ただしゲームのやりすぎには注意…ドラマシリーズ『ペリフェラル ~接続された未来~』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2022年~)
シーズン1:2022年にAmazonで配信
原案:スコット・スミス
動物虐待描写(ペット) 交通事故描写(車) 恋愛描写
ペリフェラル 接続された未来
ぺりふぇらる せつぞくされたみらい
『ペリフェラル 接続された未来』あらすじ
『ペリフェラル 接続された未来』感想(ネタバレなし)
ウィリアム・ギブスンの世界を映像化
「ゲームは1日○○時間まで」と親にルールを決められた人もいるのではないでしょうか。
最近はスマホゲームが主流になりつつあり、このルールはゲームありきで設定しづらく、スマホ自体の使用ルールに発展してきてしまうので、余計に厄介になっているのかもしれません。すでに「ゲーム=コンソール(個別の家庭用ゲーム機)」という認識は古すぎます。
しかし、将来はもっと複雑になるのかも…。例えば、もしVR(バーチャル・リアリティー;仮想現実)やAR(拡張現実)が一般化して社会に普及したら、もはやゲームと日常の境はどこにあるのかわかりません。「メタバース」なんて言葉が飛び交っていますが、それが本当に当たり前になるのかどうかは別としても、今後はゲームだけを切り離して考えるのは無理だと思った方がいいでしょう。
プロゲーマーのようにゲームを職業にする人も現れる中、ゲームの在り方も私たちの未来を左右するかも…。
今回紹介するドラマシリーズは、そんなゲームが未来と予想外にリンクしていくSFサスペンスです。
それが本作『ペリフェラル 接続された未来』。
日本語字幕によれば、このタイトルの「接続された」は「せつぞく」ではなく「コネクト」と読ませたいらしいですけど、まあ、それはどうでもいいです。
本作『ペリフェラル 接続された未来』はあんまり事前にネタバレしすぎると面白さが半減するので控えますが、ものすっごいざっくりした乱暴な言い方をすると「やたら腕のある強いゲーマー女子がそのスキルで社会の裏で世界を支配する奴らを翻弄する」…そんなストーリーです。「え? そういう話なの?」と思うかもですけど、これでだいたい合ってると思います。あれです、日本の作品で言うなら『ソードアート・オンライン』なんかと同類です。
この本作の世界は2032年が舞台で私たちの現在よりも少し技術が上です。とくにVRゲームはかなり高度なものが存在しています。そんな中、田舎町で暮らす主人公の女性が兄の勧めで最新のまだ表にでていないというVRゲームのテスト・プレイヤーとして参加。するとそのゲームはこれまで体感したものとは比べ物にならないほどにリアルで臨場感があったのですが、実はそれはただのゲームではなかった…。そんな導入です。
『ペリフェラル 接続された未来』、実は原作があって、それもあのサイバーパンクを確立させた有名なSF作家である“ウィリアム・ギブスン”が2014年に発表した作品なのです。インターネットが普及する以前の時代からコンピューター・ネットワークに基づくSFの世界を構築してみせ、後世のSFに多大な影響を与えました。いわゆる“サイバー”なSFの先駆けですね。
そのサイバーカルチャーの基礎を生み出した“ウィリアム・ギブスン”の「The Peripheral」をドラマ化したのが、同じく作家の“スコット・スミス”。そして製作総指揮として企画を引っ張ったのが、“クリストファー・ノーラン“ファミリーである“ジョナサン・ノーラン”と“リサ・ジョイ”です。
“ジョナサン・ノーラン”と“リサ・ジョイ”と言えば、こちらもSFの名作を最新の映像でドラマ化した『ウエストワールド』を成功させ、“リサ・ジョイ”は最近は『レミニセンス』で長編映画監督デビューも果たしています。
ということで『ペリフェラル 接続された未来』もSFとしては映像面でも妥協なく一級品に仕上がっていますので、クオリティは安心してください。
エピソード監督には“ヴィンチェンゾ・ナタリ”も関与し、製作総指揮も兼任しています。
主人公を演じるのは、“クロエ・グレース・モレッツ”です。映画では最近でも『シャドウ・イン・クラウド』や『マザー/アンドロイド』などマニアックな作品によくでていましたが、ドラマシリーズで主演するのは初なんですね。今作も実に“クロエ・グレース・モレッツ”らしい活躍で、『キック・アス』ばりにアクションも魅せてくれます。
