性癖卑猥ギャグも“吸血鬼”文学的に間違っていない…アニメシリーズ『吸血鬼すぐ死ぬ』『吸血鬼すぐ死ぬ2』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:日本(2021年~2023年)
シーズン1:2021年に各サービスで放送・配信
シーズン2:2023年に各サービスで放送・配信
監督:神志那弘志
セクハラ描写 恋愛描写
吸血鬼すぐ死ぬ
きゅうけつきすぐしぬ
『吸血鬼すぐ死ぬ』あらすじ
『吸血鬼すぐ死ぬ』感想(ネタバレなし)
日本の吸血鬼も賑やかです
2020年代も「吸血鬼モノ」は盛況です。
2020年、あの吸血鬼の定型を創り上げた“ブラム・ストーカー”の小説を現代的に蘇らせたミニシリーズ『ドラキュラ伯爵』に始まり、ドラマ『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』が自堕落な生活をシュールさ全開で描き、はたまたドラマ『ファースト・キル』がクィア・コミュニティから絶大に支持されたり…。
ドラマだけでなく、吸血鬼狩りを描いた『デイ・シフト』や、吸血鬼と航空パニックを組み合わせた異色の『ブラッド・レッド・スカイ』、そしてネットでのバズりっぷりだけは負けていなかった『モービウス』など、映画も血気盛んでした。
吸血鬼(ヴァンパイア)のジャンルは永久に不滅ですね。“ブラム・ストーカー”の小説の刊行は1897年なので、ジャンルとしてはもう120年以上の歴史か…。
もちろん日本でも「吸血鬼モノ」は賑わっています。吸血鬼の良いところは、お国柄とか地域色とか気にせずに、なんだかんだでどこでも混ざれて成立できてしまう汎用性ですね。吸血鬼って案外と適応力あるんです。
2020年代の日本においてアニメ界で頑張っていた「吸血鬼モノ」と言えばこちらの作品でした。
それが本作『吸血鬼すぐ死ぬ』です。
本作は、“盆ノ木至”による「週刊少年チャンピオン」で2015年から連載されている漫画が原作で、2021年にテレビアニメ第1期が放送され、2023年に第2期が放送されました。アニメーション制作は「マッドハウス」です。
この『吸血鬼すぐ死ぬ』は主な舞台が日本の神奈川県横浜市の新横浜で、めちゃくちゃ普通に都会の真ん中に吸血鬼たちがわらわらいます。というか、この世界では吸血鬼は普通に認知されているようで、警察にも専門の部署があるくらいです。吸血鬼日常コメディです。
主人公は、吸血鬼退治人の男と、その男とひょんなことから一緒に同居することになったひとりの吸血鬼。この退治屋と吸血鬼を組ませるあたりもベタではあります。
ただ、この本作の吸血鬼の特徴はタイトルのとおり「すぐ死ぬ」ことにあり、いわゆる一般的な吸血鬼の弱点である杭とか日光とかニンニクとかではなく、ほんの些細な刺激(物理的・精神的問わず)だけであっさり灰になってしまう…という脆すぎるにもほどがある性質を持っている…そんな吸血鬼です。
『吸血鬼すぐ死ぬ』はその弱すぎる吸血鬼を軸にしたドタバタコメディ。わちゃわちゃしている感じとしては、同じアニメである『モンスター・ホテル』に似ているかもしれない…。
でもこの『吸血鬼すぐ死ぬ』はタイトルからはわからないもうひとつの特徴があって、それが性癖や卑猥さを前面にだしたギャグがやたらと多いということ。
具体的にどんなの?と言われると、真面目に口で説明するのもアホらしくなってくるのですが、古今東西のあらゆる性癖ネタ・卑猥ネタを全部網羅しようとしているかのような勢いがあります。作者の趣味なのかな…。
そうは言っても、アニメであっても日本で放送されるわけですから、そこは放送範囲内でのレーティングを満たす程度のネタにとどまっており、海外のアダルト・アニメーションみたいな直球のセクシャルな描写はないですけどね。
