その気にさせたからこっちが悪いって?…映画『REVENGE リベンジ』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:フランス(2017年)
日本公開日:2018年7月7日
監督:コラリー・ファルジャ
性暴力描写 ゴア描写
REVENGE リベンジ
りべんじ
『REVENGE リベンジ』あらすじ
ジェニファーは裕福なリチャードに連れられて砂漠地帯に建つリチャードの豪華な別荘を訪れる。しかし、そこでリチャードの狩猟仲間の男たちに欲情され、襲われた挙句に、口封じのために崖の下へと突き落とされてしまう。なんとか一命は取り留めたものの、とどめを刺すべく人間狩りを始めた男たちに対し、ジェニファーは黙っているわけにもいかず復讐を開始する。
『REVENGE リベンジ』感想(ネタバレなし)
これはただのリベンジじゃない
「レイプリベンジ」というジャンルがあります。その名のとおり、雑に言ってしまえば、レイプが起き、その被害者もしくは関係者(家族や友人など)が加害者に復讐する…要はそれだけのなんともシンプルなものです。
1960年のイングマール・ベルイマン監督の『処女の泉』のように、少なくとも性暴力をしっかり描写できるようになって以降の時代からずっと存在はしてはいたのですが、1970年代に量産されるようになり、一種のエクスプロイテーション映画と化しました。過剰な映像に特化しやすいのでジャンルムービーになりがちなのでしょうね。
だからといってB級映画どまりなのかと言えばそういうわけでもなく、近年も『エル ELLE』『ノクターナル・アニマルズ』『スリー・ビルボード』『ナイチンゲール』など、高く評価されるレイプリベンジものはたくさんあります。
そんな中で「これは既存のレイプリベンジ作品からワンランク更新したな」と感激してしまった、ジャンル・アップデートをもたらす強烈作品に2018年に出会えました。それが本作『REVENGE リベンジ』です。
物語はレイプリベンジの王道どおりです。主人公の女性が性的暴行を受け、加害者の男たちに復讐をしていく…この表面上だけを切り取れば何一つ新しいことはない気がしてきます。
ところが本作はわかる人にはその斬新さが理解できる…そういう映画になっています。少なくとも昨今の性犯罪における課題を重々知っているなら、「おおっ!」となる爽快感です。なぜ本作が『REVENGE リベンジ』というやたらストレートなタイトルなのか、それも納得の…。
ただ、その本作が成し遂げた新規性を理解していないと、真逆の低評価につながってしまう作品でもあり、現に本作を配信しているサービスの感想コメントとかに目をやると、完全に作品の趣旨が伝わっていない人の意見がチラホラと見えて…。
詳しくはネタバレになるので後半の感想で書いています。
またジャンル映画としてのエッジも素晴らしくて、とくに『ワイルド・アット・ハート』や『ドライヴ』を彷彿とさせる映像感覚で、ビジュアルが本当に良い作品でもあって…。個人的には『ジョン・ウィック』みたいにシリーズ化してほしいくらいにハマってしまいました。2018年の映画マイベスト10に入れようかどうか迷ったのですけどね…。
『REVENGE リベンジ』はフランス映画であり、新鋭監督である“コラリー・ファルジャ”は間違いなく今後も要注目の人物でしょう。長編は本作が初みたいですが、過去には短編で評価されています。その代表作『REALITY+』という作品は、見た目(声も)を自由に変えられるインターフェースが流通する世界を舞台にしたSFで、人間の欲をこれまた鮮やかに捉えた物語になっており、全くジャンルは違えど『REVENGE リベンジ』に通じる軸があります。スタイリッシュな作家性ですよね。
“コラリー・ファルジャ”監督の才能だけではありません。主演をつとめた“マチルダ・ルッツ”の魅力も本作を支える大事な柱。『ザ・リング リバース』にも出演していましたが、同じ人なのかと思うくらい、『REVENGE リベンジ』の彼女は輝きが段違いだった…。とにかくカッコいいし、これは男女問わず惚れる。いや、どこを見て惚れるのかでジェンダーの視点の違いがもろに出てくるでしょうけど…。
他には『ザ・バウンサー』の“ケビン・ヤンセンス”、『REALITY+』でも主演していた“バンサン・コロンブ”、『あしたは最高のはじまり』の“ギョーム・ブシェド”。主人公の“マチルダ・ルッツ”も合わせてこの4人がほぼ主要登場人物であり、少数構成の物語なのですが、濃いキャラクター性を披露しているので印象に残りまくるでしょう。
批評家も絶賛している『REVENGE リベンジ』。あなたの感想しだいで、あなたがリベンジする側なのか、される側なのか、それが言葉に無意識に出てしまうかもしれませんよ。
