あの映画のスピンオフだけど、こっちも傑作!…ドラマシリーズ『ピースメイカー』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:アメリカ(2022年)
シーズン1:2022年にU-NEXTで配信(日本)
原案:ジェームズ・ガン
性描写
ピースメイカー
ぴーすめいかー
『ピースメイカー』あらすじ
『ピースメイカー』感想(ネタバレなし)
ドラマでもジェームズ・ガン監督らしさは爆発!
「マーベル」と「DC」…二大アメコミ企業の映画で大成功をおさめるなんてなかなかできることではありません。でもこの人ならやってのける。そうです、“ジェームズ・ガン”監督です。
“ジェームズ・ガン”監督がマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』を成功させたのが2014年。期待されていなかった最もマイナーなキャラクターを見事に輝かせました。
そして2021年にはDCの『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』。こちらも同類の過去作の悪い印象を吹き飛ばす、鮮やかな復活作となり、ファンを大いに盛り上げさせました。
こうやって振り返ると“ジェームズ・ガン”監督の作家性はアメコミのヒーローものと相性が最高に合致しているんでしょうね。とくに王道のヒーローものと真逆になるような、社会の片隅で汚らしくも健気に生きる人に光をあてて、蹂躙される苦悩に寄り添い、それでいて“正しさ”を忘れない…そんなポリシーを常に見せてくれます。
その“ジェームズ・ガン”監督はついにドラマシリーズに進出してやりたい放題をやってくれました。
それが本作『ピースメイカー』です。
このドラマは『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』に登場した“ジョン・シナ”演じる「ピースメイカー」というキャラクターを主人公にしたスピンオフとなっています。ピースメイカーと名乗るこの男は、筋肉質な体型の大柄な奴で、正義のためなら何でもするというかなり極端な存在です。自分の信じる正義に愚直すぎるところがあり、根は愛嬌がありそうですが、ときどき自分でも抑えられないほどに暴走し、正義を全うするべく仲間にさえも暴力を振るうことも…。
『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』ではこのピースメイカーは大きな波乱を引き起こしたのですが、このドラマ『ピースメイカー』はその映画のエンディング直後から物語は開始します。
映画と全く同じノリで、下品さと暴力性はさらに過激に。やはり映画と比べてドラマシリーズは規制や上からの圧力が少ないのでより何でもやりまくれるんでしょうね。今回ばかりは小さな子どもには見せられないかな。
雰囲気としては、“ジェームズ・ガン”監督の過去作である『スーパー! 』を彷彿とさせます。
でもそれだけじゃありません。政治風刺性も増しており、ふざけまくっていますけど、“ジェームズ・ガン”監督らしいポリティカルな態度がハッキリ提示されていて、そこも見どころです。
また、実はかなりクィアな物語にもなっており、アメコミ作品の中でもクィアへのエンパワーメントは結構しっかり発揮されるタイプのドラマだと思います。
他にも、魅力的なクリーチャーや動物の要素もたっぷりで、それに音楽もいいし、そこはいつもの“ジェームズ・ガン”監督のエンタメです。
主演の“ジョン・シナ”以外の俳優陣は、『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』のテイスティ役でおなじみの“ダニエル・ブルックス”、『ハリー・ポッターと謎のプリンス』の“フレディー・ストローマ”、『ブライトバーン 恐怖の拡散者』の“ジェニファー・ホランド”、ドラマ『地下鉄道 自由への旅路』の“チュクウディ・イウジ”、『Kroll Show』の“ヌット・リー”、『Shades of Blue』の“アニー・チャン”など。『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』からは“スティーヴ・エイジー”が引き続き出演。そし手今回のドラマのヴィランを熱演するのは、『ターミネーター2』でT-1000役で圧倒的恐怖をみせた“ロバート・パトリック”。今作でもヤバイ怖さを全開にさせています。
ドラマ『ピースメイカー』はアメリカでは「HBO Max」で独占配信されたのですが、日本では「U-NEXT」での独占配信となっています。シーズン1は全8話(1話あたり約40~46分)。
DCはマーベルと違って現在いろいろな映画やドラマからなる映像作品群を作って、各作品群ごとにユルっとユニバースがあるという感じですけど、私はやっぱりこの“ジェームズ・ガン”・ユニバースが一番好きかな。
『ピースメイカー』を観る前のQ&A
A:『ザ・スーサイド・スクワッド 極悪党、集結』のエンディング直後からそのまま物語が続行します。できればこちらの映画も鑑賞しておくと、主人公の背景がわかりやすいです。
オススメ度のチェック
ひとり | :アメコミ好きも必見 |
友人 | :エンタメ満載で楽しい |
恋人 | :同性愛ロマンスあり |
キッズ | :残酷描写が多め |
『ピースメイカー』予告動画
『ピースメイカー』感想(ネタバレあり)
あらすじ(序盤):今度はバタフライ!?