共演は、『ミッドサマー』の“ジャック・レイナー”、『21ブリッジ』の“ゲイリー・カー”、『フォードvsフェラーリ』の“JJ・フィールド”、ドラマ『ファウンデーション』の“タニア・ミラー”、ドラマ『レポーター・ガール』の“ルイス・ハーサム”、ドラマ『インベージョン』の“アレックス・エルナンデス”、『エンド・オブ・キングダム』の“シャーロット・ライリー”など。
『ペリフェラル 接続された未来』はAmazonプライムビデオで独占配信中。シーズン1は全8話で、1話あたり約60~70分ほど。SF好きなら要注目です。
『ペリフェラル 接続された未来』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :SF好きなら |
友人 | :ジャンル好き同士で |
恋人 | :ロマンス要素あり |
キッズ | :ややグロい描写あり |
『ペリフェラル 接続された未来』感想(ネタバレあり)
あらすじ(序盤):これはゲームではない…
2099年、ロンドン。ベンチに座るひとりの男。男は時計を気にしながら誰かを待ち、そこに少女がやってきます。
「今度は何をした、アリータ」「あなたが元凶でしょ。危険なお友達を作ったものよね。以前は半年間も裸足で過ごした。足の裏は環境によって硬くも柔らかくもなる。人の心も同じ。私の靴はどうなった?」「僕にくれた」「あんたを見つけた時、私が救うと誓った」「救ってくれた」「そう?」「何をする気だ?」「世界を救う」「手遅れだと言ってたのに」「この世界じゃない。さよなら、ウルフ」
2032年、ブルーリッジ山脈に佇む1軒の家。フリン・フィッシャーは病弱な母エラにコーヒーを入れてあげていました。母は今は目も見えません。外へ出て兄のバートンを探しに行くフリン。兄はトレーラーでVRゲームをしており、兄からゲームを交代します。
ゲーム内では敵に囲まれて絶体絶命でしたが、機転を利かせて敵を翻弄。フリンはゲームが兄よりも得意でした。
フリンは町へ向かい、ATMで現金を引き出します。そこへ保安官助手のトミーが話しかけてきます。昔からの知り合いです。
3Dプリンター店で働くフリンでしたが、友人のビリー・アン・ベイカーがいじってきます。実はフリンはトミーのことが以前から好意があったのですが、でもトミーは今や結婚するのです。「あんたはこんな店じゃもったいない、ゲームの腕を活かせばはるかにおカネになる」とビリー・アンに言われます。
店でミラグロス・コールドアイアンという人から兄バートンへの特注品があると知らされ、なんだか遠隔装置の道具のようなものでした。受け渡しの証拠のためにフリンがスキャンをします。
家に帰り、バートンに渡すと、最先端のVRでベータテストを頼まれたとのこと。母の薬の費用を稼げると兄は説得してきて、報酬は長くいればいるほど上がるということで、フリンがその機器を装着します。
気が付くとバイクで街を疾走していました。完全にリアルで、ゲームとは思えません。姿は兄のもの。「痛みも感じるので気を付けて」と音声がどこからか聞こえます。
中庭でパーティをしている場所に到着し、ここはリサーチ研究所の社交の場だと説明を受けます。そしてそこにいたひとりの女性にアプローチしろと指示がでます。
そのマリエルという女性を誘い、車内でキス。彼女を眠らせ、運転手と格闘。マリエルを誘拐し、指示していた女性に出会ったところでゲームは一旦終了です。
またゲームを再開すると、今度は手術台に寝かされており、眼球を摘出して交換されます。謎の指示役の女性アリータ・ウェストに施設に連れて行かれますが、敵が襲ってきてやられてしまい…。
酷い気分で現実に戻り、ビリー・アンに「まるであの場にいたような気がした」とゲームの感想を語るフリン。それはまるで仮想空間じゃないような…。
シーズン1:繋がることの気持ち悪さ
『ペリフェラル 接続された未来』はわりとスローペースで進んでいくので、SFと言っても専門用語の連発で視聴者を大混乱させるような情報過多にはなりません。逆に世界観の全容を理解するにはシーズン1を最後まで見ないとダメなので根気が要りますが…。シーズン1はプロローグという感じです。
早い話が「ゲームだと思った? 残念! 実は意識だけ約70年後の世界に転送されていました!」という、サイバーなタイムトラベルです。
フリンがあのゲームだと思っていた装置で転送されたのは、悪趣味な巨大彫刻が街に点在する2100年。この世界は「ジャックポット」と呼ばれる世界崩壊を経験しており、それは2039年から始まり、大停電やパンデミックやテロ核攻撃やらで、人口も社会も大打撃を受けたようでした。
