監視資本主義
Netflixドキュメンタリー映画『監視資本主義 デジタル社会がもたらす光と影』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:The Social Dilemma
製作国:アメリカ(2020年)
日本では劇場未公開:2020年にNetflixで配信
監督:ジェフ・オーロースキー

監視資本主義 デジタル社会がもたらす光と影

あらすじ

インターネットは私たちの生活や経済に欠かせないものになった。SNSでは膨大な情報がやりとりされ、コミュニケーションにおいても大きな役割を果たしている。しかし、これでいいのだろうか。この情報化社会を支配するテック業界の巨大企業は私たちユーザーを商品にするようになっている。もはやそこには倫理も良心もない。その内情を業界で働く人々が暴露する。

『監視資本主義 デジタル社会がもたらす光と影』感想(ネタバレなし)

もう「知らない」では済まされない

私たちの日常は常に「発明」によって変化しています。

「車」が発明されたことで私たちは馬車に乗らずに済むようになりました。車がなければ今も道端は馬の糞だらけだったでしょう。「飛行機」が生まれたことで遠くの国でも気軽に行けるようになりました。乗り物の発明があらかた終わると次はもっと身の回りに近いものの発明に続きます。「テレビ」が登場したことでリビングルームが家族の憩いの場になりました。「Walkman」や「iPod」などのポータブルオーディオプレイヤーは音楽というものを「特定の場所で聞くもの」から「自由に持ち運べるもの」へと変化させました。バスや電車の中で新聞や本を広げていた人々は、「スマートフォン」の登場によって小さな画面を見つめるだけに変わりました。

とにかく「発明」というものは私たちのライフスタイルを劇的に変える効果をもってきました。

しかし、最近はどうでしょうか。

直近だと2020年10月に「iPhone 12」が発表されました。けれども、5Gに対応!とか、ベンチマークスコアで20%以上の性能向上!と、高々と宣伝されてもそれで日常が画期的に変わる気配は微塵も感じられません。

そんな今の状況に対して「なんだかワクワクすることはなくなったなぁ…」と寂しさを感じている人もいるのではないでしょうか。革新的な発明を打ち出すことがなくなって、代わり映えしないマイナーアップデートの新商品ばかりを定期的に打ち出すようになった気がする…。

いや、それは気のせいではなく、事実であり、しっかりそこには理由があるのかもしれません。

その理由に迫っていくならばこのドキュメンタリーを見ないわけにはいかないでしょう。それが本作『監視資本主義 デジタル社会がもたらす光と影』です。

なんだか妙に物々しい邦題がついていますが、原題は「The Social Dilemma」。「社会のジレンマ」と銘打たれているとおり、本作では現在のテック業界に警鐘を鳴らすセンセーショナルなものになっています。

それは「ネットのやりすぎはよくないよ」とか「スマホ依存症になるよ」とか、そんなフワっとしたものではありません。確かにインターネットの普及以降、そのリスクは常に指摘されてきたので、もはや指摘されること自体に慣れっ子になってしまった部分もありました。なのでこういう題材を見かけると「あ~はいはい、またネットの闇みたいなやつね」と“わかった気”になってしまうことも多いです。

でも本作はもう一度姿勢を正して真剣に観てほしい作品です。実際にテック業界に関わっている当事者の人たちもこのドキュメンタリーを強く推薦しています。真面目に。その深刻さをぜひとも察してほしいのです。

作中ではGoogleやTwitterなど大手テック企業で働いていた人たちが証言に立ち、その中で自分たちも手を染めて行われていた“ビジネス”の全貌を暴露していきます。そして「こんなことは本当によいことだと思いますか?」と私たちに問いかけていきます。

これはもう「知らない」では済まされないことであり、もはや誰もが当事者になっていることです。近い未来に起こるディストピアを警告しているのではなく、現在進行形で起こってしまっていることを告発しています。逃げられないですし、中立を装うこともできません。もう渦中にいるのです。

ここで描かれている実態を知っているかどうかで、あなたのこれからのテクノロジーとの付き合い方も変わるでしょう。別にむやみにテクノロジー恐怖症を煽る作品ではありませんが、私たちに考えるきっかけを与えてくれます。

『監視資本主義 デジタル社会がもたらす光と影』の監督は、『Chasing Ice』『チェイシング・コーラル 消えゆくサンゴ礁』など主に環境問題を扱ったドキュメンタリーを製作して高い評価を得てきた“ジェフ・オーロースキー”


『監視資本主義 デジタル社会がもたらす光と影』ではガラッと題材を変えてきましたが、スケールの大きい社会問題に切り込んでいるという意味では同じですね。

本作を観ればきっとスマホの通知をOFFにしたくなると思います。

『監視資本主義 デジタル社会がもたらす光と影』はNetflixオリジナル作品として2020年9月より配信中です。

オススメ度のチェック
ひとり◎(必ず知っておくべき内容)
友人◎(話題性は抜群)
恋人◎(互いに議論するのは大事)
キッズ◎(子どもと一緒に観て考えよう)

