6作目はフランチャイズをメッタ刺しにする…映画『スクリーム6』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2023年)
日本では劇場未公開:2023年に配信スルー
監督:マット・ベティネッリ=オルピン、タイラー・ジレット
ゴア描写 恋愛描写
スクリーム6
すくりーむ6
『スクリーム6』あらすじ
『スクリーム6』感想(ネタバレなし)
2年連続スクリーム!
「フランチャイズ」とは、本来の流通用語では、商品を売る権利を提供し、営業を行わせ、他方が対価(ロイヤルティー)を支払う約束によって成り立つ事業契約のことです。
映画業界でも「フランチャイズ」という言葉が使われますが、流通用語とは少し意味が違って、「シリーズ」とほぼ同じような意味です。ただ、映画のシリーズはナンバリングのように続編が順々に連なるものもあれば、スピンオフなどで横に広がるもの、ユニバースのように同じ世界観を共有してもっと拡張されるものもあります。こういう広範の作品群を全部まとめた言い方として「フランチャイズ」が用いられるケースが最近ではもっぱらです。
2023年も大ヒットして興行収入を上げる映画のほとんどがフランチャイズ作品です。やっぱりフランチャイズになるような作品は人気です。映画界がどんどん人気作の続編を作りたがるのも当然ながら売れるからです。映画の歴史は初期の頃からフランチャイズと共にありました。これからもきっとそうなのでしょう。
そんな公然となっている映画界とフランチャイズの関係を、ザクザクと切り刻んで弄ぶホラー映画が今回紹介する作品です。
それが本作『スクリーム6』。
ホラー映画マニアなら知る人ぞ知るカルト作、それが『スクリーム』フランチャイズ。1996年の1作目『スクリーム』に始まり、2作目の『スクリーム2』(1997年)、3作目の『スクリーム3』(2000年)、4作目の『スクリーム4: ネクスト・ジェネレーション』(2011年)と続いてきました。
そして2022年には旧キャラと若手新キャラが入り乱れる5作目の『スクリーム』が始動(タイトルに「5」はついていないけど5作目です)。
間髪入れず2023年にはさっそく6作目の『スクリーム6』が登場しました。急にハイペースになったな…。
『スクリーム』シリーズは単に殺人鬼が襲ってくるだけでない、「スラッシャー」という映画ジャンルをメタ的にいじるのが作品のアイデンティティになっており、5作目の『スクリーム』(2022年)もオマージュやメタな展開が炸裂する、とてもオタク向けな映画に仕上がっていました。
今回の『スクリーム6』はさらにパワーアップ。マンネリなんて知ったことか!と言わんばかりに、これまでのシリーズの集大成的なボリュームになって襲来してきます。シリーズ最大の興収を叩き出しているし、もはやホラー界の『ワイルド・スピード』ですよ。
ただその勢いはいいのですけど、今作の『スクリーム6』は過去作ほぼ全ての犯人の正体を盛大にオール・ネタバレしてくるので、ちょっと未見の人にはオススメしづらいのですが…。「こいつが犯人で…」ってオタク解説してくるからね。その代わり、シリーズにどっぷり浸かってきたファンには「そんなこともしてくれるんですか!」という悪趣味な喜びをいっぱい与えてくれますよ。
『スクリーム6』の監督は前作に引き続き、『レディ・オア・ノット』の“マット・ベティネッリ=オルピン”と“タイラー・ジレット”のコンビ。
俳優陣は、前作から続投する『イン・ザ・ハイツ』の“メリッサ・バレラ”、そしてドラマ『ウェンズデー』で驚異的な大ブレイクを果たした“ジェナ・オルテガ”。前作では“ジェナ・オルテガ”はそんなに出番はなかったのですけど、今回はめちゃくちゃ暴れます。期待してください。
あと、“サマラ・ウィーヴィング”がでてきてくれます。『レディ・オア・ノット』からの監督との付き合い枠ですね。
前作と同じく日本では劇場未公開でビデオスルーになってしまうという事態が起きているのが悲しいですが…。ほんと、日本は『Smile スマイル』といい、ハリウッド大手スタジオの話題のホラー映画を劇場で観れない状態が恒常化してる…。これはホラー映画文化を退廃させる、由々しきことだと思うんですけどね…。
『スクリーム6』を観る前のQ&A
A:今作は犯人の名前など過去作のネタバレ量が非常に多いので、できれば過去作を全て鑑賞してから臨むのがよいと思います。時間が無い場合はせめて前作の2022年の『スクリーム』だけでも観ておきましょう。
オススメ度のチェック
ひとり | :スラッシャー映画ファン注目 |
友人 | :ワイワイ盛り上がって |
恋人 | :残酷描写が平気なら |
キッズ | :殺人描写だらけです |
『スクリーム6』予告動画
『スクリーム6』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):ホラー映画なんてクソだ!
