続編は二度撃ち!…映画『ゾンビランド2 ダブルタップ』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:アメリカ(2019年)
日本公開日:2019年11月22日
監督:ルーベン・フライシャー
ゾンビランド ダブルタップ
ぞんびらんど だぶるたっぷ
『ゾンビランド ダブルタップ』あらすじ
地球上の人類がゾンビと化したなか、コロンバス、タラハシー、ウィチタ、リトルロックの4人は、コロンバスが作り上げたルールに従い、10年にわたってゾンビ社会を生き抜いていた。2019年、地球上のゾンビたちが、パワーもスピードもレベルアップした新種へと進化。コロンバスたちは、ルールさえ守れば何でもありな状態で、ゾンビたちをなぎ倒していくが…。
『ゾンビランド ダブルタップ』感想(ネタバレなし)
またまたゾンビランドへようこそ
ゾンビ映画の歴史は1932年の『恐怖城(ホワイト・ゾンビ)』に始まり、1968年のジョージ・A・ロメロ監督の『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』で土台が築かれ、以降、全世界の映画ファンにパンデミックを起こしました。
今でもゾンビ映画というジャンルの知名度は抜群で、韓国の『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016年)や、日本でも熱狂騒然となった『カメラを止めるな!』(2018年)など、話題をかっさらう作品もたびたび出現します。
しかし、ゾンビ映画始まりの国であるはずのアメリカではすっかり下火になっているという残念な一面も。ブランドのある『バイオハザード』シリーズを覗けば、大手映画会社が配給した作品だと2013年の『ワールド・ウォーZ』まで遡るでしょうか。全然ゾンビ映画が作られていません。やっぱり、ネタっぽくなるから、忌避されているのかな…。低・中規模予算のホラー作品は小刻みに作られてヒットを飛ばしているのに、ゾンビだけはスルーされ続けています。
そんな中、久しぶりのハリウッド・ゾンビ映画大作の登場です。それが本作『ゾンビランド ダブルタップ』。
本作は2009年に公開された『ゾンビランド』という映画の続編になります。この作品は批評家からも観客からも非常に高い評価を得たのですが、簡単に作品のノリを説明するならアメリカ版『ショーン・オブ・ザ・デッド』みたいなものです。陽気で明るいゾンビ・コメディですね。アメリカではここまで底抜けにハイテンションでお気楽なゾンビ映画が意外になかったので、世間の反応は上々でした。
物語も、ゾンビランド化したアメリカの大地で大学生のコロンバスが個性豊かな仲間と出会いながら、車で旅をしていくという、実にアメリカらしいロードムービーでもあります。なお、登場するキャラクターの名前は全部アメリカの都市の名称になっているのも注目ポイントです。
そのゾンビだらけの旅路の中で、主人公はサバイバルするために「32のルール」を実践しています。それがちょっと長いですが、以下のとおり。
1. 有酸素運動 Cardio2. 二度撃ちして止めを刺せ Double Tap3. トイレに用心 Beware of bathrooms4. シートベルトをしろ Seatbelts5. ゾンビを発見したらまず逃げろ No Attachments6. フライパンでぶっ叩け The Skillet7. 旅行は身軽であれ Travel Light8. クソったれな相棒を見つけろ Get a Kick Ass Partner9. 家族・友人でも容赦しない With your Bare Hands10. 素早く振り向け Don’t Swing Low11. 静かに行動すべし Use Your Foot12. バウンティ・ペーパータオルは必需品 Bounty Paper Towels13. 異性の誘惑には注意 Shake it Off14. ショッピングモールは補給基地 Always carry a change of underwater15. ボウリングの球をぶん投げろ Bowling Ball16. 人の集まる場所は避けろ Opportunity Knocks17. 