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『CURED キュアード』感想(ネタバレ)…パンデミックは終息してからが苦難

CURED キュアード

パンデミックは終息してからが苦難…映画『CURED キュアード』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:The Cured
製作国:アイルランド・フランス(2017年)
日本公開日:2020年3月20日
監督:デヴィッド・フレイン

CURED キュアード

CURED キュアード

『CURED キュアード』あらすじ

人間を凶暴化させる新種の病原体のパンデミックが巻き起こったアイルランド。6年後、治療法が発見されたことで社会は秩序を取り戻し、感染から治癒した人々が「回復者(キュアード)」として社会復帰する。回復者の青年セナンは、義姉アビーのもとに身を寄せるが、社会では回復者を恐れる人々が抗議デモを行い、理不尽な差別を繰り返していた。そして事件は起こる。

『CURED キュアード』感想(ネタバレなし)

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公開時の情勢と一致してしまった映画

パンデミックで世界中が大混乱している最中、感染症自体による致死や経済麻痺も恐ろしいことですが、それ以外にも大きな恐怖の存在が浮かび上がってきました。それが「差別」です。

当初は中国から大規模感染が始まったこともあって、アジア系に対する差別が蔓延。その後、中国関係なしに世界中で感染が拡大すると状況はさらに変化。アジア系だけでは済まなくなってきます。

「ウイルスは平等だ」なんていう意見も聞かれることがありますが、そうではありません。感染リスクにとくに曝されているのは、労働から逃げられない人たち(医療関係者やスーパーマーケットのレジ係など)や医療サービスを受けられない人たち(貧困層)。日本であればナイトクラブなどの特定職業が名指しで政府やメディアに槍玉にされてしまい、(それが感染症対策としての正当性があったとしても)職業差別を扇動してしまっていることに他なりません。学校が一斉休校となれば、子育てを任せられるのはやはり女性たち。そして働いている女性たちは収入を失います。国家の非常事態という動機で差別的なバイアスを前提にした施策すらも平然と大義名分を得て動き出したりも…。

つまりパンデミックは差別を助長するんですね。それは『戦時下 女性たちは動いた』というドキュメンタリーで描かれているように、第一次世界大戦・第二次世界大戦が女性差別を悪化させたことと同じ。

社会が危機に陥った時こそ私たちは差別との戦いを強いられるのだということを強く実感させられます。

ではその危機が終息したら一件落着なのか? いいえ、そうはなりませんよ…ということを嫌なくらいに訴えかける、しかも独特な世界観で訴えかける映画が本作『CURED キュアード』です。

本作は繰り返しますがアイディアが秀逸。舞台は特殊なウイルスのパンデミックが起きた世界。そのウイルスに感染すると人はゾンビのような状態になり、情け容赦なく他者を襲います。しかし、映画はそのパンデミック真っ最中を描くものではありません。そのパンデミックが終息した後の世界を描いています。感染者だった人の多くは回復して社会復帰。けれどもそんな元感染者(cured=治癒した)を社会が穏やかに迎え入れるわけもなく…。

ゾンビ映画は無数にありますし、それこそ『ワールド・ウォー・Z』のような大スケールなパニックを描いたり、はたまた『ショーン・オブ・ザ・デッド』『デッド・ドント・ダイ』のように社会風刺を交えつつコミカルに描いたり、アプローチも色々。でも本作『CURED キュアード』のような切り口は新しいかもしれません。それこそジョージ・A・ロメロ監督の『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』がラストで見せた強烈な社会問題の提示を彷彿とさせる、極めて深刻な問いかけを拡大発展させるような…。最近の作品で一番近いのは『ディストピア パンドラの少女』かも。あれもネタバレは控えますが、リアルなポストアポカリプスの社会の在り方を暗示させる要素がありましたからね。

『CURED キュアード』は2017年の映画ですが、日本での公開は2020年3月20日と本当に実世界でパンデミック中に上映されるという嫌な一致が起きてしまい、余計にこの映画のリアリティが突き刺さることになってしまいました。たぶん海外でも本作の評価が再考されるんじゃないかなというほどにSFとしての予言性もあったと思います。シンクロしすぎて怖いくらいです…。

監督・脚本は“デヴィッド・フレイン”というアイルランドの人。本作で長編監督デビューとなります。

出演陣は、インディーズ映画なのであまり有名どころはいないのですが、『JUNO ジュノ』で一躍人気となり、その後は『ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気』『タルーラ 彼女たちの事情』など社会に寄り添った作品に出続けている“エリオット・ペイジ”です。“エリオット・ペイジ”は本作の製作にもクレジットされていますね。

