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『クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』感想(ネタバレ)…園児が学歴社会に尻を持ち込む!

クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園

園児が日本の学歴社会に尻を持ち込む!…映画『クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園
製作国:日本(2021年)
日本公開日:2021年7月30日
監督:高橋渉
恋愛描写

クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園

くれよんしんちゃん なぞめきはなのてんかすがくえん
クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園

『クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』あらすじ

風間くんの誘いで全寮制の超エリート校「私立天下統一カスカベ学園」に1週間だけ体験入学することになった園児のしんのすけたち。体験入学で良い成績を収めてエリートになれば正式に入学できると聞いた風間くんは張り切る。しかし、しんのすけはいつも通りのマイペースで、他のみんなも楽しめればそれでいいと気楽だった。ポイントを稼がないと入学が遠のいてしまうので焦る風間くんだったが、とんでもない事件が起こる。

『クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』感想(ネタバレなし)

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手洗い、うがい、おケツも綺麗に

バカは風邪をひかないというのはやっぱり嘘でした。

日本を代表するおバカである無敵の園児「クレヨンしんちゃん」もコロナ禍には勝てなかった…。

アニメ『クレヨンしんちゃん』の劇場版は1993年から開始され、以降は律儀に毎年1本ずつ公開されていったのですが、1作目の『アクション仮面VSハイグレ魔王』を除き、2作目からはずっと4月という恒例の春休み公開を継続してきました。

ところが新型コロナウイルスのパンデミックが2020年春に深刻化し、そのバッド・タイミングとなったのが当然ながらこの4月公開の『クレヨンしんちゃん』劇場版。結果、2020年の新作『激突! ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』は9月公開に、そして2021年の新作『クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』は7月公開になってしまいました。『クレヨンしんちゃん』劇場版は笑い声をあげながら楽しんでほしい作品ですし、感染防止の観点から笑い声があげづらい空間になってしまっている映画館ではちょっと厳しいものがありますよね…。

でも『クレヨンしんちゃん』劇場版はいつもどおりのマイペースで子どもにも大人にも笑いを提供しています。ということで『クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』の感想です。

私は『クレヨンしんちゃん』劇場版はずっと観ていて、テレビアニメも小さい頃から観ていました。この作品はもともとの原作の立ち位置からして少し珍しい背景があります。元は“臼井儀人”の漫画作品で、1990年から「漫画アクション」で連載されていたもの。その作風は幼児だけどどこか大人の放埓さを感じさせるハチャメチャな子が主人公で、明らかに大人向けの風刺漫画でした。そもそも「漫画アクション」が青年向けの雑誌ですし、初期の漫画の「クレヨンしんちゃん」は本当に性のネタもありで、政治ネタもありな、何でもありでやっているところがありました。しだいに政治ネタは封印され、芸能人ネタ程度にとどまり、性も下ネタどまりとなり、今のかたちに落ち着いたのですが…。

つまり、大人向け風刺からファミリー向けのコメディへとスタイルチェンジしていったんですね。それがアニメ化によってさらに子ども向けとして確立した感じです。

そのアニメ『クレヨンしんちゃん』ですが、内容はあくまで中流階級程度の典型的な日本家族を軸にしたファミリーコメディです。『サザエさん』とか『ちびまる子ちゃん』と同じ土台です。

しかし、このアニメ『クレヨンしんちゃん』は一味違いました。劇場版になるとなぜかその世界観のリミッターが解除され、日常モノを飛び越えてもはや何でもありの状態で暴れまわるのです。普通であればファンとかから「こんなの作品の世界観を壊している!」と文句もつきそうですが、この『クレヨンしんちゃん』は「クレヨンしんちゃんの映画ならこれも許される」という合意をファンの間に定着させてしまうことに成功し、結果、毎年の映画が毎度とても新鮮で楽しいお祭り感満載になりました。

『クレヨンしんちゃん』劇場版が今まで過去作のリメイクも一切せずに毎回オリジナルで頑張っているのは本当に凄いと思います。

そんな経緯のある劇場版の第29作となった『クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』。今作も相変わらずぶっとんでいます。

舞台は青春学園モノです。園児なのに青春学園モノってどういうこと!?…という感じですが、もうそこはゴリ押しなのでツッコんでもしょうがない。しかも、本作はそのエリートな生徒を育成する学園を舞台にミステリーが展開していく、学園謎解き要素がメインになるという…。シリーズ初の探偵学園ジャンルだと宣伝では謳っていますけど、まあ、『クレヨンしんちゃん』劇場版は毎回シリーズ初の試みをするからなぁ…。

『クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』の監督は、『クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』(2014年)、『クレヨンしんちゃん 爆睡!ユメミーワールド大突撃』(2016年)、『クレヨンしんちゃん 爆盛!カンフーボーイズ〜拉麺大乱〜』(2018年)を手がけてきた“高橋渉”

今作の『クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』はファンにはなかなか好評ですし、私も初心者にオススメしやすい一作ではないかなと思います。何でもありとは言え、本作は学園モノなので親しみやすい構造になっているというのもありますし、実は脱規範的なストーリーもあってそこも私は好印象でした。

ぜひクレヨンしんちゃんと学園の風紀を乱していきましょう。

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:初心者も大丈夫
友人 3.5:みんなでワイワイと
恋人 3.5:気楽に楽しめる
キッズ 4.0:案外と教育的な内容です
↓ここからネタバレが含まれます↓

『クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):青春ファイヤー!

野原一家は今日も賑やか。5歳のしんのすけは家でアクション仮面パンツを探していましたが、母のみさえが履いてお尻のデカさで破ったと推理。でも自分でパンツを椅子に飾ったのを忘れているだけでした。

なぜこんなにも慌ただしく着替えを用意しているかというと、実はしんのすけは全寮制の超エリート校「私立天下統一カスカベ学園」…通称「天カス学園」に1週間体験入学することになったのです。

かばんをぱんぱんにして家の前で待っていると、お迎えの自動運転車が到着。ホログラムのセントラルAI「オツムン」が迎えにきてくれます。しんのすけの幼稚園仲間である、風間トオル、桜田ネネ、佐藤マサオ、ボーちゃんも一緒で、すでに車両に乗っています。

車内では、自ら応募した張本人である風間くんが浮かれていました。一方のマサオくんはホームシックで元気ないです。ネネちゃんは青春が始まると張り切り、ボーちゃんはボーっとしています。しんのすけはパンフレットの女性の先生にうっとり。いつもはカスカベ防衛隊として元気に仲良く駆け回っている5人です。

山奥にある天カス学園に到着。迫力のある校門で、それが開くと、中等部2年の生徒会長の阿月チシオが広大なキャンパスを案内してくれます。まずは制服に着替え、学園長と対面。

この学園ではエリートポイントのバッジを常時身に着け、入学時に1000ポイントが付与されます。教育AIによるポイント制で品行や成績に基づき、ポイントが増減するという仕組みです。

学園はジムもスパもあります。デジタル化によって図書館は埃をかぶってひとけはないですが…。

しんのすけがうっかり失言するとすぐさまポイントは下がります。生徒たちはオツムンに導かれ心おだやかにエリートになれると言われ、阿月チシオは2000万ポイント以上の「天組」を案内。そこに寺盛アゲハというチャラそうな女子がいて、彼女は学園2位の9000万ポイントの持ち主。そして1億ポイントで1位の豆沢サスガも「普通に生きているだけさ」と佇んでいました。

阿月チシオはここの組ではないそうで、どうやら足を怪我して陸上を辞めたようです。今はポイントがマイナスの生徒のクラス「カス組」に在籍。そこは荒れた教室が広がっていました。

風間くんは「体験入学中にエリートポイントを稼いだら入学できるって本当ですか?」とワクワクと質問しますが事実のようです。

そのとき、ボーちゃんは向こうにある時計塔を見つめます。3時のままで壊れている塔。「絶対に近づいちゃダメ」と阿月チシオ。「キュウケツキがでるの」「吸血鬼?」「血じゃなくておケツを吸うの」

不気味な噂はともかく、さっそく授業開始。脇野スミコという女性の先生の登場に、教師のナンパでさっそくポイントをマイナスされるしんのすけ。でも先生ではなくオツムンが授業を担当。風間くんは英語で点を稼ぎます。しかし、しんのすけのボケを笑った風間くんもポイントが下がる始末。

終了のチャイム。寮に戻る5人。「僕たちの青春が始まっちゃったな」と風間くんは上機嫌。

けれどもしんのすけの自由奔放な振る舞いに巻き込まれ、思うようにエリートポイントを上げることができずに苛立ちを溜めていきます。そしてオツムンにこっそり教えられた「エリートの裏道」に興味を持つようになり…。

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ちゃんと謎解きしている

『クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』は毎度ながらのふざけたノリですが、一応はミステリーとして真っ当に起承転結の王道をなぞっています。

そもそも「探偵的なポジションの人物が事件を解決する」という構図がファンタジーですからね(現実ではそんなことは起こらない)。今作でも「尻で考えるタイプ」であるしんのすけのお尻が気持ち悪いぐらいに蠢いて謎を“おけつかい”…じゃなかった“おかいけつ”するという爽快感ありき。でもそこがいい。

それにしてもダイイングメッセージ(死んでないけど)の「33」の謎の答えが、絶対にアニメじゃないとあり得ないオチなのも笑ってしまいますし、ネネちゃんもサスペンスドラマの鑑賞経験から鉛筆の「しょかん」の文字だけで犯行現場は時計塔ではなく図書館だと見抜くなど、冷静に考えると滅茶苦茶なロジックながらでも納得はさせられるという…。カニの殻がくるとは思わなかった…。

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ノーエリート!

『クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』は、規律と学歴重視のいかにも日本に“あるある”な学校社会への痛烈な風刺です。

いまだに日本の映画やドラマとかを観ていると学歴社会を肯定するようなノリが多く、まあ、作り手の企業が学習塾とかオンライン教材のビジネス会社とスポンサーでがっつり関わっていたりすると当然そうなっちゃうんですが、この『クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』はさすがのクレヨンしんちゃん。天性のおバカであることを誇りとするしんちゃんにかかれば、こんな社会の脆弱性も一発で見抜いてしまいます。

同時にAIなどのテクノロジーの導入が今の学校空間で進んでいる中で、脇野スミコ先生のように“子どもに学びを与える”生きがいを奪われる教師の立場も描くなど、ふざけつつもここもしっかり風刺できているし…。スーパーエリート風間さんとしてロボットになるとは思わなかったけど…。

子ども向けの作品として、ここまで学校批判ができているならじゅうぶんに上出来ですし、逆にこれほど学校批判を痛快にやってのける作品は実写も含めてなかなか既存の日本作品にはないのではないでしょうか。

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正しさも教えてくれる園児

私は『クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』が規律と学歴重視の社会を批判しつつも、かといって無秩序な自由であればいいと放任するような短絡的な正反対に振り切ってはいないところ。『クレヨンしんちゃん』という作品のひとつの特徴ですが、インモラルな園児を主役にしつつ、アナーキズムになる一歩手前でとどめて、それでいてちゃんと“正しさ”も一貫させる。このバランスが上手いです。

本作も随所に脱規範的な要素が見られました。

例えば、事件の黒幕である豆沢サスガの動機。吸ケツ鬼となって誰でもエリートにできてしまう装置を開発したのは、陸上を辞めてしまった阿月チシオに好意を抱いていた豆沢サスガが彼女にまた戻ってきてほしいからでした。「君のことが好きだから!」という告白が終盤に炸裂するのですが、ここでこのいかにもベタな学園モノらしい恋愛展開を「恋だったら青春だし、しょうがないよね」と安易に肯定するわけでもなく、そういう歪んだ愛は間違っていると一喝するケジメをつける本作。ロマンチックなムードに流されない、とてもしっかりした正しさを発揮していました。暴走する“男性”性への言及として誠実な姿勢だと思います。その後にネネパイセンが「何度も間違えながらやり直せる、それが青春よ」と諭すあたりも含めて…(女児にケアされているわりには全然搾取的に見えない風景なのが面白い)。

また、今回はカスカベ防衛隊メインの映画なので、しんのすけの家族はほぼ出てきません。私は『クレヨンしんちゃん』劇場版の欠点は家族がメインの作品だとどうしても保守的な家族規範が浮き彫りになりやすい点だと思っていたのですが、今回はとても引いた立ち位置で上手く収まっていて良かったです。「親としては笑われようが胸張っていればそれでいい」というみさえとひろしの言葉が、家族としては関係のない阿月チシオの心に響くというのもさりげなく良くて…。

他にもエリートながら学校でもメイクをすることに躊躇いがない寺盛アゲハなど、ステレオタイプではないけどロールモデルではある人物像が散りばめられ、なんだかんだで教育的な物語でしたね。

苦言があるなら、ガキンチョ化の描写はちょっとエイブリズムを助長する誇張表現かなとは思います(知的障害者の観点から)。もっと真顔でとんちんかんなことを言うとかにすればいいのに…。

それにしても本作は完全にしんのすけと風間くんのブロマンスだったなぁ…。絶対にあの2人、将来大人になっても同棲とかしてそうだし、たぶん一定のファンはその生活の姿を観たいという需要があると思う…。焼きそばパンは事実上そういうメタファー…(妄想です)。

『クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
?.? / 10
シネマンドレイクの個人的評価
6.0

作品ポスター・画像 (C)臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2021

以上、『クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』の感想でした。

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