英雄になるな Don’t be a hero18. 準備体操を怠るな Limber up19. 葬儀・埋葬の必要はない Break it Up20. 人を見たらゾンビと思え It’s a marathon, not a sprint. Unless it’s a sprint. Then sprint!21. ストリップクラブは避けろ Avoid Strip Clubs22. 逃げ道を確保しろ When in doubt, Know your way out23. 金品よりも食料確保 Zip-lock24. 生き残るためには犯罪も Use your thumbs25. 火の用心 Shoot First26. 肌の露出は最小限に A little sun screen never hurt anybody27. 就寝前には安全確認 Incoming!28. 食事と風呂は短時間で Double-knot your Shoes29. 二人組で行動しろ The Buddy System30. 予備の武器を持て Pack your stain stick31. 後部座席を確認しろ Check the back seat32. 小さいことを楽しめ Enjoy the little things
『ゾンビランド』の特徴はキャスト。今では「え、あの有名な!?」という話題の俳優が揃っているのですが、公開当時の2009年はまだまだ注目少なめでした。例えば、“ジェシー・アイゼンバーグ”は翌年の2010年の『ソーシャル・ネットワーク』で賞ステージへ駆け上がりますし、“エマ・ストーン”は後に『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』や『ラ・ラ・ランド』で大女優に躍進ですからね。ゾンビどころかスターになっているじゃないですか。
監督だって“ルーベン・フライシャー”は『ヴェノム』に抜擢され、すっかりブロックバスター経験者になっているし…。
その『ゾンビランド』がまさかの10年越しの続編で、しかも監督とキャストがちゃんと再集結している…こんな恵まれた作品はあまりないでしょう。世の中には、あ、うん…やめておこう。
『ゾンビランド ダブルタップ』のタイトルは主人公の「32のルール」のうちの2つ目「二度撃ちして止めを刺せ Double Tap」に由来しています。だから何だという話なのですけど…。
続編でもお話はいつもどおり。実家のような安心感です。個性強めな新キャラも出てきますよ。
ひとつ懸念があるすれば、アメリカでの話題性はあれど、日本での知名度は低いということです。1作目なんて「コロンビア・ピクチャーズ」の制作なのに日本の配給は「日活」でしたからね。一応劇場公開はしたけどほとんど相手にもされていなかったんだなぁ…。2作目の本作は「ソニー・ピクチャーズ」配給でちゃっかりしています。
あまり前作鑑賞必須の映画でもないので、気楽に映画館に行って、一緒にゾンビをテキパキ倒しちゃってください。
オススメ度のチェック
ひとり | ◯(前作鑑賞者も未見も一緒に) |
友人 | ◯(気楽に満喫できる) |
恋人 | ◯(軽めの映画を観るなら) |
キッズ | ◯(子どもでも見られる) |
『ゾンビランド ダブルタップ』感想(ネタバレあり)
全てはビル・マーレイに通じる
『ゾンビランド ダブルタップ』は約99分とコンパクトな作りになっているので(これでも前作の88分よりは増量しましたが)、サクサク物語が進みます。ボケっとしているとあっという間にエンディングです。
物語は前作から10年後。コロンバス、タラハシー、ウィチタ、リトルロックの4人はまるで何も変わっておらず、今日もゾンビを倒しながら1日1日をサバイバルしていました。世の中がどうなろうと、なんとかなるものですね。人生、くよくよしているだけ損ってもんです。
放棄されたホワイトハウスを拠点に、むしろ世界が崩壊してからの方がエンジョイライフを送っているんじゃないかという4人。ホワイトハウスってそんなに楽しいところだっけ…。
一方でゾンビも負けてはいません。いろいろな進化を遂げ、それぞれの特性ごとにコロンバスが分類して命名しています。
太っていて動きがのろまな奴は「ホーマー」。名前の由来は『ザ・シンプソンズ』のお父さんですね。なんか知らないですけど蝶を追いかけたりもしています。あら、可愛い。
