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『セレニティー 平穏の海』感想(ネタバレ)…Netflix;そういう話だったのか

セレニティー 平穏の海

そういう話だったのか…Netflix映画『セレニティー 平穏の海』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Serenity
製作国:アメリカ(2019年)
日本では劇場未公開:2019年にNetflixで配信
監督:スティーヴン・ナイト

セレニティー 平穏の海

せれにてぃー へいおんのうみ
セレニティー 平穏の海

『セレニティー 平穏の海』あらすじ

ベイカー・ディルは漁師として平穏な生活を送っていた。そんなある日、元妻のカレンがベイカーの下を訪ねてきた。カレンは「夫が私と息子のパトリックに暴力を振るってくる。夫を殺すのを手伝って欲しい」とベイカーに大胆な依頼をする。しかし、それ以上に衝撃的なことがベイカーに巻き起こる。

『セレニティー 平穏の海』感想(ネタバレなし)

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観るまで中身はわからない

映画鑑賞に臨むときのスタイル、とくに「事前にどれくらい作品の情報を知っておくか」はかなり個人差がありますよね。絶対に自分が観たいと思った映画なら情報の有無関係なしに劇場に向かう人もいれば、前もってざっくり感想や評価をチェックしてなんとなく好印象の映画を見に行く人もいるし、ガッツリとネタバレに目を通したうえで鑑賞する人もいます。また、とりあえず映画館に行ってその場で何を見るかフィーリングで決める人もいるでしょう。

私みたいな年に数百本と映画を観る人は、事前にコレとコレとコレを観ようとリストアップしてしっかりスケジュールを組んでいることが多いです(そうしないと効率的に観きれませんから)。必然的にある程度情報を頭に入れて見に行くことも多々あります。先行で公開された海外の評判とか、公式サイトや映画情報サイトなどを参考にしたりして…。

そんななか、Netflixオリジナルで配信された映画は、情報を事前に入れずに鑑賞することが私は結構あります。Netflixオリジナルなのでそもそも情報量が他媒体で乏しいというのもありますけど、この配信サービスくらいは気楽に構えず観ようと思っているのも少なからずあって…。

なので一体どんな展開が待っているのか、はたまた根本的に何を題材にしたどんなジャンルの映画なのか、全くわからず観るので「えっ、こういう映画なの!?」と驚くことも…。こういう偶然の出会いに心弾ませるのも密かな楽しみ。

そういう意味では、本作『セレニティー 平穏の海』は「えっ、こういう映画なの!?」案件でした。

まあ、そう期待を煽っといてなんですが、ネタバレなしで感想を書くなら、これ以上のことは何も言えないのですけどね。ネタバレを回避しながら映画を面白く語れる人って凄いですよ、尊敬します。

物語の中身に触れずに本作を紹介するしかないのであれですが、まず監督は“スティーヴン・ナイト”という人です。この人はもともと脚本家で、『堕天使のパスポート』『アメイジング・グレイス』『イースタン・プロミス』『マダム・マロリーと魔法のスパイス』『セブンス・サン 魔使いの弟子』『完全なるチェックメイト』『二ツ星の料理人』『マリアンヌ』『クリミナル・タウン』『蜘蛛の巣を払う女』のシナリオを手がけています。こうやって羅列すると全然共通性がない気がしますね。

それで監督業も何本かやっていて、ひとつはジェイソン・ステイサム主演の小粒なアクション映画『ハミングバード』(2013年)。続いて同年に『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』も監督。こちらはかなり高評価を受けた映画で、全編にわたって主人公は車を運転している状態で物語が進行するという、ワンシチュエーション・サスペンスが特徴でした。

その”スティーヴン・ナイト”監督が脚本と製作も合わさて作った本作『セレニティー 平穏の海』。なかなか変なプロットです(言葉を濁しつつ…)。私にはまだ”スティーヴン・ナイト”というクリエイターの作家性が掴めずにいる…。

あとは俳優陣。“マシュー・マコノヒー”“アン・ハサウェイ”という豪華な顔ぶれ。二人が共演するのは『インターステラー』以来です。いや~、ここで再会できたね…(『インターステラー』の話です)。今作では、お尻が見られます。あ、”マシュー・マコノヒー”のお尻ですよ。