“エリオット・ペイジ”は2020年12月1日にトランスジェンダーであると公表しました。この感想記事の内容はそれ以前に書かれたものです。

なお、本作にコナーという役で印象的に出演している“トム・ヴォーン=ローラー”は『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』にて「エボニー・マウ」(サノスの側近で魔術に対抗できる力を発揮していた奴)を演じていたので見た人は多いはず(全然顔が変わっていたけど)。

とにかくパンデミックが終息した後に観たい映画です。まずはちゃんと無事に乗り越えないといけないのですけどね…。

オススメ度のチェック

ひとり◯(今の時代とのシンクロが凄い)
友人◯(リアルと合わせて議論したくなる)
恋人◯(暗い気持ちになるけど)
キッズ△(大人のディストピア映画)
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『CURED キュアード』予告動画

映画『CURED キュア―ド』予告篇|3月20(金・祝)公開
↓ここからネタバレが含まれます↓

『CURED キュアード』感想(ネタバレあり)

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パンデミックは終息した、差別は終息しなかった

「メイズ・ウイルス」という未知の新種のウイルスがヨーロッパを中心に大流行しました。この得体のしれない猛威に人間社会は成すすべもありませんでした。しかもこのウイルスは感染すると熱を出して寝込む…というようなわかりやすい想定内の症状ではなかったのが余計に恐怖を生みます。なんと感染者は我を失ったかのように攻撃的になり、傍にいた他者に見境なく襲い掛かって噛みつき、襲われた人に感染を拡大させるのです。それはまるでゾンビそのもの…。

親しかった人にすらも襲われる…。そんな戦慄のパンデミックにとくに見舞われたのがアイルランド

しかし、時は過ぎ去り…。後に治療法が確立されて、収容された感染者の約75%が回復。攻撃性は消え、何も問題なくなりました。そして、75%の人々は治療済み(キュアード=cured)として社会復帰することになります。

ところが世間の全員がそれを良しとして考えていたわけではありません。収容施設に隔離されていたキュアードが続々と社会に解き放たれていくことに反発する世論も存在。過去に人を襲ったことへの憎しみや怒り、また発症するのではないかという恐怖と嫌悪感…さまざまな感情がキュアードへの敵意として向けられます。もちろんキュアードを擁護する人もいましたが、社会は真っ二つに分断されてしまっていました。

そんな中、セナンコナーという元感染者の二人の男はこのたび収容施設から出られることになりました。どうやら第3回目の大規模なキュアードの解放のようです。護送されるように車で運ばれていくと、外にはモノを投げつけ激しく憎悪をぶつける反キュアード集団が「お前らは人間じゃない!」と罵声を浴びせています。

セナンはジャーナリストである義理の姉アビーに身元引受人になってもらい、とりあえず彼女の家に行きます。「ここにはいられない」とこぼすセナンに、「ルークが望んだこと」「あなたの家よ」と優しく接するアビー。実はアビーの夫ルークがどうなったのか、セナンは知っていました。残酷な真実を…。元感染者には自分が感染状態になっていた時の記憶があります。でもそれは口にできず…。

セナンはアビーとルークの子であるキリアンと会話するのでした。

一方、以前は比較的裕福な暮らしをしていたコナーは父のもとに行きますが、「モンスター」呼ばわりされて追い返されてしまいます。

約75%が治療したとはいえ、残りの25%はまだ感染したまま。どうやら高圧的な世論に押された政府は治療を待つことなく、その感染者を排除することに決めたようです。要するに安楽死です。

あまりにも理不尽な待遇に絶望を感じたコナーは、同様の偏見に直面したキュアードの人々を集め、地下組織「回復者同盟」を結成。抗議活動を企てます。それはしだいに過激なものへと変化しつつありました。

人生をやり直そうとするセナンは、医師のライアンズ博士の助手として働き始めます。博士の取り組んでいることは、新たな治療法の開発。感染者排除を目指す強硬な政府の方針に反対するライアンズ博士は、隔離施設で研究に没頭していました。そこでセナンは感染者がキュアードには攻撃性を示さないことに気づきます。

そして緊張状態が増す中、ついに事件は起こってしまいました。これはパンデミックの再発となるのか、それとも人類の次の時代の始まりとなるのか…。

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恐怖の拡大は続く

従来のゾンビ映画では、ゾンビ状態から回復する手段を見つけることがゴールになってきました。

『ワールド・ウォーZ』はまさにワクチンの存在こそが希望になるというかたちでのエンディングでしたし、ともあれ「治療=ハッピーエンド」。そういう認識になるのは当然だったと思います。別にゾンビに限らず、病気なんてものはそんな考え方になるものです。

