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アニメ『もういっぽん!』感想(ネタバレ)…女子部活モノもパワーで攻める!

もういっぽん!

女子部活モノもパワーで攻める!…アニメシリーズ『もういっぽん!』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:Ippon Again!
製作国:日本(2023年)
シーズン1:2023年に各サービスで放送・配信
監督:荻原健

もういっぽん!

もういっぽん!

『もういっぽん!』あらすじ

青葉中柔道部の園田未知と滝川早苗は中学最後の試合に臨んでいた。これでもう柔道をやめようと前から決めていた未知は「スパっと一本勝ちで終わりにする!」と清々しく宣言する。しかし、結果は全くの狙いどおりにはならず、相手の絞め技でぶざまに一本を取られてしまった。何とも残念な終わり方になってしまったが、これで柔道は卒業して受験に専念。9カ月後、青葉西高校には無事に合格した未知と早苗の姿があったが…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『もういっぽん!』の感想です。

『もういっぽん!』感想(ネタバレなし)

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フェティッシュな視線を投げ飛ばす

学園青春モノのアニメは日本にはたくさんあります。そして学校を舞台にすると当然ながら「部活」を題材にすることが目立ってきます。もちろん部活に入らない生徒もいますが、日本の学校文化において今も部活が大きな存在感を占めています。

男子の場合は、アニメでも「運動系」は花形であり、パワフルでエネルギッシュな内容が多く、「文化系」となるとやはり地味という印象で、どこかその地味さを自虐することもあるのがいかにも“男らしさ劣等感”という感じです。

一方で女子の場合、また事情が違ってきて、気にせざるを得ない要素が浮上します。それは「フェティッシュ」な視線が向けられるということ。とくに「運動系」に対してです。

女子の運動系部活を描くアニメもたくさんあります。バレーボールの『アタックNo.1』、テニスの『エースをねらえ!』、バスケの『ロウきゅーぶ!』、ビーチバレーの『はるかなレシーブ』、野球の『八月のシンデレラナイン』、サッカーの『さよなら私のクラマー』、バトミントンの『はねバド!』、ライフルの『ライフル・イズ・ビューティフル』…あと『ガールズ&パンツァー』も一応は運動部かな…。

そんな女子の運動系部活を描くアニメと向き合う際に、フェティッシュな視線で描かれているのではないだろうかとつい気にしてしまう人も少なくないでしょう。「運動する女子」を性的に消費する視線ですね。こういう視線は現実の「運動する女子」にも向けられることは日常茶飯事で、実際にそれで嫌な経験をしてきた人もたくさんいると思います。女子アスリートへの性的な目的での撮影も社会問題となり、日本では2023年に刑法の見直しで撮影罪の新設も進んだくらいですから…。

女子の運動系部活を描くアニメも、フェティッシュな視線に応えるサービスに逸れることなく、部活動そのものに向き合って描けるか…というポイントは大事ではないでしょうか。人によってはこれがその作品を楽しく観れるかどうかの境目になったりもします。

今回紹介するアニメシリーズは、女子の運動系部活を描くものでありながら、フェティッシュな圧力を華麗にぶん投げるパワフルな一作です。

それが本作『もういっぽん!』

本作は“村岡ユウ”が2018年から「週刊少年チャンピオン」「マンガクロス」と連載を続けている漫画が原作で、2023年にアニメ化されました。

題材としている部活は「柔道」です。というかこの“村岡ユウ”という原作者の人、過去作も『むねあつ』『ウチコミ!!』と柔道を題材にし続けているんですね。凄い執念…よっぽど柔道、好きなんだろうなぁ…。

『もういっぽん!』は「柔道」、それも「女子の柔道」を描くということで突出しています。過去にも女性の柔道を描いた『YAWARA!』がありましたが、それと比べるといかにも普通の部活らしい等身大の姿が描かれており、柔道を知らない人でも身近に感じられるハードルの低さです。柔道だっていろいろなルールがありますし、技とかも多種多様ですが、初心者に優しい作品だと思います。

しかし、柔道の描写は本格的で、作者のこだわりをビシバシ感じます。そしてフェティッシュに扱われがちな女子高校生たちが「そんなもん知ったことか!」と言わんばかりに、パワフルさが最もでやすい「柔道」という競技に打ち込む姿は清々しいです。作中で女子高校生のキャラクターがフェティッシュに描かれるシーンは基本的にありません(息抜きで海で遊ぶシーンで水着姿が描写されたりしますが、露骨にフェティッシュには描いていないです)。そもそも女子高校生をそんなにステレオタイプに扱っていないのがストレスを与える隙を作らず、メインの柔道に専念させてくれています。

アニメーション制作は「BAKKEN RECORD」。監督は過去に『BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS』の絵コンテ・演出を手がけた“荻原健”。シリーズ構成は今後も『カワイスギクライシス』『お嬢と番犬くん』を手がける“皐月彩”