『監視資本主義 デジタル社会がもたらす光と影』予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『監視資本主義 デジタル社会がもたらす光と影』感想(ネタバレあり)

まだ名前のない“問題”

「偉大なるものは全て呪われている」…本作はこの言葉の引用で始まります。

これは古代ギリシアの三大悲劇詩人のひとりとされるソフォクレス(ソポクレス)の言葉です。彼には『オイディプス王』という代表作があります。この物語ではオイディプスがスフィンクスの出す謎を解いたことで民衆に歓迎され、王になります。しかし、その後に思わぬ悲劇が待っている…という展開になっていきます。

本作の冒頭では非常に苦悶に満ちた表情を浮かべる人間たちが映ります。彼ら彼女らはFacebook、
Instagram、Pinterest、Google、YouTube、Apple、Twitter、Firefox
など、いずれも名だたるIT企業の王者のもとで働いた元社員たちです。普通であれば「良い会社に就職したね」と周囲から羨ましがられそうなものですが、当人たちはそんな意気揚々とした自慢げな顔をしていません。

「始めた頃は世の中の役に立つものだと思っていた、今はそうは思わない」…そう苦々しく言葉を言い放つのです。

なぜなのか。「問題は何?」と聞かれても、その元社員たちは一様に言葉に詰まるように固まります。まるでスフィンクスに出された難問に狼狽える人間のようです。

「問題がある。でも名前はついていない」

なんと答えればいいやらわからないけど、危機感は持っている。この漠然とした問題意識を映像化していくのがまさにこの『監視資本主義 デジタル社会がもたらす光と影』の役割になってきます。

ユーザーは商品

具体的に今、テック業界では何が起こっているのか。

作中の言葉が一番簡潔に業界の変化を説明しているかもしれません。

「最初は製品を作って売っていた。今はユーザーを売っている」

昔は前述したように革新的な商品を作り上げて世の中に変化をもたらしていました。何よりもそれがクールだと称賛されていました。ところがいつのまにかそんな手間のかかる、博打のようなチャレンジはやめて、もっと確実で膨大な利益をあげられる方へと業界は傾いていった、と。

そこでは「広告主が顧客で、ユーザーは商品」であり、私たちの方が売られる側になってしまいました。

これが怖いなと思うのは私たちはこの事実に気づていないということです。だって普通、自分が不当に売られていたらバカでも自覚しそうなものじゃないですか。「おい、ふざけてるのか」って。でもこのテック業界で起こっていることにものの見事に気づいていない。

もしかしたら家畜動物はこんな感じなのかもしれないなと私は思いました。家畜は最終的にと殺されてしまうわけじゃないですか。でもたぶん動物自身はそのやがて待ち受けるであろう未来には気づいていないですよね。餌をもらって、満腹になって、いい気分になっています。

私たちはデジタルな家畜なんですよ。

監視資本主義

映画の感想ですらもアルゴリズムに支配される

作中に登場するショシャナ・ズホフ博士は「確信を売るビジネス(They sell certainty)」と表現しています。

一般的に想像されるのは個人情報を売り買いする行為ですが、テック業界で行われているのはそんな単純なものではありませんでした。情報を売買しているのではなく、モデルを作り上げています。情報をどう扱うのか、その人々の行動を予測します。どの動画を見るか、どの感情に反応するか、一挙手一投足をデータ収集で解析し、アルゴリズムで支えていきます。

これは「グロースハック」というITマーケティング用語にもなっています。

私の趣味である映画業界でも関係する話であり、それを土台に説明すると…。

あなたが何かの特定の映画を観たとします。そして、あなたはその映画に好意的な感想を持ったとします。インターネットでその映画の感想を検索することもあるでしょう。すると無意識のうちに自分に都合のいい情報ばかりを集めようとしてしまいます。自分と同じような感想を持っている人はいないか、と。SNSで自分に好都合な人を見つければ、その人をフォローするでしょうし、好都合なブログを見つければブックマークするでしょうし、好都合な動画配信者を見つければ、それをお気に入りに登録するでしょう。そうするとSNSやブラウザはその情報をもとにあなたに居心地のいい情報をさらに提示しようとしてきます。それを何度も何度も繰り返していると、あっという間にあなたの理想的なインターネット空間ができあがります。もう抜け出せません。

上記のような個人に特化したインターネット空間が構築されていくことは一見すると良いことです。でもそれは本当の意味であなたのためにあるものではありません。あくまであなたという家畜を囲い込むための放牧地の中なのです。

真に利益を得るのはテック業界です。あなたにターゲットに絞った広告を流しやすくなりますし、何よりもあなたをそこに釘付けにして逃がさないようにできます。

道具としてのテクノロジーから中毒と操作の技術に移行したと作中では語られ、ソーシャルメディアは道具ではなく、人を操る存在になったと説明されます。「顧客をユーザーと呼ぶ業界は2つだけ。違法薬物とソフトウェアだ」…その厳しいコメントはまさにこの世界の核心をついているかもしれません。