それでも性癖ネタ・卑猥ネタのオンパレードなので、見る人を選ぶというか、癖があるのは確かな作品ですが、しょうもないギャグを眺めているだけでいいという人なら満腹でしょう。なお、完全に性癖ネタ・卑猥ネタに吹っ切れているので、バイオレンスな描写は全くと言っていいレベルでないです。
それにこの「吸血鬼モノ」に性癖ネタ・卑猥ネタをぶっこむというスタイル。一見すると遊びのノリであり、本来の「吸血鬼モノ」と関係ないことのように思いますが、実はそんなこともない。「吸血鬼モノ」の文学や表象の歴史を考えると、これはあながち間違っていない…いや、むしろ正攻法と言えるアプローチだったりする…。そんなことを後半の感想でさらに掘り下げています。
アニメ『吸血鬼すぐ死ぬ』は1期も2期もそれぞれ全12話。1話の中に3エピソードを盛り込んでいるのでテンポもよく、サクサク観れます。
『吸血鬼すぐ死ぬ』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :気軽に笑って |
友人 | :気分転換に |
恋人 | :好みに合うなら |
キッズ | :性的なネタあり |
『吸血鬼すぐ死ぬ』感想(ネタバレあり)
あらすじ(序盤):シンヨコの夜は終わらない
バンパイアハンターであるロナルドは、子どもが捕らえられて帰ってこないという悲痛な訴えを背に吸血鬼が棲むという城へと颯爽と向かいました。ここは埼玉県のある場所に建つ古城。なんでこんなものがここにあるのかはよく知らない…でもあるのだからそれでいい…。
不気味な城の扉を開けます。ここには強力な吸血鬼が潜んでいるに違いない…。
と、扉を勢いよく開けた瞬間、何かが潰され、サラサラと灰がこぼれる音。それは吸血鬼ドラルク…だったものでした。なんと扉を開けた瞬間に塵となって死んでしまったのです。
あまりにも弱い…戦う時間すら必要のないあっけない閉幕。でもドラルクは何事もなかったように再生して元の肉体に戻ります。ドラルクは悠然と語り始めますが、簡潔にまとめてしまえば、この吸血鬼は「真祖にして無敵」ではないらしく、すぐに死んで灰になるザコ吸血鬼なのでした。
しかも、さらわれたと思った子どもは普通にゲームにしているだけで、そこにいました。あげくにこの子は全然帰る気が無いです。追いかけようとするも、ドラルクは役に立たず、ロナルドは世間体を気にして子どもに振り回されます。
そうこうしていると城に配置された意味不明なトラップが暴発し、城は大爆発大炎上。
住居を失ったドラルクは新横浜にあるロナルドの事務所に転がり込んできます。これがないと寝れないというマイ棺桶、目からビーム出るやつ、それに使い魔のアルマジロのジョンを引き連れて…。
我が物顔な吸血鬼にロナルドも怒りますが、このドラルクは全く気にもしません。
そこに近くのコンビニの店長が助けて欲しいと駆け込んできます。なんでも息子が吸血鬼になりたいと駄々をこねているらしいです。見かねたドラルクは噛んであげようとしますが、こってりとした血に胃がびっくりして灰になります。その息子はバイトの女性にふられ、全てがどうでもよくなり、勝手に一件落着。
そんなドタバタ劇を同級生の記者に見られ、吸血鬼と組んでいることは公にバレてしまいました。吸血鬼退治人なのにこれではあまりにカッコ悪い…。ロナルドは恥じますが、ドラルクはやっぱりマイペース。
ロナルドは吸血鬼退治の仕事の他に、自叙伝的小説「ロナルドウォー戦記」を書いていました。意外にも人気で、オータム書店のフクマから電話があり、次の新刊の原稿を要求されます。ロナルドはこのフクマと食べ物のセロリが大の苦手でパニックを起こすほどでした。
この地域一帯は神奈川県警吸血鬼対策課の管轄であり、その副隊長であるヒナイチが調査に来ることもあります。ロナルドには行きつけのバンパイアハンターギルドもあり、個性豊かな退治人たちがいつも集っています。
この新横浜はなぜか妙にヘンテコな吸血鬼が多いのです。そんな吸血鬼たちに振り回されつつ、ロナルドとドラルクの凸凹なコンビが今日もどこかで何かをやらかしていますが…。
昔から吸血鬼モノは変態を描くもの!