アニメ『もういっぽん!』は全13話。幅広い人が鑑賞しやすい「女子部活モノ」の一本としてオススメです。

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『もういっぽん!』を観る前のQ&A

✔『もういっぽん!』の見どころ
★柔道に一生懸命に専念する女子たちを清々しく描く。
★フェティッシュな偏向した描き方がない。
✔『もういっぽん!』の欠点
☆柔道の初歩の説明はない。
日本語声優
伊藤彩沙(園田未知)/ 安齋由香里(滝川早苗)/ 三浦千幸(氷浦永遠)/ 稗田寧々(南雲安奈)/ 永瀬アンナ(姫野紬)/ 内山夕実(夏目紫乃)/ 古賀葵(天音恵梨佳)/ 長縄まりあ(妹尾緑子) ほか
参照:本編クレジット

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:一気見もしやすい
友人 4.0:オススメしやすい
恋人 4.0:恋愛描写はほぼ無し
キッズ 4.0:子どもにも安心
↓ここからネタバレが含まれます↓

『もういっぽん!』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):柔道は今日でおしまい?

夏の武道場、日光が差し込む畳の上で、園田未知は柔道の鍛錬をひとり汗を流しながら行っていました。そこに滝川早苗、氷浦永遠、南雲安奈の3人も入ってきて、組み合います。勢いよく投げ飛ばされる園田未知。しかし、顔は朗らか。ここが彼女たちの青春の場…。

埼玉県中学柔道大会。ロッカールームで園田未知は遅刻しながらも滝川早苗と着替えていました。2人は同じ中学で柔道部です。今日は中学3年としてこの部活の最後の公式試合となります。

滝川早苗は一本とられ負けてしまいます。次は園田未知の番。園田未知はこれを中学最後ではなく人生最後の試合にすると決めていました。「スパっと一本勝ちで終わりにする!」と清々しく勝利宣言します。

大会で当たった相手は見たこともない人で、氷浦永遠という名のようです。力も速度もあることはすぐにわかりました。鼻血をだしながらも技を決めていく園田未知。しかし、巧みにねじ伏せられ、締め技で失神一本となって敗北します。スッキリ勝つのとは程遠い最後の試合でした。

それでも我ながらやりきったとロッカールームでハツラツとしている試合後の園田未知。「汗だくで重い道着を持ち運ぶのもこれが最後かぁ」と思い出を振り返ります。どうあろうと柔道は今日でおしまいです。

園田未知はすでに高校の展望を考えており、部活は全くやらず、カレシを作って充実した生活を送るつもりでした。そこに友達で何かとちょっかいだしてくる剣道部の南雲安奈が無邪気に来て、「青葉西高校に行けるの?」と揶揄います。3人は試合会場を背に駆けていきます。その後ろを氷浦永遠が話したくても話せなかったようで立ち尽くしていました。

9か月後。ブレザー姿の園田未知が滝川早苗と教室でのんびりしていました。無事にお目当ての高校に入学。今は気も緩んでいます。

さっそくここでも剣道部に入った南雲安奈の謀略で武道場に誘導されてしまいます。中で何やらトラブルが起きているようで、そこにいたのはあの中学最後の試合で園田未知を完膚なきまでに失神させた氷浦永遠でした。

氷浦永遠は柔道をしたいようで、撤去した畳を並べ始めたらしいですが、部員ゼロで部活停止状態でした。規則としては3人いれば部活できることになっています。

そこで氷浦永遠は園田未知をすぐさま仲間に引き入れるべく、腕を引っ張り、一方で南雲安奈も園田未知を離しません。引っ張り合いになり、すっ飛んだ園田未知は思わず氷浦永遠を豪快に投げ飛ばして一本とってしまいます

「もうやらないって決めたの、だから思い出させないでよ、この気持ちをさ」と少し辛そうに語る園田未知。

それを見ていた親友の滝川早苗は気持ちを見透かしたように再び柔道へと園田未知を誘います。滝川早苗も内心では柔道がしたかったのです。

そんな背中を押されてしまえば、純真な園田未知も動かないわけにはいきません。何よりも自分の心に嘘もつけません。「柔道もする、カレシも作る、一本取りまくる!」…そう新しい宣言をします。

高校生活が始まったばかりの園田未知たちの目の前には、まだまだ未知の世界が広がっていました。ワクワクできる「一本」がそこにあると強く信じて前に進みます…。

この『もういっぽん!』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2024/01/05に更新されています。
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勝ち負け以上に価値あるもの

ここから『もういっぽん!』のネタバレありの感想本文です。

アニメ『もういっぽん!』は「柔道」という競技の魅力が物語いっぱいに広がっており、私なんかも全然柔道とか本格的にやったこともない人間ですけど、それでも「柔道ってこんなに気持ちいのか!」と感触が伝わってくる作品になっていました。

とくに女子が柔道をしているという、このジェンダーの立場の違いだけでその意味は全然違ってきて…。

というのも、世の中にはスポーツ・アスリートに対して、「性別の筋力差は歴然である」だの、「体格や骨格だ」だの、そういう性別や身体の作りでジャッジする視線が蔓延っているわけじゃないですか。もちろん性別や身体の作りがスポーツに全く影響がないとは言わないですよ。でもそれだけをことさらに強調してアスリートをジャッジするのってとても理不尽ですし、そもそもスポーツというものを愚弄しているだけだと思うのです。