全然作品の魅力を伝えられていないと思いますが、観れば誰かと語りなくなる映画なのは間違いないです。「えっ、こういう映画なの!?」と、絶対に思いますよ。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(じっくり鑑賞を推奨)
友人 ◯(物語展開を予想して楽しもう)
恋人 ◯(物語展開を予想して楽しもう)
キッズ △(大人向けのシリアスさ)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『セレニティー 平穏の海』感想(ネタバレあり)

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凶器:サメ

“スティーヴン・ナイト”監督はインタビューで作品の雰囲気について「アーネスト・ヘミングウェイを意識した」と語っています。確かにそのとおりで、本作は最初に観たときのルックからは、ある特定の空間で繰り広げられる、いかにも情動的な人間ドラマ…といった古典的とすら感じる貫禄があります。

舞台は”どこかは詳細はわからない”ですが、南の海に浮かぶ「プリマス島」と呼ばれる小さな島のようです。主人公のベイカー・ディルは、ここで観光客向けの釣りレジャー船を提供し、魚を釣らせてお金をとり、また自分でも釣った魚を市場に流して収入を得ているらしいことが序盤からわかります。彼の過去は不明ですが、こんな辺境の島にもともといたわけでもないようで、おそらく過去に何かあってここにたどり着いたことも察することができます。賑わいから避けるようにひとり狭い家で寝泊まりし、仕事が終わればバーに行き、夜は地元の女のコンスタンスと寝る。ずいぶんと自堕落な生活。生活費にも困るほど経済的に苦しい状況。

そのディルが、ほとんど執着しているといっていいくらい、血眼になっているのが、ある大物の魚を釣ること。「ジャスティス」と名付けた魚、巨大なマグロみたいですが、それを釣るためなら、周りも見えなくなるほど。金になるメカジキの夜釣りも無視し、金を払う釣り客さえもナイフで脅して、その大物を釣り上げることだけに集中するディル。まるで「白鯨」のエイハブ船長みたいです。でもディルとこの狙う魚の関連性はさっぱり不明。島の人からはあまりにも執心が酷いので、精神的な病気を疑われているようです。

また、ディルと島の人々の会話を見ていると、ときおり「子ども」に関する話題が出ます。例えば、ディルと一緒に船を出しているデュークにも気にかけている子どもがいて、コンスタンスもマイアミに息子がいるという話が聞けます。しかし、ディルはその子どもというワードには無関心。

そうこうしていると、いつものバーで、ある女性がおごってきます。ディルを「ジョン」と呼ぶ、そのブロンドヘアと大きな瞳を持つ美しい女性の正体。「カレン」という名を口にするディルは、なぜこんな何もない最果ての島に来たのかと疑問を言います。「私が間違いだった」と語るカレン。実はカレンはディルの元妻。そして偶然であったわけではなく、調べてここに来たようでした。

そんなカレンは自分の目的を告白します。それは衝撃の依頼。

「私の今の夫フランクが私と息子のパトリックに暴力をふるう。だからフランクをあなたの船に乗せて、酔わせて、海に突き落とし、サメの餌にしてほしい

殺人の提案にさすがに困惑するディル。彼は愛する者のために罪を犯すのか…。

ここまで割とオーソドックスなサスペンス。別にこれでもじゅうぶん面白くなるだけのポテンシャルがありそうな物語です。

しかし、これは本作の衝撃のメインではなく…

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もっと簡単操作にしてください

実はこれまでの物語のパートの中にも「ん?」と思うような、オカシイことが目に映っていました。

例えば、カメラワーク。『セレニティー 平穏の海』の冒頭、子どもっぽい少年の目のアップから海中の中、そしてそのまま海面に上昇して、海を飛ぶように移動し、ディルの乗る「セレニティ号」を映すというダイナミックな視点の動き。ずいぶん仰々しいです。

