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『ロザライン Rosaline』感想(ネタバレ)…ロミオの元カノですけど?

ロザライン

ロミオの元カノですけど?…映画『ロザライン』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Rosaline
製作国:アメリカ(2022年)
日本では劇場未公開:2022年にDisney+で配信
監督:カレン・メイン
恋愛描写

ロザライン

ろざらいん
ロザライン

『ロザライン』あらすじ

キャピュレット家の娘であるロザラインは父から早く嫁ぎ先を決めるようにと急かされていた。しかし、実はロザラインはすでに夢中になっている男性がいた。その男性はいつも夜にロザラインの部屋のバルコニーまでわざわざ会いに来てくれる。ロマンチックな言葉を囁き、ロザラインは良い気分に浸る。きっと自分はこの男性、ロミオと結婚するに違いない。ところがライバルが現れる。その名はジュリエット…。

『ロザライン』感想(ネタバレなし)

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元カノの物語

私は恋愛しない人間なので(アロマンティック)、正直、実体験として深く理解はしていないのですけど、「元恋人」という立ち位置はやはり当人にとって何とも言い難い複雑な感情を沸き立たせるものなのでしょうか。いや、中には「過去の恋なんてすっかり忘れたよ!」と綺麗に踏ん切りをつけている人もいるでしょう。でも当人はどう思っていようとも世間的には「あの人は、あの人の“元カレor元カノ”」みたいな言われ方をするわけで、ずっと「元恋人」というラベルが貼り続けられます。なんかそれも嫌ですよね。恋人と別れるたびに世界からその付き合っていたことの記憶を抹消できたらいいのに…。

しかも、もし自分の元恋人が新しい恋人と付き合って今や超話題のカップルになっていたら…。これはそのもう片方の元恋人としては居心地が悪い…。なんかまるで自分がダメな奴みたいに見えるじゃないですか。

今回紹介する映画は、世界で一番有名なカップルである男性の元恋人女性の物語です。

それが本作『ロザライン』

この映画の主人公はロザラインという名の若い女性なのですが、では一体誰の元カノなのか…? それは…ロミオです。あの「ロミオとジュリエット」のロミオです。

「ロミオとジュリエット」は“ウィリアム・シェイクスピア”による戯曲として今さら解説するまでもないほどに、とてつもなく有名な作品。若い男女が世間に認められない恋を実らせようと奮闘する姿はロマンスの王道的な物語として今なお語り継がれ、愛されています。この物語は雛形となり、影響を受けた多くの作品が世に解き放たれ続けています。

その「ロミオとジュリエット」のロミオに元カノなんていたっけ…? いました。厳密にはロミオが物語当初の時点で愛を抱いていた相手として登場します。でも当然ながら「ロミオとジュリエット」の物語はジュリエットとの愛を描いていく方向に主軸を移すので、ロザラインの出番はそれで終わりです。物語上では可視化されないキャラクターですが、多くの批評家はこのロザラインを分析したりもしてきました。

で、この映画『ロザライン』はそのロザラインを主人公にするという大胆にもほどがある翻案をし、ロミオとジュリエットが熱く愛を語り合っていたその裏で元カノとしてのロザラインは何をしていたかを描き出すというアレンジ・ストーリーです。

そしてこのロザラインは非常に現代的なキャラクターとして再創造されており、要するに古典的な恋愛物語の主要人物を現代的な若者像としてアップデートしてリブートする、最近流行りのアプローチに乗っかった映画になっています。最近だと『少女バーディ 大人への階段』『Emma. エマ』、ドラマ『ディキンスン 若き女性詩人の憂鬱』などと同じスタイルですね。

監督は、『ストレンジ・フィーリング アリスのエッチな青春白書』“カレン・メイン”。この“カレン・メイン”監督はとてもコミカルな演出が上手く、今回の『ロザライン』も監督してこれ以上ない見事なセンスでユーモアたっぷりに描き出しています。

主役のロザラインを演じるのは『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』『ディア・エヴァン・ハンセン』の“ケイトリン・デヴァー”。今作でも“ケイトリン・デヴァー”の魅力が爆発してます。

さらにジュリエットを演じるのは『インスタント・ファミリー 〜本当の家族見つけました〜』の“イザベラ・メルセード”、ロミオを演じるのは『史上最高のカンパイ! 戦地にビールを届けた男』の“カイル・アレン”。他には『セルジオ: 世界を救うために戦った男』の“ブラッドリー・ウィットフォード”、ドラマ『ギフテッド 新世代X-MEN誕生』の“ショーン・ティール”、『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』の“ミニー・ドライヴァー”など。

映画『ロザライン』を観るときの注意点としては、「ロミオとジュリエット」の物語を1ミリも知らないと面白さが半減するということですね。ネタにしている笑いどころがわからなくなってしまうので、ざっとでいいので「ロミオとジュリエット」のおおまかなあらすじをオチ含めて事前に知っておいてください。逆にそれさえ知っておけば爆笑できるポイントが各所に現れますから。ほんと、漫才みたいです。