夜、ローラ・クレーンという女性がバーでデート相手を待っていました。そこにその相手であるレジーから連絡があり、「迷った」「電話してもいいか」とテキストが贈られてきます。電話が来たのででると、「ニューヨークに来て日が浅くて…」とレジーは言います。
ローラは近くの大学で映画学の教授をしており、スラッシャーホラーの専門でした。「電話に出るな」などのジャンルのお約束の話をしつつ、このバーの看板の色を確かめに外へ。路地を通っていくと言うのでローラも電話したまま薄暗いひとけのない路地に立ち入ります。でもレジーは見えません。
しかし、レジーは「自分のほうにナイフを持った何者かが追って来る」と切羽詰まった声で言います。するとその声が変わり、ローラの前にゴーストフェイスの仮面を被った人物が出現し、ローラを何度も刺して殺します。
そのゴーストフェイスはその殺害現場ですぐにマスクを外します。正体はローラの大学の学生であるジェイソン・カーヴィー。レポートで低評価をつけた腹いせでした。
ジェイソンは着替えて大学の寮へ戻ろうとします。その道すがら海賊のコスプレの同級生のタラが通りかかります。次はあのタラとその姉のサム(サマンサ)を狙おう…そう考えていました。
寮に戻ると同じ部屋で殺人趣味を共有するグレッグから着信。電話にでると変声機の声です。何かおかしいと感じつつ、冷蔵庫に誘導されると中にはグレッグのバラバラ死体が…。振り向けば背後にゴーストフェイス。刺されまくり、ジェイソンは絶命します。
ところかわってサム・カーペンターはクリストファー・ストーン医師の前でカウンセリングを受けていました。サムの父はビリー・ルーミスと言って有名なゴーストフェイスの殺し屋で『スタブ』という映画になったほど。しかも、つい最近もサムの恋人のリッチーが同じくゴーストフェイスの殺人鬼となり、サムや友人に襲い掛かった出来事があり、地元のウッズボローからこのニューヨークに引っ越して心機一転を図ったのでした。
サムは今はネット上で本当の真犯人だと無根拠な噂を流されており、苦しい立場です。一方でサムはリッチーを殺したことに満足感も感じていました。
部屋に戻ると、いるのはクインだけ。妹のタラは学生クラブのパーティーに行ったそうで、トラウマが消えていないサムは心配します。サムの心が晴れるのは密かに付き合い始めた隣人のダニーを見ているときだけ。
パーティーでは他にもウッズボローで事件を経験して一緒に引っ越してきたチャドとミンディの兄妹、そのミンディの恋人であるアニカ・カヨコもいました。
タラは酔っぱらって隙が多く、サムはタラに手出ししそうな男をスタンガンで撃退。しかし、タラは過保護だと姉に不満です。
ところがジェイソン事件が報道され、サムはゴーストフェイスが戻ったと察知して焦ります。さらにクインの父であるウェイン・ベイリー刑事から電話があり、サムが狙われている可能性を指摘され…。
ネタバレ博物館だと…!?
