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『ザ・ハッスル The Hustle』感想(ネタバレ)…女詐欺師同士の誰も得しないバトル!

ザ・ハッスル

女詐欺師同士の誰も得しないバトル!…映画『ザ・ハッスル』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:The Hustle
製作国:アメリカ(2019年)
日本では劇場未公開:2020年にAmazonビデオで配信
監督:クリス・アディソン

ザ・ハッスル

ざはっする
ザ・ハッスル

『ザ・ハッスル』あらすじ

二人の女詐欺師が南フランスのリッチな観光地で出会ってしまう。詐欺の仕事を順調に進めるには縄張りが大事。同じ場所に二人の詐欺師はいらなかった。そこで衝突した二人は賭けをすることに決める。そのへんにいた男をターゲットにし、最初に多額のおカネを騙し取った方が勝ちという勝負だった。互いに持てるスキルを駆使して男を我先にと翻弄していくが…。

『ザ・ハッスル』感想(ネタバレなし)

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リメイクのリメイクです

世界中の人々がどんなにステイホームを徹底しても自粛しない“ある職業”の奴がいます。

それは「詐欺師」です。

社会情勢がどうなろうとも常に詐欺の手口を編み出し、あの手この手で不安に揺れる人間の心に付け入り、まんまと騙してくるのです。いつもと同じおなじみのやり方から、ほんとよくこんなアイディアを思いつくなというものまで。この詐欺に捧げるバイタリティー、他のことに応用できないものなのですかね…。

そんなウイルスと同じくらいに血気盛んに活動を続ける詐欺師たちに翻弄されないためにも、詐欺師映画を観ておきましょう。それが予防効果を発揮するとは断言できませんが(それこそ詐欺になる…)、観ていれば詐欺師に警戒したくなる…かもしれません。

今回の紹介する映画も詐欺師を題材にした作品。それが『ザ・ハッスル』です。

二人の詐欺師の女が自分の実力を証明するために詐欺合戦を繰り広げる…超シンプルなストーリー。王道の詐欺師映画であり、誰でもすんなり楽しめる気軽さがあります。

実は本作はリメイクです。元ネタの映画は1988年の『ペテン師とサギ師/だまされてリビエラ』という作品(原題は「Dirty Rotten Scoundrels」)。『スター・ウォーズ』のヨーダの声で有名なフランク・オズが監督をし、マイケル・ケインとスティーヴ・マーティンのW主演でした。評価も非常に高く、詐欺師映画の代表作として挙げられることも多いです。

しかし、この元ネタということになっている『ペテン師とサギ師/だまされてリビエラ』もなんとリメイク作品なのです。この作品の元ネタは1964年の『寝室ものがたり』(原題は「Bedtime Story」)ということになっています。こちらはデヴィッド・ニーヴンとマーロン・ブランドの共演です。

つまり『ザ・ハッスル』はリメイクのリメイクなんですね。では何が変わったのかと言うと、まず主人公は過去2作では男性同士だったのに対して今回は女性同士になっています。そして詐欺に使われる小道具も現代を反映してIT系のツールやサービスが駆使されます。要するにイマドキな感じのアップデートです。

とはいってもジャンルが詐欺を基軸にした二転三転するサスペンスなので、正直、元の映画を知らない方が楽しめるのは間違いありません。もし鑑賞前の段階で元映画を未見の人はそのまま観ないで、本作の方を先に鑑賞した方がいいです。いや、私はオリジナル優先主義なので…という人は元映画から観てそれがどうアレンジされるのかを楽しむのも一興ですけどね。

監督は“クリス・アディソン”という人で本作で長編監督デビュー。もともとコメディアンで、「Veep ヴィープ」という非常に評価の高いドラマシリーズで監督をしてキャリアを蓄積していました。

そしておそらく『ザ・ハッスル』の最も魅力となるであろうものが俳優陣。火花を散らす詐欺師二人を演じるのが、“アン・ハサウェイ”“レベル・ウィルソン”です。もはやこの二人については過去の出演作を語ることもない、女性からも男性からも大人気なトップ女優ですね。本作はこの二人に期待する定番要素が全部詰まっているような映画なので、ファンはお腹いっぱいに大満足できるでしょう。この二人を組み合わせた時点で、一定の面白さを担保させているようなものです。本作は詐欺映画ですが、実質はコメディなので、“アン・ハサウェイ”と“レベル・ウィルソン”が持てる力を駆使して散々に笑いをとってきます。あれ、詐欺合戦じゃなくてお笑い合戦になっているような…。