ここから『吸血鬼すぐ死ぬ』のネタバレありの感想本文です。
『吸血鬼すぐ死ぬ』は元も子もない言い方をすれば、変態吸血鬼の巣窟です。魑魅魍魎の変態しかいません。
例えば、露出魔みたいな全裸マント股間植物の「ゼンラニウム」、エロいことを考えることに全力を費やしている変身生物の「へんな動物」、催眠術で猥談しか話せなくさせる「Y談おじさん」、スケベ心を隠さず強制野球拳で脱がしまくることに快感を得る「野球拳大好き」、噛んだ相手にマイクロビキニを着用させる「マイクロビキニ」、イケメンにキスして血を吸うことに執着するモンスターみたいな「熱烈キッス」、ストーカーの結果のすえに吸血鬼の女帝として君臨する「希美」、女性をたぶらかすチャーム能力に秀でる「ノースディン」…。
そんな吸血鬼に引きずられているせいか、周囲の人間もやや変態性が浮き出る者も多いです。吸血鬼対策課でダンピールの半田は極度のマザコンでロナルドを嫉妬の対象として見ているし、ハンターギルドのシスター・マリアは肌を露わにすることに何のためらいもないし、同じくギルドのシーニャ・シリスキーはBDSMの趣味があるし、VRC(吸血鬼研究センター)のヨモツザカはマッドサイエンティストだし、靴下を奪うことに意味を見い出してしまった退治人の靴下コレクションとかも…。
でもこれでいいんです(断言)。なぜなら「吸血鬼モノ」はその歴史的にもずっと「性」の視点で分析されてきたからです。
吸血鬼の伝承は原点をたどれば感染症の患者からその伝説は始まったと言われていますが、ジャンル化されて以降、多くの文学などで観察され、研究対象となっていく中、「吸血鬼モノ」からコード化されたエロティシズムを読み解く分析が盛んに行われてきました。
つまり、吸血鬼とは、レイプ、セクシュアリティ、近親相姦、獣姦、屍姦、小児性愛、性感染症…そんなタブー視されがちなものに対する空想や恐怖が源流にあるのだ、と。
ドラマ『ファースト・キル』の感想でも、女性の吸血鬼がレズビアンをコード化していたという歴史を説明しました。今はもう同性愛は多くの国でタブーでも何でもないですが…。
吸血鬼の専門家である“エリザベス・ミラー”は、研究の中で「it is, after all, a novel about biting and sucking(ぶっちゃけ、噛んだりしゃぶったりすることについての小説です;意訳)」とあっけなく言い切っており、「吸血鬼モノ」の作品からエロティックな可能性を否定するのは馬鹿げていると述べています(Elizabeth Miller)。
「吸血鬼モノ」はサイコセクシュアルに読み解いていいのです。それが正攻法な向き合い方です。
だから『吸血鬼すぐ死ぬ』のこの変態パラダイスもこれで良し!(謎の宣言)
コード化とかどうでもいい
ただ、この『吸血鬼すぐ死ぬ』が凄いのは、コード化とかまるでしていないということです。
前述した「吸血鬼モノ」から性を分析するという歴史的な話も、本来は「吸血鬼が夜に行動し、闇夜にまぎれて、人の血を吸う」という行為から、そこに暗示された性を読み解いているわけです。
でもこの『吸血鬼すぐ死ぬ』はそういう描写がそもそもほとんどないんですね。ドラルクですら全然血を吸わないし…、第一、この吸血鬼たち、通常の一般的な吸血鬼の法則を気にしていないし…(この世界の吸血鬼、アイデンティティが不明だ…)。
じゃあ、どうするのかと言えば、この作品はコード化とかまどろっこしいことを一切せずに、どストレートでエロティシズムを描くのです。その象徴があの変態性を隠しもしていない吸血鬼たちであって…。
だから『吸血鬼すぐ死ぬ』はコードレスな「吸血鬼モノ」エロティシズムを、アホでもわかるように全放出しており、それが笑いにもなっています。アホでもわかるってところが売りです。
こういうそのジャンルが持ちうるアカデミックな考察性を完全に取っ払ってギャグにしてしまうというのは、ギャグ作りにおけるシンプルなアプローチであって、『吸血鬼すぐ死ぬ』は正直ですよね。『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』もわりとそういうアプローチをとっている作品でしたけども。
個人的にはここまでやるならそのギャグももっと全方位型に広げるといいんじゃないかなとも思いました。基本的に『吸血鬼すぐ死ぬ』のギャグは「男子が考えるレベルの下ネタ」にとどまりがちですし…。こういう作品こそ海外の方がアダルト・アニメーション枠でやりたい放題に映像化してくれそうですけどね…。
それでも『吸血鬼すぐ死ぬ』は性癖や卑猥を恥ずかしがらず、それでいて変に一方通行的に搾取的に描いている面が目立つほどでもないので(例えば女性キャラクターを脇に置くでもないとか)、結構清々しい作品だなと感じました。性癖や卑猥を題材にするのって作り手のそのへんのリテラシーみたいなのがすごく問われるので実は一番難しかったりするのですが、比較的このカテゴリーの中では『吸血鬼すぐ死ぬ』は上手く立ち回っている方なのでは…。
この作品に限らず、これからも「吸血鬼モノ」はどんどん性的に読み解いていきましょう。これは性癖とかではないです。…ないよね?
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
?.? / 10
シネマンドレイクの個人的評価
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日本のアニメシリーズの感想記事です。
・『とんでもスキルで異世界放浪メシ』
・『まちカドまぞく』
作品ポスター・画像 (C)盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
以上、『吸血鬼すぐ死ぬ』の感想でした。
The Vampire Dies in No Time (2021) [Japanese Review] 『吸血鬼すぐ死ぬ』考察・評価レビュー