クロエ・グレース・モレッツ主演…Netflix映画『マザー アンドロイド』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2021年)
日本では劇場未公開:2022年にNetflixで配信
監督:マトソン・トムリン
マザー/アンドロイド
まざーあんどろいど
『マザー/アンドロイド』あらすじ
平穏な日常を送っている若い男女のカップル。2人にとって喫緊の悩みどころは、妊娠してしまったという事実だった。まだ親になる準備は何もできていない。しかし、そんな苦悩さえも吹き飛ぶ、とんでもない事態が起きる。暴走したアンドロイドたちの突然の反乱により、世界はそれまでの歯車が狂い、終末を迎えた。なんとか生き残った2人は、安全地帯を目指して決死の覚悟で危険な旅を続けていく。
『マザー/アンドロイド』感想(ネタバレなし)
クロエ・グレース・モレッツらしさなのか
「Alliance of Women Film Journalists(AWFJ)」という組織があります。「女性映画ジャーナリスト同盟」と日本語では呼ばれており、その名のとおり、女性を主体に構成される組織で、その立ち位置は社会的にも大切な発信地点になっています。ウェブサイトでは映画のレビューも行っており、しっかり女性というジェンダーに焦点を置いて論評しているので、私も参考にすることがあります。
そのAWFJは毎年「EDA Awards」という独自の映画賞を発表しています。他の映画賞と同じように作品賞や俳優賞などがあり、そのへんは平凡なのですが、「Female Focus Awards」といって女性に重点を置いた部門もあるのが特色。
さらにオマケみたいな感じでかなり変わった部門も設置されていたりします。その中のひとつが「She Deserves A New Agent Award」。ざっくり翻訳すると「“誰かあの女性に新しいエージェントを呼んであげて”賞」でしょうか。ワースト女優賞とかではなく、エージェント(俳優に仕事を持ってくる人)に非があるかのような口ぶりなのが、いかにもこの組織らしいです。
「She Deserves A New Agent Award」は基本的には毎回その1年で「あれれ…」な作品にキャスティングされた女優に贈られています。
そしてその栄えある(?)2021年の「She Deserves A New Agent Award」にノミネートされたひとりが、“クロエ・グレース・モレッツ”でした。
“クロエ・グレース・モレッツ”と言えば、2010年の『キック・アス』で一躍大ブレイクした子役であり、これはもう人気俳優の順風満帆コースに乗っかったんだろうなと思うのですが、なんというか…。妙にこじんまりとした、それでいてインディペンデントなアート派でもない、明らかにB級ジャンルっぽい匂いのする映画に定期的に出演するんですよね。『フィフス・ウェイブ』(2015年)とか、『クリミナル・タウン』(2017年)とか、『シャドウ・イン・クラウド』(2020年)とか…。
いや、確かに『アクトレス〜女たちの舞台〜』(2014年)や『ミスエデュケーション』(2018年)のような素晴らしい良作にも出演しているので全部が全部残念だというわけではないのですけど…。
とはいえ“クロエ・グレース・モレッツ”のフィルモグラフィーは賞レースにぐいぐいと常に食い込むような輝かしさはあまりないです。私はこれはエージェントうんぬんよりも“クロエ・グレース・モレッツ”個人の趣味なんじゃないかなとも思うのですが…まあ、本人がそれでいいならOK。これも“クロエ・グレース・モレッツ”らしさです。
そんな“クロエ・グレース・モレッツ”の新たな主演作もずいぶんパっとしない登場だったのですが、とりあえず“クロエ・グレース・モレッツ”はいっぱい堪能できます。
それが本作『マザー/アンドロイド』です。
『マザー/アンドロイド』はアンドロイドがごく一般家庭に普及した近未来を描いており、家事とかを担っています。そして突如そのアンドロイドが異常行動を起こして人々を襲い出し、文明社会が崩壊しかけてしまう…というのが本作の舞台。といっても主人公はその世界を救おうとするわけでもなく、あくまでこの殺伐とした生存に厳しい世界でなんとか恋人と生きようとする若い妊婦です。
監督は“マトソン・トムリン”(マットソン・トムリン)。『プロジェクト・パワー』の脚本を手がけたほか、2021年には『こぼれる記憶の海で』という批評家からの評価の高い映画の脚本も担いました。『マザー/アンドロイド』は“マトソン・トムリン”の監督デビュー作です。彼は「バットマン」などのDCコミックや「ターミネーター」のアニメシリーズのシナリオを担当するという話もあり、今後も活躍の目立つであろう若手のひとりになるのかなと思います。