なお、非常にゴア描写に気合が入っており、苦手な人は目を背けたくなる残酷シーンもいくつかあるので、そのあたりは覚悟するか、目をつぶるかしてください。
オススメ度のチェック
ひとり | ◎(刺さる人には刺さるカルト作) |
友人 | ◯(リベンジ好きは見て損なし) |
恋人 | ◯(グロに耐性があるなら) |
キッズ | ✖(残酷描写が満載です) |
『REVENGE リベンジ』感想(ネタバレあり)
ここにいるのは女と男と男と男
岩と砂しかない大地。青空をヘリが飛んできます。僻地にポツンとある豪邸に着陸したヘリから降りてきたのは、男に連れられた女。金髪ロング、サングラス、星のでかいイヤリング、ピンクの服で短いスカートに生脚を見せ、ロリポップを舐めています。
ヘリの操縦士ロベルトからクスリをもらう男の名はリチャード。彼はこの豪邸にはバケーションなのか、狩猟遊びで時々来訪するらしく、今回はこのジェニファーという若い女も一緒。リチャードには妻がいますが、今はジェニファーとたっぷり楽しむつもりのようです。
ジェニファーはリッチな別荘宅にズカズカと入り、部屋でくつろぎます。そしておもむろにリチャードと体を密着、Tバックを見せつけながらスリスリと…当然、リチャードはすっかりメロメロで恍惚状態です。そのままジェニファーはリチャードのアソコを口で満足させてあげました。
翌朝。ジェニファーはTシャツに下は下着1枚という相変わらずラフな格好。大きな窓ガラスで視界の広いリビングルームにてまったりしていると、窓から大きな銃を抱えた男二人が突っ立ってこっちを見ているので驚きます。
どうやらこの2人の男はリチャードの狩猟仲間らしく、スタンとディミトリという名前のようです。2人は魅力全開なジェニファーに目が釘付け。
昼間もその夜もビキニのような格好でリチャードといちゃつくジェニファー。スタンとディミトリはそれを目で眺めてご満悦。リチャードは貰ったかなり強力らしいクスリを隠しておいてくれとジェニファーに頼み、彼女は自分のペンダントにしまいます。
ジェニファーは音楽をかけ、靴を脱ぎ、踊りだします。誘って体を密着させクネクネとダンスするセクシーな肉体に、男たちは歓声をあげて大喜び。そろそろお開きだとリチャードがジェニファーを部屋に戻しました。
またも翌朝。リチャードは狩りの許可を取りに行ったそうで、午前中は戻らないとスタンは言います。ディミトリはプールで二日酔いでプカプカ。スタンは「俺たちだけだ」とにこやかにこちらを凝視。変な空気。たまらずスマホをいじるジェニファーですが、スタンは目を逸らしません。荷物をまとめるとジェニファーは部屋に戻ることに。
ベッドルームで着替えていると、スタンが見ています。近づいてきて「お互いに知り合う時間がなくて残念だ」とスタンは話し、「俺のどこが嫌い?」と聞いてきます。やむを得ず「私のタイプではない、それだけ」と答えるしかないジェニファー。しょうがないので「背が低い。背が高い人が好き」と正直に答えます。すると「俺の身長はゆうべから変わったか?」「ゆうべは俺を好きだったろう?」「自分から挑発してきただろう?」と高圧的に接してくるスタン。そして、窓にジェニファーを押しつけ、下着を脱がせ、自分のズボンを降ろし、有無を言わせず強引に性行為をしようとし…。
それを見ているディミトリの視線に気づきます。ただ、彼は何もせず、扉をしめて立ち去りました。叫びだけが聞こえる中、テレビの音量をあげるディミトリ。そして外のプールで泳ぎます。
時間が経過し、リチャードが帰ってきます。スタンとディミトリがソファに座っており、スタンは「彼女とちょっと揉めてね」と一言。部屋で泣きはらしているジェニファーは「帰りたい、ヘリを呼んで」と呟き、察したリチャードは仲間を怒ります。
ジェニファーが目を覚ますと、リチャードは「俺が君の仕事を見つけた、カナダでね」と告げます。親切そうに見えますが、彼女を遠くに送り、レイプをなかったことにしようとしているのは明白。抵抗すると逆にビンタされ、彼の態度は完全に豹変しました。
このままではマズいと外に裸足のままダッシュで逃げるジェニファー。追うリチャード。さらにスタンとディミトリも追います。
崖に行き当たり、逃げ場なし。「ヘリを呼ぶから」とリチャードはなだめますが、いきなりジェニファーを突き落とし、彼女はなすすべなく落下。地面にて仰向けで低い木に腹が串刺しになりました。
リチャードの突然の行動に慌てるスタンとディミトリ。しかし、リチャードは警察に通報されたら禁固15年になると言い、普段どおり狩りに行き、彼女の痕跡は消せと命令。証拠隠滅のために豪邸に一旦戻ります。
ところがジェニファーは生きていました。復讐が始まります。
加害者思考ではないですか?
