残酷すぎて大問題になった格闘ゲームの実写映画化リブート作…映画『モータルコンバット』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2021年)
日本公開日:2021年6月18日
監督:サイモン・マッコイド
ゴア描写
モータルコンバット
もーたるこんばっと
『モータルコンバット』あらすじ
胸にドラゴンの形をしたアザを持つ総合格闘技選手コール・ヤングは、愛する家族を養うために日々を闘いに捧げていた。そんなある日、あり得ないような光景を目にする。どう考えてもこの世のものとは思えない特殊な能力を使いこなす危険な暗殺者が登場。わけもわからずにいたコールは衝撃の事実を知る。それは太古より繰り広げられてきた残虐な格闘トーナメント「モータルコンバット」の存在だった。
『モータルコンバット』感想(ネタバレなし)
残酷すぎて大問題になった格闘ゲーム
映画にはレイティングとして規制が入ることはご存じだと思いますが、映画よりもテレビゲームの方がその規制は厳しい傾向があります。
アメリカには「ESRB(Entertainment Software Rating Board)」というコンピュータゲームのレイティングなどの審査を行う団体があり、1994年に設立されました。今も市場に出回るゲームのほとんどを非常に細かいレイティング区分で分類し、評価しています。この審査で「Adults Only」と判定されると流通に大きな制限がかかり、かなり販売は大変になります。
この「ESRB」設立のきっかけになったのが当時世間をザワつかせていた暴力的なゲームの存在。これは社会問題化し、とくに子どもへの有害性が盛んに論じられました。日本でもこの論争は飛び火し、暴力的ゲームの悪影響の話から、ゲームをしすぎると脳が衰えるみたいな話にまで発展。この時期は「ゲーム脳」なんていう科学的根拠のない用語まで盛んにもてはやされ、ちょっとしたモラルパニック状態になりました。
そんなアメリカの暴力的ゲーム論争の発端になったゲームのひとつ。それが「モータルコンバット」でした。ミッドウェイゲームズが1992年に開発・発売した対戦型格闘ゲームであり、最初はアーケード版として提供されていました。ちなみに原語では「Mortal Kombat」。「Combat」でなく「K」であり、それが作品のトレードマークです。
この「モータルコンバット」の特徴は何といっても残虐描写。対戦型格闘ゲームなので当然戦い合うのですが、相手をノックダウンさせて終わりではなく、そこからなんとも残酷な方法でトドメを刺すという演出が入るのが恒例で、「Fatality」と呼ばれています。その残酷なトドメは本当に文字どおり残酷極まりなく、血が出るとかそんなレベルではない、相手の首を脊椎ごとブチっと引っこ抜くとか、体をズタズタに引きちぎるとか、完全に悪趣味なゴア描写なんですね。
さすがにここまで度が過ぎる暴力さだと火種になるのも納得なのですが、皮肉なことに社会がこのゲームを問題視すればするほど「一体どんなゲームなんだ?」と好奇心をくすぐり、なんだかんだでこの「モータルコンバット」は2021年になってもシリーズが続いている熱烈な大人気作品へと上り詰めました。
その「モータルコンバット」も日本での知名度はいまひとつ。日本はアメリカ以上にゲーム規制が厳しく、販売されても大幅な規制が入りますし、最新作の2019年の「Mortal Kombat 11」は日本では発売されていません。
そんな「モータルコンバット」は1995年に映画化されました。監督はポール・W・S・アンダーソン。クセが強すぎるこの作品の映画化としては健闘したほうだと思うのですが、特徴である残酷描写はほぼなし。ファンにとってはやや物足りない映画化でした。
その屈辱を晴らすべくなのかは知りませんが、「モータルコンバット」が2021年にまたも再度リブートして実写映画化しました。それが本作『モータルコンバット』です。
今回の映画はあの残虐なトドメ描写がしっかりあります。なのでR指定です。
製作は“ジェームズ・ワン”のスタジオである「Atomic Monster Productions」。監督は“サイモン・マッコイド”という人で、これが映画仕事のデビューみたいですね。
出演陣は、ドラマ『五行の刺客』の“ルイス・タン”を主人公に、『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』の“ジェシカ・マクナミー”、ドラマ『スーパーガール』の“メカッド・ブルックス”、『パワーレンジャー』の“ルディ・リン”、『スカイスクレイパー』の“チン・ハン”、そして日本からは“浅野忠信”と“真田広之”が参戦。この2人はとても重要なキャラで見せ場も多いです。
ということで国内の盛り上がりは薄いですが、残虐ゲームの本場からの殴り込みを満喫しようじゃないですか。
