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『悪夢は苛む』感想(ネタバレ)…Netflix;オチは調べずに観てみよう

悪夢は苛む

観る前にオチを調べないで…Netflix映画『悪夢は苛む』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Distancia de rescate(Fever Dream)
製作国:アメリカ・チリ・ペルー・スペイン・アルゼンチン(2021年)
日本では劇場未公開:2021年にNetflixで配信
監督:クラウディア・リョサ

悪夢は苛む

悪夢は苛む

『悪夢は苛む』あらすじ

夏の間だけ自然豊かな南米の農地の田舎町に滞在することになったアマンダという名の女性とその娘。夫が来るまでは2人だけの生活だったが、地元の住民であるカローラという女性と出会い、若い母親という共通点もあって打ち解け合う。しかし、カローラはなぜか息子を遠ざけて冷たい態度をとる。そんな行動に不審さを感じつつも、アマンダはこの地域に馴染んでいくが、思わぬ悲劇が母子を襲うことに…。

『悪夢は苛む』感想(ネタバレなし)

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南米の名作小説を映画化

狭い地域内を転々と引っ越しするならそれほどではないと思いますが、それまで住んでいた場所とは環境や文化が全く異なるところに引っ越しする場合は、かなり勇気がいることです。旅行なら気軽にできます。一時的に滞在するだけですから。でもそこに身を構えてずっと暮らすとなると話は別です。これはあくまでお試しで、気に入らなかったらすぐに解約する…なんてことはできません。それなりの覚悟を持って臨まないといけません。

事前に調べることはできます。あの地域でありがちな危険なことはあるのだろうか。リスクやデメリットはどうだろうか。備えておくにこしたことはない。けれどもあらかじめ把握するにも限界があります。結局は住んでみないとわからないのです。

今回紹介する映画はそんな見慣れぬ土地へと引っ越ししたことをきっかけに降りかかる得体の知れない恐怖を独自の演出で描いていく作品です。それが本作『悪夢は苛む』

主人公はアルゼンチンの田舎にわざわざ引っ越してきたひとりの女性。幼い娘も一緒です。仕事で忙しい夫は後から合流することになっており、慣れない地で母娘2人で生活することになります。そこに地元住民である近所のひとりの同年代の女性がやってきて、しだいに打ち解けあっていくのですが…。

『悪夢は苛む』は鑑賞前の人に作品説明をするのが難しいです。ジャンルも明示的ではありません。これは心理ホラーなのか、オカルトホラーなのか、ミステリードラマなのか、クライムサスペンスなのか、はたまた…? そんな感じであやふやに進行していくのですが、ちゃんと映画を最後まで観ると核心がわかります。「それを題材にしている作品だったのか~!」と納得いくのではないでしょうか。ぜひネタバレなしでその衝撃を味わってほしいですね。

邦題もわかりにくさを助長している気がする。『悪夢は苛む』って…見終わった後だとちょっとミスリードすぎるような…。英題は「Fever Dream」で、それは題材を踏まえて考えるとわかるんだけど…。ちなみに原題は「Distancia de rescate」で意味としては「救助の距離」ということになるのかな。これは作中で言及があるので観ればわかります。

原作があって、“サマンタ・シュウェブリン”というアルゼンチンの作家が2014年に執筆した小説が元になっています。非常に高い評価を受けている若手作家のひとりです。

その名作を映画化したのが、ペルー出身の“クラウディア・リョサ”監督。2006年の初の長編監督作である『Madeinusa』で高評価をもって迎え入れられ、2009年の長編2作目の『悲しみのミルク』はベルリン国際映画祭で金熊賞と国際映画批評家連盟賞を受賞するなど、これまた称賛。この『悲しみのミルク』もなかなかに凄まじい題材を扱っており、センシティブなアプローチを要求されるものなのでしたが、その“クラウディア・リョサ”監督が『悪夢は苛む』を手がけるのも確かに理解できます。

俳優陣は、『欲望に溺れて』『ガルヴェストン』の“マリア・バルベルデ”、『しあわせな人生の選択』『ブエノスアイレスの夜』の“ドロレス・フォンシ”など。

とにかく最初は何を描いているのか、ちんぷんかんぷんだと思います。ナレーションを多用しているので余計にストーリーと観客の間に距離ができます。とりあえず30分くらいまでは我慢して鑑賞してみてください。そこから世界観の全体像がわかり始め、そして良い意味で裏切られていく…そういう体験です。

『悪夢は苛む』はNetflixで配信しているで、家でゆっくり観てください。

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『悪夢は苛む』を観る前のQ&A

Q:『悪夢は苛む』はいつどこで配信されていますか?
A:Netflixでオリジナル映画として2021年10月13日から配信中です。

オススメ度のチェック

ひとり4.0:じっくり腰を据えて
友人3.5:興味ある者同士で
恋人3.5:ロマンス要素無し
キッズ3.5:やや難解かも
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『悪夢は苛む』予告動画