『REVENGE リベンジ』の新たな突破点とも言えるもの。それを考えるにはまず性犯罪の抱える偏見について認識しないといけません。
性暴力の被害者は“ある偏見”にさらされます。それは「性被害者は無垢であるべきだ」という被害者像のステレオタイプです。その先入観は映画などの創作物にも滲み出ており、私もこのブログ内のいくつかの作品感想で指摘したこともありました。映画に登場するレイプの被害者は、たいていはピュアorプラトニックな性質を持ち、か弱い存在として描かれます。そんな弱者な女の子がいかにも悪そうな男にやられていく…それが創作の世界のレイプです。
なぜこんなお決まりになっているのか。それはその方が「可哀想だから」以外にありません。視聴者に同情させるなら、こういう被害者像でないとダメだと無自覚に作り手も見る側も想定してしまっています。
でもそれは他者の勝手なイメージに過ぎず、実際の性犯罪被害者は多様です。年齢も容姿も性格もバラバラ。弱いとか強いとか関係なく、性犯罪には遭います。
にもかかわらず世間の性犯罪被害者像は偏っているため、それに当てはまらない人が被害を受けても冷たい反応が返ってくることも多々起きています。
『REVENGE リベンジ』の主人公でレイプ被害者となるジェニファーはそのステレオタイプな性犯罪被害者像にまるっきり合致しません。(こういう言い方すべきではないですが)いわゆる世間が「ヤリマン」だとか「ビッチ」だとか嘲笑うタイプの女性に、少なくとも序盤の表面上は見えます。なにせ自分から男性に対してセクシーな格好で性的アピールをしているわけですから余計に。
しかし、だからといってレイプしていいわけはありません。性的同意がなければ、それは性行為ではなくレイプなのは揺るぎない当然の常識。相手がどんなにセクシーな服装でも、艶めかしく踊っていようと、体を密着しようと、それ自体は何ら同意を意味せず、無論、性的同意なくセックスすればアウトです、犯罪です。
ただそれを理解していない人々がこの世の中には大勢いてそれが社会問題になっています。本作の感想コメントを見ていても「主人公がその気にさせたから悪い」「自業自得でもある」など、典型的なセカンドレイプ的な加害者思考に染まった意見が並んでおり、あらためて性教育の不足を痛感する眺めしかない…。
つまり、本作は物語上では加害者にリベンジしているわけですが、実際はその枠を超えて、視聴者というセカンドレイプ加害者に対してもリベンジしている、映画外にも撃ち込んでくるクリティカルショットな一作なのです。
下心では見えない人間の本質的強さ
『REVENGE リベンジ』は主人公ジェニファーの描写が非常に上手いなと思います。序盤はとにかく類型的にすら見えるほど「セクシーな女性」として描いています。それこそ男が喜ぶような。男を満腹にさせるためだけの“オカズ”です。
でもこの時点で巧みだなと思うのは、ジェニファーのプロフィールが全然明かされないんですね。なぜここに来たのか。詳細に説明されませんが、リチャードの豪邸を初見風に眺めていますし、スタンとディミトリにも初対面でしたし、今回たまたまリチャードに遊び相手として連れてこられただけっぽいです。
で、ジェニファーは何者なのか。ロサンゼルスで成功したいと言っていますし、女優か何かを志望しているのか。今の状態は金持ちにくっついて生きているだけなのか、それとも娼婦やストリッパーなのか、モデルなのか。ともあれ、わかりません。
ただ、あの男3人はジェニファーのそんな内面なんて1ミリも気にしておらず、「セクシーな女性」であればそれでいいのです。そしてこんな女はアホに決まっていると思っています(セリフでそれが浮き彫りになる)。
しかし、男たちの目論見は外れました。あのジェニファー再起動以降、彼女の内面は依然明かされませんが、けれども序盤のイメージとはガラッと違う一面を見せます。銃の使用に慣れている、機転が利きサバイバルにも長ける、水に潜ったりなど体力も高い…。あれ、この女、めちゃくちゃ凄い奴なのでは…と。もしかしたらスポーツ選手かもしれない、狩猟が趣味なのかもしれない、軍人かもしれない…そうであってもおかしくありません。