スポーツというのはそんな数値的なデータで競技前から勝敗を推察されるようなものに抗うことにこそ、「気持ちよさ」というカタルシスがあるのだと思います。

『もういっぽん!』の園田未知たちはその「気持ちよさ」のいい見本です。男子を投げ飛ばして柔道にハマっていった園田未知は「強い相手を投げるのは気持ちいい」と快感にのめり込み、自分より身長や体重が大きい相手だろうと怯みません。おっとりとした内気な性格の滝川早苗も粘り強い寝技で自分の力を見せようとします。口下手な氷浦永遠も柔道となれば凄まじくアグレッシブです。

園田未知たちのあの試合の姿は「女の子はしょせんは女の子。本質的に弱い存在だから」という世間の決めつけをいともたやすく投げ飛ばし、過小評価する一瞬の隙も与えず、私たちを圧倒してくれます。

今作はアニメ化されたことで、アニメーションとしての躍動感もそこにプラスされ、魅力が何倍にも増しています。柔道は瞬間的な動きこそ大事な競技ですが、アニメーションとしてそこをきっちり緩めずに描き切っていました。

そして園田未知たちだけでない、ありとあらゆる体格や身体特徴の女子たちが一堂に会して、それでもそこには平等でフェアなアスリート精神があり、互いが互いの健闘を褒め合っている。負けるのは当然悔しいです。でも勝ち負け以上にその空間自体こそ、この彼女たちが手に入れた素晴らしい成果がある。そういう理想的なスポーツの世界を本作は映し出しており、そこに私もグっとくるものがありました。

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「気持ちよさ」に思う存分に浸らせてくれる

『もういっぽん!』がそんな「気持ちよさ」に思う存分に浸らせてくれるのは、前述しているとおり、フェティッシュな視線がカットされているからこそなのですが、それ以外にも無駄な寄り道もなく、とてもスッキリしているのがいいですね。

例えば、ムードメーカーであり、柔道バカ的なところもある、いかにも主人公らしい属性を持つ園田未知。冒頭から「カレシを作りたい」と恋愛に意欲を見せるのですが、そんなに恋愛に対する劣等感や優越感を持っておらず、「恋愛をしている人が勝ち」で「恋愛していない人は惨めだ」という優劣意識を公言することもないです。

周囲の他の女子高校生キャラクターもそんな感じで、わりとありがちな「表面上は女子高校生キャラなのに、キャラの性質が男性的な世間認識の価値観ありきで構築されている」ということもありません。良い意味でフラットに描かれています。女子同士で意地悪に対立させるわけでもなく、かといって日常系のような極端なキャラの固定化もないし…。

剣道部だった南雲安奈が園田未知の輪に加わりたい一心で柔道部への転部を検討し始めた際、園田未知は「もっとめっちゃ好きなものができたってことじゃん」と素直に背中を押してくれますが、まさにこの言葉どおり、「好きならそれでいい」という姿勢です。

「部活に入っていないからダメで、部活に入っているから素晴らしい」とかでもなく、恋愛に対してもまた同じ。そういうスタイルがこの作品には一貫しているので、そこもやっぱり安心するところなのかなと。

逆にアニメ『もういっぽん!』について、ちょっと残念だった点をあげるなら、まず百合のほのめかし的な描写が幾度となくあれど、わりとそのへんはふわふわしているのが「う~ん」という感じ。別に何でもかんでも明示しろと言っているわけではないですけど、スポーツの世界ってどうしてもホモフォビアな体質が色濃く出やすかったりするので、だからこそその点に関して、園田未知とかのキャラクターの口から「異性愛でも同性愛でも好きにすれば良し!」と言い切るくらいはあって良かったと思います。

あと、金鷲旗の3回戦で対戦することになる立川学園の出場者の中にエマという外国人の子がいますが、あのキャラクター造形は典型的な「オクシデンタリズム(西洋崇拝)」な感じではありました。オクシデンタリズムというのはオリエンタリズムの逆で、日本のアニメや漫画であれば、過度に(日本社会にとって)理想化された外国人キャラクターが描かれやすいことが、まさに当てはまります。エマみたいに、日本文化に非常に親和的な快活な外国人キャラという特性はよくあるパターンです。

そんなこんなな気になる点もありつつ、『もういっぽん!』は「女子部活モノ」のアニメの平均ラインを引き上げるクオリティを見せてくれたと思います。こういう気持ちのいいアニメが増えるといいですね。

『もういっぽん!』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
?.? / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0
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日本のアニメシリーズの感想記事です。

・『転生王女と天才令嬢の魔法革命』

・『とんでもスキルで異世界放浪メシ』

作品ポスター・画像 (C)村岡ユウ(秋田書店)/もういっぽん!製作委員会

以上、『もういっぽん!』の感想でした。

Ippon Again! (2023) [Japanese Review] 『もういっぽん!』考察・評価レビュー