なお“レベル・ウィルソン”は本作の製作にもクレジットされています。

他には『パーティで女の子に話しかけるには』で主人公を演じた“アレックス・シャープ”が騙される役で登場するほか、ドラマ『ブレイキング・バッド』でも活躍した“ディーン・ノリス”がちょこっと出演。

日本では劇場公開されずに、Amazonビデオでしれっと購入オンリーでデジタル販売がスタートしたのですが、これはコロナ禍のせいで劇場公開予定がすっ飛んだのか、もともとこういう予定だったのか、それは謎です…(でも大手があまり宣伝もなくいつのまにか配信というのも珍しい気がする)。

気になる人はぜひ鑑賞して見てください。オチは未見の人には言わないでね。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(俳優ファンは大満足)
友人 ◯(気軽に観られるエンタメ)
恋人 ◯(暇つぶしには最適)
キッズ ◯(悪い大人にならないでね)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ザ・ハッスル』感想(ネタバレあり)

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詐欺に勝てるのは詐欺だけ!

夜。男が小さなバーにやってきて、釣りは要らないと言いながら何やら落ち着きがない様子。自分のスマホを確認し、そこには出会い系サービスで待ち合わせを約束した女性の写真が写っていました。その女性の名はマディソンというらしく、今か今かとソワソワしていると、ついに来ました。

写真とはかなり違う女が…。どこが違うかと言うと、その…まあ、横に広いというか、うん、そんな感じ(言葉を濁す)。当然ながら男はこの目の前に現れた女がマディソンなわけがないと考えます。

「マディソンは?」そう尋ねると、「私は偵察に来た」と愛は本物かどうかをマディソンの代わりに私がジャッジするとかいう話をしだします。男はそれは大変だと“めちゃくちゃ愛している”とアピールするわけですが、女はさらに続けます。「実は彼女はAカップなの、あ、いや、AAAかも」…そういう理由でここに来たくなかったと事情を話し、彼女は豊胸手術のおカネをためていて500ドル必要だと口にします。お目当ての女性に近づくためなら何でもする男は間髪入れず「私がおカネを出す」と提案。

しかし、そこへ女に騙されたと被害を訴える男が押しかけてきて、警察も一緒に乱入。その女は一目散に逃げだしました。女は黒いドレスを活用してゴミ捨て場に隠れ、警察をまきます。

この女、ペニーは根っからの詐欺師でした。欲に焦る男を相手にカネを騙し取るのが日課です。

ところかわってフレンチ・リヴィエラ(ここで言う「リヴィエラ」は、フランスのトゥーロン付近からイタリアのラ・スペーツィア付近までの地中海沿岸地方の名称でリゾート地になっています。フレンチ・リヴィエラはそのフランス側のことで「コート・ダジュール」とも呼びます)。

リッチな人が集まるホテルのカジノで、とある女がいかにもルールも知らなさそうに目立っていました。その女にあるひとりの男が近づきます。女は「ジャネット」と名乗り、なんでも宝くじをあてて相当な資産を手に入れたようですが、ギャンブルは全然わからないみたいです。これは良いカモだと判断した男は、50万ドルの価値があるというブレスレットを見せてつけさせます。そこへ女性の警官がやってきて、女を逮捕すると言い、連れていってしまいます。その前にブレスレットは返しますが、実はこっそりブレスレットを偽物とすり替えていました。しかも、この警察も真っ赤な嘘、偽物です。

この女、ジョセフィーヌも詐欺師として生きている女でした。

フレンチ・リヴィエラの一帯を行き来する列車。いつものようにここらを縄張りにするジョセフィーヌは乗車していましたが、食堂車にてある女が目につきます。ペニーです。前後リュックの明らかにリゾート地にくる裕福層には見えない存在感。ペニーは手近な男の前に座り、妹が誘拐された話をしだします。同情した男はおごってくれると言い、ペニーは遠慮なくガンガン頼みだします。