『ロザライン』は劇場公開はなく、日本では「Disney+(ディズニープラス)」で独占配信中です(追記:配信から削除され、他の動画配信サービスで配信されています)。

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『ロザライン』を観る前のQ&A

Q:『ロザライン』はいつどこで配信されていますか?
A:Disney+でオリジナル映画として2022年10月14日から配信中です。
✔『ロザライン』の見どころ
★「ロミオとジュリエット」をネタにした笑いの連発。
★俳優たちのコミカルな演技。
✔『ロザライン』の欠点
☆「ロミオとジュリエット」の物語のおおまかな知識は必須。
日本語吹き替え あり
潘めぐみ(ロザライン)/ Lynn(ジュリエット)/ 土田大(ダリオ)/ 阿部敦(ロミオ)/ 勝杏里(パリス)/ 玉野井直樹(エイドリアン)/ 原島梢(ジャネット) ほか
参照:本編クレジット

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:ユーモアを気軽に
友人 4.0:気楽に笑い合える
恋人 4.0:恋愛はよく考えよう
キッズ 4.0:子どもでも見やすい
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『ロザライン』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『ロザライン』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):ロミオとロザライン

イタリア、ヴェローナ。夜、ロミオという男がバルコニーにいる女性のところまで登っていき、男女はキスします。甘い言葉を並べるロミオ。しかし、女性はその言葉は芝居っぽいとやや雰囲気を削がれた表情を浮かべます。「このほうがロマンチックだと思って…」

気を取り直しますが、ロミオは落ちかけます。引っ張り上げる女性。「僕たちのことはいつまでも語り継がれる」とロミオは態勢を直して言葉を続けます。

すると「ロザライン」とその女性は父に名を呼ばれ、部屋のドアへ。父を追い払い、またバルコニーで続きに戻ります。

「語り継がれるのは無理でしょうね。永遠に秘密の恋だもの。あなたはモンタギュー家、私はキャピュレット家、代々敵同士の家なのよ」「千回のおやすみを」とロザライン。

翌朝。ロザラインはナースに起こされます。ナースはロザラインが夜な夜なロミオと密会していることを知っています。

父は「姉さんはみんな嫁いだ。次はお前だ。母さんはお前の歳で3人の子がいた」と言い、父の所望するドレスを着せられて、ロザラインは食事会に強制参加。地図を作りたいと語っても男たちに小馬鹿にされ、 見合いの男の前ではヤバい奴の振りをして追い払います。

唯一の友人のパリスには「私は平凡は嫌。恋に情熱に冒険がいい」と語るロザライン。彼女はロミオに夢中でした。表には出せません。市場で出会ってもさりげなく一緒の場を共有していることを味わうだけ。家の男たちは無意味に争うばかりで、うんざりです。

今夜もバルコニーでまた密会。「ロミオとロザライン」と彫られたアクセサリをくれるロミオ。「一緒に山小屋で暮らしたい」「いいね、僕は詩を書く。そして君は家事と子どもたちの世話」…そのロミオの発言に一瞬停止するロザライン。

「え、待って…。あなたが好きな詩を書いている間、私はオムツ交換ってこと?」

「2人で一緒にいられればいいだろう」

「うん、確かに…」

しかし、何かが揺らぎ、彼の「愛している」という言葉に返事を返せません。とりあえず明日の仮面舞踏会で会おうと約束をします。

ところが翌朝、父は花婿候補のペンザ家のダリオを連れてきてしまい、いやいや会って出かけることに。終始不機嫌のロザラインは小舟に乗り、文句を言い合いながらダリオと過ごします。「私は秘密の恋人がいるの」とダリオにヤケクソで告げるしかありません。

ロミオは舞踏会でぽつんとひとりぼっち。そのとき、ロミオが舞踏会でジュリエットという女性と出会い、心を奪われます。

一方のロザラインは舞踏会に行けなかったのでロミオに手紙を書きますが、返事がないです。おかしい…。

ある日、ロミオが普段ならロザラインの屋敷に来るはずなのに全然違う場所に向かっているのを目撃。追跡してみると、ジュリエットという女と会っているところでした。しかも、バルコニーでロザラインに語りかけた甘い言葉と一言一句同じことを今度はジュリエットに口にしています。

あのクズ男め…。

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恋路の邪魔をしているはずだけど

『ロザライン』は冒頭から「ロミオとジュリエット」の定型物語をアクセル全開で揶揄いまくります。

既視感だらけのバルコニーでのイチャイチャ・シーンの最中、ロミオの何気なく言い放った「君は家事と育児ね」という言葉に恋愛脳が一瞬思考停止するロザライン。ステレオタイプなジェンダー・ロールに抵抗感を持つ…このロザラインの極めて現代的なフェミニスト的反発心が、本作の物語を逸脱させていくことに。