『悪夢は苛む』予告編 – Netflix
↓ここからネタバレが含まれます↓

『悪夢は苛む』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):虫を探すんだ

「まるで虫のよう」「どんな虫?」「どこにでもいるやつ」「虫が体の中に?」「体の中にいる」「ミミズ?」「違う。別の種類の虫」「動けない。誰かに引きずられる。ダヴィドなの?」「起きてて、アマンダ。何が重要か考えて」「何が重要か?なぜこれを見ているの?」「あなたが見るものが僕らに見える」「庭へ戻ろう、アマンダ」

「アマンダ、僕は庭に?」「いいえ、あなたのママがいる。数日前に会ったカローラ。川から戻ったところ」「ママは何を?」「レモネードを飲んでグラスを置いた。歩いていく。プールにサンダルを忘れていってる。私は黙ってる」「なぜ?」「彼女の行動を見たい」「何してる?」「バッグを肩に掛けビキニで車に向かってる。車体に手を滑らせて歩く。私を見ない。でも来るように促してる」「他には?なぜ黙ってるの?」「ポーチで寝てるニナの様子を見てる」「それは重要じゃない。やり直そう。街での1日を」「私は叫んでる?」

車を運転するアマンダはノリノリで歌っていました。後部座席の娘ニナも楽しそうです。ゲセルという男のもとに寄って、その男が家まで案内してくれます。アマンダはこのアルゼンチンののどかな場所に引っ越してきたのでした。

まだ慣れない家で作業をしていると、ひとりの女性が水の入ったバケツを持ってきてくれます。水道水が飲めなくなることがあるらしいです。女性はカローラだと名乗り、こちらもアマンダだと自己紹介。娘のニナも顔を合わせます。アマンダの夫のマルコは後から来る予定で、夏の間だけの滞在です。夫は仕事の関係で転々とすることが多いのでした。

カローラはここの生まれだそうで、しだいに会話を進める2人。カローラは息子ダヴィドの話をします。そう言えばここに来る途中に小舟でくつろぐ少年を見ました。「もう私の息子じゃない」と驚くべき言葉を口にするカローラ。「いいえ、子どもは永遠に母親のもの」とアマンダは言いますが、「違う」と否定するカローラ。

なんでも息子は7年ほど前に病気になり、親2人で働き始めたのだとか。カローラは過去を語りだします。

夫のオマールは馬の繁殖をしており、良い種馬はカネがかかります。なんとか黒い雄の馬を借り、2頭の牝馬と繁殖させようとしていました。夜、1頭と交尾をしているのを目撃し、順調そうな姿に安堵。ところが、夫が家にいないとき、あの雄馬が柵から逃げたことに気づき、ダヴィドを連れて追いかけるカローラ。馬は森の中にいました。ダヴィドは呑気に水たまりでじゃぶじゃぶと遊びつつ、カローラは馬を捕獲。

しかし、夜、雄馬が倒れているのを発見。緊急事態で夫は家を出ます。けれども不幸は連続します。今度はなぜかダヴィドまで体調不良に。夫はいません。息子を小舟に乗せて、カローラは「緑の家」と呼ばれる場所に駆け込みます。そこは呪いをする老婆がいました。

息子を治すためにその老婆は処置をします。新しい体へと移る行為…。数時間後、息子は動けるようになっていました。でもカローラは抱きしめられません。明らかに以前とは異なる雰囲気…。

「あれは息子じゃない、怪物よ」

アマンダはそんなカローラの話をにわかには信じられません。きっとストレスが重なって心理的に参っているのだろう…と。しかし、ダヴィドの不穏な様子を見ていると、アマンダさえも不思議と恐怖を感じるようになっていきます。

そして事件は起こる…。

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あれは息子じゃない

『悪夢は苛む』は本当に冒頭から謎だらけです。ナレーションというか、会話形式で始まるのですが、一体何を話しているのか。少なくとも会話をしているのはアマンダとダヴィドだということはわかります。でもなぜ? 疑問は膨らむばかりです。

そして続いてアマンダとニナがこの地に引っ越してくる始まりが描かれ、次にカローラとの出会い。そしてカローラが経験したこと。とくにダヴィドとの関係が説明されていきます。

この映画開始から30分でようやく事の実態がわかってくるようになり始めます。ダヴィドは死にかけていて、普通であれば死んでしまうところを、何かしらの呪い的なもので復活させたのか、と。

