線路は続くよ、どこまでも…ドラマシリーズ『スノーピアサー』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:アメリカ(2020年)
シーズン1:2020年にNetflixで配信
シーズン2:2021年にNetflixで配信
製作総指揮:スコット・デリクソン、ポン・ジュノ、パク・チャヌク ほか
スノーピアサー
すのーぴあさー
『スノーピアサー』あらすじ
ウィルフォード産業より乗客の皆様にお伝えします。列車最後尾にて騒乱の噂が出ておりますが、ご安心ください。私どもは皆様の安全を第一に考えております。即座に対応し、秩序の回復に努めさせていただきます。なお、この車両では殺人事件が発生しました。こちらについても専門的な人材を起用し、速やかな解決を図ります。列車が止まることは絶対にありません。
『スノーピアサー』感想(ネタバレなし)
雪国出身ならツッコミを入れたい設定
私は北海道出身なのですが、雪国育ちなら嫌でも実感すること。それは冬期の公共交通機関のあてにならなさです。天候が悪かったり、大雪が降ると、バスや電車はほぼ間違いなく遅延、最悪は休止します。電車なんかはとくに大変で、線路を手作業で除雪して点検するので終わりが見えないこともあります。なので交通機関が機能不全になることをある程度覚悟しながら、市民たちは通勤通学をするのが定番です(休みにはならないのがデフォルト)。
そんな雪国経験者ならば思わずツッコミを入れたくなる世界観の作品が本作『スノーピアサー』です。
この作品はディストピアSFなのですが、その世界観はとにかくユニークかつクレイジー。まず地球が永久凍土のように凍結化してしまい、人類はおろかまともな生命は住めないような星になってしまいます。普通であれば地球を脱出して別の星へ移住だ!という展開になりそうですが、この作品はそうはいきません。なんとバカ長い車両を持つ列車を製造。そして地球をぐるっと回る線路を作り上げ、そこを延々と走り続けることで車内の人が生き残るという、マグロみたいな生存方法をとります。
いや、どうやって極寒の環境で線路を維持するんだ…とか疑問に持つでしょう。当然です。JRの技術士も興味津々ですよ。
それに関しては…これ以上質問をぶつけないでほしい。ノーコメント。
本作はその「現実的に無理だろ?」的な野暮なことは無しというのが暗黙のルールです。わかりましたね?
とにかくその列車「スノーピアサー」は走り続け、車内では各車両ごとに階級社会が構築されており、秩序が守られているのです。都市社会をそのまま列車にしちゃった…みたいな感じですね。
この『スノーピアサー』はグラフィックノベルが原作であり、2013年に奇才ポン・ジュノ監督によって映画化され、カルト的な支持を集めました。私もそのツッコミ上等な設定と中身のぶっとんだ狂気っぷりにすっかりハマりました。
その『スノーピアサー』がこのたび2020年にドラマシリーズ化し、タイトルはそのまま『スノーピアサー』として再発進しました。アメリカではTNT(ターナー・ネットワーク・テレビジョン)が放送していますが、日本ではNetflix配信となっています。
このドラマ版『スノーピアサー』ですが、映画版のリメイクのようなものだと思っている人もいるかもですが、厳密にはそうではありません。実は「スノーピアサー」関連作品は結構あって世界観が拡張されています。映画は世界凍結化から15年後を描いていますが、ドラマシリーズは7年後を描いており、時期が違うのです。そのため扱いとしては本作ドラマシリーズは映画と連続性のあるリブート…ということになっています。
ドラマシリーズはシーズン1開始時点ですでにシーズン2の更新が決まっており、これがどう連続的なタイムラインを構成していくかは私たち視聴者には未知数ですけど…。
ということで映画を知らない人でも知っている人でもこのドラマ『スノーピアサー』はじゅうぶん新鮮に楽しめるでしょう。とくに予備知識もいらないです。
俳優陣は、ブロードウェイ『ハミルトン』や映画『ブラインドスポッティング』で活躍していた“ダヴィード・ディグス”が主役の元刑事を熱演、『ビューティフル・マインド』の“ジェニファー・コネリー”が接客係のトップを務める重要な役柄で登場。