しかし、この『CURED キュアード』はそういう安直な着地で満足しません。むしろ「本当にそうなのか?」という疑義を抱かせるわけです。

治療を受けて回復した者たちが直面するのは、差別や偏見なのではないか。

いや、そこまで世界は人間は酷くはないだろう…それは映画的な誇張に過ぎないだろう…現実では倫理と愛でもって助け合いの精神が発揮されるはずだ…そう思いたくはなります。確かに私もこの映画が数年前に公開されていたら、もっと医療機関や相互補助コミュニティの力を信じられる側面も描いてもいいのではないかと注文をつけていたかもしれません。

でも新型コロナウイルス・パンデミック騒動で『CURED キュアード』で描かれたフィクションが想像以上にリアルだと証明されてしまいました

海外渡航者を敵視したり、クラスター感染を起こした大学などを誹謗中傷したり、感染者の実名を公に掲示して暴露したり、無関係なのに感染に関与したとデマを流したり…現実で起きている明らかな差別を目の当たりにしてしまうと何も言えない

それは作中で描かれていた元感染者(キュアード)や現在進行形の感染者への敵視と瓜二つ。

そしてその差別が生じてしまう根底にあるのが「恐怖」だということもよくわかります。無知、偏見、疑心暗鬼…いろいろな負の要素によって増幅された恐怖が、人の心から差別だけを蒸留して世界に放っている。今度は差別という概念がパンデミックを起こしていく。

この生々しい現実投影をできてしまった時点で『CURED キュアード』はSFスリラー映画としてその威力を証明したのだと思います。なんというか、つべこべ言わせる余地もないほどに残酷なリアルとの合致というのはただただ怖いですね…。

最近だとTVゲームですけど『デス・ストランディング』でも同じ感覚に陥っており、SFの面白さではあるのですけど、あくまでフィクションでの警告にとどめてほしかったのに…という複雑な気持ちになります…。

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本当に必要なワクチンは…

『CURED キュアード』は元感染者(キュアード)に焦点があてられ、セナンとコナーという二人の男が対比的に位置づけられています。

面白いのは感染後に立場が逆転していること。感染前は弁護士だったコナーの方が明らかに裕福で恵まれた生活をしている雰囲気でしたが、感染後に社会復帰して以降は真逆に。コナーは家族からも見放され、誰よりも大きな人生の失墜を実感します。そして過激な行動に身を投じることに…。

一方のセナンは彼もまた彼で感染後に社会復帰した後も酷い目に遭うのですが、アビーとキリアンというサポートのおかげで絶望に沈むことなく、希望にすがりつくことができています。

こうした描写からも『CURED キュアード』はこんな世界だからこそ大事な普遍的なことをしっかり提示していると思います。それは「愛」だということ。恥ずかしい言葉かもしれませんが、でもそれは本当に大切。愛されている、想われている…という実感こそがこの差別パンデミックのワクチンなのです。

そのことも今回の新型コロナウイルス・パンデミック騒動で間近で確認できたことなので、なおさら強調したくなります。リーダーになる存在が大衆を安心させる言葉を、確かな根拠を持って(ここ大事!)、与えてくれる。不安や恐怖を和らげるために全力を出してくれる。そのためなら自分がいくら責任を問われても構わない。そういう姿勢を見せることは確かにウイルスを壊滅させる医療的効果はありません。でも健康的な社会には絶対に必要な点滴みたいなものなんですね。

逆に不安や恐怖を煽ったり、ましてや差別を扇動したり、うわべだけの対策アピールをしたり、そんなことをするしかできない人間がいるだけで、パンデミックはより醜悪になってしまう。それも当事者として嫌になるほどよくわかりました。ええ、本当に吐き気がでるほどにね…。

『CURED キュアード』はそういう理想的なリーダーがいなかった世界です。感染者へのケアも補償もなく、恐怖を放置するだけだった無能な統治者。このあたりは本作がアイルランドが舞台であるということも関係しているのかな(あまり政府を信用しない柄なのか)。

“デヴィッド・フレイン”監督も「私はメディアや政治家が自らの目的のため、いかに人々の恐怖心を煽るかにも興味を抱いた」とコメントしてますし、そういう権力と恐怖の癒着という部分に問題意識を持って本作を作ったのがわかります。

あえて苦言を呈するなら、アビーがジャーナリストなのだし、もう少しメディアが今はどう機能しているのかもリアルに設定してほしかったなと思いました。たぶん相当な情報統制がなされていないとオカシイでしょうし…。でも政府批判をしている感じでもなかったし、ただの大本営発表化しているならばそれもひとつのリアルなのかな…。アビー側の物語を膨らませるとさらにボリュームアップして見ごたえがあったかな、と。

皮肉にも私たちもパンデミック後の世界を生きることになります。自分の周りを見渡して、この映画と重なる点がないかを確認しましょう。それからどうするかはあなたしだいです。

『CURED キュアード』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 69% Audience 44%
IMDb
5.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)Tilted Pictures Limited 2017

以上、『CURED キュアード』の感想でした。