『ロザライン』は単なる「ロミオとジュリエット」パロディ映画というそれありきではなく、しっかり根底にフェミニズムがあって、批評的視点がある。そこが本作の良さです。

この後にジュリエットという本命ヒロインの満を持しての登場にロザラインは慌てふためき、とりあえずロミオへの家父長的な疑念は脇において、ロミオの関心を取り戻し、ジュリエットとの愛を引き裂くためにあれこれと画策し始めます。

ただ、ジュリエットを遠ざけようと画策するたびに、私たちの知っている本来の「ロミオとジュリエット」の既定路線に進んでいってしまっており、ここは外野で見守る観客だけがゲラゲラと笑えるシーンになっています。

同時にジュリエットを「結婚相手にふさわしくない女に変えてやろう」と入れ知恵して操作しようとするロザラインですが、結果的にジュリエットの主体性を高め、要するにフェミニズム的なエンパワーメントをやってしまっている…という点も皮肉なユーモアです。酒場で男遊びを教え、花嫁学校では教えない性を学ばせ、なんだかまるで人生経験豊富な姉貴のようになっていくロザライン。当人にその気はないですが、いつのまにやらシスターフッドになっちゃっている。

ウザったい狡猾な顔を浮かべる“ケイトリン・デヴァー”がまた似合っていますね。“イザベラ・メルセード”も純朴そうでありながら、ここぞというときに大胆さを見せていく演技がぴったり。やっぱり俳優のコミカルなコラボレーションが抜群に光っている映画です。もっとあの2人を見ていたかった…。このキャストのまま「ロザラインとジュリエット」でもう1本、物語が作れる…。

一方でロザラインはダリオという見合い相手と文句言い合いつつもなんだか息が合ってくる。このあたりはもろに「高慢と偏見」なのですが…。

対する本当は狙っていたはずの意中の男であったロミオの描写はポンコツそのものです。語彙力があるようで全然ないロミオ…。でもこんな男、きっとシェイクスピアの時代にもいたのだろうな…。

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悲劇を全力で回避する

そうは言っても本来の「ロミオとジュリエット」は悲劇的な展開が多いです。

とくに決闘によるティボルトの死とか、どう対処するのかなと思ったら、この『ロザライン』、びっくりするぐらいにものすっごく軽~い感じで流しました。ティボルトの死体がギャグにしか見えない…。

そして物語は怒涛のごとく、いよいよクライマックス。ここからの終盤はもう茶番も茶番。ツッコミなしでボケが連発しまくります。

毒薬による死の偽装を誰の相談もなく独断で先行するジュリエット(それを正論でダメ出しするロザラインとダリオが笑える)、教会に安置されるジュリエットを目の前に下手糞な死んだふり芝居をするロミオ…。

このバカップルみたいなロミオとジュリエットに任せていたら絶対にバレるのですが、ここで周囲の事情を知る人間が全員完璧なファインプレーを見せて、なんとか悲劇を回避していくくだりがまたアホらしくて…。

起きてまた強引に死んだふりに戻ったジュリエットに対して、ナースが「私は専門家です。はい、間違いなく亡くなりました」と診断を強行し、両家の妻たちも夫を諫め、最後にロザラインからの「お前が言うな」と言いたくなる「恥を知りなさい」発言がなんとかかたちとなり、家系の対立は解消。ロミオとジュリエットも死なずに、全てが円満に終わりました。なんだこれ。

これほどまでの茶番でもカレン・メイン”監督のシュールな演出の上手さがあるおかげで、そこまでスベってはいない。やっぱり監督の人選、良かったなぁ…。

不満点があるとすれば、パリスのいかにもなゲイ・フレンドの立ち位置としての役割のワンパターンは見飽きたなと思いましたけどね。

恋愛伴侶規範は多少目立つのですけど、こういう恋愛そのものを小馬鹿にした作品は私は嫌いではありません。何より『ロザライン』のラストがいいですね。船で会話が弾まないロミオとジュリエットの、あの「 一緒でいいのか…」というあからさまな後悔が滲む幕引き。

元々の「ロミオとジュリエット」が持っていた悲劇と喜劇の絶妙な塩梅を、この『ロザライン』も視点を変えつつもしっかり継承しており、かなり若い世代に薦めやすい「ロミオとジュリエット」変化球バージョンの映画でした。

結婚する際は、ロマンチックな言葉を囁き合うよりも、ジェンダー意識の感覚を共有しておきましょう。ロザライン姐さんはそう言ってるよ。

『ロザライン』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 73% Audience 90%
IMDb
6.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
8.0

作品ポスター・画像 (C)20th Century Studios

以上、『ロザライン』の感想でした。

Rosaline (2022) [Japanese Review] 『ロザライン』考察・評価レビュー