアレは俳優自らが危険走行をガンガンするし、“ワイルド”な例のアレは派手さに関しての妥協が一切ありません。『TAXi』が生まれて20年、カーアクション映画も進化しているわけで、どうしてもハードルは依然と比べて数段上がっています。『TAXi』シリーズがこの時代に復活すれば当然求められるレベルも上がるのは無理はないでしょうね。
世界最大のダイヤモンド“カシオペア”とかは最初から無視していい感じ。まあ、盗まれるものなんてそんなものですけどね。ダニエルの「プジョー・407」が盗まれる…とかじゃ、ダメだったのかな。
ただ、個人的に良かった部分もあって、マロが好意を向ける、エディの姉・サミアの佇まいが良かった点がひとつ。演じたサブリナ・ウアザニの自然体なクールさが良いです。過去1~4作目に登場した女性キャラは極端な味付けがされた人ばかりだったので、この点に関しては大きな改善というか、正当な進化な気がします。むしろ彼女が主人公になってほしかったくらいです。
そして、悪役が結構“顔”のすごみがあって私としては気に入っています。イタリア強盗団を率いるボスのトニードッグと相棒のロッコ。こいつらを主人公にしても良かっ(以下略)。トニードッグを演じた“サルバトーレ・エスポジート”は、『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』に出演していたようで、言われてみればそうかも…と思い出しました。
フランス本国では興行的にはヒットしたようですが、批評的には最低クラスの記録を残した今回の新生『TAXi』。一度限りの記念走行なのか、継続して走る気でいるのか。それは誰にも分りません。
ジベールは次は大統領になっているのかな…。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 0% Audience 35%
IMDb
4.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 2/10 ★★
関連作品紹介
『TAXi』シリーズ作品の一覧です。
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- 『TAXi』
1作目。マルセイユを舞台に、宅配ピザ屋の配達員から念願のタクシードライバーへ転職したダニエルと新米刑事のエミリアンが、プジョー・406を駆り、ドイツの強盗団と対決。
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- 『TAXi2』
2作目。サミットのため訪仏した日本の防衛庁長官とエミリアンの恋人がヤクザに誘拐されたので、二人の救出のため、パリへと向かう話。日本ギャグがキレキレで、楽しいです。
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- 『TAXi3』
3作目。謎のサンタクロース強盗団と対決。強盗団を追って雪山アルプスを疾走するタクシーに注目。また、ゲストとして冒頭にシルヴェスター・スタローンが登場するのでそこも見どころ。
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- 『TAXi4』
4作目。父親になったエミリアンとダニエルの子育て葛藤を描きながら、舞台をマルセイユからモナコに移して走り回ります。この4作目でヒロインキャラはかなりフェードアウト気味。
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以上、『TAXi ダイヤモンド・ミッション』の感想でした。
Taxi 5 (2018) [Japanese Review] 『TAXi ダイヤモンド・ミッション』考察・評価レビュー