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『シン・エヴァンゲリオン劇場版』感想(ネタバレ)…日本アニメの到達点か限界点か

シン・エヴァンゲリオン劇場版

日本アニメの到達点か限界点か、それとも…映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:EVANGELION:3.0+1.0 THRICE UPON A TIME
製作国:日本(2021年)
日本公開日:2021年3月8日
総監督:庵野秀明

シン・エヴァンゲリオン劇場版

しんえばんげりおんげきじょうばん
シン・エヴァンゲリオン劇場版

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』あらすじ

人の創り出した究極の汎用ヒト型決戦兵器「人造人間エヴァンゲリオン」。謎の生命体「使徒」との戦いは誰も予想しなかった展開とともに、碇ゲンドウの支配下に置かれた特務機関「NERV(ネルフ)」と、葛城ミサトが指揮する反NERV組織「WILLE(ヴィレ)」との最後の決戦に向けて突き進んでいた。そして、運命に翻弄されてきた碇シンジはついに決断する。さよなら、全てのエヴァンゲリオン。

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』感想(ネタバレなし)

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無事に終わって「おめでとう」

アニメは日本が育んできた大切な文化なのは言うまでもなく、これまでも数多の魅力的な作品が生み出されてきました。それぞれに個性があり、ファンがいて、歴史があります。

そんな往古来今の中で無数のアニメ作品が誕生していれば、そこから「特別」なステージにたどり着くものが登場してもおかしくありません。

その特別なアニメのひとつが『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズでしょう。これまでも大ヒットしたアニメはいくらでもありました。しかし、『名探偵コナン』や『鬼滅の刃』のように原作という強固な土台があるわけでもなく、さらにはアニメシリーズとして展開されていたのが1995年からの短い時期だけで、後はずっと劇場版として展開しているのみにとどまる。それなのにこのカルト的な人気っぷり。『機動戦士ガンダム』シリーズのように作品数がもっと多いものもありました。でもこの『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズの狂乱的な白熱には敵わない。

どうしてここまでの高みに上り詰めたのかと考えると、それは単純な答えになってしまいますが、やっぱり面白いからなのだと思います。また、時代的なものもあるかなとも思ったり。というのも1995年という始まりがキーポイントですよね。当時の日本は「阪神・淡路大震災」「地下鉄サリン事件」と社会が激震に揺れ、不安の闇が覆い尽くしていました。そんな時代にアニメというフィクションの世界がカルト化するのも納得ですし、以降のアニメファンはカルト的に讃えられる作品に出会えるかどうかが界隈の定番のノリになった気もします。オタクの在り方もこれ以前と以降で様変わりしたんじゃないでしょうか。

その『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズが終焉を迎えるというのもこれまた感慨深いものがあり…。

しかし、なかなか終わらなかった…。この『新世紀エヴァンゲリオン』フランチャイズのフィナーレとなるはずの「新劇場版」シリーズ、その「逃げちゃダメだ」の第1弾『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』が公開されたのは2007年、「綾波を返せ」の第2弾『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』は2009年…うん、いいペース。「何なんだよ、これ」の第3弾『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』は2012年…まあ、東日本大震災もあったしね…。そしてラストの最終作『シン・エヴァンゲリオン劇場版』は…あれ…待てども待てども公開の兆しがない…。

そうこうしているうちに生みの親の“庵野秀明”監督『シン・ゴジラ』なんて化け物を創り出してしまいましたからね。あの映画はあの映画で面白かったけど、エヴァは?…とみんな思いながらの待機体勢。

そしてやっと2018年に「2020年公開」と発表。ところが2020年にまさかの新型コロナウイルスのパンデミック。公開は2021年1月に延期。しかし、またもパンデミック再来でさらに延期してやっとの3月になんとか公開。最後の最後までハラハラさせる存在だった…。まあ、熟練のファンはもはや数カ月程度の延期にはびびらないでしょうけど…。

「とりあえず公開できて良かったね」と「“庵野秀明”監督&スタジオの皆さん、お疲れ様です」という感じですが…。“庵野秀明”監督にとっては比喩でも何でもなく人生を捧げて命懸けでひねり出した物語でしょうからね。一般的には作品の生みの親はどこかで自分の作品を他者に譲り渡したりするものですが(ジョージ・ルーカスしかり)、“庵野秀明”監督は自分で産んで自分で看取るという、本当にハードなことをしてしまったなぁ…。クリエイターとしてはオススメできないやり方だとは思う…。

ともあれ興行収入102億円を達成して、シリーズも大成功の終幕を迎えたのですから「おめでとう」の一言です。公開から5か月後という人気作では異例の早さでネット配信を解禁したのも、その潔さの表れでしょうか(これに関しては違法動画対策の側面がありそうだけど)。