この二人を主軸に、“ミッキー・サムナー”、“アリソン・ライト”、“イド・ゴールドバーグ”、“スーザン・パーク”などが揃います。『はじまりへの旅』で印象的な演技を見せていた“アナリース・バッソ”も数少ない若手として本作では物語をかき回します。また、ディズニー・チャンネルで人気を高めた“ローワン・ブランチャード”も超重要な役で…。
シーズン1は全10話。各話45~50分程度なので見やすい方です。家を出たくない気分になったりしたら、時間がある時に少しずつ鑑賞していくといいのではないでしょうか。列車引きこもりストーリーを家で引きこもって観るのも変な気分ですけどね。
オススメ度のチェック
ひとり | ◯(初見でも大丈夫) |
友人 | ◎(話のネタに盛り上がる) |
恋人 | ◯(SF好き同士だとなお良し) |
キッズ | ◯(やや残酷&性的描写あり) |
『スノーピアサー』感想(ネタバレあり)
ご乗車ありがとうございます
始まりは気候変動でした。科学者たちは温暖になっていく地球の冷却化を試みましたが、それは逆効果を生んでしまい、地球は凍結してしまいます。生命を根絶やしにする極寒の大地に…。
しかし、先見の明があったウィルフォードという人物は巨大な箱舟列車を作っていました。それは1001の車両からなる「スノーピアサー」。チケットを持つ選ばれし者だけがこの特別な列車に乗車でき、凍てつく大地をずっと走行しながら、車内で生存できます。
当然、チケットを持たない者も列車に押し寄せました。一般市民は暴徒化し、一部だけが強引に最後尾の車両に乗りこみます。そのまま出発。後方に籠城した不正な乗客たちはここにとどまり、抵抗しながらも生きていくしかありません。列車はもう止まれないのです。
気品のある室内にポツンとあるマイクの前でアナウンスを開始する女性がひとり。
「ウィルフォード産業から皆様に朝のご挨拶です。外の気温は摂氏マイナス119.6度。旧カナダのユーコン準州に入ります。本日で発車から6年9か月と26日目です」
接客係の指揮をとるメラニー・カヴィルはウィルフォード氏に代わっていつもの挨拶を済ませました。
一方、最後尾車両(テイル)。そこにカートが運ばれ、この最も最悪の場所で暮らすことを余儀なくされている招かれざる乗客たち(テイリー)は、唯一の食糧配給品である“黒いバー”を受け取ります。「これからはひとつだけだ」と言われ、不満タラタラですが逆らえません。ここの住人たちはネズミを育てて、なんとか生き延びていました。
ここで生活するマイルズという少年は機関士になって先頭車両に行くことを夢見ていました。子どもならばできる数少ない脱出方法です。
その傍ら大人たちは何やら議論の真っ最中。実は反乱計画を企てていました。リーダー格であるレイトンは今は少しずつスパイを前方車両に送り込んでネットワークを構築しているし、慎重にやらないと前みたいに失敗すると懸念を示します。けれども他の人たちは我慢の限界であり、レイトンの愛する女性であるジョージー含めみんながやるしかないと意見は一致。「テイルはひとつ」…その合言葉を胸に。
しかし、思いがけないことが起こりました。突然の命令により、レイトンが連行されてしまったのです。3等車の食堂に座らされ、車掌長のロッシュから食事を与えられ、久しぶりのまともな飯を幸せそうに食べるレイトン。
「ここに来る前は殺人課の刑事だったらしいな」と話を切り出されます。どうやら3等車で殺人が発生したようです。被害者はショーン・ワイズ。3等客で農業部勤務をしており、遺体の腕と脚、局部が切断されていました。警備のオズワイラーとティルに見張られながら、メラニーから直々に「捜査のためならどの車両に行っても構わない」と言われ、捜査に動き出すレイトン。
2年前にも同じような事件があったらしく、ニッキー・ジュネという殺人罪で禁固刑になり、休眠状態で収容(ドロワー)されています。容疑者扱いになっていた元妻ザラとも出会いながら、情報を収集。