『モータルコンバット』を観る前のQ&A
A:あります。というか、それが売りの作品です。
オススメ度のチェック
ひとり | :ゲーム未経験でもOK |
友人 | :趣味が合うならハマる |
恋人 | :暴力的でもいいなら |
キッズ | :残酷描写がいっぱい |
『モータルコンバット』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):出場資格をいつのまに
1617年の日本。ハサシ・ハンゾウと息子は仲良く家に到着。妻は家の外で土いじりをしており、息子は家で泣く赤ん坊の妹を見てきます。ハンゾウはまた水くみに。
母が家に入ると、外で戦っている声がします。血が戸にべったりつき、謎の男が室内に侵入。「ハンゾウはどこだ?」…少年は立ち向かおうとするも母は止めます。侵入男は手の氷を尖らせ…。
悲鳴を聞いたハンゾウは駆けだします。家の前には凍り付いた妻と息子の無残な姿。
ハンゾウは怒りに身を任せ、周囲の敵を殲滅。「ビ・ハン!」…敵はわかっていました。その侵入男は座って待っており、「貴様を斬る」とハンゾウは挑んでいきます。激しく戦う両者。クナイがハンゾウに刺さるも反撃。しかし、ハンゾウはやられ、敵は去りました。泣き声を耳にして起き上がるハンゾウは、家まで這おうとするもの途中で炎のようなものに包まれ、力尽きます。
そこに稲妻を放つ謎の存在が、家の中にいた赤ん坊を抱えていき…。
それから年月が経過。魔界では「ハンゾウの子孫に負ける」という予言を気にするシャン・ツンが、人間界のチャンピオンを殺すようにビ・ハンあらためサブゼロに命令します。
一方の人間界。総合格闘技選手のコール・ヤングは今日の試合で相手にねじふせられてしまいました。試合後、ジャックスという男が訪ねてきます。コールの体にあるドラゴンのタトゥーを話題にし、生まれつきの痣だと説明するコール。
コールは妻と娘と過ごします。7月なのに雪です。周囲が凍り付き、異常だと察知。するとサブゼロが出現し、氷を操り、襲ってきました。間一髪、ジャックスが車に乗れと誘い、爆走してその場を退避。ジャックスも自分の龍の痣を見せ、「選ばれたんだ」「戦うために」と言います。
路地裏でまた氷男と対峙。「ソニア・ブレイドのもとへ行け」と言い残し、ジャックスだけが立ち向かっていきました。
コールは教えられた場所へ向かいます。そこで出会ったのはソニアであり、彼女は元軍人で龍の紋章はありませんが、何か知っているようで語ってくれました。龍の紋章は戦士の証拠であり、「モータルコンバット」という闘いが常に開かれ、外界にいる未知の種族と戦うことになると。にわかには信じられない話です。
隠れ家の奥にカノウという男が囚われてしました。同じく龍のマークがありますが、ソニアは戦士にふさわしくないと考えているようです。
すると停電。透明な化け物(レプタイル)が襲ってきます。カノウはフレアで敵の位置を判断。3人で協力して戦っていき、なんとか勝ちました。
これはもう「モータルコンバット」に深く関与するライデンの寺院に行くしかないようです。
3人は飛行機で飛び降り、寺院を探します。途中で腕から炎の玉を飛ばすリュウ・カンと遭遇。ついていくことに。そして目的の場所に到着。岩場にぽっかり開いた巨大な洞窟で、中は人工の寺院でした。
秘密の扉を開くと、神秘的な場所に。モータルコンバットの歴史が壁画になっており、その戦いの数々が窺い知れます。
さらに奥へ行くと、雷を使いこなすライデンがいました。しかし、対面するや否や、3人を前に痛烈な失望感を露わにするライデン。勝てる見込みはないのか。
しかも、寺院にサブゼロが侵入。リュウ・カンとクン・ラオが対峙するも、敵の親玉であるシャン・ツンも現れ、ライデンは防御壁を張って時間稼ぎをします。ミレーナ、ニタラ、カバル、レイコ、ゴロー…敵は精鋭を揃えていました。
今からトレーニング開始です。
参戦者を紹介
最近のゲームの映画化だと『モンスターハンター』があったばかりですが、それらと比べると『モータルコンバット』の国内での扱いは弱く、公式サイトもシンプル。キャラクター紹介すらありません。日本人俳優ならこっちの方が活躍しているのに…。
ということでここで簡単にキャラクター紹介。
最初に登場するのはハサシ・ハンゾウこと「スコーピオン」です。「モータルコンバット」の本来の主人公はリュウ・カンなのですが、このスコーピオン人気は絶大ですっかり作品の看板を背負う主役ポジションになっていました。だから映画でも裏主人公ですし、その子孫のコール・ヤングを新たなに主人公に据えたのでしょうね。
白井流の忍者でしたが、因縁のサブゼロへの執念が姿を変化させ、ゲームでは骸骨頭の炎使いに。映画では“真田広之”のままですが、この“真田広之”が渋くてカッコいい…。演技の熱気が突出していました。この映画の活躍でまたスコーピオン人気が上がっちゃうんじゃないか。