私はとくに『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズに思い入れがない人間で、話題性があったので鑑賞はしていましたが、基本的には自分のフィーリングにマッチする作品ではなかったので、やや俯瞰的に観ていたのですけど…。それはそれで興味深い経験でしたけどね。この作品、俯瞰して観るほうが気が楽だとは思うけど(入り込みすぎるとそれこそシンジ状態になる…)。

後半の感想では私なりの『シン・エヴァンゲリオン劇場版』に思うことを淡々と独り言で書いています(褒めてもいるし、批判もしている)。

ということでまだ観ていない人は試しにでもぜひ。全体の累計作品数は多いですが、本作を含めて「新劇場版」シリーズの4作だけ観ていればそれでいいですからね。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:初心者も今からでも
友人 4.0:語り合いは終わらない
恋人 3.5:ファン同士なら
キッズ 3.0:作品が好きな子なら
↓ここからネタバレが含まれます↓

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):最後に乗らせてください

「ニアサードインパクト」から14年後。葛城ミサトをはじめとする旧NERV職員らは、反NERV組織「ヴィレ」を結成し、碇ゲンドウの暗躍で蠢くNERVのエヴァを殲滅すべく旗艦「AAA ヴンダー」に乗り込んで活動していました。ヴィレにとっての要となるパイロットは、式波・アスカ・ラングレー真希波・マリ・イラストリアスの2人。しかし、渚カヲルに誘われるように碇シンジは「フォースインパクト」を引き起こしかけ、危うい瞬間を経験します。

それも過去の話。

次なる一手としてヴィレはパリ市街地の奪還を狙います。今は真っ赤に荒廃したこのパリを復元するために「ユーロNERV第1号封印柱」の復旧作業を赤木リツコ伊吹マヤ率いる現場スタッフが進めます。その間、マリの乗るEVA8号機は、NERVが送り込んできた群体で襲ってくる「航空特化型 EVA Mark.44A」をお茶の子さいさいで倒してみせます。第2波の陽電子砲装備の「陸戦用 EVA Mark.4444C」「電力供給特化型 EVA Mark.44B 」もエッフェル塔アタックで撃破。復旧は完了し、パリ市街地は元の姿に機能を回復させました。

一方、フォースインパクトを起こしかけて目の前で渚カヲルの爆死というショッキングな体験をしてしまった碇シンジは、アスカとレイ(によく似た存在)と共に日本をうろついていました。そんな一行は大人になった相田ケンスケに拾われ、あちこちの生き残りが集まってできた「第3村」で過ごすことに。鈴原トウジは医者として働いており、シンジを見守ります。

シンジは精神的に追い詰められて感情を失い、ただそこにいるのみ。アスカの首のDSSチョーカーを見て吐くなどトラウマは体に刻まれています。厳しい口調でシンジを責めるアスカも内心では心配をしながら、シンジの口に食べ物を押し込みますが、効果はなし。やがてシンジは近くのNERV第二支部跡地で一人で過ごすように(ペンギンもいるけど)。

その頃、レイ(によく似た存在)は村の人間らしい生活に感化され、興味津々で学習していきます。挨拶を覚え、仕事を覚え、感情を覚え、「そっくりさん」と呼ばれて村人にも溶け込み…。

そんなレイ(そっくりさん)もシンジを気にかけ、アスカは「初期ロット」と呼びつつ、「綾波シリーズは第3の少年に好意を持つように設計されている」と忠告。それでも気にしないレイはシンジのもとに通い、「私に名前をつけてほしい。碇くんのつけた名前になりたい」とお願い。

心を閉ざしていたシンジも「なんでみんなこんなに優しいんだよ」と自分を見つめ直しだします。

しかし、回復してきた矢先、レイはアラート音とともに弾けて消えてしまい…。

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エヴァっぽい何かです!

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』は当然ながら風呂敷を畳む最終作なのですが、3作目の『Q』で相当に滅茶苦茶な世界観拡大を見せてきたので当時の観客は「???」とそれはもう大混乱でした。しかし、蓋を開けてみればこの4作目は3作目の混乱は何だったんだというくらいに綺麗に幕を閉じました。

これまでも『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズは何度もエンディングを描いており、伝説的なテレビアニメシリーズの“あれ”含めて、その終わり方には常に論争を引き起こすのが定番。けれどもこの『シン・エヴァンゲリオン劇場版』は間違いなく歴代作品一番に“庵野秀明”監督がラストの締め方を考えるのがこなれている感じがします(まあ、あれだけ作りまくっていたらそりゃそうだろうという話なんですが)。

物語としては完全にシンジとゲンドウ、つまり「父と子」の決着にフォーカスしており、これは言ってみれば“庵野秀明”監督にとっての因縁の師である“宮崎駿”監督との関係とも重なり、つまるところクリエイティブな議論合戦です。