ところが最後尾車両では90歳のイヴァンは命を絶ったことで血気盛んに燃え上がり、遺体の回収で扉が開いた瞬間に反乱が開始されてしまいます。レイトンは交渉役に出て、なんとか反乱をやめさせ、「エンジンを掌握するまで待ってくれ」と密かに機会を作るため捜査の最中に画策し出します。
そんな中、メラニーは列車の最前に行きます。そこには席に座り、列車をコントロールする男。しかし、彼はベネットと呼ばれ、機関士に過ぎません。実はメラニーこそがこのスノーピアサーを統治する存在。ウィルフォードなんていうものはここにおらず…。
レイトンは鋭い洞察力で知ってしまいます。その秩序も吹き飛ばすであろう驚愕の事実を…。
特異な世界観が示す“統治の難しさ”
ドラマ版『スノーピアサー』も映画版と同じ舞台は列車です。そもそも本作はこの特異な列車の設定が唯一無二の個性なのであり、一番の魅力はここにあると言えます。限定空間で展開されるディストピアですから。
ドラマ版では永久機関(エターナルエンジン)で動く列車「スノーピアサー」の車両数は物語開始時点で1001であり、その大きさも巨大なものになり、もはやアパートが連なっているようです。それにともない車内も非常に高さのある構造になっており、ギミック性が増しています。巨大化したことで確かにここなら階級社会が構築されて維持できてもおかしくないなと思えるものになりました。
その階級社会も基本は映画版と同じ。最後尾車両では極貧状態であらゆる物資が乏しく、食料は配給される黒っぽいバー状のものだけ。反逆した者には腕を極寒の外に出しての冷凍粉砕の刑が待っています(ビジュアルは凶悪だけど案外と痛みはないのだろうか…)。
そして前方に行くたびに、3等車、2等車、1等車と暮らしは劇的に良くなっていきます。とてもわかりやすい階級社会の戯画化であり、露悪的でおぞましい人間の本質を突いた世界観です。
同時に社会を統治することの難しさを突きつける倫理的な問いかけをするのも本作の大事な特徴。単純に「悪玉を倒して世界はハッピー!」みたいな展開にはなりません。誰かが倒されれば別の誰かが統治者になり、また統治の難題に向き合わないといけなくなる。そしてその統治に不満な者が現れ、また反発が起こり、結果、新しい統治者になる。こうした支配権がコロコロ変わっていく私たちが生きる現実の国や会社の姿をそのまま現すような世界。それがこの列車です。
シーズン1では、メラニーが統治者にふさわしくないと判断したウィルフォードを列車外へと放置し、この列車を乗っ取ったことが判明(ウィルフォードの「W」の文字がロゴに使われていますが、それが反転するとメラニーの「M」になる)。後にその指揮権を反乱者のリーダーであるレイトンに譲ることになります。そして、また新たな存在が…。
ドラマ版では映画版と比べて、より人種やジェンダーを意識した構図になっており、なおさら現実とのシンクロを感じやすいものになっています。
この列車の設定自体は物理的にはツッコミどころだらけですが、まさしく我々の生きる世界がこの列車と同質であり、そのものずばりなメタファーです。だからその意味でもツッコミはナンセンス。
この世界観さえあれば絶対に一定の面白い物語は作れますよね。
シーズン1:どんどん加速する物語
シーズン1は前半については世界観を見せるための導入としての要素が濃いです。
反乱は一旦お預けになり、レイトンが殺人事件の捜査のために駆り出されていく。まさに『オリエント急行殺人事件』風といいましょうか。オーソドックスなミステリー。その過程で列車の世界観を視聴者に体感させてくれます。
そのため、この前半のエピソードは蛇足的な部分も否めません。正直、あの殺人事件自体もなんだかイマイチ納得いかないもので、犯人側(LJ)の動機も不明瞭な感じで終わってしまいます。個人的にはもっとここは上手く見せてほしかったところです。
第6話における、列車の脱線危機からのメラニー捨て身の作業で油圧装置回復の流れも、まあ、平凡というか、そもそもこの列車の物理的な説得力はないので、こういう側面で物語を展開するとどうもボロが出やすいです。たぶんこのへんはこの世界観には向いていない気がする…。