ゾンビにしては賢い行動をとる奴は「ホーキング」。名前の由来は有名なイギリスの物理学者で伝記映画『博士と彼女のセオリー』も作られている「スティーヴン・ホーキング」。ちょっと要注意。
どこからともなく現れる闇討ちが得意そうな奴が「ニンジャ」。ゾンビ界でも忍者は大人気なのか…。さすが日本が誇るスパイ。目立ってる。
4人は変化のない日常にもさすがに飽きたのか(10年もいればじゅうぶんだと思うけど)、次第に関係性が悪化。リトルロックは子ども扱いするタラハシーに不満。コロンバスは惹かれているウィチタとに思いきってプロポーズ。でも肝心のウィチタの表情は不安げ。
そんな気まずさもある中、ある朝、コロンバスとタラハシーが目覚めると、ウィチタ&リトルロック姉妹のメモ書きを発見。それによれば2人でタラハシーのトラック「ザ・ビースト」に乗ってどこかへ行ってしまったらしい…。前作と全く同じ既視感溢れる展開。
ウィチタとリトルロックは、道中でバークリーというナマステな男に出会っていました。
一方、気分も回復していない男二人はショッピングモールを探索中。男同士の買い物は盛り上がらず。しかし、途中でコロンバスはピンク服のマディソンという女性と遭遇。やたらなれなれしく陽気な彼女に圧倒されるも悪い気はしないコロンバスは、タラハシーの警戒も無視して彼女をホワイトハウスに招待してしまいます。
いきなりコロンバスをベッドに押し倒すマディソンの熱烈アタックにタジタジ。どうした、お前のルールは。
そこへウィチタがひとり帰ってきます。なんでもリトルロックがナマステ男と一緒にグレイスランドへ行ってしまったのだとか。グレイスランドは、エルヴィス・プレスリーの邸宅だった建物がある敷地で、テネシー州メンフィスにあります。その名もズバリ『グレイスランド』(1998年)も存在しますね。
結局、マディソンを加えた4人でリトルロックを探しに旅することになった一同。ミニバンの狭い車内で険悪な雰囲気の中、始まってしまった珍道中はどんな結末を迎えるのか…。
そして明かされる名俳優“ビル・マーレイ”の激動の人生を生き抜いた真実とは…。
10年経って変わった?
『ゾンビランド ダブルタップ』は紛れもなく俳優映画なので、俳優陣に着目するのは定番の目線。今回も楽しいやりとりが盛りだくさんでした。
ひとりひとり見ていくと、まずはタラハシーを演じる“ウディ・ハレルソン”。『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー) 』や『スリー・ビルボード』、『ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー』といい、最近の出演作を見ていても常に悪役成分を醸しだすキャラにハマる俳優です。しかし、『ゾンビランド ダブルタップ』では主人公側。完全にちょい悪オヤジなテイストで好き放題に暴れています。なんだかんだでメインの中で一番コスチュームチェンジして目立っているという…。10年経ってさらに渋さが増しましたね。いい歳のとり方をしていくんだろうなぁ…。
続いて主人公ポジションのコロンバスを演じる“ジェシー・アイゼンバーグ”。10年…あれ、なんか変わりました? びっくりするくらい老化を感じないのですけど。たぶんこの俳優は一生童貞っぽい立ち位置のキャラを演じられるだろうな、と。『ゾンビランド ダブルタップ』でもその見た目がそのまま維持している“ジェシー・アイゼンバーグ”の不変なスタイルが作品の根幹を変えないための要になっている感じです。なお、本人はこの10年の間に小説家や劇作家としても活躍し、キャリアの幅を広げています。顔は変わらなくても中身はパワーアップしているのです。
ところかわって女性側。まずはウィチタを演じる“エマ・ストーン”。最近は賞を獲れるようなシリアスな作品が多かった“エマ・ストーン”が今回ばかりはハッちゃけているのは逆に新鮮。なんか昔に戻ったみたい…。でも、確実に俳優としての変化が如実に表れていました。上手く言葉で表現できないですけど、この10年の劇的なキャリアの成功が彼女の中に芯にあるものを強化して、決定的な自立を芽生えさせたというか。もう作中でもあまりに凛としてスタンドアローンで生きているので、コロンバスには悪いけど、ウィチタひとりでもいいんじゃないかっていう…。