製作に名を連ねるのは、『クローバーフィールド/HAKAISHA』『猿の惑星: 新世紀』、そして新たに生まれ変わる『THE BATMAN-ザ・バットマン-』を監督した“マット・リーヴス”です。
“クロエ・グレース・モレッツ”と共演するのは、『デトロイト』『ユダ&ブラック・メシア 裏切りの代償』、そしてドラマ『ユーフォリア』に出演していた“アルジー・スミス”。さらに『アーミー・オブ・ザ・デッド』『ナイトティース』などにでていた“ラウル・カスティーリョ”など。
『マザー/アンドロイド』は本国アメリカでは「Hulu」で配信されたのですが、日本を含む世界では「Netflix」での独占配信となっています。SF要素はあるにはありますが、わりとしんみりした内容なので、ひとりで落ち着いて鑑賞するのが良いと思います。
『マザー/アンドロイド』を観る前のQ&A
A:Netflixでオリジナル映画として2022年1月7日から配信中です。
オススメ度のチェック
ひとり | :ジャンル好きなら |
友人 | :わりと静かな内容だけど |
恋人 | :異性愛ロマンス主軸 |
キッズ | :大人のドラマです |
『マザー/アンドロイド』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):アンドロイドの反乱
妊娠検査薬がいくつも並んでおり、そのトイレで座り込んでいるのは途方に暮れる男女のカップル。ジョージアとサムです。何度確認しても結果は同じ。予期せぬ妊娠でした。
動揺を抑えつつもサムは「結婚しよう、愛している」とジョージアに告げます。しかし、ジョージアの顔は浮かないです。全くこの現実を受け入れられません。
とりあえず親にはまだ言えない。今日はクリスマスイブ。家には飾りつけが鮮やかに目立っており、とりあえず今は友人のいる大学のクリスマスパーティーに向かおうと家を出ることに。
その前に、家で従事しているアンドロイドのイーライが「ハッピー・ハロウィン」と声をかけてきます。サムはなぜそんな初歩的なミスをするのかと不審に思いながらも「クリスマスだ」と訂正。するとイーライも言い直します。
クリスマスパーティーでジョージアは女友達のサラに妊娠したことを告白し、「怖い」と素直に打ち明けます。すっかり気が滅入っているジョージア。これからどうすればいいのか…。
そのとき、何の前触れもなくものすごいノイズが2人の耳をつんざきます。たまらず頭を押さえる2人。強烈すぎる、今まで経験したことのない現象でした。何だったのか…。
ほぼ同時に悲鳴が聞こえて下に降ります。そこで見た光景は衝撃でした。アンドロイドのダニエルが人を襲っているのです。窓に人を叩きつけ、まるで躊躇がない状況。サムは暴走したアンドロイドに首を絞められるも後ろからの助っ人のバットによる殴打でアンドロイドが停止。
外ではパニックが起こっている気配がし、すぐにみんな出ます。見渡す限りの大混乱でした。火災が発生し、銃声も聞こえます。友人のサラは電話しようとスマホを耳にあてるも、そのスマホが爆発して死んでしまいました。住宅地は阿鼻叫喚となっており、それはここだけではなく…。
それから時間が経過。ジョージアとサムは森のテントで寄り添い合っていました。ジョージアのお腹はかなり膨らんでいます。
すると野外で何かが枝を踏み折る音が聞こえ、サムがライトを片手に調べます。拳銃を手に、動物なのか、それとも別の何かなのか…。結局、正体はわからず、テントに戻って明かりを消します。
翌朝、重たい体を起こしながらジョージアは起床。2人は森を進みます。打ち捨てられた車を見つけ、そこには縛られて燃え尽きたアンドロイドも。
「止まれ、手を上げろ」
いきなりそう言われ、大人しく指示に従う2人。「武器は持っているか」と聞かれ、素直に答えます。妊娠していることも告げます。「9か月目です」
そこは安全区のシェルター。入念な身体チェック。フェンスの中に入れてもらいます。「ボストンに行きたいと思っている」と医療テントで検査を受けながら、今後を話します。心音を聞かせてもらい、お腹の中に命が宿っていることを実感するジョージア。
その日、2人は口論します。どこが自分たちにとっての最善の居場所なのか。
翌朝、サムが問題を起こしたせいで、2人はせっかくの医療支援もある安全な区画を追い出されてしまいました。「守りたかった」と言い訳するサムに、ジョージアは苛立ちを隠せません。
そして2人は豹変したアンドロイドに襲われることに…。
ターミネーターがリアルにいたら…