ジョセフィーヌの前に現れたペニーは「妹はいないし、私は詐欺師なの」と正体をバラします。男を狙うのが手口だとも。「女詐欺師って多いの?」と知らぬふりで聞きだすジョセフィーヌ。メドゥーサという女詐欺師は伝説だと答えるペニー。フレンチ・リヴィエラのボーモン・シュル・メールへ向かうつもりだと話すペニーに、「そこはレズビアンばかりよ」とジョセフィーヌはそっけなく誘導。ジョセフィーヌは上手いこと、ペニーを別の場所に向かわせようとします。

ジョセフィーヌにとって別の詐欺師が自分のエリアで活動されるのは邪魔なのです。体よく追い払えたと仕事仲間のブリジットに報告し、ボーモン・シュル・メールで次の狙い目を話し合っていると、男の運転する車でペニーが痛快に登場。騙して来たようです。リゾート地でエンジョイしまくっていました。

好き放題遊んでいたペニーがいきなり逮捕。留置所に放り投げられたペニーは唯一の知り合いとしてジョセフィーヌを呼び、ジョセフィーヌは「あの男はロシアのマフィアよ」と忠告。「現金がある?」と聞き、「8000ドルなら」と答えを得るや否や、飛行機を手配してくれます。「ただ何があってもここに戻らないで」と…。

しかし、ペニーは機内でジョセフィーヌが詐欺師だと知り、テクニックを教えてほしいと志願するためまたもや出現するのでした。こうしてトレーニングが開始。ブリジットやアルバートはペニーに期待しませんが、ジョセフィーヌには策略があります。とりあえず合格とした後、男相手に次々と結婚土壇場中止詐欺で指輪だけをちゃっかりいただく作戦を実行。報酬の山分けになりますが、ペニーは弟子は卒業するまで無給だとして1ドルももらえません。さすがのペニーも怒り、願い下げだと自分から出ていきます。これぞジョセフィーヌの狙いどおり。今度こそ追い払え…。

…ません。次の詐欺にとりかかろうとした瞬間、またもまたもペニー乱入。これでは埒が明かない。「賭けをしない?」と男を騙して50万ドル手に入れた方が勝ちという勝負を挑みます。

ターゲットは…ちょうどプールに落ちたあの男。トマスとかいう有名なアプリの開発者にしよう。

こうして「ベテランのセレブ詐欺師vs庶民派の体当たり詐欺師」という、勝手にやってくれな普通の人は誰も得をしない戦いが始まったのです。犯罪の女神がほほ笑むのはどちらなのか…。

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下品な方向でパワーアップ

『ザ・ハッスル』の魅力は何度も言うようにダブル主演の“アン・ハサウェイ”と“レベル・ウィルソン”。この二人はコメディエンヌとして一流で手慣れていますけど、それぞれで笑いのスタイルが違って、そのアンサンブルが良い化学反応を生むだろうなというのは観る前から予想つきましたが、やはり抜群だった…。

ジョセフィーヌを演じた“アン・ハサウェイ”は『オーシャンズ8』でも軽妙な騙し役を鮮やかに見せていましたが、『ザ・ハッスル』もほぼ同系統。フランスが舞台ながら、なんとなくエセ・フランス人っぽい空気感を漂わすあたりはさすが。ペニーに指導する場面では「男はヒーローになることを望んでいる」として男に都合のいい弱い女を演じるべく“泣き”の演技を披露しますが、オチ担当としてペニーが酷い顔をするのは当然として、ジョセフィーヌも彼女で微妙に上手くないような泣き顔なのがシュールで…。無論、“アン・ハサウェイ”はもっと自然な泣きの演技ができるベテラン女優のはずですけど、あえてそれをやってみせるところで別の実力を見せていました。

あと“アン・ハサウェイ”は(失礼な言い方ですけど)美人なのに美人の使いどころを間違っている感じの面白さで笑いをとるのがやっぱり定番ネタなんだな、と。

一方の“レベル・ウィルソン”はいつもの彼女のとおり。恥も外聞も捨てて体当たりで勝負するスタイル。なにせ『キャッツ』で観客をドン引きさせる先手攻撃を放っておきながら、何一つ悪びれることなくアカデミー賞授与式でもネタにしている人間ですからね。怖いものなしですよ。

オーストラリア出身ということで今作でもオーストラリアネタも満載ですし、相変わらずの下ネタを乗りこなす女っぷり。元映画の『ペテン師とサギ師/だまされてリビエラ』ではペニーに準ずるキャラは「下半身不随で歩けない」という状態を装って一芝居をうつわけですが、今回はなんと「目が見えない」という盲目を演じる、明らかにそれは無理だろうという高難易度の決め技に挑戦しだします。つまり、“レベル・ウィルソン”の顔芸状態になるわけです。不謹慎さがパワーアップしまくっており、本当にやりたい放題です。