しかし、残り4話を切った後半になると物語はどんどん加速。レイトンはLGにウィルフォードは存在しないという秘密を洩らし、1等車は大混乱。メラニーを中心とした秩序は失われ、同時に最後尾と3等車の合同での反乱計画が進行し、この反乱にメラニーも参加することになり…。裏切りと結託。これぞ『スノーピアサー』で観たかった要素の本命ですね。
この終盤になると本当に誰が生き残るかもわからない終着駅不明のサバイバルになるので視聴者としてもハラハラドキドキします。統治というものは犠牲の上に成り立つという構造を、列車の再連結の中での見殺しで提示する見せ方もわかりやすいです。
そしてレイトンが全994車両の統轄になっても落ち着きはしません。加速はシーズン1最終話で最高潮に。まさかの別の列車の接近。それは試作列車アリスで、もしかしたらウィルフォードが乗っているかもしれないとざわつく車内。ウィルフォード狂信者であるルース(この女もどんどん狂っていく感じがいいですね)は熱狂し、お迎えの準備。相手の車両がドッキングしてきて、ついに目の前に出現したのは…メラニーの娘アレクサンドラ(アレックス)。てっきり置き去りにして死んだと思った彼女の目的は…。
このラストの怒涛の展開は、内容としてはベタではあるのですが、畳みかけるように進んでいくのがやはり爽快であり、『スノーピアサー』らしさがいよいよフルスピードで増してくるのでなんだかんだで満喫しちゃいました。
ちょっとズルすぎるくらいの幕引きですが、シーズン2への期待を煽る狙いであれば、もうこれは100点満点でしょう。
シーズン2のさらなる加速を心待ちにして、座席に座っていましょうか。
シーズン2:分断する列車
とっても気になる結末で終わったシーズン1。その第2ステージとなるシーズン2。
40車両のビッグ・アリスと994車両のスノーピアサーの戦いが幕を開けました。
シーズン2はテーマが非常にわかりやすかったと思います。それはアメリカ、そして世界の政治や社会状況のそのまんますぎるくらいの反映です。
全く価値観も立場も異なる2つの車両がドッキングすれば、当然そこには軋轢が生まれ、やがては対立の火花が散る。二極化する現実を上手くこの『スノーピアサー』は列車で表現しています。
さらにウィルフォードという、いかにもポピュリスト的な統治者が出現し、言葉巧みに支持者を増やし、やがてはスノーピアサー内でも絶大な支持基盤を獲得。完全に車両を掌握してしまいます。
基本的にシーズン2では主人公側は常に劣勢です。レイトンも良いとこなしの負け戦ですし、メラニーは極寒の外で孤立して作業に没頭。ラストでは列車と合流できずに行方不明に。ウィルフォード狂信者であったルースは意外にも善の立場に目覚め、かなりの大活躍。反対にウィルフォードになびいてしまういろいろな存在も多数登場で、車両の勢力図は激変します。
そんな中で、若き機関士アレックスは次世代の主人公ポジションとなり、今後の物語の牽引力になってくれそうです。
それにしても寒さ耐性強化人間の登場といい、ジョージーもそうなってしまうし、思っていた以上にファンタジーな領域に突っ込み始めた感じも…。これはこの列車も究極の絶対零度の中でも走れる謎技術を有しているわけだ…。まあ、だったらますます列車で暮らさなくてもいいのでは?という根本的疑問は浮かぶのですけどね…。
とにかく最終話では文字どおり列車が分断。社会の分断を列車で表すとこうもシンプルに。本体はウィルフォードにとられたまま。しかし、レイトンたちは奪還を企てるところで終わっていました。まさに『スノーピアサー』らしくなりつつ、それでいてオリジナリティが最高速度に向けて準備万端になってきました。
今度は攻める番だ!
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 63% Audience 72%
S2: Tomatometer 85% Audience 74%
IMDb
6.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★
作品ポスター・画像 (C)TNT
以上、『スノーピアサー』の感想でした。
Snowpiercer (2020) [Japanese Review] 『スノーピアサー』考察・評価レビュー