クリストファー・スミスは「ピースメイカー」と自称し、平和のためなら何でもする自己中心的な信念で行動する男。政府職員のアマンダ・ウォラーは「スターフィッシュ計画」という極秘計画を実施しているある島に、犯罪者を集めた特殊部隊「タスクフォースX」、通称「スーサイド・スクワッド」を派遣し、その計画阻止を命じました。そのチームに加わっていたピースメイカーでしたが、実は計画のデータを抹消するという極秘の任務を単独で命じられていたため、ピースメイカーは仲間と対立。チームのひとりであるフラッグ大佐を殺害するも、ピースメイカーは他の仲間だったメンバーに撃たれて倒れます。
ところがピースメイカーは生きていました。騒動が終わった後に現場から密かに回収され、彼は病院で目覚めます。まだ人生は続くのです。
スミスはすっかり回復し、入院中に仲良くなった清掃員とお喋り。その清掃員は「きみがスーパーヒーロー?」と笑い、ピースメイカーの名前に爆笑します。清掃員のお気に入りのヒーローはアクアマンだそうですが、ピースメイカーはアクアマンのことを「クソだ」と言い放ち、魚と性行為をしていると言いがかりをつけるのでした。
退院したスミスは、狭いトレーラーハウスに帰宅するも、利用したタクシー代が払えず、コスチュームのヘルメットを取られます。惨めです。鍵がないので窓を割って入ると、古いiPhoneを確認。残っていた留守電の主はだいたいが昔の付き合いがあるビジランテからのものでした。
そのとき、家を包囲されます。そのチームを指揮していたのはクレムゾン・マーンであり、今度は「バタフライ計画」と題された問題に対処するために協力しろと言っています。またこのパターンかとうんざりなスミスですが、断りようもありません。
チームのメンバーは、エミリア・ハーコート、ジョン・エコノモス、レオタ・アデバヨ…。役に立つのかもわからない不安な顔触れです。実はアデバヨはあのアマンダ・ウォラーの娘であり、母からの命令で密かにチームを監視しているのですが、それは誰にも言っていません。
とりあえずスミスは自分の一番の友達を迎えに実家に一旦戻ります。家にいたのは父親のオーガスト・“オーギー”・スミス。父とはいろいろあったので気まずいです。そしてガレージにいた鷲のワッシーと感動の対面。友達はこの鷲です。
父は地下のハイテクな秘密の部屋に案内してくれ、そこで新しいヘルメットを与えてくれます。
その後、フルコスチュームでレストランに。チームのみんなに笑われるもスミスは気にしません。
そのささやかなファミレス会議が終わって、スミスはバーでこれまでの人生を振り返りながら、偶然出会った女性と肉体関係を結んでモヤモヤを振り払おうとします。ところがその人はなぜか自分を殺そうとしてきて、異様な唸り声をあげ、やけに強いです。
そのまま建物から突き落とされ、駐車場で追い詰められます。そのとき、自分のヘルメットのソニックブームが発動し、相手は一瞬で塵に。あたり一帯壊滅です。
何が何だかわからないけれど、ここから逃げないとマズい…。
シーズン1:仲良くしよう
ドラマ『ピースメイカー』は“ジェームズ・ガン”監督成分120%で振り切っている作品でした。
今回は、政治風刺、とくに今回のヴィランは保守・極右・オルタナ右翼といった近年も問題になっている集団をカリカチュアしたものになっており、かつてないほどに露骨です。『THE BATMAN ザ・バットマン』も類似の悪役を設定していましたが、それ以上に『ピースメイカー』は突っ込んでいます。
そもそも“ジェームズ・ガン”監督は以前からこういう差別主義的な人たちとSNSで舌戦を交わしてきており、あのMCU一時降板騒動も発端は右派メディアに過去の不適切発言を掘り起こされたことがきっかけでした。その一件以降も“ジェームズ・ガン”監督はとくに遠慮することなく、やはり差別主義を掲げる人たちを公然と批判し続けています。つまり、こういう奴らを間近でよく知っているわけです。
その観察経験が活かされているのか、今作でも徹底的に笑いにしたりしてきます。主人公のスミスさえもそんなコミュニティの空気の中で育っているので、やっぱりどこかオルタナ右翼っぽさが滲みます。第1話では「アクアマンは魚と性行為している!」と「カエルのペペ99」というアカウントを情報源に断言したりとか(カエルのペペが右派に好かれている背景はドキュメンタリー『フィールズ・グッド・マン』を参照)。
そしてその保守・極右・オルタナ右翼あたりの最悪の頂点として現れるのが、スミスの父親であるオギーです。アーチー・バンカー(高等教育を受けてなく、頑固で独善的で保守的な労働者のこと)な彼は、典型的な白人至上主義なネオナチであり、今作では「ホワイトドラゴン」というヴィランとして恐怖を発揮し、KKKもどきみたいな寄せ集め集団を従えて、スミスの前に立ちはだかります。