「いいね」などで短期的な報酬を得られるから、「いいね」を価値や真実だと誤解する。それは儚いもので、すぐに虚しくなって、また欲しくなる。悪循環である、と。

これらはみんな何かしら実感があるはずです。

私も映画の感想ブログを最初は自己満足のために書き始めたのですが、読んでくれる人を意識するようになるとどうしても目的がそっちに移りかねないジレンマに陥ることが多々あります。中には明らかにアクセス数だけを狙ってブログを書く人もいますし、ひたすらに煽り立てることで話題性ありきでパフォーマンスをする人もいます。私はなるべくそういう世界とは無縁でいたいので、アクセス数も一切気にせずにサイトを運営しています。でもブログサービスはこっちが望んでいないのにアクセス数を表示してくるし、Googleはあなたの検索順位はこうなってますよとこれまた望んでもいないのに煽ってくるわけです

これこそまさに私が“操作されている”やつ、そのものですよね。

それってやっぱり良くないです。あくまでアクセス数のために大作や話題作を観に行くようになった本末転倒でしょう。小規模なマイナー映画は話題性もないからブログで扱うのをやめようと思ったら、それこそ映画はアルゴリズムで取捨選択されたも同然でしょう。

私含めてみんな井戸の中の蛙です。自分が好意的な感想を持った映画に、逆にネガティブな感想を持った人がいる事実に気づいてないかもしれません。最近は「批評」を「批判」と誤解して嫌う人も増えていると聞きますが、そういう心地いい空間に慣れ過ぎているのも背景にあるのかもしれません。

世界を分断させた責任

ただ、話は映画の感想程度で終わればいいのですが、そういう事態では収まりません。

2.7億人による『トゥルーマン・ショー』の結果、みんなにデジタルなおしゃぶりをばらまいた結果、世界ではとんでもない副作用が起きてしまいました。

ひとつは、2011年から10代の間で鬱や不安障害が一気に増えたと示されるとおり、健康被害の問題。これはもちろん他にも要因はあるでしょうけど、テック業界のビジネスがそれを助長しているのは否定しようもないでしょう。

そしてさらに政治的な二極化が顕著になっています。とくに極端な差別主義思想が増大していることは今や実感どころか肌に突き刺さるように感じ取れていることです。

私もたまにSNSなんかで「なんでこの人はフェミニズムにここまで攻撃的になるのだろう」と思うことがあります。その人は明らかに知識がなくて、自分の独断だけで対象を批判しています。でも実際に学べばわかるのですが、フェミニズムなんてものはめちゃくちゃ歴史のあるものであり、学問としても成熟していますし、今では想像以上に多様性にも富んでいます。しかし、攻撃的になる人はそもそも学術書だってろくに読みませんし、おそらく自分のSNSのタイムラインとかに流れてくる情報だけで全てを理解したつもりになっているんですね。だから妙な陰謀論的恐怖感に憑りつかれています。それこそアルゴリズムにいいように弄ばれています。

それは政治対立を生み出し、しかもハッキングではなくテック業界が合法的に提供したツールを権力者が使える。このゾッとする状況はドキュメンタリー『グレート・ハック SNS史上最悪のスキャンダル』でも詳しく語られているとおりです。


歪んだメッセージを伝えやすくし、過激な政治主張をするものが力を付け、文化戦争が起きます。

その最悪が露見してしまったのが新型コロナウイルスのパンデミックですね。あれも全世界が危機に一致団結すればそれほど恐れるものではないのですが、それができないゆえに事態は長引き、悪化していきました。

「共通認識を持てなくなったら終わりだ」と作中でも語られていました。「何が一番怖い?」との質問に「故意的な無知で世界は滅ぶ」「異様な独裁社会になる」と恐怖を語っていました。もうそういう時代にいるんだと覚悟を決めるしかないのですが…。

本作は、何も絶望的なバッドエンドで終わっているいるわけではありません。「技術が世界を滅ぼすなんて単純な話ではない、悪いのはビジネスモデルだ」「会社が金を儲けるのは悪いことではない、問題はそこに規制もルールも何もないこと」…そう言いながら、人身売買や環境破壊と同じで今のやり方は不正なんだと認識し、改め直そうと呼び掛けています。

初期のシリコンバレーには正しいことをしようという考えがあったし、きっと改善できる、と。人間を油田や鉱山のように扱ってはいけない。人を蝕む収益モデルをやめよう。批判して改善しよう。

まさにその前向きさこそ、本来、人類が持っている「発明」の原動力ですよね。

おそらく2020年代はテック業界の責任が問われる10年になると思います。逆に言えばここで反省できなければ未来は真っ暗です。

スマホに入れているアプリの通知を切ろう、そしてブラウザの検索履歴を削除しましょう。このブログを閲覧した事実も綺麗さっぱり消し去るのです。

『監視資本主義 デジタル社会がもたらす光と影』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 87% Audience 85%
IMDb
7.8 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)Exposure Labs

以上、『監視資本主義 デジタル社会がもたらす光と影』の感想でした。