『マザー/アンドロイド』は世界観の出だしはよくあるアンドロイドの反乱です。「AIは冷酷or暴力的で人間社会に敵対する」というステレオタイプな脅威論に基づく構図であり、そこに特段の目新しさはありません。
しかし、ここのあれよあれよという間に日常が崩壊して、とんでもない地獄絵図に放り込まれているという序盤の絶望感はよく映像化されていたように思います。
AIのアンドロイドが日常生活に溶け込んでいることが自然に描写されているのもいいですね。本音を言えば、もう少し解説が欲しかったですけど。どれくらいアンドロイドが普及をしていて、何ができて何ができないのか。その情報不足は意図的な演出だとは思いますが、後の展開を考えるとこのアンドロイドの詳細な説明の不足は強引な展開を良しとする雑さにもなってしまうので、SF考証の浅さにも思えてしまうし…。
あとはアンドロイドのデザインがわりと『ターミネーター』型のベタなやつだったのが個人的にはあまり…。『エクス・マキナ』くらいに洗練されたデザインでも良かったのではないか…。
でももしかしたら“マトソン・トムリン”監督としては、これは「私の考えるターミネーター世界」なのかな。『ターミネーター』の人工知能「スカイネット」の反乱をもっとリアルに設定し直して映像化してみました的な…。
アンドロイドの反乱の要素としては、終盤で正体が明らかにされるアーサーが意外性を観客に与えるべく設置されたポイントなのでしょうけど、アイツも結構露骨に怪しいのであまり意表を突くだけのインパクトはないかもしれない…。“ラウル・カスティーリョ”の演技は良かったですけどね。
ラストで物語の意図がわかったけど…
『マザー/アンドロイド』の物語におけるアンドロイド以外のキーポイントとして「妊娠」があるのですが、私は最初に前半を観ているうちは「なんでここまで妊娠に焦点をあてるのだろう?」とあまりノれないでいました。なんかこういう世紀末な世界で「妊娠すること」に希望を投影しすぎるとちょっとプロライフっぽくなってしまいますし…。さすがにあのアンドロイド反乱以降は医療ケアもままならず中絶なんて無理になってしまったとは思いますけど…。
ただ、最後まで鑑賞すると作り手がこの「妊娠」をどうしても入れたかった理由がわかりました。この展開をしたかったのか…と。
ラスト、なんとかアンドロイドの強襲を生き抜いたジョージアとサム。サムは両足を失うも、赤ん坊も無事に生まれ、家族3人となった一同は、まだアンドロイドによる混乱が起きていないというアジアに避難するべく、韓国行きの船に乗り込もうとします。しかし、港で小型船でやってきた人に告げられたのは「赤ん坊しか連れて行けない」という現実。
つまり、本作は今現在起きている「中国からのアメリカへの赤ん坊の養子」という現象を逆転させた展開を見せることで風刺をするという意図があったんですね。赤ん坊を手放すしかない絶望にむせび泣き、泣き崩れながらも愛おしそうに我が子を養母に渡すジョージア。“クロエ・グレース・モレッツ”渾身の演技です。
でも『一人っ子の国』や『ワタシが”私”を見つけるまで』といったこの問題を扱ったドキュメンタリーを観ていると、単に子どもを手放す悲痛さだけを切り取るのでは、あまり立場の逆転ということにもならないのではないかとも思わなくもないです。実際の現実問題はもっと複雑なので…。
ということで『マザー/アンドロイド』はアンドロイドとか妊娠とか養子とか諸々のテーマ要素があまりきっちり歯車が合っていない感じで、やや完成度は低めだったのかな。
“マトソン・トムリン”監督は2021年の脚本作『こぼれる記憶の海で』でもポストアポカリプスになろうとしている世界を舞台にしており、こちらは人の記憶を壊してしまう未知のウイルスが蔓延する設定で、コロナ禍を経験したこともあってかなりリアリティのあるドラマを構築できていました。それと比べると『マザー/アンドロイド』の設定はツギハギの粗さが目立ちますね。
物語のトーンが感傷的になりすぎる傾向もあるので、それも私の好みにはフィットしない感じです。“クロエ・グレース・モレッツ”の必死の演技には申し訳ないけど…。
私はR2D2みたいなロボットに家事をやってほしいなぁ…(反乱は嫌だけど、たまに喧嘩とかするならいい)。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 33% Audience 29%
IMDb
4.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)Miramax
以上、『マザー/アンドロイド』の感想でした。
Mother/Android (2021) [Japanese Review] 『マザー/アンドロイド』考察・評価レビュー