また、初めてカレンが画面に登場するシーンも、やけに彼女を誇張するように動くカメラワークが不自然なくらいでした。

あとディルが狙う大物の魚も、大物にしてはデカすぎるのが変です。あれじゃあ、ジェイソン・ステイサムが戦う相手みたいなモンスターじゃないですか。

さらにディルの息子パトリックとおぼしき少年と繋がっているような演出。なぜ全裸ダイブするのか…(まあ、これはオチを知っても理由はイマイチ釈然としないですけど)。

加えてときどきタイミングが遅れるように現れる、ビジネスマン風の謎のメガネ男の正体は…。

そんな意味深な謎は放置しつつ、ついにカレンの現夫フランクが到着。噂にたがわず、偉そうな振る舞いの男。演じているのは”ジェイソン・クラーク”ですが、『ナチス第三の男』に引き続き、こういう嫌な男の役をやらせるとハマりますね。

いざ船に乗せるもなかなか殺害に手を出す覚悟を持てず。

ここで例のビジネスマン風の謎のメガネ男が、夜中の2時半、土砂降りの中、ディルの目の前に登場。フォンテイン社という船と釣り用品の会社に勤めるリード・ミラーと名乗ります。あなたの人生を変えるものを持っていますと言って、出したのはソナー魚群探知機。お試しで1週間無料提供できますと営業トークするも、全然信用していないディル。

そんなミラーはあることを告白します。それは衝撃の情報。本作の本当の衝撃的核心。

「プリマス島はゲームなんです。誰かがこの世界をコンピュータで作ったんです」

…釣りゲーだったのか…。それであんなに釣れないとか、クソゲーじゃないか…(違う)。

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どんでん返しに賛否は分かれるけど

ということは、この映画のジャンルは「SF」になります。なんだよ、カテゴリづけするだけでネタバレになる事案ですよ。困るなぁ…。

それはさておき、当のディルはそれどころじゃない。衝撃の展開から一夜明け、”決まった時間に”目覚めると、地図を開きます。いつもの島の地図ではなく、より大きな地図。しかし、どんなに広範囲のマップにも載っているのはプリマス島のみ。他は全部、海。

ここはどこにある? 俺はここに何年いる? 全く自分の記憶もなく、島の人間も不自然なことに気づくディルは、ミラーの言ったことを信じるしかなくなるのでした。

そしてこのゲーム世界を作った創造主にも心当たりがあるディルは、自分の息子で非常に優秀だったパトリックに違いないと思考。ゲームの目的が、魚釣りから人殺しに変更になった以上、ディルは息子の目指すことを叶える以外に道はなく…。

このサプライズ設定は絶対に賛否別れますし、実際、本作の世間の評価はお世辞にも高くないのですが、問題はこの設定の必要性があったのかということ。観客をただ驚かせたいだけのウケ狙いなら別にたいしたことはないです。そういうSFなら世の中にいっぱいあるし、もっと精巧な良質映画も存在します。

リアリティで言えば、本作は明らかに不備は多いです。ゲームにある程度親しんでいる人なら、設定に文句のひとつやふたつ出てくるでしょう。まずゲームと言ってもどういうゲームなんだよとか、ひとりで作れるゲームには限界があるだろうとか、そもそも本作の描写はどこまでゲームとしての現実性を追求していいのかとか。ちなみに、ミラーの所属するフォンテイン社は「BioShock」というゲームからの引用だという、どうでもいい小ネタも。

ただ、本作はそこらへんはあえて放り投げているのでしょう。だったら、ゲームじゃなくて小説の世界とかにすれば良かったのにと個人的に思わなくもないですが…。仮想世界に没頭するイマドキの子どもの実態を反映したかったにしても、強引すぎる面も…。

目的を達成し、ゲームクリアしたプレイヤーとキャラクター。2006年のイラク戦争で死亡した実父と取り残された息子の再会は、仮想か、それとも…。少なくとも「serenity(心の落ち着き)」は取り戻したのは事実でしょうか。

“スティーヴン・ナイト”監督の、かなり挑戦的なアイディアをクラシックなドラマに織り交ぜる企画の大胆さは評価したいところです。なんか今後、この監督の新しい作品や脚本作を観るときは、ちょっと警戒してしまうかも…。

『セレニティー 平穏の海』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 20% Audience 31%
IMDb
5.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 4/10 ★★★★

作品ポスター・画像 (C)Global Road Entertainment, Netflix

以上、『セレニティー 平穏の海』の感想でした。

Serenity (2019) [Japanese Review] 『セレニティー 平穏の海』考察・評価レビュー