“ジェームズ・ガン”監督は『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズでも極端にクズな家父長制の恐ろしさを見せつけてきていましたが、今回の『ピースメイカー』も同様でした。
そんな保守・極右・オルタナ右翼をおちょくりつつ、一方であえて乗っかることもあったり。それが今回のバタフライ計画。その真相は蝶(というか虫?)みたいな形状のエイリアンが小型UFOで地球に大量に飛来しており、人間に寄生していたというもの。最終局面では警察を支配し、巨大な「カウ(cow;牛)」まで登場。あれは要するに、実際に右派界隈で陰謀論として拡散している「世界はトカゲ人間に支配されている!」というディープステート思考をそのまま置き換えて映像化したようなお遊びなんでしょうね。
それを“ジェームズ・ガン”監督は「ま、トカゲ人間であろうが、蝶人間であろうが、仲良くできればそれでいいじゃない」というようなスタンスで、最後はあのバタフライとも隣り合う主人公の姿を見せる。かなりバイオレンスな映像でも着地はフェアでハピネスでフレンドリー。“ジェームズ・ガン”監督のお約束ですね。
シーズン1:時代は鷲とクィアですよ!
一方で、見た目はかなりダサいピースメイカーことスミス。言動も幼稚さが隠しようもなく曝け出されている、完全にアホな男子のテンションですが、彼の抱える人生の苦悩は本当にシリアスです。
父親から暴力だけを教わり、兄弟さえも幼い頃に喧嘩の延長で殺してしまい、強烈なトラウマとして今も引きずっています。彼は彼なりに正しくなりたい。でも自分は暴力しか知らない。暴力でしか解決できない自分が嫌で嫌でしょうがない。その苦しさが話数を重ねるたびにこちらにも伝わってきて…。
また、今作はこのスミスはおそらくバイセクシュアルなのだろうという描写になっており、そんなずっと内に秘め続けてきたセクシュアリティへの葛藤もある。
家父長的で差別主義的な家庭で育った人間に幸せはあるのか…という重い問いかけが物語には鎮座していました。
それをふとした佇まいや表情でみせる“ジョン・シナ”の演技。こんな繊細な演技ができるのかとちょっと私もバカにしていた自分に気づかされるくらい、今回の“ジョン・シナ”はベストアクトだった…。
そのスミスにとって腐れ縁で実は心をほぐしてくれているあのビジランテの存在感。こいつもこいつで軽すぎてモラルもないダメな奴なんですけど、それでもスミスにはこれくらいがちょうどいい。この関係性も良いブロマンスでした。
そして忘れてはならないワッシー(英語では「Eagly」)。このワッシーがとにかく可愛い。オープニングの決めポーズから、作中でのエグイほどの攻撃アシスト、ときどき全くの無能っぷりを披露しつつ、それでも仕草がキュートだから許したくなる。“ジェームズ・ガン”監督、動物好きすぎるだろ…愛が溢れてる…最高です。私もハグされたい…。
他のキャラたちも魅力いっぱい。とくにレオタ・アデバヨ。「レオタ」は“ジェームズ・ガン”監督の母親の名前からとっているらしく、それだけ愛着が感じられます。アデバヨは家父長制ならぬ家母長制に苦しめられている立場ですが、今作では“正しさ”を貫きます。というか文字どおり肉体を弾丸にして敵を貫くんですけど…。アデバヨは女性のパートナーがいて、人が簡単に死ぬ世界観ですから、どうなるかと思ったら、ラストはレズビアンの大勝利エンディングですよ。“ジェームズ・ガン”監督はめちゃくちゃクィアを応援してくれるなぁ…。
ジャスティス・リーグなんて要らない。時代は鷲とクィアですよ!(なんだその宣言…)
まだまだ父の幻影が付きまとうスミスですが、シーズン2もあるそうでどうなるのか。ワッシーがでてくるならそれで私は満足です。
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 94% Audience 89%
IMDb
8.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
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・『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』
・『シャザム!』
作品ポスター・画像 (C)DC
以上、『ピースメイカー』の感想でした。
Peacemaker (2022) [Japanese Review] 『ピースメイカー』考察・評価レビュー