ではなぜそうは考えなかったのか。それはやっぱり「セクシーな女性」としてしか見なかったからですよね。どこぞのシュワルツェネッガーのようにこれが男ならすぐに無敵超人を想定するのに、ああいう見た目の女には想定しやしない。これこそ本作が射抜いている偏見の弱点じゃないでしょうか。
ジェニファーが洞窟での休憩(トリップ応急処置の斬新さが凄い)を経て、そこから出て、大地を見渡して立つ彼女の姿。まさに戦士という言葉がこれほど相応しいものはない。
勘違いしたくないのは、ジェニファーは未熟者から強者へと変化したんじゃない、彼女はもとから戦士の魂を持っていて、一連の事件で覚醒した…そういうことなのかなと思います。人の本質は下心ではわからないのです。
不死鳥のように復活する映像センス
『REVENGE リベンジ』は映像面も本当に素晴らしいです。
まずオープニングからして超カッコいいのですが、極めつけはジェニファーが崖から突き落とされて、また意識を取り戻すシーン。あれはリアル的にはあり得ないのですけど、あそこだけ明らかにキリストの復活を連想させる神話的とも思える演出になっています。火で燃え上がるなどの演出からは、不死鳥の要素もありますね(ビール缶でお腹の傷口を塞ぐときも不死鳥が焼き印される)。モンスターホラー並みの蘇りにも見えて、あのインパクトはちょっと他では見れない…。
終盤の豪邸でのリチャードとの追いかけっこ激戦の緊迫感も最高で、本作はただただ圧倒するだけでなく、死に物狂いな感じがたまりません。完全に野生動物の狩りそのものです。
ジェニファーの話ばかりしてしまいますが、男たちも(クソですが)良いキャラ描写でした。あの男3人のホモ・ソーシャル感がよく出ていていいです。あの3人は対等に仲が良いわけでなく、リチャード>>>>>>スタン>ディミトリ…くらいの序列があります。で、レイプするのが真ん中の小物感あるスタンで、最下位のディミトリはそれを見てみぬふりをし、上位のリチャードは勝ち組にこだわり、他の2人を見下す。この関係性も考えられているな、と。3人が手を合わせれば勝てたかもしれないのに…。
個人的にはスタンの小心者っぷりが一周回ってクセになってくるというか。あのディミトリからジェニファーを見つけたと連絡を受けて、思わずパンパンと車内で拍手するくだりとか、ジェニファーに追い詰められて足裏にガラス片が刺さり、それを抜くときに、気が変になったのか笑っちゃってるくだりとか(しかもアクセルを踏まないといけない)。リチャードの終盤の全裸死闘も、傍から見るとダサいだけなのがまたいいですし…。悪役側の魅力があるのはジャンルとしては理想的。
まだまだ語り足りないですが、『REVENGE リベンジ』はジャンル映画としても、社会的な意義としてもお見事で、それを見た観客の偏見度合いをテストする材料にもなる。何度も言いますけど、最高のリベンジです。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 92% Audience 56%
IMDb
6.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 9/10 ★★★★★★★★★
関連作品紹介
レイプリベンジを題材にした映画の感想記事の一覧です。
・『エル ELLE』
・『スリー・ビルボード』
・『ナイチンゲール』
作品ポスター・画像 (C)2017 M.E.S. PRODUCTIONS – MONKEY PACK FILMS – CHARADES – LOGICAL PICTURES – NEXUS FACTORY – UMEDIA
以上、『REVENGE リベンジ』の感想でした。
Revenge (2017) [Japanese Review] 『REVENGE リベンジ』考察・評価レビュー