一方のウィチタと対極にあるリトルロックを演じる“アビゲイル・ブレスリン”。彼女は1作目の時は子役だったので(『サイン』や『リトル・ミス・サンシャイン』で“エマ・ストーン”以上にじゅうぶん成功をおさめていたけど)、本作では別人レベルで変わっています。ここ最近は大きな映画に出演していませんでしたが、古巣に戻ってきた感じで、今作も楽しそうにしていました。『ゾンビランド ダブルタップ』では追われる側の存在なため、少し出番が少ない気もしましたが。ちなみに2015年の『マギー』ではアーノルド・シュワルツェネッガーの娘役でゾンビになる役柄なので並べると面白いです。
あと前作からの続投組だとビル・マーレイを演じる“ビル・マーレイ”ですか。いや、あのラストのオチ、一般の日本人観客には伝わるのかな。『ガーフィールド3』は本当にあるのか、それともただのギャグなのか(たぶんない)。あのシーンのために20世紀フォックスにわざわざ許可をとったのか…(いや、いらないのかな?)。
マディソンは別の意味でゾンビ?
お次は『ゾンビランド ダブルタップ』の新入り組。これが強烈すぎた…。
そのインパクトの大部分はマディソンを演じる“ゾーイ・ドゥイッチ”が持っていってしまっているのですけど…。映画監督ハワード・ドゥイッチと女優リー・トンプソンの間に生まれた娘である“ゾーイ・ドゥイッチ”は最近だと『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』とか『ビフォア・アイ・フォール』とか『セットアップ: ウソつきは恋のはじまり』とか、幅広いライトな作品で活躍中でしたが、ここにきてかなりクレイジー枠でぶっこんできたか…。
今作の惜しげもないピンクっぷりはお母さんのかつての役柄へのカウンターか何かなのだろうか…。母リー・トンプソンが過去に演じていたような、冴えなさや魅惑を兼ね備えたマドンナ(死語)の役をあえてこの多様性時代の今、堂々と演じることでの体を張ったギャグスタイル。本作を観たリー・トンプソンの感想が聞きたい…。でも今となっては女性に対する偏見でしかないものと時代遅れの流行センスが入り混じったカビの生えてそうなキャラクター像をこういう形で現代に再利用するというのはユニークなアイディアで、まさにこれも別の意味の“ゾンビ”ですね。
ネバダを演じた“ロザリオ・ドーソン”、アルバカーキを演じた“ルーク・ウィルソン”、フラッグスタッフを演じた“トーマス・ミドルディッチ”と、他にもいたのにすっかりマディソンしか印象が残ってない…。
10年後にまた会おう
『ゾンビランド ダブルタップ』の映像自体は平凡な想定内のバージョンアップでした。
アルバカーキ(ゾンビ)らとのドタバタ室内集団戦を長回しで見せていく愉快なシーンといい、ラストバトルの乗り物を使ったパニック大激戦といい、全体的な派手さはマシマシです。そこは映画的な見ごたえが増えて良いのかもしれません。予算が倍化しただけはあります。ただ、映像的な増加をすると単なる大味ゾンビ映画になったような減退も感じてしまうので、そこはこのシリーズに合った進化なのかというと疑問も…。
ストーリーもベースになっているのはロードムービーなので、豪華な映像のわりにはこじんまりとした着地になるのは避けられませんし…。
それでも個人的にはまた10年後に3作目が観たい気分になります。今度は“ジェシー・アイゼンバーグ”は顔が変化しているかな…。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 68% Audience 89%
IMDb
7.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★
作品ポスター・画像 (C)2019 Sony Pictures Digital Productions Inc. All rights reserved
以上、『ゾンビランド ダブルタップ』の感想でした。
Zombieland: Double Tap (2019) [Japanese Review] 『ゾンビランド ダブルタップ』考察・評価レビュー