本作ではとくに終盤、マイナス宇宙でのシンジとゲンドウの対戦がまさに「特撮ロボットバトル風」というそのまんまな描かれ方になっており、とてもアイロニックでした。これのおかげでただの説明台詞ありきの難解さだけが際立つシーンに陥ることなく、ちゃんといかにも“庵野秀明”監督らしい等身大な自己との向き合い方を描けていました。

やはり『シン・エヴァンゲリオン劇場版』は“庵野秀明”監督のこれまでの集大成、とくに『シン・ゴジラ』で実写を撮った経験が活かされましたね。今作ではプリヴィズも多用しており、“庵野秀明”監督がアニメーションと実写の垣根を超えて創作できるクリエイターへと進化したことを象徴するものになっていたと思います。ラストはイマジナリーではなくリアリティーを表すように、そのとおりの実写カットで終わっていく…もちろんこれはアニメの世界に引きこもってきたオタクたちに告げる解放的なメッセージでもあるのですが。

とまあ、綺麗に風呂敷を畳めたように語りましたけど、実際の中身はやっぱり相当にぶっ飛んでおり、ハチャメチャです。面白いのは、作中で北上ミドリが観客の気持ちを代弁するようなツッコミ・ポジションになっており、「エヴァっぽい何かです!」とかいちいち代弁してくれるところ(ほんと、もうエヴァって何だったんだ…)。“庵野秀明”監督も自己批判的にツッコめるくらい、心に余裕ができたのかな。

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この人類補完計画への不満点も…

ここからは私なりの『シン・エヴァンゲリオン劇場版』への不満点…というか、『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズ全体への思うことをつらつらと書いていきます。

まず結論として本作の終わりは綺麗に幕を閉じたものの、表面上は解放的に見えつつも、かなり保守的で引きこもったままのオチだと感じる部分も強く…。あれだけああだこうだと世界観を覆しそうな用語を並べておいてやっぱりここに落ち着くのかとちょっとガッカリではありました。この感覚、『スター・ウォーズ』続三部作(シークエル・トリロジー)でも味わったような…。

何よりも本シリーズは基本的にすごく血縁主義的で、加えて恋愛伴侶規範が非常に濃いんですよね。ゲンドウの存在はまさにそれで孤独に沈んでいた男が女性の存在で救われ、それを失って絶望するというパターン。その子であるシンジもまたそれを受け継いでいて…。

だからといって本作では血縁主義や恋愛伴侶規範を否定することなく、ダメな部分をより美的なものに置き換えることで救いを与えている。とても日本の保守的家族観を汚さない繊細さ。こういうタッチの作品は日本のアニメに頻繁に観られ、『STAND BY ME ドラえもん2』ほどではないにせよ、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』もその沼にハマったまま終わってました。

虚無主義的で、もっと言えば自傷的な男を主に女性のケアで救うというのも、いい加減そこから完全に脱却した話にしてもいいのに…。こうなってくると「エヴァに乗らない世界」とやらは「自分を弱いと思い込んでいる男が頑張らなくていい世界=その男をケアする必要性がなくなった女の世界」という感じもして、すごくモヤっとします。

あとこれはかなり個人的な視点だと思いますが、序盤の第3村のシンジ虚無パートで、シンジがアスカの裸を見ても何も無反応な描写があります。あれも正直やめてほしいなと思ったり。というのもああいう性に対する欲求がない状態を「不健康」と映し出すシーンは、私みたいなアセクシュアルな人間にはかなりの偏見の助長になるからです。こういう表象があるから(とくに男性の)アセクシュアルはカミングアウトもしづらくなるわけで…。ほんと、性欲は健全な男の証!という表象は有害だ…(女性にはそういう描写がないことも含めて…)。

そんなこんなでまだいろいろ書けますが、とりあえず『シン・エヴァンゲリオン劇場版』は日本アニメの到達点でありつつ、限界点も見せてくれる複雑な一作でした。でもこれを通過点に本作以降、日本のアニメは新時代を開拓していってほしいですね(そうじゃないと困る)。

ただ、“庵野秀明”監督は今後も『シン・○○○』な実写映画を連発する気配がしまくりですから、これからも“エヴァっぽい何か”を見せられ続けるのではないかという…。

エヴァンゲリオンには「さよなら」をしたけど、“エヴァっぽい何か”には「さよなら」をした覚えはない…。そういうこと? そういうことなの?

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 100% Audience 93%
IMDb
?.? / 10
シネマンドレイクの個人的評価
5.0

作品ポスター・画像 (C)カラー シンエヴァンゲリオン

以上、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の感想でした。

EVANGELION:3.0+1.0 THRICE UPON A TIME (2021) [Japanese Review] 『シン・エヴァンゲリオン劇場版』考察・評価レビュー