全体的に本作は元映画よりも下品になっています。元映画はオシャレな雰囲気の中でときおり笑いを入れる感じで、『ペテン師とサギ師/だまされてリビエラ』は元祖の『寝室ものがたり』と比べて、いわゆるドリフ的な体を張ったギャグ要素が増しています。しかし、『ザ・ハッスル』はそのスラップスティックなユーモアを引き継ぎつつ、下品の方向で暴走しているんですね。

ジョセフィーヌのダンスシーンも酷いですし、目が見えない(ということになっている)ペニーに治療テストと称してあれこれ虐めるシーンも劣悪さが倍増。フレンチフライをトイレの水に浸して食べさせるくだりは(しかも口に塗りたくる)、もうバラエティ番組のノリ。

勝負はどっちがカネを騙し取るかではなく、どっちがあのトマスと寝るかという、童貞を倒したら勝ちバトルに発展していく流れもただただ下品まっしぐら。

この本作の“アン・ハサウェイ”と“レベル・ウィルソン”は揃ってラジー賞(最低の映画に贈られる賞)にノミネートされたのですが、それでも世間体なんて知るかと果敢に突っ走る彼女たち二人は私は嫌いじゃないです。

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オチが同じなのは…

ただ『ザ・ハッスル』は多くの批評家が指摘するところですが、元映画のオチそのまんまな展開すぎてオリジナリティが全然ないのが残念なポイント。典型的な俳優ありきの焼き直しバージョンです。

ところどころで元映画の要素を入れつつ、オマージュも入れ込んできます。例えば、最初にジョセフィーヌがジャネットと名乗る名前は元映画の騙される側の女性の名だったり、「Bedtime Story」というフレーズをジョセフィーヌが口にしたり(だいぶ強引だけど)…。

でも最終的には元映画のどおりの、騙そうとした相手に騙されていたオチでフィニッシュ。完全一致で終わります。

もう少し捻りを入れられなかったものかと思わなくもありません。仮にオチは同じでも、もっとトマス側の詐欺テクニックを見せることでカタルシスを演出することはできたはず。そもそも彼はIT系に強い人間なのでしょうから、それこそイマドキなITネタのトリックでアッと言わせる展開もアリだったでしょう。送金アプリ「Venmo」を使うなら余計に仕掛けは入れられるだろうし…。そこの新規性を見せられる描写さもやってないのは作り手の怠慢に見えてしまう…。

もちろん女性を主役にするというジェンダー平等な観点での打ち出し方はわかります。ただ、実はフェミニズムの観点で言えば『ペテン師とサギ師/だまされてリビエラ』の方がストーリー上の構成ではむしろフェミニズム要素が強いともいえます。『寝室ものがたり』はラブストーリーに傾くのでヒロインが本当にただの恋愛対象になってしまうのですが、『ペテン師とサギ師/だまされてリビエラ』は女なんてたいしたことがないと見くびっていた男が女に騙されるというオチでその偏見をひっくり返して見せています。

一方の『ザ・ハッスル』は結局は男に騙されるので(一応、伝説の女詐欺師メドゥーサの孫という予防線は張っているけど)、そのステレオタイプを覆す構図はなくなっちゃって後退しているような…。

そのうえペニーとのロマンスもいれてしまうとコテコテの展開が追加されてしまってなんだかな、と。あんなに『ロマンティックじゃない?』で既存恋愛を否定していたキャラを演じた“レベル・ウィルソン”が平凡な恋愛にどっぷりです。

ということで俳優陣はたっぷり面白いけど、ストーリーはもっと練ってほしいな…というのが結論ですが、元映画の完成度が高いのでいろいろ大変かもですけどね。本作で一番良かったのはオープニングのオシャレなアニメクレジットかもしれない…。

本作を鑑賞して元映画を観ていない人はぜひそちらもチェックしてみてください。

『ザ・ハッスル』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 14% Audience 44%
IMDb
5.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 4/10 ★★★★

作品ポスター・画像 (C)Universal Pictures

以上、『ザ・ハッスル』の感想でした。

The Hustle (2019) [Japanese Review] 『ザ・ハッスル』考察・評価レビュー