要するに『ペット・セメタリー』みたいなジャンルなのかなと推測できます。

実際、この後、ダヴィドの異様な行動にアマンダも観客も震撼していくことになります。鳥の死体を集めて埋めるとか、急に家に侵入して立てこもるとか…。それよりもダヴィドのあの佇まいだけで怖い。あそこは役者の演技の凄さでしたね。アマンダは幼い娘がいるので余計に防衛意識は強くなるものですけど、そうでなくともあのダヴィドは怖すぎる…。

本作は男性的な束縛から解放も描かれており、アマンダもカローラも明らかに夫との関係に従属的な構造を抱えています。2人とも夫のなすことに従い、それを支えていくことを良しとし、それ以外の道を歩むという選択もなかった存在です。

そんな2人はしだいに打ち解け合って、大自然の中で車を運転したりと、思う存分にはしゃぎながら現実を忘れる。そういうシスターフッドな夢を映す作品でもありました。

だからこそあのダヴィドは純真な男性性の恐怖みたいなのを象徴している気がしてちょっと怖いんですよね。カローラの夫の職業である馬の繁殖もとてもジェンダー的な暴力性を感じさせますし…。

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なぜ危険を見通せなかったのか

ところが『悪夢は苛む』はてっきりオカルトホラーだと思っていたら、終盤に思わぬ真相を提示します。この作品はジャンルの皮を被った、社会派な側面を持っていたのです。

それはニナの体調不良で明らかになります。これではダヴィドと同じではないか、もしかしてこれは呪いみたいなものなのか、なんだかこの地域自体が怪しい…。そんな不安が爆発していくアマンダ。そうこうしているうちにアマンダさえも倒れてしまい…。

そして気づきます。ニナの服が濡れていた…あれは雨露だと思っていたけどそうではない。ここら一帯は大規模な農地で、そう言えば農薬散布が行われていた。これは殺虫剤成分の過剰な使用による悪影響…公害なのだ…と。

そう提示されるとこれまでの描写も合点がいきます。

例えば、随所に示される「水」の要素。カローラが序盤でバケツで持ってくる水。家のプール。近所の川。カローラと2人で泳いで満喫していた川での水泳も、その事実を知ってしまえばゾっとする光景に反転します。

アマンダは娘が水で溺れることを危惧していましたけど、もっと危険はすぐそばにありました。「なぜ危険を見通せなかったのか」と悔やんでももう遅い。

何よりも冒頭からナレーション会話で提示される「虫」の要素がそもそも答えでした。「虫を探すんだ」と言っているのはつまり安全地帯を探せということであり、この地域一帯は農薬汚染で虫も住めない環境なのでしょう。まさか人間まで虫のように駆逐されてしまうとは…。

この地では農薬散布による公害が深刻化し、健康的に脆弱な子どもを中心に症状が発生していたようですが、当然解決するために動くことはなく…。半ば呪いのようなかたちで片付けられるだけ。

ちなみに同時期にAmazonプライムビデオで配信されていた『マードレス 闇に潜む声』も農薬の要素が出てくる類似の映画で、偶然にも重なっていました。私はすっかりハロウィン・ムードでたくさんのホラー映画を観まくっていたのでこんな社会問題をストレートに描くとは思っておらずちょっと不意を突かれました。

こういうジャンル的な雰囲気を醸し出しつつ、実はある田舎地域の切実な社会問題を反映させている作品と言えば、最近も『バクラウ 地図から消された村』なんかもありました。

『悪夢は苛む』もその仕掛けが上手く、“クラウディア・リョサ”監督はかなり原作を上手く映像化できたのではないでしょうか(と言ったものの私は原作を読んでないですけど)。

こういう南米地域での農薬汚染問題。「向こうは大変なんだね~」と他人事みたいに思っている人もいるかもしれません。でも日本も関係しているのです。実は世界最大の農薬市場(南米の農薬市場は142億ドル)である南米にて事業展開している最大規模の企業は「住友化学」。今、世界の農作物市場は競争も激しく、人口増加による需要拡大もあって、市場の価値も上がっています。当然、作物を作るのに必要な農薬も売れます。シェアを高めるための競争は増すばかりです。

対岸の火事ではない、加害者としての側面もあるわけです。『MINAMATA ミナマタ』は終わっていないどころか、世界へと悪化していますよ。

本作『悪夢は苛む』のラストで、ダヴィドはマルコの車を意味深に見つめます。あのダヴィドの中にはもしかしたら…。

その目線は私たちにも向けられるのではないでしょうか。

『悪夢は苛む』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 71% Audience –%
IMDb
5.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0

作品ポスター・画像 (C)Netflix 悪夢はさいなむ

以上、『悪夢は苛む』の感想でした。

Distancia de rescate (2021) [Japanese Review]