ここから『スクリーム6』のネタバレありの感想本文です。
『スクリーム6』は6作目だろうとブレずに遊びまくりです。
冒頭おなじみのゴーストフェイスの第一犠牲者…と思いきや今回はいきなり正体判明?と困惑させておいて、そのゴーストフェイス学生2人が別のゴーストフェイスに殺される二段オチ。この世界、ゴーストフェイスだらけすぎる…。
今回も恒例行事のように、ホラー映画オタクのミンディが「犯人は誰?」トークを繰り広げます。5作目が昨今流行りの「レガシークウェル」(「legacy」と「sequel」の造語。旧作キャラと新キャラが組み合わさった作品)だったので、「これはもうただの続編じゃない、フランチャイズだよ!」と謎の断言をしだす始末。「予算も死体も増えるし、前作と逆のことが起こるし、レガシーキャラでも死ぬ。主人公であっても消耗品。ルーク・スカイウォーカーだって死んだでしょ」と他作品のネタバレも全開でまくしたてます。
まあ、実際そのとおりでこの『スクリーム6』はシリーズ最大級の貫禄です。それを象徴するのが殺人オタクのジェイソン&グレッグが旧映画館に築き上げた「ゴーストフェイス博物館」。アメコミ映画にでてくる悪の秘密基地みたいな悪趣味さなのですが、こうやってシリーズをメタ的に振り返ることになるとは…。
そして予想どおりレガシーキャラが餌食になります。と言っても本作ではシリーズに一貫して登場しているレガシーキャラが記者のゲイル・ウェザーズだけなので、ターゲットはおのずと絞られます(今回はシドニー・プレスコットが登場せず、その理由は演じる“ネーヴ・キャンベル”がギャラに難色を示したからのようです)。
とにかくついにゲイルとゴーストフェイスが一騎打ちするのはファンには「待ってました」という展開。さすが熟練者だけあってゴーストフェイス相手でもしぶとく戦闘し、電話リダイヤルで位置を特定する技も使いこなし、非常にカッコいいです。メディアの仕事してる人の動きじゃないよ…。
最高にヤバい姉妹の覚醒
さあ、『スクリーム6』の犯人をネタバレするので、いいですか?
「こんなの犯人なんて予想できるわけないよ」と思うのも無理ないのですけど、実はちゃんと予想できるヒントは序盤からだしておいてくれています。
今作の犯人はカービィ・リード…と思わせておいて、ウェイン・ベイリーとその子どもたちのクインとイーサンでした。3人とも実はあのリッチーの家族で、動機は復讐です。
なので今回のゴーストフェイスはホラー映画への固執した美学はありません(そのパターンであるジェイソン&グレッグは冒頭であっけなく殺される)。そのため、ホラー映画セオリーに沿って相手をハメるということにこだわらず、マスクのまま銃で撃ってきたり、アニカを梯子からの落下死で殺害するなど、これまでと殺し方も違います。
前作はいわばトキシック・ファンダムを犯人として描いたわけですが、今回はトキシック・ファミリーです。カーペンター姉妹は父の血が繋がらなくても喧嘩していても最後は健全に連帯できるのに対する、リッチー家族の歪んだ血の家族的共犯。それが今作の殺人鬼の正体です。
それ以外にもイーサンはその言動から明らかにインセルっぽいですし、クインは陰謀論仕掛け人であったりと、昨今の社会問題となる人物像に合致する設定になっており、このあたりもとても2023年らしい『スクリーム』という感じ。
史上初の3人体制で迫ってくるゴーストフェイスに対峙するカーペンター姉妹。この姉妹が今回は尖りまくっていて最高でした。
殴ることに躊躇ないタラ、刺しまくりのサム…こんなに暴力に染まりまくる主人公姉妹はそうそういないですからね。「童貞で死ね」という新しい名言を残した“ジェナ・オルテガ”はこうやってブレイクを上書きしていくのか…。ゴーストフェイス化した姉に対して「Nice」の一言で感想を述べるなど、少し『ウェンズデー』が憑依しているんだけど…。
シリーズ屈指のラストバトルを盛大に披露しましたが、生死の雑さは限界に達してきた感じもありますね。ミンディもチャドもあれでよく生き残っていますよ。あのミークス兄妹は人智を超えた回復能力の持ち主なの? ミンディはなんだかんだで犯人を当てられたから満足だろうけども…。
前作からあった血縁の呪いからの脱却というのは今作でも踏襲され、サムはゴーストフェイスに惹かれつつも、その禍々しい魔力を振り払って、大切な人と街に戻っていきました。ゴーストフェイスが何百人と迫ってこようとも、あの姉妹なら全部八つ裂きにできるでしょう。いや、もうゴーストフェイスの販売を法律で禁止しなさいよ、あの世界…。
このカーペンター姉妹は完全に『スクリーム』フランチャイズを象徴する新しい主人公として確立したと思うで、これはまたしばらくシリーズが続けられそうな気もするけど、そんなに連発してもな…。そうやってフランチャイズを所望してしまう自分は映画界の罠にまんまとハマっているだけですね。
ファック・フランチャイズですよ…。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 76% Audience 91%
IMDb
6.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
関連作品紹介
フランチャイズのホラー映画の感想記事です。
・『ハロウィン THE END』
・『悪魔のいけにえ レザーフェイス・リターンズ』
・『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』
作品ポスター・画像 (C)2023 Paramount Pictures.
以上、『スクリーム6』の感想でした。
Scream VI (2023) [Japanese Review] 『スクリーム6』考察・評価レビュー