地球を守護する雷の神として登場するのがライデン。“浅野忠信”が演じていますが、たぶん本作で一番バランスが難しいキャラですし、正直、シュールです。目が常に光っていると、写真撮影で目が変に反射しちゃった人みたいだもん…。良いやつには見えないですもんね(ゲームでは悪に染まることもたびたびあるのだとか)。
米軍特殊部隊のソニア・ブレイド。ゲームでは初期からいるキャラでしたが、人気は一時低迷。今回の映画ではそれが反映されているのか、龍の紋章を持たない劣等感を抱えつつも、最後にはビーム砲に開花して覚醒。インパクトはじゅうぶんです。
一方の犯罪組織「黒龍会」に属するカノウ。名前のとおり初期設定上は日本人でしたが、ゲーム内では以降は無かったことにされており、今回の映画でも明らかに日本人ではありません。ディズニーの『シュガー・ラッシュ』にも登場していましたね。映画では小物臭が香ばしいキャラになっており、なんだかんだで美味しかったのでは。
リュウ・カンは今作ではやや出番が少なめ、というかちょっとバカにされてる。人気か、人気がないせいなのか…。大きな刃が付いた帽子を武器とするクン・ラオの方がインパクトはあったかもしれない。
ジャックスはソニアの上司ですが、腕をサイボーグ化して、吹っ切れるまでが描かれており、楽しそうでした。
悪役陣営の中で、サブゼロの次に目立っていたのがゴロー。ショカン族と呼ばれる四本の腕を持つパワータイプで、1995年の映画版でも大暴れしていました。
シャン・ツンは少林寺の破戒僧なのですが、この映画だけだと本当に何がしたいやらな存在でした。まあ、あれです、魂を吸いたいだけですよ。
映画でも「FATALITY」
2021年の『モータルコンバット』の魅力はやっぱり残虐描写。「FATALITY」を決めてくれます。
サブゼロによるジャックスの両腕の氷粉砕、レプタイルの心臓をもぎとるカノウ(ちゃんと「カノウ WINS」って言う)、序盤から飛ばしまくり。
その後も、クン・ラオはニタラを綺麗に縦に真っ二つにし、コールもゴローをグログロのボコボコにして亡骸に変えます。あんな父を見て、娘の心理状態は大丈夫なのか…。
ジャックスはレイコの頭を粉砕し、リュウはカバルを炎の龍っぽいので燃やし尽くし、ソニアの腕ビームでミレーナに穴があき…。もはや「FATALITY」映像集です。
終盤はいよいよ待ってましたとばかりにスコーピオンが登場し、コールとの共闘。ここでおなじみのテーマ曲が流れるのがアツい。スコーピオンの火炎放射でサブゼロはもっと熱い。
確かに残酷描写はしっかりクリアしており、これぞ「モータルコンバット」という出来になっていました。ただやっぱりこれを映画で見てもそんなに特別な感じはしないというか、だったらゲームで良いのでは?とは思ってしまいますよね。なかなか映画化したからこその面白みは乏しい…。
今回の映画版でも多数のキャラクターを登場し、かつその見せ場となる戦闘を詰め込むということだけで、映画の時間を目一杯使ってしまった感じもあり、後半はかなりの忙しい展開でした。
個人的にはもっとひとりひとりのキャラクターにフォーカスしてじっくり描きつつ、最後に全員が集結して乱戦していく方が楽しいと思うので、映画よりもドラマシリーズ向きなのかなとも思います。
そもそもこの「モータルコンバット」はかなりカオスな世界観です。アジアンなテイストもあれば、ミリタリーな軍隊キャラもいるし、やたらアメリカンな奴もいて、ホラー要素もあるかと思えば、ファンタジーすぎる存在も出てきて、超近未来SFもあったり、さらにゾンビとかまで出てくる。もう収拾がつかないです。これを1本の映画にまとめるとどうしたってぐちゃぐちゃに見えます。まあ、このぐちゃぐちゃが「モータルコンバット」らしさなのでしょうけど。
一応は次回作があるかのようなエンディングでしたが、ジョニー・ケイジを探すよりも、もっと魅力的な映像企画を実現できる製作陣を仲間に加えるべきかもしれません。
いろいろ書きましたけど、「モータルコンバット」の映画化としては現状でできる最大級のことをやっているとは思うので、100点満点です。
おそらく「モータルコンバット」は今後もずっと人気があるでしょうから、映像化の機会はいっぱいありますよ。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 55% Audience 86%
IMDb
6.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved モータル・コンバット
以上、『モータルコンバット』の感想でした。
Mortal Kombat (2021) [Japanese Review] 『モータルコンバット』考察・評価レビュー