その2100年の世界で支配力を持っているのが、まず「クレプト」という存在。どうやら富豪のような超特権を持つ実力者の集まりのようで、シーズン1のラストで面々が顔見せ。レヴ・ズボフはクレプトの中でもわりと下っ端扱いなのがわかります。
次に「リサーチ研究所」という組織。これは絶滅した動物を蘇らせるなど驚異的なバイオテクノロジーを持っているようで、とくに「ペリフェラル」という人間の素体を作成し、そこにポルターの意識を転送させたりする技術も保有しています。シェリス・ヌーランドはこのリサーチ研究所の幹部です。
そのリサーチ研究所の生物多様課の職員だったアリータは、世界を消せるほどの研究所の全知識のデータを盗み出し、フリンの脳にそのデータは隠されていることが判明します。どうやらこのリサーチ研究所はかつても大勢の人々を抹殺してその記憶を抹消するなど、倫理観ゼロの行為をやりまくっている様子。
さらにエインズリー・ロービア警部補も属するロンドン警視庁も力を持っています。おそらく私たちが知っている警察以上の権力を持っているようで、クレプトやリサーチ研究所と肩を並べる存在です。
この2100年の世界は「シナプスリンク」という五感の共有が可能な技術があり、それは2032年にも「ハプティック」という技術でバートンら軍人たちに一部流用されています。「1人を殺せば、その怒りの感情はリンクした全員に伝わって報復してやる」という、サイバーな抑止力はかなりゾっとしますし、この作品はこういう「繋がることの気持ち悪さ」みたいなものをあえて描いている感じですね。
フリンとバートン、ウィルフとアリータは、それぞれシブリング(兄妹、姉弟)として繋がっているとも言えるし…。
シーズン1:ゲームが強ければなんとかなる
『ペリフェラル 接続された未来』の主人公であるフリンはそんな倫理が麻痺している未来に直面しつつ、自らの良心が試されます。冒頭でゲーム内で羊を逃がすくらいの根の優しさであり、そのフリンがこの現実を目の当たりにしてどうでるか…というのが主軸のサスペンスです。
フリンはそもそもこの田舎町で虚しく暮らしています。母の介護をしながら、元海兵隊で今は仲間とつるんでいるだけの兄の相手をし、友人で何でも話せるのはビリー・アンだけ。ゲームは上手いですが、そこまでオタク的に熱中しようという気はなく、どこか人生に冷めています。
そのフリンがこのゲームのつもりで意識転送したペリフェラルの身体で第2の人生に快感を感じ始める。まさに田舎のゲーマー女子が新ルートを開拓した瞬間です。
ちなみに序盤でフリンはペリフェラルの身体(兄の見た目)を操作してマリエルという女性とキスしてそれを思い返したり、今度はフリンの見た目のペリフェラルでウィルフとキスすることになったり、構図としてはバイセクシュアルを暗示するようなシーンになっていましたね。田舎での鬱屈の裏にはそういうクィアな行き場の無さもあるのかなという感じです。
クィアと言えば、アリータはグレイスと親密な関係があるようでしたし、後は警部補のエインズリー・ロービア。ロービアを演じる“アレクサンドラ・ビリングズ”は『トランスペアレント』でおなじみのトランスジェンダー俳優です。今作でも重要な役で登場しているのが嬉しいですね。
フリン、バートン、コナーがペリフェラルに接続し、コーベル・ピケットが未来から依頼を受けて暗躍したりと、2032年と2100年が密接に関わり始めます。ピケットの甥のジャスパーが自分もピケットみたいに振舞おうとして一線を越えてしまったり、トミーはピケットを殺し損ねるし(もうちょっとトドメを刺せよとは思うけど)、2032年も大波乱なのですが、フリンはもっと大きな決断をしました。
結局、2032年から分岐する新たな並行世界(スタブ)は開いたのか? このドラマの欠点は視聴者には確認しようがないので基本は蚊帳の外ってところですかね。後、ペリフェラルの技術があるせいで、キャラクターの死にそんな悲壮感もないのもスリルに欠けるかもしれない…。
次のフリンの一手が気になりますが、ゲームが強ければなんとかなるのかな…。
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 77% Audience 87%
IMDb
7.8 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)Amazon
以上、『ペリフェラル 接続された未来』の感想でした。
The Peripheral (2022) [Japanese Review] 『ペリフェラル 接続された未来』考察・評価レビュー